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第54話『夢』3/6

 ◇


 一人の少女がいた。

 少女は生まれつき強く、実は正義感もあったのだ。


 だが彼女はのちに気がつく様になる。


 自分は正義感があるだけの悪だと言うことに。



 彼女自身の中にある正義感から定義される悪とは人の心を持たぬ外道のことである。


 そんなものに自分はならない、そして彼女はそんなものには()()()()()()


 外道とは道から()()()()()を言う。

 だが彼女は生まれつき人としての道を歩んでいなかったのだ。


 彼女は人間ではない、神、もしくは原作者に作られた神創生物だ。


 神創生物としての彼女に不必要なもの、それは悪を成すときの“躊躇(ためら)い”である。


 戦争に参加した兵士は心的障害を負うと日常生活に支障をきたす。

 それは日常生活には必要のない反射行動が脳にうえつけられるからだ。


『人間を躊躇いなく殺す』と言うあってはならない悪の反射行動である。


 日常から戦争という異常事態に身を投げた者にのみあり得る変化。

 それは竜子にはない。


 “それ”とは『変化』の事だ。


 最初から、悪魔的反射能力を持つ竜子には人を殺すというのは息をするのと一緒なくらい当たり前の事だった。



 とある巨大なマフィアをぶっ壊した日のことだ。


 守礼の正義的行動を見学してた日のこと。

 全てをぶん殴って、マフィアのボス以外を不殺で壊滅させたとき。


 守礼に「何もしないで見学してて」と念を押されていた。

 竜子は見学であったにも関わらず、ボスを半殺しにした。


 その悪を見た時、マフィアボスを見た時の悪を見た時、竜子はそいつが何をしたかを知らずに殺す事を決定し即行動したのだ。


 事実その男は殺されても仕方のない外道であった。


 一撃の拳で脳を破壊する、その攻撃を守礼は守った。

 ボスを、でなく竜子の日常を守った。


 しかし竜子はその行動を理解できず、約三秒間。



 守礼とガチで殺し合った。



 考える事など出来なかった、ただ体が動くままに暗殺の一撃を三千発以上繰り返す。


 守礼はその必殺と言っていい全てを受け切った。


 …………その結果に絶望したのは殺しにかかったはずの竜子であった。



「私は、何を?! 何、わた」



 両腕の袖が全て破れ、二の腕に鞭で叩かれた様な傷跡ができていた。

 その全てが自分の中の悪魔が()()


 悪を滅する為の悪魔。


 それが自分の正体、それを妨害する者は善人だろうとぶっ殺す。

 それを考えなしに実行してしまう。


 それが勇者として生まれた自分の正体。


「竜子ちゃん、私は死んでない。だから大丈夫、それに()()()()()()。私は竜子ちゃんがこうなるって知ってた、だから全部私が悪いのよ。私たち転生者達が貴女をそういうモノにしてしまった」


 言葉の通りだ。

 守礼は転生してこの世界は本当に自分の知る小説の世界なのか知りたかったのだ。


 もしかしたら原作と違って普通の女の子かもしれない。

 そう思った。


 だが竜子は残酷にも原作通り悪魔だったのだ。



 ◇


 落ちる。

 記憶が魔法少女の精神世界に落ちていく。


 記憶の断片が、強く伝わった。



「私はな、勇者だから自殺ができない。そしてこの身体は悪を許せない、誰かのためでなくただ悪を許せない。全く、お前のいう通りだよ、私は正義の味方だ。()()()()()()()()、インプットされた機械の様なモノだ、原作者に作られた、正義の味方だ」


「原作、者? まさか、あの女狐の言ってた。いえ、そんなはずはないわ」


 守礼から聞かされた転生の話。

 戯言だと思って聞き流した前世の話。


 それが今、繋がった。


 守礼に聞かされた夢のあるお話。

 自分の物語の主人公。


 夢とはそういうモノだ。


 無責任に対抗策に異を唱える。

 理想論、無謀、全てを失う覚悟で挑むべき事。


 だが竜子にはそんな夢はない。


 もう身に染みて分かってる、9000人超を殺して一切心が傷つかない自分に傷ついている。

 どうしようもない。


「アイツは、芦崎礼司は私と同じ原作者に作られた運命を歩む者だ。だけどアイツは私と違う、アイツは原作者に愛されている。だからアイツは運命から助けられる、私が助ける、これから先何人殺してでも…………そう思ってたんだけどな、どうやら私じゃないみたいだ」


「え?」


 胸に差した指を閉じて人差し指を魔法少女に向ける。



「もう、アイツを守るのは、私じゃなくて良いんだ」



 優しく、微笑む。


 聖女の様に、自分の役目を差し出した。


「違う」


 聖女の願いに魔法少女は答える。


『魔王は私のもの、勇者をやめた貴女は必要ない、退場して』と拳を、メイスを勇者に振りかぶる。





「違うっっ!!!!!」


 違わない、それはこういう物語。

 魔王の隣を、主人公の立場を奪うのだ。





「物語の一部に“なろう”とするな焚ヶ原竜子!!! お前はお前だ!!」


「え?」


 ……………

 …………………………


 魔法少女は運命に抗う。

 しかし、だが、それでも竜子は運命を受け入れている。


「私を殺せ。もう、良いんだよ、生きていたくない」


 その言葉は記憶を受け取った時の礼司と同じ絶望。

 自分が全てを始めたと誤解した時の絶望。


 そうだ。


 竜子は分かってる。

 全部自分のせいだ。


 礼司の味方をして救ってるつもりでいた。

 でもそれは違う。


(運命に抗えるアイツの隣にいて、私も私という悪魔を浄化して運命に抗ってるつもりでいた、救われたのは、私の方だったんだよ。礼司)


 死ぬ前に、幻の礼司を抱いている。

 殺される時は一緒だ。

 その気持ちで、本当の礼司の未来を魔法少女に託した。


 さぁ、今度こそ勇者を殺せ、魔法少女。







「だったら最後まで生きろ!!! これはお前が始めた…………アイツに押し付けたお前の夢だろう!!!???」



 魔法少女は運命のセリフなど聞いていない。


 ただキレた。

 心が流れ込んでくるこの世界で、竜子の絶望を知った魔法少女は絶対に許さない。


 こんな運命を作った原作者を絶対に許せない。





「歯ぁっっ…………!! 食いしばれぇっっっ!!!!! 竜子ぉおおおおっっっ!!!」



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