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第51話『おねえちゃんがきた!!』

 思い出の教室。

 すれ違った二人が結ばれて混ざり合う。


 女は我慢を忘れ男を喰らう。

 好き放題に屈辱を与え、噛み跡を作る。


 せっかくのお召し物を脱がして濡らす。

 唾液に濡れた舌で何度も何度も濡らす。


 性別など関係ない。

 要は力のある方が弱者を喰らう。


 女はその世界の誰より強い、敵うものも抵抗できる人間などいない。



 男はそれを誰よりも知っている。

 原作者の記憶を持っている彼にとって女が本当に世界を滅ぼそうってすれば一瞬で全てを殺せることを知っている。


 だからこそ世界を守るために男は魔王になってでも女を守る。

 女は守られてこそ悪に染まらずに済む事を魔王は知っているのだ。


 その為なら自分がどんな目にあっても仕方のない事。

 女が魔王を愛する事で世界と女を守れるならそれでいい。


 女はそんな魔王の純粋さを全て知って汚す。

 心を汚す。


 そうする事で魔王は永劫自分のものにできる。

 この物語はそういうモノなのだ。


 それが予定調和。

 それが運命。

 それが愛。


 それがお前が生まれた意味。


 魔王よ世界のために犠牲になれ。





「ふざけるな」



 その声が男に聞こえたのは女が吹っ飛んだあとだ。


 そう、世界で一番強い女は吹っ飛んだ。



 どんな強者も獲物を狩って飯を食う。

 竜子にとって男を汚すその行為は食事である。


 魔王の綺麗なモノを汚して心を狩る行為。


 獲物を狩るときや食うとき強い生き物は大体油断する。

 自分が狩られると想定しづらいからだ。


 だから竜子も完全に油断していた。


 開け放していたドアから聞こえたのはずの声も、そしてその声の主の右ストレートパンチも感知できなかった。


 まともに拳をくらう。


 気がついた時にはもう右拳が左頬に突き刺さった瞬間だった。



 ゴベキ!!!


 ズガ!ごぶん!


 ガン!!ゴコオォオオン!!


 竜子はそのパンチをまともに受け吹っ飛ぶ。

 吹っ飛んで教室の外に、窓ガラスを割る、なんてレベルではない。


 反対側の鉄筋コンクリートごと豆腐の様に粉砕する勢いで吹っ飛んだ。


「ぬぐぁ!!」


 びゅううう!


「地平線の彼方まで吹っ飛べ、ゲス女」


 そう、Fラン異能者 花陽菜は強い。


 単純な腕力ではない、今の彼女は魔力によって狂化と強化を実現させ魔族を殺して得たレベルのステータスをもって竜子を吹っ飛ばしたのだ。



 九千人のS〜Fランク異能者でもかすり傷もつけられなかった青鬼をぶん殴った。


 二十代の異能者代表でも歯が立たなかった化け物を吹っ飛ばした。


 魔王でも制御できない女を圧倒した。


 だが花陽菜は喜ばない。


 当然だ、強い事をひけらかすのは彼女にとっては下の下の下策。

 彼女は表舞台に出てはいけないと固く誓った真なる強者。


 この世界で唯一の魔術師、ではない。





 彼女は()()使()()である。


「え? ハルナ、ちゃん?」


 礼司の知ってる記憶、原作者の持つ設定ではヒロインの位置にある女で力を持たずしかし不思議な魅力で主人公の竜子を正義に導く不思議な女の子である。


 しかしそれは原作者の記憶に限定された設定だ。


 原作者の死後も原作は生き続ける。

 それは本来の物語を改変し別の誰かが新たな設定を作っていく。


 そして今目の前にいるのは登場人物ではない。


 本当の陽菜であり、そして生きている人間だ。

 物語は原作を超えていく。



 怒りを通り越して真顔で礼司と対面する。

 ウェディングドレスに女装させられた礼司を見てハルナは笑わない。


 弄ばれたその姿に泣きそうになる。


(私は本当はこんな事をしていい資格がない、私はこの子を捨てて世界を選んだ筈なのに。それでも私は結局コイツを捨てきれなかった)


 バサ、


 一瞬目を瞑り、持っていた天衣無縫を、その衣を裸の様な礼司に羽織らせてあげるのだった。


「え?ええ?」


「そのマジックアイテムは存在を感知できない様にする効果があるわ、これから私はあの馬鹿女を粛清する。だからアンタは隠れてなさい」


「何を言ってるんだ! 君はヒロイン、この世界のヒロインなのに!!」


 お前がヒロインだ。

 そうは言わずに黙って背中を向ける。



 女、ただ前見て進む。


 女、校庭にいるはずの強敵を睨む。


 女、後ろの魔王を守るために最強の女主人公に立ちはだかる。



 最早何も言う必要もない、拳に残る竜子ちゃんを殴った感触。

 それはこれから起こるはずだった主人公とのラブストーリーへの別離。


 偽りの平和を捨てた痛み。


 捨てたはずの本当(過去)の自分が蘇る感触。



「最初からこうしてれば良かったのよね、本当、私って馬鹿」


 ()()()()()()()

 今まで異能の力で可愛い声に偽って来た。

 そして今、本当の声を礼司の前で聞かせる。


 その頼り甲斐のある声。


 その聞き覚えしかない声。


 礼司は死んだはずの、あの先輩を思い出す。



「その声、そんな、貴女は死んだ筈! いやそうじゃなくて、何でハルナちゃんが?!」


「物語のヒロイン、花陽菜は今、死んだ。ここにいる私は…………ただの私よ」


「その髪の毛……………っ!!!」


(もうキャラを作るのは、辞めだ)


 全力で戦う為、偽装に使っていた魔力分を解除する。

 黒髪が変色、いや回帰する。


 偽装の黒髪が毛先から鮮やかな濃いピンク色に()()()()()


 低いはずの身長が竜子以上の身長に戻っていく。


 髪の毛の長さが偽りのセミロングが、竜子と同じ長さに戻っていく。


 茶色の素朴な瞳の色が漆黒の瞳に戻る。


 穏和な顔の形が眉間に皺を寄せるお姉ちゃんの顔に戻っていく。


 その姿、完全に今までのものと違う。

 そこには作られた望まれた姿ではない。


 個性的で、自己顕示の塊の様な容姿。



 だが、礼司はその姿をこの世界のどんなヒロインよりも美しいと思った。





 何故ならば。


 その人は、礼司の本当の初恋の人だから。


()イズン()ンク()イセン……………死んだ筈じゃ!!」


「そのあだ名…………何度もやめろって言ったでしょ? 私を呼ぶときは敬愛を込めてこう言いなさい『おねえちゃん』ってね」


 おねえちゃんと言うより男気溢れる様な『姉貴』って感じにいなせに笑う。


 その表情は柔らかく、優しく、粋に笑う。


 ピンクのロングヘアをなびかせながら綺麗に笑う。


 笑う。


 その女の力はその全てを弱い立場の人間のために使う筈だった。


 だが今はただ一人の力は弱くとも心が誰よりも強い一人の男…………否。



 一人の(⚫︎)を守るため、おねえちゃんがきた!!



 おねえちゃんは、もう振り向かない。

 ただ腕を組み半歩分足を開き、青鬼を破壊された校舎から見下して睨む!



「可愛い弟が世話になった様だなゲス女! 生きてるのは分かってる、歯を食い縛れ、その腐った性根を叩き直してやるよ!!」



 竜子は殴られ吹っ飛んでいた中、十数メートルで体勢を鉄筋コンクリの瓦礫を蹴って整え校庭に無事降り立った。


 何故か翼は使わなかった。


(いや? 使えなかった?)


 殴られるのは久しぶりのことである。

 それは礼司の実姉、守礼との修行の時。それとホモ談義で行き違いがあった時。


(あの女狐の力を感じる、これは、まさかアイツの言ってたもう一人の礼司の『おねえちゃん』?)


「べっ!」


 左頬の中にある抜けた奥歯を吐き捨てる。

 竜子は脳味噌を冷やそうとしている。


 この状況を理解して敵なのかを見極める。


 だが、その思考は停止された。


 礼司の心を読んでしまう。



 その絶望的なおねえちゃんへの好感度。

 蘇る恋心。


 ジンへのなんとなくな好意とは違う、本当の初恋。激しい感情。





 それが自分へは向かない絶望。





 魔王は今、勇者に()()()()()を叩きつけていた。



「………………ぶっ殺す! 殺す!! 殺してやるぅう!! ハルナァアッ、いいやPPP!!」


 殺意の対象は上から見下す桜の花びらの様に真っピンクの少女に向けていた。



「その名で呼ぶのはやめろ、私の名前は………………そうね、サクラとでも呼べばいいわ」


「サクラ!! お前をぶっ殺す!! この簒奪者めぇ!!」



 花陽菜という女はもうこの世にいない。


 名のない花は『桜』へと名前を変えた。



 女同士は交わることなく険悪に対峙する。


一体何時から。


『一番強い女が二人も居ない』と錯覚していた?



次回、割り込み小話『〈PPP〉ポイズンピンクパイセン』


☆おはようございます、オニキです。


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