第48話『48日』5/6
術者の心に侵食する聖なる呪いの産物。
ジンはそう言った。
「古代魔術とは文字通り昔の時代遅れな魔術だ。術式の制御が現代魔術より甘く速攻性はあるが魔力暴走により術者を死に至らしめる欠陥品が多い、またその欠陥品の中の欠陥品があの回復魔術だ」
「そこまでいうほどか?魅惑状態を戻したり疲労や怪我も完全に治していた。魔力量消費もソレほどでもなかったし、かなり有用な魔術だったと思うぞ?」
「俺も最初はそう思っていたさ。だがな、アレは人の性格を選び特に自分の命よりも他者の命を大切にする様な人間にしかうまく使えない、そしてそんな聖人は滅多にいない。作りでもしない限りな」
作る。
一族ぐるみの教育。
その二つの単語だけで竜子には理解が及ぶ。
心を読むまでもなく、その地獄が見えた。
そこ奇跡に群がる醜い人間どもの姿。
「希少かつ超有用、成る程わかった問題なのは群がる人間どもか」
「聖人と呼ばれる人間に救いを求めて願う。ソレは簡単に救うことができる、だからこそ群がる人間どもは更に要求する、願いだったものは呪いに変わり膨張した欲はいつか礼司を殺す」
想像したくもない結末。
「その価値観は向こう側でも同じ事だ。そして聖人とされる者はその結果を受け入れる。そうでなければ聖人になれない、現代の回復魔術は魔力を使う代わりに汎用性と聖なる呪いの欠点を取り除いたものだ。まぁ術式的には古代魔術の劣化版だがな」
二代目魔王リナリリの死の原因。
そこまではまだ言えなかった。
好きな人を殺した魔術。
存在すら許せない憎き魔術。
「竜子、礼司を犠牲にすれば世界中の人間を救える。かつてどこかの聖人はパンを生み出し人の身と心を救い、人に理性をもたらし、そしてその最期は磔刑で槍を刺されて殺される」
「やめろ」
語る、聞きたくも無いどこかの誰かのお話。
「そしてどこかの誰かがソレを受け継ぎ復活と逸話られる、礼司は永遠に語り継がれその魂までこの世界に縛り付けられ呪われる」
「やめてくれ!!」
何処かの聖人の話がいつの間にか礼司の未来の話へとすり替わる。
「お前はそんな願いを絶えず祈り続ける無垢な人間どもをどうしたい?」
「そんなの決まってるだろ?私は魔王の勇者だぞ?」
魔王は言っていた。
『なぁ竜子、もし俺が暴走して愚王になったらお前の手で俺を、俺を殺してくれないか?』
その事を肯定し、勇者は約束したのだ。
だが。
「そんな愚かな人類など絶滅させてやるっ!」
勇者が魔王との約束など守るわけが無い。
共鳴する怒気、王城の震えが止まる。
同質。
全く同質の怒気が竜子の目から放たれる。
「礼司の優しさに生かされた分際で、それにつけ込んでくると言うなら礼司が泣いて喚こうが皆殺しにしてやるっ!!」
ジンと同じものを竜子に感じたシドーはその悪意の覚醒に汗して微笑む。
(煌々と黄金色に輝く蛇眼、怒りで輝く四つの光。嗚呼、私は今絶望と期待を同時に味わっているのね)
単騎で魔族を絶滅させることのできる悪魔が今2人になった。
「竜子、やはりお前は俺の思った通りの勇者だった。お前が共犯者でよかった」
「共犯者?」
「嗚呼、仕組まれたこの戦争をぶち壊しにする。もう魔王を犠牲にする繰り返しをこの三度目の戦争で終わらせる。俺たちはこの物語の共犯者だ」
強固な拳を前に出す、竜子の前に。
まだ竜子は答えない。
だがジンはもう今代の勇者の選択を知っている。
「ジン、お前は私に何をさせたいんだ? 何も知らないで私がお前と何を協力すると言うんだ?」
「俺に出来なかった事をお前にしてほしい。当時の俺はリナリリに優しすぎた。だが今ならわかる、俺はリナリリを汚してでも止めるべきだったんだ」
下唇を噛み口端から血が流れ出す。
「汚す? 止める?」
かつて少年だった彼は同じ立場の少女に。
その不幸を味わってほしくなかった。
「礼司を犯せ。他者の救済など考えられないように徹底的に心を汚して傷つけろ! そしてお前のモノにして絶対に誰にも渡すな、籠の中の鳥の様に、誰の目にも渡してくれるな! 頼む、もう俺は…………リナリリの、影を追いたくないんだ!!」
1000年前の綺麗な思い出。
自分には選択できなかった事。
その綺麗な思い出を汚したくない、だからこそ自分が汚すわけにはいかない。
それをしていいのは同じ時代の若者であるべきだとジンは確信している。
(俺は卑怯な大人だな)
拳を前に出したまま、ただ本音を口にする。
死んだ好きな人と同じ心を持つヒトをずっと第三者視点で見続ける。
そうしてきたジンの苦しみは今の竜子には計れない、計り知れない。
心を読めない相手だからこそ伝わる。
完璧だと思った相手の弱みと本音。
人はそれを信頼と呼ぶ。
「そんなのお前に言われるまでもない、期待してろ。アイツを聖人になんかしてたまるか! アイツは私だけの魔王だ」
二つの拳が合わさり、2人共犯関係が成立した。
「妬けるわ、ほんと」
紫髪の淫魔は予想通りの展開につまらなそうに言った。
ただ、少し悲しそうな顔にも見えた。
(結局私は蚊帳の外か)




