ざまぁな人生ダイジェスト版
誰かが俺に『ざまぁ』と言った。
聞こえてはいけない声が幼少の頃から俺には聞こえていたんだ。
その声は多分何かの呪い、誰が俺に何の為にかけたかも知らないしわからない呪い。
だから母様にも誰にも言えなかった、姉上にも、妹たちにも言えなかった。
言ったらダメだとも奴に言われてないけど何故か言ってはいけないと思った。
『お前はこれから▲◆⚫︎になるんだ、そして勇者の邪魔をして勇者と…………を……』
何を言ってるのか分からない、でもなんだか悪い奴じゃないと思う。
『運命に、抗え、思考を停止……するな、お前は。…………じゃない』
男の様な、女の様な? よくわからない。
母様と妹たちで一緒に寝るのが俺たちの習慣だ、だから寝る前にそいつが話しかけてくるとびっくりしてしまう。
お願いだから変な子供だと思わないでくれよな。
そんな日々が続いたある日、小学生の一年生。
なんかスッゲー目立つ女の子がいた。
髪の毛が青、染めた色ではなく地毛の青色。
気持ち悪いくらいに輝く空みたいな色だった。
短髪でボーイッシュな美人。
だが基本的に目つきが悪い。
だが綺麗な女の子だ。
意思の強さを感じる綺麗だがどこか不気味な、蛇の様な黄金色の瞳。
あの女に睨まれると腰が浮く気持ちになる。
まるで蛇に睨まれたカエルだ。
『あの女は君の敵だ、でも彼女は強い。だから犯人が君だと分からないように彼女を追い詰めろ、出来れば関わらない方がいいが…………多分無理だから攻撃すべき、嫌われるのが一番だけど』
謎の声の主は何か迷ってる様な言い振りだ。
その声は俺を導く声、この声に従って悪いことになったことはない。
だから、俺はその子を嫌いになってやった。
俺はあの青髪の少女を罠に嵌めた。
『良くやった』
それ以外に『なんて奴だ』『こんな奴ざまぁされて当然』『早くこいつの不幸になった姿がみてぇ!!』と言う別の声も聞こえる。
不気味ではあったけど、最初の声の人は俺に優しくて、頼り甲斐があって。
どうしても逆らいたくなかったんだ。
だから精神的にイジメた、アイツに俺が黒幕だとバレない様に。
大人達にもバレない様に子分を使って、あの声の導くままに酷い事をしてやった。
見えない大勢の声に罵倒されながら酷い事をしてやった。
特に恨みはないが嫌いだったので追い詰めてやった。
「ざまぁみやがれ!!」
心にもない事を1人で言ったそんなある日、俺にバチが当たった。
俺の妹が知らない男に誘拐されそうになって大声をだして助けを呼んだ。
そしたら知らない男たちの標的が俺になって、そのまま誘拐された。
妹は立ち尽くしたまま動かなかった。
まぁ、まだ小さかったししょうがないとは思うけど。
どうやら母様も一緒に誘拐された様だった、途中から合流した。
母様は体の調子が良くなかった。
いや、かなり悪い。
時々苦しそうな顔をしているのを何度か見たことがあった。
だと言うのに男どもは毎日拠点を変え、ろくな医療施設のない地域に母様を追いやり。
そして数日後。
あの日は俺だけが救出される前日の事だ、容態の悪い母様を物のように扱い、そして………。
高架下の違法建設された寒さも凌げない様なボロ屋だった事は覚えている、それと雨が降っていた。
大雨が、ザァザァ降っていた
そして母様は俺を抱いたまま死んだ。
熱で倒れ、蹴られ踏みつけられ、血を流し。
それでもそんな体になっても俺を守ろうと寝る時すら俺を守ろうとした母さんはそのまま永遠に覚めない眠りについた。
死んでいた。
「母様?」
俺はその時昨晩の最後の言葉を思い出した。
『生きて、礼司。この世界は理不尽でどうしようもないけど、それでもなんとしても生きて、お父さんの様に強く、綺麗な花じゃなくていい、雑草の様になってでも、生きて』
「母様っ!! 母様っっ!!! 母様ぁあああっ!!」
母様の死を確認した地球人のリーダーの様な男は悪態をつく。
「こんな時に死んでんじゃねぇよ火星人の役立たずが、おかげさまで俺らはお尋ね者だ! お前ら火星の猿共のせいでなぁあ!!」
「…………ジャア、今、死ネ」
その感情の昂りが原因なのか、俺は〈異能〉に目覚めた。
それはまだ手で触れずに物質を動かすというものだったが、それでも何の異能を持たない地球の猿にとっては、きっと脅威だった。
手をかざしそのイメージをぶつける、それが出来ると俺は自覚している。
「ネジラレテシネ、地球ノ猿ドモ」
「あんだぁ?? このクソガキ! ババァと同じところに送ってや………ぎっ!!???」
十数人の野盗共、その数人が人質を殺した責任逃れの為俺を殺して口封じをしようと、母様にした様に蹴りかかる。
母様にした様に。
ぐちゅ、ぐちゃり、ぶしゅ、
「あぎゅぷりゃ」「おぼ」「んごっぷ」
〈異能〉 サイコキネシス
・思った通りに物質を動かす。
・今は力が足りないので拳大の大きさのものに限られる。
思った通りに物質を動かす、それがたとえ脳味噌の中だったとしても可能。
俺は眼前の男たちの脳を力の限り掻き回しシェイクした。
ぎゅちゅぐりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅ、
俺の前でイキっていた奴らは全員目の前で倒れ、痙攣して死んでいく。
これが異能を持つ者と持たない者の絶対的差だ。
持っているか、持っていないか、猿と銃を扱える人間ほどの差がある。
奴らにはこの力を防ぐ手段がない。
俺はその日、人殺しになったんだ。
いや、猿を殺しただけか? あんな奴ら人じゃない。
雨が降っている。
◆ ◆ ◆
火星歴 13年某日
この世界は異世界、じゃない。
火星のテラフォーミングを成功させたお父様が独裁した王国。
この星に国は一つしかなく名前もない。作る必要がない。今は星を開発するのが最優先の時代だ。
元々が地球の環境悪化による移住で、その火星先でこう言うことが起きるのは当然のことで地球の法律など通用しない、だから地球人共が『王都を寄越せ』などと言う愚劣極まる命令も無視でよかった。
だからあの猿共は強硬手段にでた、自分らで住めない星にした地球を捨てて我らの星を奪い取る為に、母様と俺を人質にしようとしたんだ。
なんだかんだアイツらは正義を語ったが要は火星の人間にのみ発現する異能が怖かっただけなんだ。
俺は激昂した。
原因は何なのか、それは知っている。
ここ火星の住民の豊かな環境を妬んだ猿どもが俺たちを巻き込んだ。では何故助けが一日遅れたか?
それは救助の異能者を出すのを遅らせたから、誰が?
父様だった。
だから俺は、母様の恨みを晴らすために謁見の間に殴り込んだんだ。
赤い絨毯が敷かれその先に父親が玉座に座っている、黒髪、茶色の瞳、三十代後半の痩せ型で髭面、目は鋭く眉間に皺を寄せ常に怒った様な顔だ。
白いすらっとした簡素な上下の服を着てあまり装飾品を着飾らない。
しかし俺が見た、母様とのペアリングの指輪を薬指にはめていない。
もうアイツにとって母様は過去の女になっていた。
怒りが込み上げる、異能を持たないノーマルの門兵をサイコキネシスで殴り飛ばし俺は正面の扉から堂々と入っていった。
「お父様、指輪はどうされました?」
「お前には関係ない、それより謁見なら順番を守りなさい」
火星の権力者達が、いわゆる貴族の何人か謁見しにきていたがそんな事はどうでも良かった。
「何故、救助を遅らせたのですか?」
「何故ここでその様な事を?」
正直はらわたが煮え繰り返りそうだったが我慢して話を続ける。
「父様が異能者の救助も、位置特定すらも遅らせた事は知っています! トボケずに俺の話を…………」
「何故ここなのか?と聞いたのだ、王の問いに答えよ第一王子!」
父様がひと睨みするとその場の空気を読んだS級と言うFから始まる最上位クラスの異能者が5人がかりで俺の行く先を遮った。
彼ら彼女らは守る事に特化した五人の異能者である。
この火星に独立国家が制定された都市に生まれた子供達から選ばれた現在13歳の護衛たちだ。
その異能者は異能者の力を肌で感じ取る、だから俺の僅かな殺気に警戒したのだろう。
母様の危機には駆けつけなかった5人が、場の空気を読んで駆けつけた。
ふざけるなっ!
「ふざけるなっ!! 何故お前らは母様の死に際の前に来なかった! 何故母様は地球の猿どもに踏みつけられなければならなかった! 何故蹴られ、殴られ、罵倒されなければならなかったんだ!! 言ってみろ!」
その俺の問いに、5人のうちの1人が答える。
「それは貴方達が王族だからです」
緑色の髪の高身長の男は答えた。当たり前のように、俺の気持ちなど考慮せず感情なく言い切った。
「は?」
目の前が、歪む。
顔面の筋肉が眉間に寄って歪む。
怒り。殺すと決める。
その歪んだ思いの異能をそのS級に向けた、が。
「無駄です、貴方はまだ力に目覚めたばかりの弱者。私の領域にも、王にも届かせません」
「ぐっ!」
逆に力を当てられ、少し後ろに飛ぶ。
「先程の答えの続きですが、貴方は王族です。王族とは民の為に自由を奪われる存在です、結婚相手も、衣食住も、個人的な夢ですら、何もかも」
「命もか!!母様は民のために命を落としたと言うのか!!?」
「はい、その通りです」
はっきりと、罪悪感もなさそうに、一瞬の躊躇いもなく言い切った。
俺はこの男の顔を絶対に忘れない!忘れるものかっ!
殺してやるっ!
殺してやるっ!!
「殺してやるっ!!」
「やめよ! 我が子よ! それ以上恥を晒すでない!!」
恥? 今この王は恥と言ったか?
「父様、母様の命を愚弄されたのですよ? それを怒るのが恥ですか???」
「そうではない、お前の為を思っているから言うのだ。子供のお前には分からぬ」
したり顔で、見下しながら、大人を武器にして、卑怯にも守られながら言い切った。
「王子様、貴方の持つ服食事も教育も、その全てが国民の血税で賄われてます。お母様もそうです。貴方達が日々の贅沢も、祝宴も、その何もかもが明日の食べるものも困る民草からとったものから、つまり、あなた方の命は民のものと言っても相違ない」
ズゴ!
超振動した空気の砲撃。表層の筋肉が震えながら2メートル後ろに俺が吹き飛んだ。
ズシャアアッ!!
「グハ!! お父様、今私は攻撃を、された! その男を罰してください!!」
「そんなことできるわけなかろう、其奴はお前の愚かを諌めたのだ。此の火星の第一王子で在るお前をな!」
「な! ならば私を追放して下さい! 妹達とこの国を出て行きます! 未開発区にでもどこにでも追いやればいい!! もう何かに利用されるのは嫌だ! こんなの奴隷じゃないですか?!」
「そんなことが出来るわけがない、お前がそう感じるならお前は一生この国の奴隷だ」
見下しながら父親は残酷に言い切った。
「第一息子よ、何故お前は此の謁見の間で騒いだ? 政治的思惑でもあるのか? 何か相談があるのなら個人的に会いに来れば良かろう? お前は貴族連中の笑い物にされるためにこんな茶番を演じているのか?」
「演じ? お父様、お母様は殺されました」
「そうだな嘆かわしいことだ」
嘆、かわしい?
「お母様は、泥水を啜りながら死にました」
「だからこそその苦しみを無駄にするわけにはいかん。我が星の民の安寧の為にも平和に殉じた我妻の死を悼み、そして冥福をいのる」
心臓に手を当て苦しいふりをした。
その言葉にも、仕草にも何一つ感情など感じない。
この男は母様の死を、機械の様に、ただ利用してるだけだ。
ふざけるな! 母様は蛮行の犠牲になっただけだ! その原因は地球の環境を最悪にした猿共の嫉妬だ。
アイツらは敵だ! 一匹残らずぶっ殺さなきゃならない!
「分かりましたお父、王は猿以下のクソ野郎なのですね?」
俺が睨み、王座にふんぞりかえる王は少し動揺した。
だが、その視線すらも許さない。と言うように五人の異能者が遮った。
護衛五傑の五人、王を護衛することに長けた異能を持つ五人。
「そこまでだ、貴方は弱い。それ以上の何物でもないそして母親が死んだのも貴方が弱いせいだ。貴方が母親を殺したんだ」
こいつらを俺は忘れない! 脳に刻みつけていつか復讐してやる!
茶色の短髪のクソ野郎。男。軽薄そうな笑いを浮かべる吊り目。
「もうまとまりかけてる話をかき回さないで! 大人になりなさいよ!王族でしょ??」
金色前髪ぱっつんのワガママっぽいクソ女。ピンク色の趣味の悪い服を好んで着ている。
「王で在るならばその責任を認知すべきだ」
緑髪メガネ、インテリっぽいクソメガネ。
なんだかトランプとか武器にして戦いそうな格好をしてやがる。
「以下同文」
白髪の口元を隠した男。襟というかフードがでかい。目つきは鋭く忍者のような雰囲気を持った男。
「僕帰っていいかなー? 地球のアニメ見たいんだよねっ」
中学生の様な見た目の野球帽を被った金髪少年。クソガキ。
ふざけるな。
こんな奴らがこの世界の重鎮?王の護衛?
お前らはそうやって世界の都合だけ考えて話しているんだろう?
だが俺は、俺はそうじゃない!!
「俺は感情の話をしているんだ!!」
「私は国益の話をしている、お前のこの行為は何の益をもたらさん、ただ恥を晒すだけだ、息子よ。もういい、下がらせよ」
クソオヤジ! その冷たい視線を俺は忘れない!!
「「「「「はーい♪」」」」」
ガチャ、どん!!!
ずしゃぁあ!
雑に扱われた。
謁見の間から外の廊下に放り出された。
口の中が切れて血が出ているのがわかる、多分皮膚のどこからか血が出ているだろう、次期王である俺に対して。
「絶対に復讐してやる!! 絶対に!!」
『ざまぁ』
「!?」
誰かが言った、その声の正体が誰だかわからない。
奴ではない、誰か達。
◆ ◆ ◆
その後、母様の盛大な葬儀で王で在る父が泣き崩れるパフォーマンスが行われた。
地球と火星の人間が見ている中、王が母様の棺の前で泣く。
ただそれだけの事、それが演技だということも。
その男が見捨てたことも俺は忘れない。
だがそれより…………。
それより俺はその姿を見た奴らの反応を見て寒気がした。
『可哀想』『何でこんなことするの?』『人の心があるの?』
『大体地球環境の悪化は我々の悪行のせい、彼は火星の人のために〜〜』
『もうやめようよ』『ざまぁって思ったけど流石に引いたわ』
この猿共はこんな言葉で俺の気が治るとでも思っているのか?
こいつらは母様を殺した自覚などない、集団で個人を殺した自覚がない。
何を言ったところで見当違いの憐れみでしかなく、逆に怒りを煽っていることなどに気がついていない。
殺してやる!
絶滅させてやる!!
地球の猿共を皆殺す!!!
あのゴミを地球ごとぶち殺してやる!
いいや地球だけでなくあの五人も殺す!!!
この俺様に『ざまぁ』と言った全てをぶち殺す!!!
『そう…………じゃあまずすべき事がある。あの女の子、青髪の少女を心底追い詰めるんだ、もっと、君に心酔させて最後の最後に裏切るんだ。彼女が君の復讐のキーパーソンとなるのだから』
俺はこの声を信じる。
だってこの声は俺の頼れるたった一つの声だから。
誰なんだよあんた、何でそんなに。
「そんなに悲しそうな声なんだよ」
その日からあの声は、聞こえなくなった。
少年はまだ何も知らない。
全ては盤上のゲームの出来事だという事を、プレイヤーすら定まらない世界にいる事も。
次回、 チェックメイト
☆こんにちはオニキです。
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