第21話 クラス対抗戦始まり
僕が鈴江梨花を殺してから3日。1日で攻撃が無くなり、怪我人はこの拠点から病院に、行方不明者は限りなく少ない。この拠点も明日には無くなってるだろう。
まだ、僕は憎しみに囚われている。鈴江梨花は死んだというのに。いつか、この感情が無くなる日が来るのだろうか。あるいは、一生この感情と共に生きるのだろうか。
「御言くん、ご飯食べに行こ」
「あれ、櫻井さん、仕事は?」
「早く仕事を終わらせたの。心置きなく肉が食べられるわ」
「よっ、櫻井。肉食うの今からだよな?」
「そうよ。御手洗くん、そっちはどうだったの?」
確か、西条さん言ってたな。違う事してもらってたらしい。何してたんだろう。
「んー、ぼちぼちかな。多少、情報は手に入れたけど有力な情報は1個も。まぁ、鈴江梨花は大和大将のとこに行かせたでしょ。1番大きい仕事は出来たから、最低限はな」
西条さんが鈴江梨花は絶対に来させるとは言ってたけど、この人がやったのか。絶対にって言ってたから、かなり信頼してるんだろう。
「おっ、来た来た。朽木ー!食べさせてもらうぜ」
「いや、御手洗は勝負に入ってないから奢らないぞ」
「いいか、よく考えろ。そもそも、俺が鈴江梨花をあそこに行かせなかったら勝負にすらなってないんだぞ。他のみんなも俺に感謝してくれ」
朽木さん、不憫だな。まぁ、僕も食べさせて貰うんだけど。高い肉とか久々だなぁ。よし、食うぞ。
「良くやった、御手洗。御手洗の為にも、美味くて高いとこ行くぞ」
「やめてくださいよ!西条さん」
昨日はよく食べたなぁ。西条さん達とも喋れたし、良かった。
「お前ら、席に付け。前言ってたもう1人のクラスメイトを紹介するんだが……。まだ来てないから、何しよ――」
「遅れましたー!」
この人、窓ガラス割って入って来たよな。遅れたからってそこまでするか?制服じゃなくて、白衣着てるし。前に先生が研究で遅れるって言ってたから、その関係なんだろうか。
「私は白鷺八重花。能力は、プログラムしたものを実現する能力です」
プログラムを実行する。手に持ってるパソコンでプログラミングをするのか。
「自己紹介するのはいいんだが、窓どうにかしてくれないか」
「じゃあ、ちょうどいいや。私の能力を見せるね。…………よし、実行」
窓が直った。いや、元の位置に戻ったのか。いつプログラムしたんだ?パソコンには触れてない。白鷺の能力を考えて今のを見ると、脳内でプログラムを組み立てたってことになる。
「えーと、今のを解説すると。窓の手前側の左下を原点と考えて、xが100、yが75、zが5とする。そして、そこら辺に落ちてる破片をパズルみたいにどこにどう置けばいいのかをさっきのxyzに当てはめて、リーンを使って実行したの。で、元の窓に戻ったって感じ」
散らばっている破片を脳内で組み立てたのか。あの数秒で。白鷺は紛うことなき天才だな。
「私の能力は色々出来るけど、今みたいな簡単なものなら要らないんだけど、複雑なプログラムはパソコンを使わなきゃいけないし。プログラムを組み立てるのも、時間が掛かるから後衛で戦いたいかな。クラス対抗戦もあるらしいし、覚えといてね」
今のを簡単って言うのか。クラス対抗戦を前にして、かなり大きい戦力が加わったな。Sクラスに来るぐらいだから、期待はしてたけど予想以上だ。
「はぁ、今回は直したからいいけど次からは窓を割るなよ。あと席はあそこだ。話があるから座っといてくれ」
「はーい」
「話ってのは、白鷺も言ってたがクラス対抗戦だ。1週間後に控えてる。で、今から内容と一応訓練するからそれについて話す。クラス対抗戦は用意されたフィールドの中で、戦ってもらう。クラスで固まって動いてもいいし、バラバラに動いていもいい。そして、武器は銃、剣、ナイフがあるが欲しいものがあったら提案してくれたら追加する」
どういう感じだろう。本物の武器を使って戦い合えば、怪我は避けられないし最悪大怪我なんてのも有り得る。何かしらの対応があるだろうが、それによっては戦いづらくなるかもな。
「で、怪我とかは避けたいから武器は本物じゃない。武器と支給される服にセンサーが付いてて、どこに何が当たったのかが分かるようになってる。そんで、当たった所は動きが制限される。足に攻撃が当たったら動かしづらくなるって感じな」
本物の戦闘とあまり変わらないな。良かった、これならいつも通り戦える。闇での攻撃が意味無くなるのは嫌だが。まぁ、ここまで実践に近く、且つ怪我も防げるのはありがたい。
「最終的に、死に至る怪我を負えばその生徒は脱落。センサーでやってるから能力での攻撃は陽動ぐらいに考えとけばいい。靴や手袋にもセンサーがあるから殴る、蹴るも有効だ」
最悪、武器が無くても戦えるのか。搦手としては使いやすそうだ。
「最後に、ハンデについて。Sクラスの生徒とDクラスの生徒では人数差を加味しても差がある。特に柊は実戦を経験してるからな。ハンデは単純、動きを制限する。まぁ、動かしづらいって程度だな。S、A、B、C、Dの順で制限は軽くなる」
動きを制限させられるのか。いつも通り戦いたかったけど、仕方ない。ルールは守らなくてはいけない。その中で勝つだけだ。
「そして、生き残った順でポイントが貰える。1位は100、2位は80、3位は60、4位は40、5位は0。あと、殺した人数によっても貰える。お前らSクラスは15、Aは10、Bは7、Cは5、Dは3。大量に殺すもよし、逃げ隠れしてポイントを貰うのもよし。そこは話し合って決めてくれ」
このクラスは人数の差で戦闘に関しては不利だ。基本的には殺し回るより生き残った方が良いとは思う。でも、このクラスは狙われるだろうから逃げ隠れするよりは戦った方がマシか。攻めるよりは狙ってきた奴らを殺す感じになるかな。
「お前ら、絶対に勝ってくれ。前も言ったけど金が無い。クラス対抗戦で自分のクラスが勝てば、ボーナスがあるんだ。クラス対抗戦の結果次第で俺の生活水準が決まるって訳だ。だから、絶対に勝ってくれ!以上。じゃあな。授業頑張って受けろよ」
どうしようかな。どこまで動きを制限されるかで、戦い方も変わってくる。ある程度動くなら無理やり戦えばいいけど。戦闘が出来ないレベルだと、待ち伏せで暗殺とかになる。僕はそっちのが得意だからいいんだけど、皆が暗殺出来るかは分からない。
気配を消して、相手が来るまでずっと待ち続け殺す。それができない人は結構いる。気配消すの下手な人は多いしな。出来れば、皆には戦闘して欲しいんだけど。まぁ、今考えても仕方ないし放課後集まって話し合おうかな。
ふぅ、授業全部終わった。早速、皆と話し合うか。
「皆、クラス対抗戦について話したいんだけど。今から話せるかな?」
「私はいいよ。皆は?」
「大丈夫」
「いいよー」
「「おっけー」」
良かった。皆、大丈夫そうだ。とりあえず、作戦について話したいな。ハンデによっては何パターンか考えられるし。
「えーっと、綿密には決めなくていいんだけどある程度の作戦を決めたくて。ハンデ次第では何個か考えないと対応出来なさそうだから何個かさ。あと、皆の得意な戦い方とかも聞きたいな。前戦った時は全然能力使ってなかったし、戦い方見れる程長くなかったからさ」
理想としては前衛と後衛、全体をサポート出来る人が居れば仲間としては最適。この3つがあったら大抵の作戦は実行出来るだろう。サポートは少なくてもいいが、前衛と後衛は出来れば満遍なく人数が欲しい。
「僕はー、近接で戦いたいなー。銃とか遠いと当たらないしー」
白夜は前戦った感じ、言ってる通り前衛が適任だろう。攻撃がどう来るか分かっているとしても、あの反射神経はかなりずば抜けている。それだけならCTFSの少尉並だろう。
「私も近接の方がいい」
「あぁ、俺もだ。出来るならこいつと一緒に戦いたい。皆と戦うよりは断然こいつと戦う方が慣れてるからな」
この2人は双子だから小さい時から一緒にやってきたんだろう。それならそのチームワークを崩すより2人で戦わせた方が確実にいい。この二人も前衛かな。能力的にも敵を撹乱してもらおう。
「わ、私も……。遠くからは……苦手……なんです」
新堂さんは触れたものを武器にだっけ。確かにその能力なら近接が良いな。問題は武器に変えて攻撃してもルール的に意味が無いってことぐらいか。いや、Sクラスにいるんだから能力だけのはずがない。どうにでもなるだろう。
「うちは後ろで戦いたいわ。このルールやとうちの能力意味なくなってまうからな」
橘さんは治癒力を高めるだったかな。腕ぐらいは治るって言ってたけど、確かにこのルールだと意味が無い。服によって攻撃の判定をされるんだから。本人には傷が無かろうと関係ない。本当に厄介なルールだな。
「私は前でも後ろでもどっちでもいいわ。特に得意なものも苦手なものもありませんので」
じゃあ、シャルさんは後で考えよう。人数の調整ってことで。触れたものの特性を変えるって能力だから、近接だと思ってたけど遠距離戦も出来るのか。
「私は後ろがいいかな。敵が近接で戦える能力だと、私じゃ勝てないしね」
涼宮さんは人や物の位置が分かるんだよな。なら、司令塔をして欲しい。敵が隠れてても把握出来るのは、かなり強い。特に今回のルールは怪我を負いたくないから、一撃で敵を殺せる不意打ちが強いだろう。それを防げるのは涼宮さんだけだ。
「俺は後ろで」
高坂くんも後ろか。血を操るって能力的には近接戦闘しそうだけど。どういう戦い方するんだろう。気になるな。
「俺は近接のが得意だな。能力的にも近接の方が使いやすい」
神崎くんの能力は炎を操るだよな。近接にどう使うんだろう。かなり精密に操らないと自分に当たるだろうし、動きの移り変わりが早い近接戦闘で取り入れるのは難しそうだな。
「私は朝言った通り後ろがいいな」
白鷺さんは言ってた通り後ろか。戦闘中にプログラムするのは当たり前だが難しいだろう。後ろで戦うから敵が遠いだろうけどそれもたかが知れてる。プログラムする時間はかなり短い。その中でどれだけの事ができるのだろうか。
「とりあえず、みんなの戦いたい場所は分かった。さっき言った通り、作戦は複数欲しい。ハンデが重い場合と軽めの場合、それとその中間。敵の出方によってはその場で作戦変わるかもだから、簡単な作戦でいいんだけど」
「御言くんはそのハンデの重い、軽いはどのくらいを想像してるの?」
「重いのは真っ向勝負が出来ないぐらいで軽いのはそれがある程度出来るぐらいで考えてる。中間は軽い戦闘が出来るぐらい。細すぎても良くないと思ってるから大分大雑把だけど」
そもそも、中学生が考える作戦が分からない。僕はもう実戦を経験してしまった。経験というのは考えるより大きい。人はそれを持ってして行動するのだから。だからこそ、敵の行動は読めない。実戦ならばある程度は読めるが、実戦経験の無い中学生の奇想天外な作戦など分からない。
「分かったわ」
「皆の希望通りだと、陣形はこうなるかな」
紙に全員分の名前、位置を記し示す。シャルさんは人数的に後ろで戦ってもらう。
「で、作戦はハンデが重かった場合は隠れつつ殺す。所謂、暗殺みたいな感じ。軽かった場合は一撃離脱で敵を殺していく。中間は罠を張ってかかった奴らを殺しつつ戦闘する。こう考えてるけどどうかな?」
「罠ってー、重い時の方が、良いんじゃないかなー?」
「えーと、僕が考えてるのは暗殺ってのは一撃で敵を殺すから反撃は殺し損ねない限り無いもの。罠は敵の機動力を削ぐものだから戦闘しなきゃいけないもの。だから、重い時には罠は出来ないって考えてる。あと、罠を仕掛けてる時に攻撃されても戦闘出来るってのも理由かな。どう?」
「分かったー、それならそっちの方がいいね」
正直言うと、この作戦は欠陥だらけ。作戦というよりはただの方針。会社で言うところの〇〇作ろう!というレベルだ。だが、敵の出方が分からないからこれぐらい雑でもいい。Sクラスにいるんだからその場で対応出来るだろうし。
「それで、涼宮さんには司令塔になって欲しいんだ」
「え?何で?」
「敵の能力で周りが見えない状況や敵が隠れてる、透明化出来る能力とか色々な場面で敵の位置を把握出来るのは涼宮さんだけなんだ。司令塔が涼宮さん以外だと一々司令塔に報告してから指示が来るからタイムラグが生まれてしまう。だから、涼宮さんには敵の位置を把握しつつ指示を出して欲しいんだ」
ハンデの重さ次第では指示を貰ってから行動に移るまでに時間がかかる。だからこそ、指示は出来るだけ早い方がいい。1度人を挟んでの指示は余裕がある時に限る。
「分かった。上手く出来るか分からないけど頑張ってみる」
「ありがとう」
これでやりたい事は出来たな。あとは試合に向けて訓練するだけ。正直、このSクラスはかなり強い。やわな相手に負けるわけが無い。あと、こんなとこで負ける訳にはいかない。先生の為にも全力で勝ちに行く。
「皆は他に何か提案とかない?」
誰も何も言わないって事は何も無いな。どうせなら何か言って欲しかったけど仕方ないか。
「皆、絶対に勝とう」
「「うん」」
「おう」
「じゃあまた明日。各自で訓練とかしといてね」
よし、終わったしあそこに行こう。あと、1時間あるからかなり余裕あるな。先に体温めこうか。
「ふうっ」
もう5時半か。体は十分温まった。もうそろそろ、来るかな。
「よっ、御言くん。昨日ぶりだね」
「御手洗さん、来てくれてありがとうございます」
昨日の焼肉の後、無理を承知で訓練に付き合ってくれないか頼んで良かった。かなり忙しいと思うんだけど、本当にきてくれるなんて思ってもみなかった。物は試しだな。まぁ、御手洗さんは時間が無いから模擬戦だけだけど。
しかも、御手洗さんのおかげで普通は入れないCTFSの訓練場で出来る。これも西条さんの小隊に入ってる御手洗さん様々だ。かなり広いし、横にはそこらのジムに勝る設備のトレーニングルームやプールまである。
「早速始めても良い?」
「はい。御手洗さんが良ければ」
戦ってるところ御手洗さんだけ見てないんだよな。でも、確実に強い。西条さんの小隊の1人なんだから。他のメンバーと同じくらい。いや、御手洗さんは違う任務を受けてた。他のメンバーよりも強いかもしれない。
「武器はそこにあるのを使ってくれ。リーン流すのは禁止な。頼る癖ついたらダメだから。じゃあ、この小銭投げるから落ちたら開始な」
ナイフと刀、ハンドガン。これくらいか。ナイフと刀は刃が潰されてる。ハンドガンも殺傷能力は無いものだろう。
「分かりました」
「投げるぞ」
なっ!下!?くそっ、やられた。御手洗さんは上に投げるなんて一言も言ってなかった。
防御、間に合うか?いや、間に合わない。闇を出しつつ、後ろに飛ぶ。当たってもまだマシなはずだ。
「うっ!」
闇が少なかったとはいえ、この威力。どんな力してるんだ、この人は。多分僕じゃ真正面からの攻撃を防ぎきれない。避けるか受け流すかしないと負けるな。
だが、御手洗さんの速さが分からない以上は見誤ると避けきれずにクリーンヒット。つまりは少しは攻撃を見る時間が必要。
どうしようか。闇で相手の攻撃を誘うか。空中に闇は配置出来てる。闇の攻撃と僕自身の攻撃で一撃ぐらいはいけるか?正直、怪しい所だがやるしかない。
「闇って結構脆いね。これって硬さ変えられる感じなの?」
「変えられますよ。こんな感じにっ!」
叩き壊された!足元の死角からの闇の攻撃を、スピードが乗り切ってない攻撃でか。結構硬くしたつもりなんだけどな。御手洗さん、力強すぎだろ。今のを見るに全ての攻撃は避けるか受け流した方がいいな。スピードが乗り切ってない攻撃でこれなんだ。スピードついた攻撃を受ければ確実にワンパンKOだな。
「さっきよりは硬いけどまだまだ脆いね!」
隙がないな。闇での攻撃じゃ隙が作れない。避けてくれるのが理想だが、現実は壊されるだけ。多分、全力で闇を硬くしても御手洗さんには壊される。早急に何か違うことを考えないと勝てない。
「うらぁ!」
「対応が早いな、御言くん」
ナイフと手に付けた闇での2段攻撃。当たったのは良いがダメージになってない。しかもこれは初見殺しに過ぎない。2回目は無いな。
「くっ!」
くそっ!掠った。やっぱ、避けきれない。……避ける?いや、避けるんじゃない。受け流すんだ。さっきから考えてたけど、受け流すことはまだ出来てない。御手洗さんの方が僕より速いから受けたとしても流しきれない。そういう固定観念持ってたから。
たしか「樫の木と葦」だ。強い力に負けないためには硬くあることとしならせること。硬くするのが無理ならしならせるんだ。しならせて攻撃を受け流すしかない。これならいけるはず。
「うぉ。ぐっ!」
上手くいった。闇への攻撃は壊される。なら、その闇を柔らかくしてしまえばいい。攻撃を受けて曲がった闇で腕を掴む。綺麗に決まった。これで、御手洗さんは無闇矢鱈に闇からの攻撃を壊すことは出来ない。避けないといけなくなる。そこに隙が生まれるはすだ。
「こんなことも出来るのか。いやぁ、騙されたよ。よし、ちょっと戦い方変えようか」
攻撃に出るのだろうか。今までのは防御メインだった。多少攻めては来てたけど牽制のレベル。あの怪力で攻めてこられたら、防御で手一杯。カウンターの1発すら狙えないだろう。何か考えないと……。
リーンの流れを感じる。能力を使うつもりだ。次の攻撃は全力で避けに行く。能力を見ないと為す術なくなってしまう。1回で能力の系統を当てるしかない。
「ふぅー……よし」
当たったら負けだ。避けることと御手洗さんの能力にだけ集中する。カウンターも受け流すことも考えない。避けるだけなんて、ひしひしと力の差を感じさせてくれる。だが、強い奴が必ず勝つ訳じゃない。僕なら勝てる。絶対に勝てる。
「ぐっ!うらぁ!」
危なかった。まさか、足を掴んでくるとは。速さも今までと段違い。あの速度でフェイントを入れられたら判断出来ない。全部反応するしかない。色々考えてたけど、結局は自分の反射神経頼りか。
能力は多分シンプルな身体強化系。ここからはあの馬鹿力がもっと強くなる可能性もある。ますます、避けるしか無くなった。避ける隙間が無くなったら負けだ。広い場所を取らなきゃいけない。立ち位置がかなり重要になってくる。今までよりもっと考えて動かないと。考え続けろ。もっと早く、もっと丁寧に。
「はぁ、はぁ、はぁ」
なんて速さしてるんだ。少しでも反撃することを考えてたら当たってた。このままだとどうにもならないのは明白。反撃は出来ない。出来ても攻撃に当たってしまえば負けは濃厚。どうすればいい……。
攻撃され続けたら反撃もクソもない。御手洗さんの攻撃を少しでも止めたい。何か良い方法はないのか?複雑なものじゃなくていい。簡単で単純だけど引っかかってしまう何かを考えろ。
「反撃してこないと、負けるぞ。御言くん」
「しますよ」
「手で作ってるそれでかい?」
闇は生み出す時と操作する時リーンを使う。だが、生み出す時の方が数倍リーンを使う。それはもうバレてるだろう。だからこそ、これに引っかかるはず。
闇は圧縮出来ることを御手洗さんまだ知らない。攻撃を避けつつ今まで出した闇を回収し、手のひらサイズに圧縮していく。これは操作だからリーンの消費は少ない。だが、如何せん量が多いから手のひらサイズの闇を生み出すのと大差ない。念の為先に出した闇から回収していき、闇は一定時間で消えるものと思わせる。これで準備は出来た。
これを御手洗さんに近づけさせれば、今までの闇と同様に壊してくるだろう。圧縮された闇は膨張し爆発する。手榴弾くらいの威力にはなる。僕自身が反撃に出れない以上、闇でどうにかするしかない。
これを囮に闇の攻撃を仕掛けるって体で、もう1つ闇を出す。だが、これが壊されなければ不発に終わる。或いはこれが反撃の根幹であると気付かれてもだ。賭けに近い作戦だが、考えた中だとこれが1番マシだな。
「うおっ!危なっ、こんなことまで出来んのか。こんなもんかな。よし、そろそろ終わろうか」
首元にナイフを当てられてるのを感じる。はぁー、あそこからまだ速くなるのか。闇は確かに爆発した。御手洗さんは爆発するのは知らなかったはずだ。見てから動いたはずなんだ。つまり、この人は目の前で手榴弾が爆発しようとも避けられるってことだ。本当に同じ人間かどうか疑いたくなる。
「まいりました……」
「一応アドバイス言っとくよ」
「お願いします」
クラス対抗戦まで時間が無い。このアドバイスはかなり貴重なものだ。しっかりと噛み締めよう。
「能力の使い方は上手いからもっと色々試して応用力を今以上に伸ばそうか。つまりは得意点を伸ばそうってこと。あとは、中学生の体つきだと最後の方の動きは出来ないだろうけど、最初の方の俺の動きと同じくらいは動けるようにな。能力を上手く使えても、相手の身体能力次第で勝てなくなるのは芳しくないからな。地道にトレーニングを積んでくれ。まぁ、俺の中学生時代よりかなり強いし努力すれば俺なんかすぐ勝てるようになるさ。俺はもう行くけど、頑張れよ。クラス対抗戦も期待してるからな」
色々試すことと地道なトレーニングか。トレーニングはクラス対抗戦には間に合わないな。トレーニングの方は今やってるやつを増やすとして、色々試す……か。まだ僕の知らない闇の特性。あと1週間、全力で調べよう。
「御手洗さん。すいませんが最後に御手洗さんの能力教えてくれませんか?相手の能力を当てられるようになりたくて」
「あぁ、いいよ。御言くんは俺の能力はなんだと思ってたんだ?」
「身体強化系かと考えてました」
「そうだよなー。俺もよく間違えられるんだよ」
身体強化系じゃないのか。じゃあ何だ?身体能力が上がった時、確実にリーンは流れていた。何かは分からないが、その能力によって間接的に、或いは副作用的に身体能力が上がる能力か。
「俺の能力はルーティンを確実に行う能力。攻撃の起点から数連撃行う動きを体に覚え込ませる。例えば右パンチからの動きはこれだ」
無駄無く速い、そして力強い。その速さと力を維持しながらも正確に体を動かしている。
「こういう動きをルーティンにして、能力で確実に行うんだ。だから、どれだけ速くても、力を込めてもぶれることなく正確に攻撃出来る。客観的に見れば身体強化系の能力と大差ない。でも、少し違う点がある。分かるよね?」
ルーティンを行うだけなら、何度も行った動作をするだけなら能力なんか無くてもいい。だが、御手洗さんはこの能力でCTFSの精鋭部隊である西条さんの部隊に入ってる。つまり、この能力の重要な点はルーティンを行うことではない。
「ルーティンを確実に行うってことですよね」
「そういうことだ。足場が崩れたとしても、軸がぶれたとしても、普通ならば攻撃出来ない体勢だとしても、ルーティンを行える。身体強化系の能力と違うのはその点だ。例えば、君が俺の能力を身体強化系だと考えてバランスを崩させて追撃をしようとした時、君は俺に負けてしまうよね?」
「そうですね。僕は御手洗さんが攻撃出来ないと思い、追撃するでしょうから。そんな状態でスピードと力の乗った攻撃が来れば、防御が出来ずもろに食らう」
「そう。例えではあるがこの場合、君が敵の能力を身体強化系だと思い込んだから負けた訳だ。敵の能力をある程度特定して戦う戦法を取るなら、思い込みは避けて色々な能力の可能性を考えるべきだ。君なら出来るだろう?」
模擬戦だから良かったものの、これが本当の戦場なら市民の命、仲間の命に関わる。敵の能力の予想、精度をもっと上げないと。僕のせいで人が死ぬ。戦場はそういうところだ。
「じゃあ、そろそろ帰らせてもらうよ。またな、御言くん」
「今日はありがとうございました、御手洗さん」
もう6時過ぎ。さっさと用意して帰ろう。今日はいい経験になった。あと1週間あるんだ。まだまだ、詰められるところはある。クラス対抗戦、絶対に勝とう。
御手洗さんとの訓練から早1週間が経った。クラス対抗戦の3時間前。僕は須藤先生に呼び出されていた。
「はぁー」
僕何回呼び出されてるんだろう。別に悪いことはしてないからなんの後ろめたさはないんだけど、周りからの視線がちょっと痛い気がする。この校長室にも慣れたもんだ。最初は躊躇ってたが、今はなんの躊躇いもなくノックが出来る。
「1年A組、柊御言。入室の許可を」
「入り給え」
須藤先生に、いつもより真面目にと言われたが何かあるのか?クラス対抗戦の関係とは聞いているが、それ以上の情報がない。
「失礼致します」
あぁ、そういう事か。ここにいる人達は見たことは無いが、かなりのお偉方だろう。階級章は西条さんと同じか少し下ぐらいだろう。分かる情報はそれくらいか。こういう場での相手の情報はかなり重要。ただ考え無しに敬礼するのは勿体ない。
「これで全員ですか」
この人は六道奏だっけか。お偉方の中で唯一知ってる人。CTFS副本部長。つまり、CTFSで2番目に偉い。かなり若いし、戦闘の腕もかなりのものらしい。ここで知己となれるのはかなり運がいい。CTFS本部とのコネが得られるかもしれないんだ。しかも、副本部長と。
「柊1年生、君のクラスに怪我や体調不良はいるか?」
「はい、いいえ。1人もいません」
出世にはそこまで興味は無いが、テロを無くすためには地位は必要になってくるはずだ。少尉・中尉のやれることと少佐・大佐がやれることは格が違う。そして、その出世のためにはある程度のコネは必要だ。
「全クラスの確認が取れました。これより、拠点決めを行わせていただきます。各クラスの代表者はくじを引いてください」
錦さんが敬語は違和感あるな。いや、それより拠点決めの方が重要だな。戦力差も拠点次第で覆ることがある。僕たちのクラスは人数が少ないから身を隠せる場所が欲しい。隠れさえすれば包囲殲滅はされにくいはずだ。
「では、Sクラスから」
「失礼ですが、それは不公平では無いですか?」
それはごもとっもだな。まぁ、別に先に引こうと後で引こうとあまり変わらない気もするが。Dクラス的には勝ちたいところなんだろう。Dクラスは50人、その中で選ばれたのがこの人か。責任感は強そうだし、クラスのリーダーとしては申し分ないな。
「では、Dクラスから行いましょう。いいですか?柊1年生」
「小官はそれでも構いません」
「順にお引きください」
紙に3の文字。この段階じゃ、まだ分からないのか。
「では、この地図で確認をしてください」
っ!砂漠のど真ん中。遮蔽物すら無いだろ、こんな場所。これは皆に謝らないといけないな。
森、川、湖、山、砂漠、全部詰まって10km四方か。かなり広いし、色々詰め込まれてる。地図を見た感じ、建物もあるみたいだな。で、その広大な土地の砂漠のど真ん中か。
Aクラスは廃墟群、BクラスとCクラスは森の中、Dクラスは川と湖に挟まれた森の中心部。Sだけ、完全に遮蔽物がない感じか。
「では、各クラス点呼後、校門前にてバスに乗ってください。1時間ほどで到着します。その後、武器と服の配布、開始地点まで行ってもらいます。そして、10分で開始です」
あぁ、やっちまった。5分の1をここで引くか。どうやら僕には運が無いらしい。こんなことなら他の人に行って貰えば良かったかもな。今考えてもしょうがないか。
「では、これにて終わらさせていただきます」
これでこの集まりも終わりか。案外、すぐ終わったな。お偉方が話でもするのかと思っていたんだけど、予想が外れたな。
「失礼致しました」
範囲がかなり広かったから、直ぐには砂漠に来れないはず。砂漠のど真ん中だとしても移動する時間くらいはあるだろう。その時間で砂漠は抜けたい。或いは遮蔽物のある所に行ければ。
「それにしても砂漠のど真ん中引くとは運悪いな、柊」
「いやー、あはは。こんなはずじゃなかったんですけどね。まぁ、場所が悪いからって負けるようなクラスじゃないですよ、Sクラスは」
「そりゃそうだ。勝ってもらわなきゃ俺が困る。……柊、お前は強い。同世代では負け無しだろうな。だが、お前だけが頑張らなくてもいいんだぞ。俺のクラスはお前抜きでも歴代のSクラスに負けない強さだ。俺はそう思ってる。だから、気楽に行けよ」
気楽に……か。ちょっと気張り過ぎてたかもな。やれることはやった。今は僕の全力がどこまでやれるのか。それを楽しむのもいいか。
「須藤先生もそういうこと言うんですね」
「当たり前だ。俺は教師だからな。っと、もう着いたか。俺は前の方乗るから、柊も適当なとこ座ってくれ」
今から1時間と少しか。
「えーと、情報はスマホに送っといたから走り出してから確認してくれ。特に地図はちゃんと覚えろよ。あと、お前らは強いから勝つのは前提だ。その上で楽しめよ。これは行事だ。お前らの青春の1ページとなる。だからこそ、勝つことだけ考えるとかつまんねーことすんなよ。スポーツマンシップとか気にすんな。全力で楽しんで勝て。俺からは以上。あとは全部、お前らに任せるわ」
楽しんで勝つ。なら、この一週間試してきたこの能力。全部使ってやる。闇にしか出来ない、闇だから出来ることを全部ぶつけて戦おう。あぁ、もっと楽しみになってきた。
遅くなってすみません。次回からも読んでいただけると幸いです。