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おばちゃん(?)聖女、我が道を行く~聖女として召喚されたけど、お城にはとどまりません~  作者: 実川えむ
閑話

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薬師の老婆は口惜しさに歯噛みする

 毎晩通っている飲み屋からいい気分で帰ってきた時、うちの店先に小さな人影が目に入ってきた。


 最初は、今日辞めてった子供が戻って来たのかと思った。

 知り合いから頼まれて雇ってやったというのに、まったく使えない坊主だっただけに、戻ってくる根性があったのか、と少しは感心したのだ。

 しかし、近づいてみれば坊主よりも少し小さい。よくよく見ればあんなのとは別人の、ずいぶんと可愛らしい子供だった。年のころは十歳くらい、髪の短さから、てっきり男の子だと思った。


 こんな子供がうろつくには、すでに遅い時間。孤児かもしれない、という思いが頭をよぎる。王都にはいくらでもいるが、この時は酔いもあってか、少しだけ哀れに思えたのだ。

 そう、ほんの気まぐれだった。

 強引だろうが家の中に連れ込んでみれば、マントの下から現れたのは、膝丈のオフホワイトの簡素な服を着た、華奢な足をむきだしにした女の子だったのには驚いた。


 次の日から、店の手伝いをさせてみた。

 常識的なことをよく知らなかったわりに、思いのほか、覚えが早く、簡単な金のやりとりならできそうなので、その日のうちに一人で店番をさせてみた。

 近所の連中の評判もよくて、この子を躾て色々と覚えさせれば、あんな坊主よりも、よっぽど使い物になるかもしれない、と期待したのは悪くないはずだ。

 これはいいめっけもんをしたと、ほくそ笑んでいたのだが。


「ミーシャ、ミーシャ、どこだい」


 朝、寝室から出てみれば、あの子の姿がない。

 ソファの上には綺麗に畳まれた毛布。店のほうにいるのか、と思えば、そこももぬけの殻。

 ふと、カウンターの上にキラリと輝くものが目に入る。


「なっ! き、金貨じゃないかい……」


 恐る恐る、それを手にする。銅貨の軽さとは違い、しっかりと重みのある金貨に、手が震える。

 庶民相手の薬屋じゃ、一カ月頑張って金貨一枚になるかどうか。そんなものが、無造作に置かれている。

 そして一緒に置かれていたのは、一枚の木の板。


『ありがとう』


 木炭で書かれた文字。あの子は文字も書けたのか。


 金貨を持っていて、このように文字も書ける。簡単な計算だって出来ていた。今思えば、羽織っていたマントも、中に着ていた物などよりも上質な物だった。

 いいところの娘か何かだったのか。誘拐か何かで捕まっていたのを、逃げ出してきたのだろうか。ギルドには人探しのクエストなど、あの老婆くらいのものだった。

 それにしたって、金貨をぽいっと置いていくなんて……荷物一つ持っていなかったはずなのに、どこかに隠し持っていたというんだろうか。ちゃんと身ぐるみ全部、調べればよかった、と、後悔しても後の祭り。


 怒りにドンッと思い切り、カウンターを叩く。

 使える子供がいなくなったことよりも、いい金蔓になったかもしれないことを思い、悔しさに歯噛みするしかなかった。

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