表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おばちゃん(?)聖女、我が道を行く~聖女として召喚されたけど、お城にはとどまりません~  作者: 実川えむ
閑話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

239/420

初恋を失った王子の嘆き

 どうしてこうなった。

 第三王子リシャールは、自分の寝室の天井を見上げながら、涙に暮れていた。


 学園に入学してからずっと、友達以上恋人未満であった、ルーシェが、まさか『魅了』をもって自分を陥れようとしていただなんて、信じたくはなかった。実際、そんな必要もないくらいに、自分はルーシェを愛していたのに。

 隣国の『聖女』を名乗る女が来ようとも、自分の国の聖女との偽の婚約話でもって無くそうとした。それは子爵令嬢の名を出してしまえば、彼女がかっこうの餌食となってしまうから。聖女であれば、リンドベル辺境伯がいる。どうってことはない、と思った。(おかげで、本人から文句を言われてしまったが。)

 彼女を大切に思うからこそ、最後の最後まで守りたかった。だから、婚約者候補のリストに載せることが出来て、安心してしまったのがいけなかったのか。


 最近、彼女の周りに自分の友人たちが集まっていると思ってはいた。まさか、彼らにまで『魅了』を使っていたなんて、思いもしなかった。実際、教会の者から話を聞いても、納得できなかったし、自分がその影響下にあったなんて、思いもかけなかった。

 しかし、彼女と離れ、時間が経つにつれ、自分が段々と冷静になっていくのがわかる。また友人たちも、同じように隔離され、気持ちの変化が起きたという。恋人や婚約者を蔑ろにしていた者たちが、まるで、夢でも見てたかのように正気に戻ったというのだ。


 『魅了』は、対象者にかけ続けなくては意味をなさないものだというのを、この時、初めて知った。自分の想いは自然な発露ではなく、彼女と共にいたからこそ起きた気持ちだったのか、と、自分の心すら、信じられなくなった。


 寝室のドアがノックされる。リシャールが返事をせずにいると、再びドアがノックされる。


「なんだ」

「失礼いたします」


 入って来たのは、従者の一人。共に学園に通っていた者。彼は彼女の影響は受けなかったようで、今も、リシャールとともにいる。しかし、今の無様な自分の姿を見せたくなくて、ベッドに横たわったまま、背を向ける。


「どうした」

「はい……聖女様より、お届け物が」

「聖女? どっちのだ」

「はっ、リンドベルにお住まいの……」

「……そこに置いておけ」


 帝国からのだったら、そのまま捨ててしまえと言う所だった。

 従者が部屋から出て行ってから、リシャールはベッド脇に置かれた物に目を向ける。


「なんだこれは」


 綺麗な布の巾着袋。手に取ったその袋の中身は、カラフルな飴玉で満たされていた。リシャールの元に届いている時点で、すでに毒見もされている。一つだけ取り出して、口に含んだ。


「……甘酸っぱい」


 その甘酸っぱさは、どこか懐かしさを感じさせるものであり、出会った頃のルーシェの姿と被り、王子の胸を苦しめる。


「ルーシェ……」


 ポツリと呟く王子の掠れた声は、誰にも届くことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】
2022年4月8日
モンスターコミックスfより発売


おばちゃん聖女コミックス

ミキマサハル先生

【書籍化】
ツギクルブックスより発売中

おばちゃん聖女

イラストレーター:那流様

小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=791464659&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ