第22話
真っ暗闇の中、私は瞼をゆっくりと上げる。
店の奥にある小さなリビングのくたびれたソファ。そこで私は一人、寝ていた。
おばあちゃんは、もう一つ奥の部屋。なにせ、ベッドは一つしかないというし、さすがに年寄りをソファで眠らせるわけにはいかないもの。そもそも、おばあちゃんじゃ、このソファのサイズは小さいのだ。
私が、かなり小柄になってるから、寝られるだけだけど(ちょっと悔しい)。
おばあちゃんから老婆探索の話を聞いた後、私は、もう潮時かもしれないと思った。
見た目は確かに老婆ではないけれど、何がキッカケでバレるかわからない。
もともと、さっさとこの国から出るつもりではいたけれど、あの時点では時間も情報も少なすぎた。
アルム様のタイミングの悪さなのか、良さなのか、おばあちゃんに拾われて、落ち着ける時間ができたのは幸いだったと思う。
ソファから起き上がると、毛布をきちんと畳んでから、アルム様からもらった服に着替えた。
オフホワイトのシャツに、革のベストに、ジーンズっぽい生地のズボン。それに結構しっかりした膝下くらいまであるブーツ。絶対、この世界には無さそうな服や靴だと思うんだけど、私が持ってるのは、緑のワンピースと、ブカブカの革靴、それに貫頭衣しかない。これからの移動を考えたら、これに着替えるしかない。
その上に、私はグレーのマントを羽織る。
この格好だったら、髪の短さも手伝って男の子にしか見られないはずだ。
店の方へと向かう。脇道にある店のせいもあるけれど、窓からは、まだ陽の光は見えない。
カウンターに置かれていた、掌サイズのメモ用の紙。もともと、お客さん用に準備されていた引き換え券のようなものらしい。同じように置かれていた古い羽ペンで、そこに一言、『ありがとう』と書く。どんな仕組みなのか、日本語で書いてるつもりなのに、自動でこの国の言葉に変わってしまうことも、この三日で気付いたことだ。残念ながら、字の綺麗さは反映しないらしい。
私はアイテムボックスから財布を取り出すと、金貨を一枚取り出し、その上に置いた。
一宿一飯どころではないし、ワンピースと靴の代金も入ってる。たぶん、相場からしたら渡しすぎかもしれないけど、口止め代のつもり。おばあちゃんが、それに気が付くかはわからないけど。
ゆっくりと店の中を見回すと、感慨深く感じてしまって、ちょっとだけ、目が潤んだ。
「お世話になりました」
頭を深々と下げると、私は店のドアをあけ、ヒンヤリした空気の中、まだ薄暗い街の中へと足を向けた。
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貨幣価値
白金貨:金貨100枚 (1枚:1000万円程度)
金貨 :銀貨10枚 (1枚:10万円程度)
銀貨 :銅貨100枚 (1枚:1万円程度)
銅貨 (1枚:100円程度)※修正しました
※追記
これ以下は、銅粒1つ1円程度(美佐江は持っていない)
紙幣は存在しない。






