表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おばちゃん(?)聖女、我が道を行く~聖女として召喚されたけど、お城にはとどまりません~  作者: 実川えむ
閑話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

152/420

魔術師の憧れは、地に落ちる

 魔術師、ヘンドリックス・ドーンは、薄暗がりの中、頭を抱えていた。


「なんだって、マートル様はあんなものを渡したんだ……くそっ!」


 髪を掻きむしりながら、ヘンドリックスは国を出る直前のことを思い出していた。


                * * *


 転移陣の間に行く少し前、マートルに呼び出されて向かったのは魔術師団の団長の執務室。最近、団長自身は研究室に籠り、ほとんど出てくることはなく、事実上、マートルの執務室と言っても過言ではなかった。


「忙しい所、申し訳ないな、ドーン」

「いえ、とんでもございません」


 国内でも力のあるマートル辺境伯、その次男ということもあり、高位貴族らしい上から目線で物をいうタイプかと思いきや、偉ぶることのない腰の低さから、部下たちから慕われることの多い人であった。ヘンドリックスもそんな憧れている者の一人だった。

 マートルは机の中から、紺色のベルベッドの箱を取り出す。


「これを渡しておこうと思ってな」

「これは、聖女様に、ですか」

「……ああ、そうだ」


 渡す時、一瞬、迷ったような顔をしたものの、諦めたような溜息をついて、ヘンドリックスに手渡すマートル。箱の中身は、アクセサリーだ、としか説明されなかった。

 ここで中身を見ること自体、不躾だということくらい、ヘンドリックスでもわかった。


「念の為、お渡しする前に聖女と言われる女性の鑑定をしろ。お前は魔術師団の鑑定持ちの中でも、高レベルの中に入る。確実に聖女だと判断した場合のみ、お渡しするんだ。渡し方やタイミングはお前に任せる……そうだな、聖女がご機嫌を損ねるようなことがあれば、差し上げてもいいかもしれん」

「はっ」

「……頼むぞ」


 厳しい顔をしたマートルに、ヘンドリックスも身が引き締まる思いだった。


                * * *


 マートルから出された聖女探索の任に応えられずに王都に返ってきた矢先、隣国で保護されたという話を聞かされた。あと少しというところで逃げられたのが、聖女であったはずだと、今でも思っている。あまりにも悔しくて壁にあたり、自分の手の甲をケガをしてしまったくらいだ。だからこそ、今度こそは、と思っていたのだ。

 男爵から謁見の間で行われた解呪を聞いて、彼女は聖女だと確信を持った。そして実際に目の前にした聖女は、自分の鑑定などまったく使い物にならなかった。

 何も見えなかったのだ。


「なぜ『隷属の腕輪』のような物を聖女様に……」


 マートルの言葉を鵜呑みにして、箱自体を自身で鑑定すらしなかった。そもそも、そんなことは必要ないと思ったのだ。シャトルワースの誇りある魔術師団の団長補佐からの贈り物なのだから、と。

 今、ヘンドリックスの首元には、黒く鈍く光る金属製の首輪が嵌められている。いわゆる『封魔の首輪』だ。魔力の高い魔術師の場合に、魔力を抑え込むための物だ。これがある限り、伝達の魔法陣すら立ち上げることも出来ない。


「マートル様……」


 ヘンドリックスは悲嘆に暮れながら、薄暗い部屋の天井を睨みつけるしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】
2022年4月8日
モンスターコミックスfより発売


おばちゃん聖女コミックス

ミキマサハル先生

【書籍化】
ツギクルブックスより発売中

おばちゃん聖女

イラストレーター:那流様

小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=791464659&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ