第84話
町を出てのんびりと進み二日目の夕方、レヴィエスタ王国との国境にある砦が目に見えてきた。シャトルワース王国との国境と違うところは、この国境の砦は、レヴィエスタ王国とオムダル王国の共同で管理されているという。だから国旗が二種類掲げられているのだそうだ。
「我が国とオムダルは友好関係にあるからな」
「そうなんですか?」
馬を隣に並べたエドワルド様が楽し気に話し始める。
「ああ。今の国王、アレンノード二世様の正妃、メリリアーヌ様は、オムダル王室から輿入れされた方なのだ」
「へぇ……政略結婚ですか」
「まぁ、対外的にはそう見えるかもしれんが、お二人は幼馴染でな。一時、オムダルの国が荒れた時、まだお小さいメリリアーヌ様を、わが国でお預かりしてたことがあるのだ。その時にお二人は出会われて、そのまま恋に落ちてしまわれたのよ」
エドワルド様の話は、(他人の)恋愛話大好きなおばちゃんには、たまらん話でございますよ。それは、同じように国境を越えるために並び始めていた人々も同様だったようで。
「そうそう、まだまだお子様だったアレンノード様が、オムダルまで乗り込んできてなぁ」
「姫をそのまま自分の婚約者にと申し込んで来たそうな」
「なんでも、暗殺されそうにもなったそうで、返り討ちにしたとかいう話もあったな」
「まさか、お子様には無理だろ。護衛の騎士か何かじゃないか」
「その意気を認められたのか、あっさりもぎ取ったらしいな」
「ああ、あの当時、国中で祭りになったって、うちの親父も言ってたわ」
行商人らしきおじさんたちと、子連れの家族の中の若い父親らしき人が、エドワルド様の話に被せてきた。それを嫌がりもせず、エドワルド様も一緒に話し出す。
「アレンノード二世様は、もう一方の隣国、シャトルワースを引き合いに出してな。いつまでも、国がごたついてると、あいつらが狙ってくるぞ、と脅してな。自分と婚約して相互防衛条約を締結すれば、いざという時に、駆けつけてやる、と言い放ってなぁ」
「……」
ガハハと笑い飛ばすエドワルド様に、周囲の視線が集まってくる。皆、エドワルド様の話に驚いているみたい。だって、まるでその場にいたみたいに話してるんだもの。実際、いても、おかしくなさそうだわ。
その中でも、行商人のリーダーっぽいおじいさんが、勇気を振り絞って、声をかけてきた。
「あ、あの……失礼ですが……お名前を伺っても……」
「ん?私か?」
「あ、はい」
「エドワルド・リンドベルだが」
にっこりと笑って返すエドワルド様に、周囲の空気が固まった。続いて周囲の人たちが、叫んだり、跪いたり、大騒ぎになってしまった。
えぇぇ!? リンドベルって名前、そんなに有名なのっ!?
私は周りの様子に、びっくりしてしまう。
「参ったなぁ」
「参ったじゃありませんよ、ああ、門の方から衛兵たちが」
「おいっ! どうしたっ!」
呑気なエドワルド様に、苛立たしそうなイザーク様。
もしかして、なんかめんどくさいことになったりしません? この状況って。






