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生粋の魔導師の男が奴隷少女を買うお話

作者: 笹 塔五郎

 ディード・グレイマンは生粋の《魔導師》である。それは自他共に認める事実であり、彼はとても客観的に物事を観察する。

《地星》と名を冠するディートは、魔導師として優秀であるが、決して《最強》と呼べるほどの存在でなかった。

 確かに彼は強いが、明確に彼よりも強い者は数多く存在している。

 それでもなお、達観したディードは『己の限界』を見定めた上で、『とある事』に興味が惹かれていた。


「――」


《奴隷市場》。本来であれば、ありとあらゆる利用目的があって、人々はここを訪れる。ディードがやってきたのは、本当にただの偶然であった。金は魔導師としての仕事があるから、十分にある。だが、奴隷を持つということは些か彼にとっては面倒な事にしかならない。

 ある程度実力のある魔導師であれば、それこそ奴隷など不要な存在であるからだ。

 そんなディードが目を奪われたのは、並べられた奴隷の中にいる一人の少年。

 褐色の肌に、黒い髪。やつれた頬をした少年は――ディードと同じ質の魔力を持っていた。

 それでいて、彼はディードが子供だった頃に比べると、圧倒的なまでに『質の良い』魔力を備えている……つまり、目の前にいる奴隷は、ディードを超える実力を持つ可能性のある少年ということだ。

 魔導師の中には、己の才を超える者に嫉妬し、その才を潰そうとする者がいる。ディードからしてみれば、それはとても愚かしいことであった。

 そこに才があるのであれば――芽吹けば己を超える存在になるのだ。

 ならば、魔導師としてやるべきことは何か? そんな問いすらも自らに投げかけることはなく、ディードは少年を即決で買い取った。

《地星》のディードが奴隷を高値で買い上げた――その事実は、広く周知されることになる。


   ***


 ディードの自宅兼工房に、少年の姿はあった。

 未だ薄汚れた服を着せられた少年は、今もなお奴隷として首輪や枷に縛られている。

 声すらもろくに発そうとしない彼にディードが近づくと、少年は怯えた様子を見せた。


「落ち着け、鎖を外すだけだ」

「……え?」


 少年は、まるで『女の子』のようなか細い声で、驚いた表情を見せる。

 ディードは少年の鎖を外してやると、すぐに手で別の部屋を指した。


「まずは風呂で身体を洗うといい」

「……」

「どうした?」

「い、いいんです、か?」


 おずおずと、問いかけるように少年が言う。

 なるほど、奴隷というものは『そういうもの』なのだと、ディードも理解した。

 ディードは、すぐにどうするのが早いかを決断する。


「来い、洗ってやる」

「え、えぇ……!?」


 何故か先ほどよりも驚いた声を少年が上げた。

 ディードは構うことなく、少年を自宅の浴室へと連れていく。

 ――《水の魔法》と《火の魔法》を使い、すでに湯船は汲んである。

 それらのシステムを組み合わせて、身体を洗い流す《シャワー》もこの浴室には構成されている。

 ディードは抵抗する素振りを見せる少年の服を、無理矢理はぎ取った。

 まだ十歳前後の少年ならば、大人に裸を見られることを恥ずかしがるものか……その程度でディードは考えていたのだ――が、


「……なに?」


 わずかにディードは眉を顰める。

 震える身体。目に涙を溜めて――『少女』がディードのことを怯えるように見上げていた。

 そうか――と、ディードは理解する。

 ディードにとって、少女の容姿はそれほど気にすることではなかった。

 遠目から見ても、そして近くから見ても中性的だが、少年だと勝手に思い込んでいた。

 別に買った時も、即決で彼女を持ち帰ったのだから、気付く要素などそこにはなかった。

 故に、たった今――買った奴隷が『女の子』であるということを認識したのである。

 そして、彼女が怯えている理由も、ディードにはよく理解できた。

 だから、ここでディードが取るべき行動は一つであった。

 一枚のタオルを手に取ると、ディードはそれを少女へと投げ渡す。


「……?」

「一人で入れるか?」

「え……」

「入れないならば、俺が洗うことになるが」

「は、入れ、ますっ」


 ディードの問いかけに、ようやく少女がはっきりとした声で答える。

 それを聞いて、ディードは頷くと脱衣所を後にした。


「そうか、女の子だったのか。まあ、確かに女の子の方が、魔力の質は高くなる可能性はあるな」


 ……ディードにとっては、その事実はさほど大きなものではない。

 彼がしようとしていることは、『買い取った奴隷』がかつての自分より優れているから、育成して『より優れた魔導師』を作り出そうとしているだけ。

 自らの限界を客観的に見極めた男の、ただの趣味である。

 だから、相手が奴隷だからと言って厳しくするつもりも、甘くするつもりもない。

 かつて自分がそうであったように、魔導師らしく育て上げるつもりだった。


「彼女が風呂から上がったら、まずは食事から考えるか」


 魔導師として魔力の質をより高められるものを食べさせる……すでに『育成』は始まっていた。

 それからしばらくすると、脱衣所から少女が出てくる。

 その姿は、まだタオルで身体を覆い隠しているだけであった。

 そうか、とまたディードは気付く。


「お前の服を用意してなかった――」

「あ、あのっ!」

「ん?」


 ディードの言葉を遮るようにして、少女が声を張り上げる。

 その態度に、ディードは少しだけ驚いた。先ほどとは、何か雰囲気が違ったからだ。


「こんなに、優しくしてもらったの……初めて、です」

「俺が優しくしたか?」

「……はい。わたしは、そう感じました」

「そうか。お前が感じたのならば、それが事実だ。否定もしない」


 淡々と、ディードはそう答える。

 死んだような目をしていた少女が、ディードの言葉を聞いてようやく微笑んだ。


 ――ディード・グレイマンは魔導師である。

 物事を客観的に見ることができる彼だが、少女のことはよく理解できていなかった。

 そんな彼が、引き取った奴隷に愛されるようになるのは……もう少し後のことだ。

このあと女の子が十五歳くらいに成長していい感じの年の差を見せたい……というプロローグを思いついたのでサッと書きました!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ほんのりした感じがいいですね
[一言] 続きは?(純粋な好奇心
[一言] 感度10000倍の男と聖女(男)と一緒に パーティ組んでほしいw
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