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迷宮日誌   作者: ケット・C・ニャンガード
迷宮日誌 〜招集編〜
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城下町の様子②

まだ太陽は高く昇っており、寝床を探すまでは猶予がありそうだ。自前の腕時計は止まってしまっているようだが、時間感覚や単位は自分の想っているものとほぼ同じと考えて良いらしい。商店には12指針の置時計や掛け時計も見受けられたし、日が沈めば商店は閉まっていき、酒場はさらに活気を増すのだろう。(昼間から賑わっている酒場が多かったわけだが。)あぁ、ここは一緒なんだなと思えるところをこの街で発見すると少しだけ不安が和らぐ。巨大な二足歩行の爬虫類にすれちがいざまに睨まれたり、刀剣を持った人間とすれちがう度に緊張が走るのだが。日本でも江戸時代とか戦国時代とかはこんな感じだったのだろうか。とにかく武器の携帯とは無縁の生活を送っていた自分には、例え"喚ばれし者"同士の争いごとは固く禁じられているとはいえ、よほど狭い通路でない限りは、武装した者や亜人種とは少しでも距離を取りたかったのだった。


 とりあえずはこの服装はなんとかしなくてはいけない。どこかの商店に営業に行くわけではないのだ。幸いにも気候は日本でいうところの秋くらいといったところだろうか。空気は澄み渡っていて涼しげである。市場を通れば青臭い野菜の匂いや果物の甘い香りが漂い、酒場を通れば肉や魚を焼いたような香ばしい匂いが鼻をかすめる。


カバンもなしに手ぶらでスーツ。そんな姿で商店や酒場を見つけては客は入っているか、取り揃えやメニューはどんなものなのかを確認して練り歩いていく。これがサラリーマンの昼休みであれば適当に店に入って、適当に昼食を取って、ここは美味かったな、明日はどうしよっかな。なんて考えるだけなのだが。


初めて降り立った土地で、限られた資金を握り締めて、どうしたらより生き延びられるのかを考えている。


いやそもそもまだ迷宮に踏み入ってすらいないんだけども。


戦えるのか?この俺に?


まな板の上の死んだ魚や分厚い肉を斬るのですら捌くのに苦戦するのに?


だがかといって何の準備もなしに迷宮の様子を見に行くのはそれこそ無謀というものだ。


準備期間は設けられていない。かといってこの街で無為に過ごし、誰かが迷宮を攻略するのをただ適当に待つばかりでは嫌なのだ。




特別な力なんてなくとも、特別な何かがしたいって想う事があった。


俺は何不自由なく暮らしていたが、それだけであった。


偉大な発明をしたわけでもなく、偉大な功績を残したわけでもない。


そしてきっと、


それを将来してやろうという意志もなかった。


あのままでいても、何不自由なく暮らし、そしてそっと生きるか死ぬかしたのだ。



この城下町には迷宮がある。


そしてその迷宮の謎はまだ解き明かされていない。


まだ成し遂げられていない、成すべきことが目の前にあるのだ。


国王の方針、この強制召喚の是非は今はいったん置いておくとして。


階段を登れずに困っている老婆を助けるような、道に迷っている人を助けるような、そんな感覚で小さくとも前に進まなくては。"喚ばれた"からには少しでも手を差しのべてみるべきではないか。


街を行き交う他の"喚ばれし者"達の迫力に圧倒されながらも


「やってやるさ…。」「やってやるぞ…。」


と自分に言い聞かせ城下町の把握(一刻もはやく活動拠点の目星をつけたかった。)に時間を割いたのだった。




 

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