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迷宮日誌   作者: ケット・C・ニャンガード
迷宮日誌 〜招集編〜
3/66

城下町の落陽①

「この城下町のはずれに迷宮があります。」


『迷宮…ですか?』


「入り口だけで見れば洞窟や炭鉱といった方が適切なのかもしれません。しかし洞窟のような単調なものではないのです。魔物や魔術師、悪鬼までもが棲んでいると言われており、難解に入り組んでいるだけでなく、小部屋や仕掛けなどが無数に存在し、踏み入りし者を帰そうとはしないのです。」


ダンジョンだ…。典型的なダンジョンRPGのさわりみたいな展開だ…。


そしてこういうダンジョンの類の依頼というのは大体が軍や討伐隊は動かせないという条件というか問題を抱えていて、冒険者や風来坊、あるいは勇者といった少数精鋭でそれを攻略しろと言うのだ。


『この国はその迷宮と、外敵の脅威にさらされているということですか?』


「…!?。…驚きました。国政などにも精通しているお方でしたか。いかにも。かつて強大であった我が国は隣国とはむしろ敵対関係にあります。いえ、支配下においた国々も反旗を翻す時を狙っているかもしれません。私はこの寺院にて召喚を担っているだけで陛下や大臣の直々のお言葉を頂いているわけではありませんが、その脅威に関しては間違いありません。そして外敵に眼を光らせるだけでは、この城下町が抱えるあの迷宮に内側から食い破られてしまうのです。」


『迷宮から魔物が押し寄せてくるのですか?』


「えぇ。かつては…かつてと申しましても、私もその頃のことはわかりかねるのですが、迷宮から魔物が溢れ出るということはなかったようなのですが…。」


世界的に有名なRPGの元祖とも呼ばれるダンジョンRPGをプレイしたことがあったが、魔物が街に這い出てくるというのはきいたことが無い。しかし一通りの話を聴くとそのダンジョンRPGか、それにかなり近い世界に自分が喚ばれているのだということまで把握できた。





建国の王は武に優れており、そしてその知能と実力は大陸一であると称される大魔道士を召抱えていた。


国王は武の才に加え、大魔道士の創り出した魔法のアミュレットの力を有しており、鍛え上げた精兵と軍事力を用いて瞬く間に国土を広げていった。


大魔道士は自らの研究の成果を試すためだったのか、国王に対して心変わりがあったのか、どういうわけか国王からそのアミュレットを奪い、迷宮を創りあげてその中に篭ってしまったのである。


アミュレットを失った国王は躍起になってこれを取り戻そうと挙兵をしたのだが、細長く、そして入り組んだダンジョンには軍勢の規模というのはさして問題がなかったのだろう。


大魔道士(あるいは年月が経つにつれて大魔道士とは無縁のものも巣くっていたのかもしれないが、それも想定の内だったのかもしれない。)は悉く国王の軍勢を退け(たぶん撤退すらままなっておらずそのおおくは討死であろう)、いよいよアミュレットは永久に国王の下には戻らないかと思われた。


だが国王も非凡ではなかった。


国の威光や誇りは投げ打ち、誰彼構わずアミュレットを取り戻した者には莫大な報酬と地位を約束すると号令をだしたのである。


地位を望む者、金持ちになりたい者、ただ力試しや運試しがしたい者、大陸中からこの噂を聞きつけて猛者や賢者がこの城下町に集い、迷宮との往来を繰り返したのだ。


数多くの武勇伝、数多くの悲劇を生み出しながら街は毎日活気に溢れ、繁栄していった。


そうして幾年が経ったとき、いよいよ迷宮を踏破し、アミュレットを持ち帰った者が現れたのだ。


しかしその英雄となったはずの者の名前が今語り継がれていないことが、この世界の現状を語っているのかもしれない。


無名から国王直属の近衛兵に取り立てられたとか、金持ちになってきままに暮らしたとか、新たな冒険を求めて旅に出たとか、いろいろな説があるようでそのへんは曖昧なようであった。


ひとつ確かであるのは、アミュレットの返還という多くの者が抱いていた野望を誰かが成し遂げたことによって、無数の野望が打ち砕かれ、冒険者は街を離れ、商店は畳んで他の国へ行き、賑わっていた城下は瞬く間に閑散としていったのである。


もともと大魔道士の討伐の為に、軍事力を多く失っていた国王も、人がいなくては兵は集えず、アミュレットの魔力は強大ではあったものの、人一人の力で他国を蹂躙できたり、屈服させたりできるほどの代物ではなかったのだ。他国から自国を守る牽制にはおおいに役立ったと言えるのだろうが、侵略や侵攻はぴたりと止まった。


ただただ国は荒廃していき、ただただアミュレットは家宝として受け継がれていった。


だが迷宮の方はといえば、大魔道士とアミュレットを失ったからといって消滅したわけではなく、その内部と生態系をより複雑にしながら一刻一刻と時を過ごしていくのである。


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