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迷宮日誌   作者: ケット・C・ニャンガード
迷宮日誌 〜招集編〜
2/66

召喚

私はここに来るまで、ごく平凡に暮らしていた日本国民であったと記憶している。


いや、平凡…だったのだろうか。


ずば抜けたり目立っていなかったということは確かだ。


30も越えて、ゲームもアニメも大好きで、世俗的にはオタクと呼ばれるものだったのかもしれない。


ただ決して自宅に引きこもっていたわけではないし、会社にも通っていた。


独身で恋人もいなかったから、標準よりもゲームやアニメに充てる時間が多かったというだけで、社会に溶け込めていなかったというわけではないと自負している。


恐らくだが、私と同じ年代の日本国民の多くはゲームやアニメを愛していたし、少なからずその影響を受けていたと思う。


私はその影響が少し強かったというだけで、武器や魔法、魔物の特徴などをある意味我が国のゲームやアニメから学んだことが、この世界で教養として昇華され今に活かせているといったところか。


この城下には人間の他にも、獣と人が融合したような獣人や(ウサギやイヌ、ネコなどにも見える親近感の湧く姿の者もいれば、ライオンやトラのような獰猛と感じる肉食獣の姿の者もいる)、もはや二足歩行の爬虫類(リザードマンと呼ばれている)などあらゆる種族が存在し往来しているが、自分以外の他種族や歴史、神話に幅広く精通しているという者は珍しく、なんの取り柄もなく、無宗教であり、創作物や架空のものからとは言え、事前知識のようなものを備えている自分のほうがいささか賢人ぶれるというのは気分の悪いものではなかった。


住めば都とは良く言ったもので、生活してみれば迷宮の攻略に明け暮れさえしなければこの城下は住みやすい。


時折迷宮から魔物が溢れかえり城下を襲う現象があるらしいが、いまのところしばらくは懸念しなくてもいいようだ。


天まで届くかのような塔を何本も備えた西洋風の巨大な城が丘の上に構えており、民家や商店、訓練所や寺院といった様々な建物が城壁を交えながら幾重にも城を取り囲む。


人口や街の正確な広さは気にしたことがない。


世間話程度に話題になることはあったかもしれないが、自分の母国でもなんでもないこの土地の人口や歴史など、今は特に覚える気は起こらないのだ。


ある日突然、この街の寺院の儀式の間に喚びだされ、この城下町を救うために汝は選ばれたみたいなことを言われた。


直前まで何をしていたのか今となっては曖昧だが、仕事中だったのか、仕事の帰りだったのか、身なりはスーツで呼ばれたのが今思い返せばラッキーなほうではあったかもしれない。


これがもし気を抜いたゆるゆるの私服であったり、下着一丁などであったなら、身なりを整えるだけでも一苦労、そして今組んでいるパーティーメンバーとは組めていなかったかもしれないからだ。


まぁ、最低限の衣服は召喚した寺院の連中が提供はしてくれるのかもしれないが、事前説明もなしに異世界へ召集するという横暴っぷり(問題は国家であって寺院は板ばさみなのかもしれないが)なのであまり頼れるものではないとは思っている。






異世界転移などというのはもちろん初めてだ。


いよいよ俺の番が来たのか!?などと前向きに思えるはずもなく、夢であるに違いないと思った。


夢であるとしたら夢の中で1年以上がはっきりと経過していることになり、そんな夢は33年間見たことが無い。


まぁ夢であったにしてもすこしこの修道僧と話くらいはしてやろうと、喚びだされるなり事情説明を要求した。


「汝は選ばれた。何処かの文明、何処かの地より現れた者よ。我が国を危機より救い給う。」


明らかに修道僧は異国の者であり、日本語とは別の言葉であったが意思の疎通がはかれるようだ。


「この場へ転移される間に我等の一般的な共通言語は読み書きできるよう奇跡を施してある。他の"喚ばれし者"との交流に活用されよ。」


『えぇっと、危機というのはなんなのでしょう。』


ああいう時、なぜ俺を呼んだ!?とか元の世界に返せ!とか強気な態度のひとつでもとれればもう少し絵になったのだろうと後悔をしているが、見ず知らずの人にいきなりタメ口で聞き返したり命令したりするのはたとえ混乱していても、社会人として平成日本で粛々と生活していた俺にはそれができなかった。


「ふむ、妙に落ち着いている御様子。他の御仁にはなかなか見受けられない問答です。少々お時間を頂きますが?」


『かまいません。』


あえて堅苦しい言葉を発していたのか。召喚対象になめられたりしない為のマニュアル的な台詞だったのかもしれない。俺の返答と様子を確認するとフードの下の表情はすこし緩やかになったように見え、しかし沈んだ面持ちで、静かな声で語りだした。






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