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第二十二話 総督代行の陰謀

 話が見えてきたので家に帰る。

 家で待つと夜中にパオネッタが帰ってきた。


「とんでもない事態になっている。デンホルム総督代行が軍を滅ぼさんと、艦内中に麻薬入りの酒を広めている可能性が出てきた」


 パオネッタが知的な顔で教えてくれた。

「それなら合点がいくわ。村にあったはずのマシュリカ酒もすでに水に()り替わっていたわ。鍵が掛けられ、倉庫に保管されていたのに、よ」


「他にわかった情報は?」

「マシュリカ酒を開拓の村に持ち込んでいるボルベル族の商人を特定したわ。ボルベル族のダモンよ。ダモンの話ではデンホルム総督代行にはマシュリカ酒を売る許可を貰ったそうよ」


「よし、わかった。明日、ミランダ村長に報告だ」

 翌朝、お昼前にミランダ村長に報告に行く。ミランダ村長は具合の悪そうな顔で待っていた。


 ミランダ村長は私室にヒイロとパオネッタを通すと、開口一番に不平を口にした。

「あったま痛いわー。軍事支援の話が、私の知らないところで勝手に進んでいたわ」

(軍を崩壊させようとすれば、ミランダ村長には一々報告しないか。デンホルムが(ひそ)かに計画を進めていたな)


「それで、どういう状況なんですか?」

「ボルベル族がビリビリ族に侵略戦争を仕掛ける。だから、人間側に先陣を切って先鋒を務めてくれ、と要求していたわ」


(侵略戦争か。他の部族からの都市の防衛とかなら、まだ大義名分が立ちそうだ。だが、こちらから一方的に攻めるのなら、開拓村でも評判が悪いんだろうな)


「侵略戦争で先鋒を務めるなんて、断固、拒否すべきですよ」

 パオネッタも渋い顔で、ヒイロに同意する。

「私も、こちらからの攻撃に賛成できません」


 ミランダ村長は、ほとほと弱った顔で嘆く。

「デンホルム総督代行も戦争の介入には否定的なんだけど、軍の歯止めが利かないそうよ」

「実は、そのデンホルム総督代行、軍の崩壊を狙っています。デンホルム総督代行は、マシュリカ酒を艦内に流行させた疑いがあります」


 ミランダ村長は眉を吊り上げ、驚いた。

「えっ、どういうこと?」

「デンホルム総督代行は本国への帰還を望んでいます。その口実が欲しいんです」


「つまり、自分のせいではなく兵が暴走して戦争に介入する展開を望んでいる、って指摘するの? でも、ちょっと信じられないわね」


 パオネッタが厳しい顔で付け加える。

「村の倉庫のマシュリカ酒も、すでに水と掏り替わっています。また、村にマシュリカ酒を持ち込んでいるボルベル族の商人も特定しました」


 ミランダ村長の顔が強張(こわば)る。

「持ち込んだ商人は何て言っていましたか」

「商人の話ではデンホルム総督代行が持ち込みを許可したと証言しています」


「何ですって? 総督代行の陰謀? あったま痛いわー」

「どうします? デンホルム総督代行の身柄を拘束しますか?」


 ミランダ村長が苦渋の表情で決定した。

「とんでもない決断をしなければいけなくなったわね。いいわ、デンホルム総督代行の身柄を確保しましょう」


 ヒイロとパオネッタは夜を待つ。

 夜になると、二人はそっと停泊中の軍艦に近づいた。


 軍艦から桟橋に架かる板を上がる。規律など、なきも同然に緩みきっていた艦内では、見張りが居眠りをしていた。

 念のためにパオネッタがさらに眠りの魔法で眠りを深くしておく。そのまま、艦長室への扉を開ける。


 薄暗い艦長室のベッドに、誰かが寝ていた。パオネッタが光の魔法を小声で唱える。

 小さな光が灯って、一人の男の姿が浮かび上がる。


 男の身長は百六十五㎝。年齢は四十代。坊主頭で、ちょび髭を生やした、丸顔の男性だった。

 顔を見るが、しまりがなく軍人には見えなかった。だが、この男こそ、デンホルムだった。

 顔が確認できたので頷く。パオネッタは魔法の光を消した。パオネッタが次いで、眠りの魔法を掛ける。


 ヒイロは近づいて、そっとデンホルムを担ぎ上げる。

 そのまま、デンホルムを担いで、来た道を戻って自分の家に戻る。


 ヒイロは縛り上げたままのデンホルムをベッドに転がす。

 椅子を持って来て部屋の隅に置き、監視した。


 頭の中でファンファーレが響く。

「麻薬取締官の実績が解除されました。麻薬取締官の称号が授与されます。神殿で受け取ってきてください」


唐突(とうとつ)に実績解除が来たね。残り六十個か。でも、どこで誰が見ているかわからない。麻薬取締官の称号の授与は後回しだな)


 デンホルムが目を覚ましたのは昼過ぎだった。縛られている状態を知り驚く。

「おい、これはどういう真似だ?」


「あんたが、軍艦内にマシュリカ酒を流行らせた行動はわかっている。このままでは開拓村に被害が及ぶので、拘束させてもらった」


 デンホルムは慌ても怒りもしなかった。

「そうか。わかった。騒がないから縄を解いてくれ。あと、腹が空いた。何か食べる物をくれ」


 言葉に嘘、偽りはなさそうだった。ヒイロは朝に焼いた残りのパンを持っていった。

 縄を解くと、デンホルムは騒がなかった。デンホルムは上品にパンを千切って食べた。


「随分と安穏としているんだな」

 デンホルムは落ち着いて答える。

「危害を加える気はないんだろう?」


「そうだが。もっと自分の心配をしたらどうなんだ」

「心配しても意味がないことだ。私はもうやってしまった人間だ。あとは結果を待つだけだ」


 デンホルムは騒ぎもしなければ、解放の要求もしなかった。ただ、淡々と虜囚の役目を果たした。

 リビングに待機するパオネッタに頼む。


「デンホルム総督代行の確保をミランダ村長に伝えてくれ」

「わかったわ。状況を教えてくる」


 パオネッタはそれほど時間を置かず帰ってきた。

 帰ってきたパオネッタに訊く。

「ミランダ村長は何て指示していた」


「とりあえず、デンホルム総督代行を預かって、って」

 次の日、朝食をリビングで摂っていると、パオネッタがやって来る。

「軍から脱走者が相次いでいるわ。思ったより動きが早いわ」


「マシュリカ酒を求めて、開拓村を出たか」

 パオネッタがヒイロの部屋へと続く扉を見る。

「悔しいけどデンホルム総督代行の思い通りになったわね」


「そうだな。脱走した兵士たちはボルベル族を頼るしかない。そうすれば、さらにマシュリカ酒を与えられ、言いなりだ」

 ヒイロの予想は当った。三日で兵士の八割が脱走して、開拓の村からいなくなった。


 四日目にデンホルムを見張っていると、デンホルムがそわそわした様子でお願いする。

「なあ、もう、いいだろう。私を艦に帰してくれ」

「駄目だ。ミランダ村長からの指示がない」


 デンホルムが躊躇(ためら)いがちに頼む。

「なら、すまないが酒をくれ。ボルベル族がマシュリカ酒と呼んでいる酒だ」

「あんた、まさか、飲んだのか! マシュリカ酒を?」


 デンホルムが申し訳なさそうに申告する

「最初は軽い気持ちだった。だが、飲むと大きく不安が和らいだ。それ以来、たびたび飲んでいる」


 デンホルムはポケットから掌サイズのボトルを出して、机の上に置いた。

「もう、連れてこられた時に持っていた酒を全て飲んだ。少しでいい。マシュリカ酒をくれ。マシュリカ酒は艦長室の棚に隠してある」

(これ、まずいぜ。デンホルム自身も既に麻薬中毒だ)


 暴れ出すと困るので、デンホルムを縛り上げる。

 リビングに行ってパオネッタに指示を出す。

「ちょっと、まずい状況になった。デンホルムもマシュリカ酒中毒だ。暴れ出す前にマシュリカ酒を入手してきて与えてくれ」


「麻薬で人の心をどうにかする前に自分が虜になったのね。いいわ、どこからか酒を入手してきてあげるわ。ヒイロは、どうするの?」


 ヒイロは旅の支度をしてパオネッタに頼む。

「遠出になるがルドルフの奴に相談してくる。パオネッタはデンホルムの見張りを頼む」 

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