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第二十話 針葉樹林のインゴ(後編)

 吹雪の夜をパオネッタと二人で過ごす。魔法の四人用のテント内は寒くなかった。

 一晩であれば過ごせそうだった。


「よし、見張りを決めて休もう。先と後、どっちがいい?」

「なら、先に休ませてもらうわ」


 パオネッタは宣言すると横になる。ヒイロはどちらでもいいので、起きていた。

 夜も()けてきて、見張りがパオネッタの番になりヒイロが寝る。


 寝入ってすぐだった。パオネッタに起こされた。

 パオネッタが唇に指をやって「静かに」の合図をする。


 テントの外の音に耳を澄ますと、獣の足音がした。

 ヒイロはアルテマ・ソードを片手に飛び出していこうとした。


 すると、獣から誰かが下りる足音がした。足音の主は、外に置いてあるインゴの側で、ごそごそと何かやっている。

 パオネッタと顔を見合わせる。ヒイロはそっとテントの入口から外を見る。


 外では仮面を着けて、白い肌をしたボルベル族に似た四人の男がいた。

 白い狼も、四頭いた。狼には(あぶみ)が着いているので、乗り物をとして使っているようだった。


(白い肌の奴らはモモンと背格好が似ている。噂のガリガリ族か。俺が狩ったインゴの前で、何をしているんだ?)


 雪がちらつく月明かりの中、ガリガリ族はヒイロが狩ったインゴの肉を鉈で切り出して食べていた。

「こらっ、喰うな。それは俺のだ」


 ヒイロが叫ぶと、ガリガリ族は慌てて狼に乗って逃げて行った。

「待て」と叫んで駆け出そうとする。

「待って」とパオネッタが先に口にした。


 パオネッタが真剣な顔で警告する。

「雪はまた降ってこないとも限らないわ。深追いすれば、戻ってこられなくなる危険があるわよ。吹雪はモンスターより危険よ」


 パオネッタの指摘はもっともだと思った。なので、ガリガリ族の追跡は諦めた。

 それに、ほとんど休んでいない状況では陽が上ってから辛くなる危険性があった。


 しかたなく、上端が欠けたインゴをテントの前に置いて眠る。

 朝になると雪は止んでいた。また、気温が上がっていた。


 防寒着を背負い袋にしまって、針葉樹の林を歩いた。

 林の地面は昨日に降った雪が融けかかり、柔らかくなり、足跡を残す。

上端が切り取られたインゴの断面から強い玉葱臭がする。誰かが後を追いかけてくる気になれば、簡単に追いつけそうだった。


「これは早く林を抜けないと、まずいな。ガリガリ族が大挙して襲ってきたら、インゴを奪われるかもしれない」


 パオネッタは不快に顔を顰める。

「それにしても、インゴって時間が経つと、酷い臭いがするのね。腐ったら、もっと強い臭いを放つと思うと、気が滅入るわ」

「全くだ。人に取りに行かせたくなるわけだ」


 二日目はガリガリ族の襲撃は、なかった。だが、知らないうちに林の獣がやってきたのか、インゴは齧られていた。

 三日目も、獣はヒイロたちにわからないようにやって来て、インゴを齧っていく。インゴはボロボロになっていった。


「これ、まずいな。このままだと、獣に食われて、インゴがなくなるぞ」

「それに、悪臭が強くなって来たわ。腐敗も始まっているのかもしれないわね」


 強いモンスターが相手なら、どうともできる。

 だが、腐敗が相手では、なす術がなかった。


 四日目に針葉樹林を出て海岸に出る。

 そこから南を目指すと、途端に夏の暑さが襲ってきた。


 インゴの体はぶよぶよしてきた。傷付いた表面からは悪臭を放つ汁が滲む。

「うへえ、これは不快だ。早くルドルフに渡さないと、鼻がどうにかなりそうだ」


 パオネッタはすでに、ヒイロから離れて歩いていた。

「インゴは、だいぶ状態が悪くなったけど、引き取ってくれるかしら」


 捨てて新しい新鮮なインゴを狩ろうかとも思った。だが、四日間ひたすら歩いて、他のインゴを見かけなかった。

 インゴは生息数がいないモンスターだとすると、ここで捨てれば、食料や水が()たない。


 ヒイロは背負っているインゴを捨てる決断ができなかった。

「もう一度となったら、俺は考えるね。最悪、エイブラム総督をぶん殴ったほうが、気が楽かもしれない」 


 五日目、ルドルフの住み家が見えてきた。

 住み家に近づく前に、ルドルフがどこからともなく姿を現す。


「インゴ狩りご苦労様。でも、だいぶ状態が悪いようだな」

「半分ほど腐りかけているのは認める。だが、言い方を変えれば、半分はまともな状態だ。半分もまともな部分があれば、薬だか魔術だか知らないが、使えるだろう」


「ものは言いようだな。インゴは、こちらで預かるとしよう」

 ヒイロは汁が垂れるインゴを地面に置く。

ルドルフが軽くインゴに触れると、インゴは消えた。


 ルドルフは軽い調子で請け合った。

「ヒイロは約束を守った。なら、次は私が約束を守る番だな。総督には病気になってもらおう。もちろん、死なない程度にな」

「早急に頼むよ。総督が本格的に動き出す前にな」


 ルドルフは消えた。

 ヒイロは開拓村に帰る前に河で体と服を洗った。だが、インゴの放っていた玉葱臭は簡単に消えなかった。


 それでも、どうにか臭いを落とすと頭の中でファンファーレが鳴り響く。

「玉葱臭からの解放の実績が解除されました。玉葱ハンターの称号を神殿で受け取ってください」


(何だ? インゴがらみで実績が解除されたぞ。玉葱臭からの解放と名前が付くんだから臭くならないと解放されない実績だな。捨てなくてよかったよ。本当に、もう二度とやりたくない。これで四十七個目の解除。残りの実績は残り六十一個だ)


 家に帰ると、カルロッタが顔を(しか)める。

「ヒイロさん、どうしたんですか? ヒイロさんから腐った玉葱の臭いがしますよ」

「仕事だよ。仕事。村のために俺は、陰ながら働いているんだよ」


ヒイロは服を着替えて、カルロッタに洗濯を頼む。

パン屋でお土産用のパンを買って実績お婆さんに会いに行く。


 実績お婆さんはヒイロを見ると、家の中に入れてお茶を出してくれた。

「順調に実績を解除しているようだね、感心、感心」

「今度の実績は少々、不快な思いをしましたよ。本当に実績が絡んでいて、よかった」


「実績解除をする秘訣は、何でもやってみる。私たちのような存在を利用する。後は運だからねえ。どれ、称号の授与を行うよ」


 実績お婆さんがヒイロに手を翳して呪文を唱えると、頭が温かくなる。

「玉葱ハンターの称号は、装備すると、体に着いた臭いを少しばかり緩和する称号だね。称号を装備していくかい?」


(大した効果のない称号だな。今のところは、要らないや)

「称号は今のままでいいです。他に何か有用な情報は、ありますか?」


「今日は、ないね。たまにはお茶だけ飲んでいくのも、いいだろう」

 ヒイロは簡単な世間話をして、実績お婆さんの家を後にした。


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