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第十七話 魔人の住処へ(後編)

 ヒイロとパオネッタは謎の施設に向かって進んでいった。

 施設の上から何か青白く光る物体が高速で飛んできた。ヒイロとパオネッタの前に下り立つ。


 相手は骨でできたゴーレムのヤシャシャだった。ただ、心臓の代わりに、青く燃える機械を体の中に宿していた。


 ヒイロは武器を構えた。

 ヤシャシャ・ゴーレムとヒイロの間に、突如として男が現れた。


 男は古びた紫のローブを着て、白地に赤い模様がある仮面を着けていた。

「開拓地の村の人間だね。私の作品と、争わないでほしい」


 男はヒイロたちと同じ言葉を話した。

 男の声の調子から見て、若そうだった。だが、どうとも判断できなかった。

「あんたが魔人か。俺たちが狩ったヤシャシャの素材を返してもらおうか」


「それはできない。もう、幽冥龍の素材は使った。だから、代わりの物で弁償しよう。ランク的には一つ落ちるが、それなりに有益な素材を数で提供しよう」


(交渉してくるのか。魔人と戦うのは容易い。だが、ヤシャシャがすでにゴーレム化しているのなら、倒しても素材としての価値は劣る。なら、交渉でワン・ランク落ちるとも、上品を貰ったほうが得なのか)


 ヒイロが迷うとパオネッタが質問する。

「貴方は開拓村との友好的関係を希望する、と?」


「略奪した行為は詫びる。だが、ヤシャシャは私も狙っていたのだよ。ヤシャシャの問題さえ片付けば、現状では開拓村との利害対立はない」


 ヒイロは率直に不満を伝えた。

「言い分はわかる。けど、都合よ過ぎだ。モンスター素材って早い者勝ちだろう」


 だが、パオネッタの意見は違った。

「でも、あんな立派な建造物に住んでいる人間よ。下手に敵対しないほうがいいわ」

「政治的な判断か。実績が絡まないと避けたいな」


 パオネッタの判断は早かった。知的な顔でさっさと交渉を進める。

「わかったわ。貴方の意見はミランダ村長に伝えるわ。それで、あなた名前は何て言うの? 魔人さんでは、少々呼び辛いわ」


「魔人か。ボルベル族の呼び名だな。私のことは……そうだな。ルドルフとでも、呼んでくれ」

頭の中でファンファーレが鳴り響く。

「新大陸の交渉者の実績が解除されました。神殿で、新大陸の交渉者の称号を受け取ってください」


(唐突に来たな。魔人といきなり揉めなくて、ラッキーだった。ここで魔人を斬っていたら、次の実績解除がいつになるか、わからなかった。これで四十六個目の実績解除、残り六十二個)


 実績も解除され、素材の弁済の話も出た。なので、判断を仰ぐために開拓の村に帰った。

「ミランダ村長。魔人ルドルフの住処が、わかりました」


 ミランダは表情も厳しく訊いてきた。

「幽冥龍の素材は、どうでした?」

「その件なんですが、ヤシャシャの素材は渡す気はないが、別の物で弁済してもいいと、提案がありました」


「魔人は交渉してきたんですね」

「なので、一度、帰ってきました。また、魔人は、ヤシャシャの素材の件を抜かせば友好的な関係を望むと、好意的に伝えてきました」


 ミランダ村長は眉間に皺を寄せて考える。

「幽冥龍の素材は惜しいわ。だけど、お隣さんと戦争してまで手に入れたいか、と尋ねられれば、難しいわね」


 パオネッタが厳しい顔で見解を述べる。

「これは感触的なものです。敵の戦力はわかりません。ですが、ルドルフを倒すなら、村が総力を挙げて臨まないと、倒せないと思います」


「ボルベル族も手出ししなかったですからねえ。わかりました。ここは政治的判断として、ヤシャシャの素材を諦めます。ルドルフさんとの友好的な関係を築きましょう」


 ミランダ村長がルドルフに使者を出すと決めたので、ヒイロは家に帰った。

 翌日、暗い表情のモモンが家にやってきた。

「どうした、モモン? 暗い顔をして。何か困りごとか?」

「ミランダ村長から聞いたっちゃ。魔人と仲良くするっちゃね」


「そうだな。うちは新興の村だから、敵を作るのは良くないとの判断だな」

 モモンはしょんぼりした顔で警告した。

「ヒイロたちは魔人に騙されているっちゃ。魔人と仲良くするなら、きっと我が一族だけでなく、大陸中の部族から敵視されるっちゃよ」


「大陸中からとは、穏やかではないな」

「そうっちゃ。だから魔人と仲良くしないで、討伐したほうがいいっちゃ。ミランダ村長にも進言したけれど、理解されなかったっちゃ」


「魔人討伐は政治的判断が絡むから、俺の一存ではできないな」

「そうか。残念だっちゃ。でも、魔人はきっと良くない事件をこの開拓村に呼び込むっちゃよ」


 モモンは寂しそうに帰っていった。

 ヒイロは忘れないうちに実績解除の称号を貰いに、実績お婆さんを訪ねた。


 実績お婆さんが手を翳すと、頭が仄かに温かくなる。

「称号の新大陸の交渉者は、身振り手振りで新大陸の知的生物に意思を伝えられる称号だね。装備していくかい?」

(あまり役に立たない称号の効果だな)


「いいえ、今はいいです。実績解除に関する新たな情報はありませんか?」

 実績お婆さんは、にこにこしながら勧める。

「最近、サイドビジネスで甘藷を焼芋にして売っているんだが、買っていかないかい」


(きたね、実績の情報が。魔人関連で何か実績お婆さんに見えるようになったんだな)

「なら、一袋ください。価格はいかほどですか」


 実績おばあさんが提示した価格は肉よりも高かった。

 財布が空になったが、焼芋を買う。


 すると、実績お婆さんがにっこり笑って教えてくれた。

「魔人絡みで、実績が一つあるね。でも、中身は不明だね」


(不明の実績か。予想は討伐だな。だけど、もし違ったら、別の魔人を探さなければいけないから、大変だな。ミランダ村長の友好宣言もあるからなあ。ここは様子を見たほうがいいか)


 実績お婆さんの家を後にすると、モモンの寂しげな後ろ姿が思い浮かぶ。

(やはり、魔人は斬ったほうがいいのかな。さすがに、新大陸中の部族を敵に廻して開拓村は存続していけないだろう)


 ヒイロは家に帰ると、カルロッタにお土産として焼芋を渡す。

 一人でどうするかを、部屋で考える。だが、結論が出る前に眠くなったので、眠った。

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