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第十五話 海賊島にて

 本国からの貨物船が入航すると村は賑やかになる。

 物資が運び込まれると物不足が緩和される。また、貨物船は商売もしていくので、村の小さな市場は活気づいた。


 船長から「船員に美味い肉を食わせてやってくれ」との依頼を受けて、ヒイロたちはバイソンを狩ってきた。

 ミランダ村長の計らいにより、焼き肉パーティが開拓の村で行われる。


 酒と肉による歓迎に船員たちは喜んだ。

 船員たちの話に耳を傾けると、船員たちが陽気に語る噂話が聞こえてくる。


「最近、海賊たちがやけに大人しいな。でも、掃討作戦の話は聞かないな」

「そういや、そうだな。危険な航海になると聞いていたのにちょっと拍子抜けだぜ」

(海賊に何か起きたのか? これ、実績が関係あるかな?)


 明後日の朝、ミランダ村長が家にやって来て、真剣な顔で依頼した。

「船長と話したんだけど、海賊の動きが気になるわ。それで海賊の動きを探るため海賊島を見に行こうって話になったのよ」


「昨日のパーティでも、海賊の動きが妙だと噂が出ていましたね」

「ヒイロさんも一緒に行ってもらえないかしら」

(海賊島か、何か実績が絡む事件があるといいんだけど、こればかりは行ってみないとわからないな)


「海賊のアジトがある島はわかっています。だから、行けば何か情報が得られるでしょう。いいですよ。ミランダ村長が頼むのなら行ってあげますよ」


 翌日、腕っ節の強い船員と冒険者を乗せた船が開拓村を出る。

 船は南西へと進む。


 途中、時間があったので船員と雑談する。

「海賊の被害って多かったのか?」


 船員が渋い顔で忌々(いまいま)しそうに語る。

「新大陸が出現して以来、海賊も新大陸に移ってきたって話だ。他の開拓村にあっては海賊に滅ぼされた村もあるって話だ。海軍もここまでは来ねえからな」


「なるほど。海賊天国でやりたい放題ってわけか」

「でも、ここは新大陸沖だ。どんな化け物がいるかわかりゃしない。もしかして、海賊たちはそんな化け物にやられたんじゃないか、って話だ」

(海に住む伝説級のモンスターか。これも実績が絡むかもしれないなあ。いれば遭いたいものだ)


 三日後、高さ五百mの山を持つ島が見えてきた。

 島には桟橋が三つあったが、船は一隻もいない。


 近づくと、壊れた海賊船と思われる船が三隻、海に浮かんでいた。

 武器を手にした船乗りが険しい顔で感想を口にする。

「どうやら、海賊島は襲撃を受けたらしいな。仲間割れなら船が一隻もいないのが妙だ」


 島にあった桟橋に船を横付けする。砂浜を歩いて山に近づく。山は中が刳り貫かれており、海賊たちの基地になっていた。


 入口になっている高さ三m幅四mの大扉を開ける。

 中は酒場になっていた。だが、中はがらんとしており誰もいなかった。


 ヒイロが床を調べると、争った形跡があった。

「争った跡があるな。海賊島が襲撃を受けたのは間違いない」


 別の冒険者が訊いてくる。

「どれぐらい前の痕跡かわかるか?」

「一ヶ月は経っていないが一週間よりは古い」


 皆が耳を澄ませる。

 だが、聞こえてくるのは波の音と風の音だけだった。

「海賊がいないようだから、別れて探そう」


 各自が小集団になり、海賊島を捜索する。

 ヒイロとパオネッタは島の地下へと続く階段を進んだ。

 光の魔法で視界を確保する。地下へ行く通路は幅が二mあり狭くない。


 途中分かれ道を右に進むと、死臭が強くなった。

 パオネッタが緊張した顔で告げる。

「この先に何かいそうね。アンデッド・モンスターかしら」

「危険な場所に行かねば宝もないって格言もあるから、行くぞ」


 下りて数秒で通路を塞ぐような何かが見えた。

 パオネッタが下がってヒイロが前に出る。


 光が相手を照らす。相手はぶよぶよした赤黒い体をしたゴーレムだった。

 人肉で作られた人肉ゴーレムだった。


 人肉ゴーレムは扉の前にいたが、ヒイロが近づくと手を振り上げて襲ってきた。

ヒイロは機敏に階段を後ろ向きに進みながら、アルテマ・ソードを人肉ゴーレムに叩き込む。人肉 ゴーレムの肉が削れるたびに不快な臭いが散らばる。


 人肉ゴーレムは中級冒険者なら苦戦する相手であるが、アルテマ・ソードを持ったヒイロには簡単な相手だった。人肉ゴーレムの手と頭を切り落として蹴飛ばす。

 人肉ゴーレムがそのまま階段を転がり落ちて行った。


 階段の途中に残った頭をアルテマ・ソードで潰しておいた。

「さて、人肉ゴーレムが興味を示していたこの扉の向こうに何があるのやら」


 ドアノブに手を掛けると、鍵が掛かっていた。

「パオネッタ。開錠の魔法を頼む」

 パオネッタが魔法を唱えると鍵が開いた。


 扉をそっと押し開ける。中から酒の匂いがした。

 中は酒蔵だった。酒蔵の中を光が捕えると、そこに小柄な老人がいた。

「海賊の生き残りか」


 老人は怯えた顔で否定した。

「違う。俺は海賊じゃない。海賊に無理やり連れて来られた。酒場の下働きだ」


 老人の顔に嘘はなさそうだった。

「それで、この島では何があったんだ。海賊たちはどこに行った?」


 老人は身震いして語る。

「島は黒い龍と人肉ゴーレムを連れた男に襲撃された。黒い龍によって船は沈められた。残った海賊たちも殺されて、人肉ゴーレムに変えられた。俺は運よく、ここに隠れられた」


「それで、その黒い龍と人肉ゴーレムを連れた男はどこに行った」

 老人は青い顔で首を横に振った。

「わからない。あんたらが会っていないのなら、もうどこかに行ったんだろう」


「わかった」と出て行こうとすると、老人が縋る。

「待ってくれ。俺も連れて行ってくれ。ここにいても未来はない」


「俺の名はヒイロ。好きにしな。浜で船が待っているぜ」

 老人は安堵すると、頭陀(ずだ)(ぶくろ)に酒を積め始めた。


「海賊から酒を盗むのか?」

「未払いの給与代わりと退職金代わりだよ。この歳じゃ先立つものがないと生きてやいけない」


 ヒイロは海賊の酒には興味がなかったので階段を下りる。階段の先は行き止まりで、人肉ゴーレムが潰れて機能を停止していた。


 一番下は地下牢になっていたが、骸骨が三体あるだけで生存者はいなかった。

 何か残ってないかと地下牢を開けて探った。だが、目ぼしい物は何もなかった。


 地上に上がって、他のメンバーと合流する。わずかに残った海賊の宝を手にした者もいた。だが、価値のあるものは大半が持っていかれていた。


 帰りの船の中で黒い龍を連れた男は話題にはなる。だが、酒蔵で老人から聞いた以上の情報はなかった。

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