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第十三話 討伐が終わって

 目が覚めると、頭の中でファンファーレが鳴り響く。

「死地からの帰還の実績が、解除されました。称号として起死回生が授与されます。神殿で受け取ってください」


 目を開けると、窓からは昼の日差しが差し込んできていた。

 ぼんやりとした頭で考える。


(そうか。俺は死ぬところだったのか。でも、死にそうならないと解除されない実績は難しそうだから、これもよしとするか。これで四十二個。残りの実績は六十六個か)


 ヒイロはベッドから起き上がって歩こうとした。

 ふらふらして、まともに歩けなかった。


 それでも、アルテマ・ソードを出して杖の代わりにして歩く。

 リビングに行くと、パオネッタとカルロッタが食事を取っていた。

 二人は気まずそうな顔をした。


 カルロッタが先に謝った。

「御免なさい、ヒイロさん。まだ、起きてこないと思って、食事を用意していなかったわ。これを食べたら、すぐに何か作るから」


 カルロッタが急いで食事する傍ら、パオネッタの隣に腰掛ける。

「急がなくていいよ。それほど空腹でもない。ヤシャシャを倒したけど、その後、どうなったの?」


 パオネッタが澄ました顔で教えてくれた。

「死んだヤシャシャは、柔らかくなったままだったわ。だから、村の解体場で、昨日のうちに解体したわ。かなり良い値が付きそうよ」

「金の管理はパオネッタに任せるよ。俺に必要なのは実績解除だ」


 パオネッタは呆れた顔して感想を口にする。

「本当にヒイロって、実績馬鹿なのか、実績の鬼ね」

「俺は短い人生を実績の解除をすべく生きているからね」


「ヒイロの人生はヒイロの人生よ。好きに生きて死んだらいいわ。あと、ミランダ村長から相談を受けているわ」


「モンスターの討伐なら、待ってほしい。トイレに起きるのがやっとの状態だ。戦えるようになるまで、あと四、五日は掛かる」


 パオネッタがヒイロの言葉に興味を示した。

「死にそうなったのに、五日で戦えるようになるなんて、異常ね。超人体質、回復力強化、回復速度上昇、危険時超回復の効果って、重なるのね」


「重ならない効果もあるけど、この四つは重なるらしいね。体感的に、わかるよ」

「でも、相談はモンスター退治じゃないのよ。ヤシャシャの心臓をどうするかで、困っているのよ。国内に持っていって、成果とするか。または、ボーモン国王に献上して、機嫌を取るか」


 ヒイロにとっては案外どうでもいい相談だった。

「実績が絡みそうでないモンスターの素材は、全部を売っていいよ。売った後のことは、知らないよ。そういう政治的な判断は、ミランダ村長に一任だよ」


 パオネッタが困った空気を出して訊いてくる。

「そう素っ気なく突っ撥ねないで、意見を聞かせてほしいそうよ。ヤシャシャの心臓からは若返りの薬ができるから、権力者は欲しがる一品なのよ」


「なら、半分ずつにして、両方に贈るのは、どう?」

「半分なら薬の効果も薄いわ。最悪の場合は両方から、どうしてうちに贈らなかったのか恨まれるわ」


「権力者って、貰って当然と考える奴は珍しくないからな。取り巻き連中も面子が傷ついたって讒言(ざんげん)するやつもいるからな。さてどうするか」


 カルロッタがいるので思案する振りをするが、結論は出ていた。

(西大陸で解除できる実績は残っていない。ボーモン国王は好きではないが、ご機嫌をとっておいたほうがいいか。新大陸で実績を解除するなら新大陸の権力者と懇意になっておくに限る)


「俺はボーモン国王に献上して機嫌を取っておいたほうがいいと思うね。この開拓村は立場が安定していない。村の発展を考えるなら、まず立場を安定させるべきだ。それから新大陸での成果を報告しても、遅くはない」


「わかったわ。ミランダ村長には、ヒイロの意見は伝えておくわ」

 ヒイロは動けるようになると、お礼の肉と酒を携えて、実績お婆さんの家に行く。


「実績解除の報酬を受け取りに来ました。あと、これは、ささやかな贈り物です」

 実績お婆さんは、贈り物を素直に喜んだ。

「良い心掛けだね。どれ、褒賞を授与しよう」


 実績お婆さんが呪文を唱えると、頭が仄かに温かくなる。

 試しにアルテマ・ソードを出して弓の形態を念じると、弓になった。弓を引くと、自動で光る矢が現れる。


「これは便利だ。矢を撃ち尽す心配をせずに使える」

「称号の起死回生は死にかけた時に息を吹き返す確率が上がる称号だね。称号を装備していくかい?」


「今はいいです。他の実績を発見するほうが大切ですから」

 実績お婆さんが、にこにこ顔で勧める。

「そうそう、うちで薪が余っているんだけど、買っていっておくれよ」


 春はまだ寒いが、そろそろ終わる。薪は煮炊きに使うが、それほど要らない。

「いくらですか?」

「これくらい」と実績お婆さんは算盤(そろばん)を弾いて価格を提示する。


(来たよ。ぼったくり価格だよ。冬の需要期でも、こんなにしないよ)

 高いとは思ったが、情報料だと思い納得する。

「今は持ち合わせがないので後でいいですか?」


「いいよ。そうそう、あと、新大陸で特殊な木を伐採すると解除される実績が、あるね。薬草を大量に採取すると解除される実績も、あるよ」

(やはり、情報を持っていたか。薪は高いが情報は安い)


「その特殊な木と薬草の名は?」

「残念だが、そこまでは知らないね。とりあえず、やってみる。これが大事だよ」


 ヒイロはさっそく(きこり)の仕事を受けて、森に木を伐り出しに行った。

 だが、森の木を一通り伐ったが、実績が解除されなかった。


 薬草採取の仕事を受けてみた。だが、開拓の村で薬草とされる草花をいくら採っても、実績解除にならなかった。


(特殊な木は、新大陸でも本当に特殊な部類の木なんだな。薬草も俺たちの考える薬草とは、違うのかもしれない)

 そのうち、季節は初夏へと移り変わった。


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