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モルドの剣  作者: 馬の被り物
気楽に行こう
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出発、そして散る

久しぶりに更新です。

主人公の龍を異世界という事でリュウと表記しました。

  この世界に来て半年。あっという間に時が過ぎていく。

  この世界も日本と同じで四季があり今は夏。さすがに鎧の中は暑くて毎日歩くだけでヘトヘトになる。

  後一月もすると年に一度の御前剣術大会が開催される。これはこの国だけでなく近隣諸国からも選ばれしエリートが参加するというもの。

  ただ単に剣術の腕を披露するだけでなく、いわばその国の戦力を誇示するものという意味合いが大きく無様な戦いをすれば各々の国の戦力が低下していると思われてしまう。

  いわば国の威信をかけての戦いである。ただし月華七星のような国家戦力ではなく中堅所の人達が出るのである。もし国家戦力級が出てこれば闘技場自体の被害が深刻であり王族への身の安全を考えると当たり前の措置なのだそうだ。

  えっ?出ないのかって?やだよめんどくさい。出場の為に軍の予選に出て勝たないといけないし、特訓と称してナタリーに毎日フルボッコにされるだけだぜ?考えただけで憂鬱になるじゃん。ナタリーはヤル気満々で毎回練習パートナーがボロ雑巾になってるしな...合掌

  今日も訓練場の柱の影から見つからないように合掌してやるかと思いながら訓練場に向かうとなにやら騒がしい。

  人混みの奥から兵士長が


「今より二週間後、辺境へのモンスター調査に同行希望の者は前に出るように!」


  これだ!中々前に出る者がいない中、前に出る。


「おっ!いつもヤル気がないリュウがどうしたんだ?」


  兵士長の驚きの声に


「いやーナタリーがあんなんでしょ?多分一ヶ月は収まんないでしょうからね...」


  ボロ雑巾になる姿を想像しながら


「なるほどね」


  苦笑する兵士長


「他にはいないのか?」


  まわりを見渡すものの誰1人前に出る者がいない為


「じゃあリュウはこのまま説明するから残っていてくれ。残りの者は解散だ!」


  訓練を再開する者。部屋に戻る者。各々が動きだすと


「さてとじゃあ説明するな...」


  兵士長の説明を要約すると、辺境までは徒歩で片道二週間後程。現地での調査は三日から一週間程を目安に。今回は立候補が少なかった為、正規兵は5人で残りは傭兵や奴隷を使うとの事。あくまで調査の為、斥候ができる傭兵を多めに雇い戦闘はできるだけ避けて行くとの事。当日は朝一番で出発するので遅れないように!という説明を受け宿舎に戻る最中、ふふふと悪い笑みをするリュウであった。


  今回なぜ前に出る者が少ないかと言うと、二つの理由がある。

  一つ目は遠征中の食糧状況である。辺境の為、途中からは街がなく野営なら保存食である黒パンに干し肉に温かい塩スープぐらいしかないのである。もし王都にいるのなら温かいご飯が食堂で食べれるのである。

  二つ目は剣術大会の存在である。日本と違い娯楽の少ないこの世界では剣術大会は数少ない一大イベントなのである。もちろん警備には回されるものの交代で観戦する事もできる。

  そんな事情もあってこの時期の討伐ではない調査等は参加が少ない。前者はある程度の実力がないといけない為、剣術大会に参加する者以外で指名制で後者は調査だけなので最小限の騎士がいればいいのである。












  当日、王都の西門に行くと二台の食糧等を載せた馬車に多くの傭兵や奴隷紋を手の甲に付けた奴隷がいた。周りを見回していると他の正規兵を見つける


「すみません。遅れちゃったみたいで」


「いやいや俺らも今着いたばかりだから気にするな」


  今回指揮を執る事になっているサフジさんがいた。近衛兵ではないがベテランの兵士であり長年勤務している為、指揮に優れている。他二人を見ると俺と同い歳位の若い正規兵で今回は俺と同じく志願したのだそう。

  なんでも田舎にいる家族に仕送りをする為、遠征の特別手当銀貨50枚をあてに参加したのだそう。いい話しじゃないか!それに比べて俺は...

  俺はある計画の為に参加してるが、うまくいくかわからないしもしダメなら次回も参加だな。

  ただ残りの一人が見当たらない。待つこと一時間。最後の一人であり、今回の遠征の隊長であるモーラス・ホッグが装飾された御者付きの馬車で布団に入り気持ちよさそうに寝ながら到着した。

  なんだこの馬鹿はと思ったが後々の計画の為に目立たないよう言うのは抑えた。まぁ飾りの隊長だしな...

  もちろん正規兵全員知っている。このモーラスという男は表向き隊長であり貴族の三男坊で実績の為に同行しているだけだという事を。

  帰ってくれば100名の部隊を指揮した隊長(ほとんどは副隊長の指揮笑)として!

  休憩の時や野営、街にて一泊の時にサフジさんに声をかけてもらい全部隊に大きな声で指示をするだけの簡単なお仕事。それ以外はほとんど専用の馬車で寝てる。かなり遅れてきたくせに御者に起こしてもらい


「おっしじゃぁしゅっぱーつ!」


  後は頼んだよ副隊長。朝弱いからまだ眠いんだ。と、はぁあアクビをしながら馬車に戻る始末。

  あいた口が塞がらなかった。いやいやまだ部隊の編成終わってないし遅れてきて謝りもせずに丸投げである。これが貴族のボンボンか...

  これは何を言っても意味がないんだろうとサブジさん達と待っている間に話した編成で出発する事になった。

  前から気配探知に優れた斥候二名の傭兵を配置しその後ろにスラムからかき集めた人々、奴隷、馬車が続き馬車のまわりを馬に乗った正規兵。後ろに少数の奴隷と冒険者や傭兵で固めている。

  ちなみに冒険者は食事+銀貨50枚が出るとして一ヶ月以上の行動としては実りは少ないが駆け出しの冒険者には人気である。(定員有り)

  傭兵はこういった調査の遠征は大体貴族の関係者が出てくる為にアピールの場とあって人気がある。もしかしたら雇ってもらえるんじゃないか?という計算がある。

  逆に奴隷やスラムの住人は魔物が出れば肉壁の役割を担ってる訳だが、賃金は出ない。要は使い捨てである。しかしモンスターに殺される可能性はあるが奴隷は肉体的負担である鉱山等に従事しなくていいし、スラムの住人は朝晩の食事にありつけるとして毎回志願する者が多い。





  そして明日には調査場所に着くなと思いつつ硬い黒パンと干し肉を食べ終わり火の始末をした後、出発をする。歩きだすにつれて少しづつ魔素を感じるようになる。

  魔素というのは文字通り魔力の素であり魔物が多くいる地域には必ずと言っていい程あるものである。人体には影響がないが、全員がゴクリと喉を鳴らしいつでも戦闘を取れる状態で歩を進める。

  森と森の間にある休憩場所である開けた広場で一回目の休憩をしていると先を確認しに行った斥候が大慌てで戻ってくる


「逃げろ!大量の魔物がくるぞ!」


  遠くの方から地響きがするのと同時に木々の上から砂煙が見える。一気に緊張と混乱が走りパニックに陥り奴隷やスラムの住人は逃げ出そうとする。


「落ち着け!斥候、状況を教えろ!」


  サフジさんの一喝で落ち着いた斥候が


「数は約80匹。ほとんどはゴブリンで数はたいした事がないですが中にはオークも混ざっています」


  そう。ゴブリンはたいしたことがない。道中も3匹程出てきたが斥候二人でなんなく仕留めた。力がない子供でも三人で一匹くらいは倒せる。大人でも落ち着けば一人一匹程度は倒せる計算だ。

  しかし今回はオークが混ざっている。持っている大きな棍棒で暴れる為、見習い騎士10人程でやっと仕留められる程だ。そして何より恐ろしいのはその繁殖力だ。大人の女性がいれば見境なく盛る為、女性の敵として恐れられている。市場で初めて見たオークの頭に腰が抜けそうだった。

  やっぱいるんだ...と。なんだかんだ言ってここは思った通り異世界なんだなと...

  しかしその見た目とは裏腹に肉は絶品で高値で取引されている。頭は鍋で煮込むとゼラチン質が溶けだしていい出汁が出るそうだ。




  いやそんな事より今は目の前の状況だ。


「一旦退却街まで退却だ!」


  このままでは被害が大きいと判断しすぐさま撤退の指示をするサブジさん。

  そして退却しようと背後の森を見るとそこには大量の魔物。前後を挟まれ身動きが取れない調査隊


「ちっ!こんな時に厄介な!」


  盛大に舌打ちをするサブジさん


「こうなったら...全員戦闘体制だ!奴隷とスラムのやつは前方の敵を近づけさせるな!俺と正規兵及び戦闘経験のあるやつは後方の敵を倒しながら一気に駆け抜けるぞ!」


  全員が覚悟を決めた瞬間、木の隙間から一本の矢がサブジさんの頭に突き刺さる。ゴブリンアーチャーである。


「!!!」


  指示を出すのに集中していたサブジさんは気が付かず馬の上からボトと一声も発せず事切れてしまう。

  指揮官が最初に倒れた事によって更に混乱する現場。


「いてーよー!」


「助けてくれー!」


  あちらこちらで叫ぶ者達。その後は纏まりもなく阿鼻叫喚するその場では数の暴力によって時間もかからず次第に死体の山ができあがるのであった。

このでやっと1話目に戻ります。次話は1話目の続きになります

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