蒼穹八矢
どれくらい時間がたったのだろう?気が付くと牢屋らしき所に入っていた。
「気づいたかのぉ?」
セキエイが話しかけてきた。
「それにしても奴らこんな老人に酷い事しよって」
おーいててて。と言うもののセキエイ自体特には怪我はないようだ。当て身で気絶させられていたようだ。
周りを見ると全員が無事だが足枷等をされて動きを制限されていた。
ここはどこなんだ?と周りをみるものの薄暗く全体像がハッキリしない。
「お、お腹がへったんだなぁ」
「飯だ!飯!リュウなんかねーのか?」
キヨシとナタリーが喋りだす
無視しよう
「どうせ捕まったんだ。これが最後の晩餐かもしれねぇから飯だせ。なっ?」
なんだ?俺はネコ型ロボットか?アイテムボックスもないのに出せる訳がない。
無視しよう
「おい。無視するんじゃねぇよ。領主命令だ。飯を出せよ」
こういう時だけ領主面をしてくる…
「いや、無理に決まってるだろ?こんな丸腰で持ってる訳がない」
はぁ疲れる。こんな状況なのに他にする事があるだろう。そう思い、さっきから黙っているウルシに目を向ける
「ウルシ、何かいい案はないか?」
そう言葉を投げかけると、それまで静かにしていたウルシが皆と違う方を向いている事に気が付く
「向こうに微かに人の気配がします。ただもう生きていないかもしれませんが…」
そう指をさした方を見ると暗闇の中に微かに人影が見えた。しかし俺達の声に反応する事も無く壁に横たわっているだけのように見えた。大分前から牢屋に居たのだろう。すでに骸になっているのかもしれない。生きていれば情報が欲しい。俺はルナの方を見て
「ルナ頼めるか?」
「わかったなの!」
ルナは疑いもなく骸かもしれない人物にウォーターヒールを飛ばす。もしかしたら人ではなく怪物かもしれない。逆に回復をして元気になり襲いかかる恐れもあるかもしれないが、今は少しでも情報が欲しい。一か八かだが人間である事に賭けよう。
1度では無理なようで、ルナは2度3度とウォーターヒールを飛ばすと少しづつだが、もぞもぞと体を動かし始める。
「はぁはぁ助かった…いや、このまま死んだ方が楽だったかもしれん…だが、ありがとう。もしかしたら空神イルマ様のお導きかもしれない。まだこの老体に国を救えとお導きを示してくれたのかもしれん」
空神イルマ?えっ?
全員が一斉にイルマを見る。
えへへと頬を染めてクネクネと体を捻っている。薄暗いのに何故かはっきりとクネクネしてるのがわかった…
いや、それは置いといてイルマを崇拝しているのか?この国にいる極少数の信徒なのか?
「申し遅れました。私はガリス・ロットと申します。瀕死の所を助けて頂き誠にありがとうございます」
ガリスと名乗った人物が丁寧なお礼を言ってくる
「ガリス…ガリス…」
イルマが何とか思い出そうとブツブツと名前を繰り返している
「ガリス……!お主蒼穹八矢のガリス・ロットか!」
がばっと牢屋の鉄格子を掴みガリス・ロットに向かって叫ぶ
「えぇたしかに昔はそう呼ばれておりましたが…あなたはどなたですかな?」
「薄暗いからわからぬのか?ワシじゃよ。空神イルマじゃ!」
そう言われたガリスは放心状態になったのか言葉を発する事ができずにいた
「ま、まさか…いやそんな事はない。いやでも…その懐かしい声は…」
と喋った所で
「申し訳ございませぬ!若き仲間を救う事が出来ずこの老いぼれが生き残ってしまい何と謝ればいいのか!かくなる上は玉砕覚悟で奴らを根絶やしにして!」
と怒りの声を上げて今すぐにでも壁から出た手錠の鎖を引きちぎらんとばかりに暴れ出す
「よい。落ち着け。お主が残っていただけでもよかった。それよりワシがいない間になにがあった?すぐカッとなるのお主の悪い所だぞ」
「ハァハァ。すみませぬ。取り乱してしまいました」
俺は魔法で水を出しガリス・ロットの目の前に出してやる
「おぉ有り難い。助かりました」
ガリスが落ち着いた所でイルマが口を開く
「さっきの続きじゃ。ガリス何があったのじゃ?」
「はい…」
落ち着いたガリスは落ち込んだ口調で話しだした
ガリス達『蒼穹八矢』は元々イルマを国神として崇めており、守護者でもあった。
しかし偽物の土の神"ヴォーロス"を信仰する者が台頭してきてしまった。その時期にたまたま"ヴォーロス"を信仰していた土地が豊作になり爆発的に信者が増えてしまった。しかしガリス達『蒼穹八矢』は最初から偽物だとして気にも留めず一過性のものだとして、すぐにこの流れは収まると信じてしまったが、収まる気配どころか勢いを増してあっという間に王都の主流が"ヴォーロス"に変わった。
「あの時に早々に片付けておれば」
ガリスが拳を地面に打ち付けた
「くどい!あの時に言ったであろう。人間同士の無益な争いで血を流すでないと」
イルマ自体野心もないのだろう。渋々受け入れたガリス達はイルマに従い地方に退いて半ば隠居生活としてイルマと一緒に行動したそうだ。
そしてイルマがこの国から消えた。焦ったガリス達は各地に散らばってイルマを探したそうだ。
各自一人行動でバラバラに動いたのがまずかった。新たに登場した『蒼穹八矢』達はガリス達『元蒼穹八矢』を個々に倒していった。
「やつらは個々の能力は元蒼穹八矢には実力が追いつかないものの数の暴力で戦友達は一人、また一人と帰らぬ人となりました…反旗を翻す恐れがあるからという理由で…」
あれ?これ俺達のせいじゃね?俺達がイルマを連れて行ったから?いやでもイルマが勝手に着いてきたからだよな?
ふとイルマを見ると汗をダラダラ流しブルブル震えていた
「なぁイルマ。それってまさか、お前のせ…」
「いやそれよりガリスお主はどうして生き延びておるのじゃ?」
お前のせいじゃね?と俺が言い切る前に慌ててイルマがガリスに投げかける
「どうやら、やつはら我らの隠し財宝を狙っておるようなのです。国宝『空の星屑』を。あれだけは、この生命にかえてでも口を割る事はできませぬ。私はその場所を吐かせる為にこうして生かされたようです。」
「あれか…さすがにあれは渡したらまずいのぅ」
何かすごい話になってきたな
「ただ、それも厳しくなってきたかもしれませぬ。奴らとうとう邪神を復活させようとしているとの事。さすがに邪神の力では我らの結界は持ちませぬ」
ガリスが悔しそうにしている
「いっその事、アレの継承者に委ねてみるのもいいかもしれぬな。さすがに奴らが使いこなせるとは思わぬが、万が一という事もあるからのぅ。そうじゃ!ルナちゃんに受け継いでもらおう!」
ぱんと両手を叩き名案だとイルマがルナの方を見る
「えっ?わたし?そんなの無理なの~国宝でしょ?わたし荷が重いの!」
「大丈夫じゃ。物自体は手に入れたら体の中に消えるものじゃ。その代わり護りに関しては絶大な力を手に入れる事ができるのじゃ。本当はそれ自体ワシという国神に認められた、たった一人にしか与えられない物なんじゃが、ルナちゃんなら全然構わないぞ!」
「いや、そんな簡単に決められるものなの?普通は厳しい試練を乗り越えられた勇者が、やっとの思いで手に入れるものなんじゃね?」
「ルナもお兄ちゃんと同じ意見なの。ルナよりもっと相応しい人がいると思うの」
「ヤダヤダ!ルナちゃんがいい!」
バタバタと暴れている。子供か…
「それに継承者なら憑依して一緒に戦えるから戦力アップになるのじゃ。今までの通り回復魔法も使えるし、同時にバリアも張れる。いい事尽くめじゃぞ?それに他の奴と憑依なんて考えただけでも恐ろしい」
今まで継承者に選ばなかったのはそれか
「うぅぅ…他の人に憑依…かみさまが他の人に憑依っていうのも…」
ルナが納得したのかしたくないのか悩んでいる。
しかしイルマはルナの継承者を決定事項として話を進めだした
「しかしここから抜け出すにしても戦力も足りないの。奴らと戦うにはワシらの実力が足りない。ガリス、あと蒼穹八矢は何人生きておる?」
「この牢獄に入ってからの事は詳しくは分かりませぬが、私が捕まる前にはラス・コンスタンティンとアルミラ・ケイの2名しか残っていなかったと…」
「8名中残り3人か…とりあえずガリスは残りの2人を探してきてくれ。ワシらは『空の星屑』を手に入れてこよう。多少なりとも戦力アップになるじゃろ?」
「そうですね。まだ多少は時間がある事でしょう。なんとしてでも邪神の復活だけは避けなければ!この国だけでなく世界が大変な事になってしまいます」
……ついていけてない。とんとん拍子に話しが進んじゃってるけど、果たして俺達だけでアイツらを倒せるの?現『蒼穹八矢』だけじゃなくて隠密部隊も倒さないといけないんでしょ?
「なぁそれって国に応援を頼んだ方がいいんじゃないか?」
それは無理じゃとイルマに断られてしまう
「それだと国同士の戦争になるのじゃ。もしそれをやると他国に攻めたという現在の不可侵を破った事になり最悪全世界を巻き込んだ世界大戦に発展するのじゃ。邪神が、といくら他国に訴えても王国がこの国で邪神復活の儀式を行って、名目で侵略したんじゃないのか?とケチをつけてくる恐れもある」
なるほど。マッチポンプか。という事は俺らしかいないのか…
さてと、どうやって牢屋から出ようか?




