鮮血のアマゾネス
おかしい...どう考えたっておかしい...俺は異世界に来てからの事を思い出してみた
こういった異世界物の定番と言えば転送された場所でエルフの超絶美人に助けられてチート能力が開花しながら冒険したり、城に転送されれば美しい姫に
「勇者様どうぞ魔王からわが世界をお救い下さい」瞳うるうる
みたいな事を言われて
「姫、いやローズ姫よ(仮名)俺がいればもう安心だ」八重歯キラン
って流れじゃないのか?もちろんチート能力全開フルスロットル俺TUEEEEでね
俺が一人二役で演じていると遠くの方から兵士がヒソヒソ話をしてる
まずいまずい思わず妄想が溢れてしまったようだ。それにしても...姫は登場してこないどころか王様には息子しかいないみたいだし転送されれば失敗作だのオーラがないだの散々な言われようだったな...聞けば元の世界に帰る方法はなく、歴代の転生者達全員がこの世界で暮らし死んでいくのだそうだ
まじかよーコンビニもスマホもない世界でどうやって生きていけばいいんだよ...
一気にげんなりとするものの、とりあえず何とか生きていかないといけないしなぁと周りを見渡す。
今いる場所は城の中にある訓練場。日夜騎士たちが訓練に励んでいる。俺は異世界に来て初日に近衛兵にフルボッコにされたが、そもそも近衛兵自体王都を護る兵士3000人の中の精鋭50人程しかいなく俺の入団テストというか見習騎手としての試験では中の下くらいの力はあるという事で城勤めを許してもらえた。
王都に常駐している兵士の他に月華七星の将軍達が保有する軍団兵達が各地での任務の為にいるそうだ。
とりあえず城勤めをしていれば給料は支払われる上に食事は食堂で無料で食べれる。おまけに宿舎は無料ときたもんだ。これはラッキーだった。
ただやはり見習いというのは城壁の上での夜間の見回り、遺体の処理等他の兵士がやりたがらない仕事を回される事になっている。なので、新しい新人が入ってこなければ代わってもらう事も出来ない。兵士の維持には多額のお金がかかる為欠員が出なければ補充もされない。下手すりゃ5年も10年も見習いの可能性がある。
ずーっと雑用なんて嫌だ!もしよ?もし将来結婚する時に親御さんに一ノ瀬くんは城でどんな仕事についてるんだね?と聞かれた時に
「はいお義父さん。私は10年程見習騎士をやっておりますキリ」
なんて言った日には熱いお茶と塩をぶっかけられて、お前なんかにゃうちの娘を渡さん!と銃をぶっぱなされるかもしれん
銃がこの世界にあるかわからんが...
話しが脱線したが見習い騎士が貰える給料が月に金貨1枚。これは地方の村で4人家族の1ヶ月の生活費と一緒らしい。王都なら地方に比べ物価が高いので4人家族なら金貨2枚必要らしい。結婚するなら、なんとか2人で暮らせるが子供まで養うとなると厳しい。っていうか王都メチャクチャ物価高くねえか?
なので地方に住んでる村人達は村での特産品を馬車に目一杯積み込み王都に来ては売り村で必要な物を買って帰るという事で常に王都は人で溢れかえっているという状況だ。人が集まれば諍いがおき喧嘩に発展し兵士が仲裁に向かうというのが日常茶飯事でそういった仲裁も見習いの仕事だ。酔っぱらいの喧嘩なら仲裁する時に殴られる事もよくあり、そういった酔っぱらいは勿論牢屋にぶち込んで頭を冷やす訳だか痛いもんは痛い。なるべくならそんな役目はやりたくない。
そんな日常が1ヶ月も過ぎると仕事にも慣れ(酔っぱらいに殴られるのは慣れない)いつも通り訓練場の隅の壁に寄りかかりながら訓練に疲れたという名目のサボりをしていると
「おーそんな所にいたのか?暇なら訓練に付き合ってくれよ」
前の方からオレンジ色の髪をしたツリ目の派手な騎士がそう言いながら近寄ってくる。ヤバイ奴に見つかってしまった...
「いやナタリーついさっきまで訓練してバテてもう動けないんだよ」
じーっと俺の方を見てため息をつきながら俺だけに聞こえる声で
「どうせサボって休んでるだけだろ?いいから来い」
と、俺を無理やり首根っこ掴みながら連れて行こうとする。何を言っても無駄なので大人しくついて行く。入団して1ヶ月同じ同期という事もあって何かにつけてはこうやってわざわざ訓練場で俺を見つけ対人戦をしてくる。最初は組手など付き合おうと思ったがあまりにも強すぎる為なるべく訓練場では会いたくない奴だ。だって毎回ボッコボコにするんだもん泣
ナタリーは本当なら俺と一緒の見習い騎士からスタートのはずがあまりの戦闘能力の為、今は他の騎士と一緒に王都の周りの街道に出没する魔獣を討伐するのがメインの仕事になっている。なんせ女性でありながら筋骨隆々の近衛の騎士をも倒す程の強さである。と言っても1番弱い近衛兵であるが...
今は魔獣を倒す事によってのステータスアップもある為日々強くなっているのである。鮮血のアマゾネスと呼ばれ戦闘スタイルは身体能力を活かしたゴリ押しの力技である。この脳筋め!
10分後。。。
そんな脳筋に勝てる訳がなくすでにボロ雑巾のようにいいようにやられている。すでに意識が飛びそうになり
「くそっこのゴリラが...」
とボソッと無意識に言ったのをしっかりと聞こえていたらしく
「ほぅそんなに死にたいのか?」
と訓練用の木刀を放り投げ両手をポキポキとならし肩をぐるんぐるん回し近づいてくるナタリー。
意識を失う前に確かに俺は見た。
ナタリーの背後から鎌を持った死神が!
鎌を持つだけに留まらず鎌を舐めて怪しい眼光の死神を!
アカン...俺は触れてはいけないものに触れてしまったようだ




