転移された日
はっきり言って都会が嫌いだった。
人が多いし競走社会だからだ。俺としてはもっと落ち着いた田舎で自給自足生活しながらカワイイ奥さんとダラダラしたいのだ。
なのにやれテストの点数が良いだの悪いだの、やれ営業成績がどうだの都会は数字に拘る。
あ、日本に住んでればどこにいても同じか?日本人は仕事大好きだしな。まぁいいやそれは。
あの日高校の帰り道。
いつもの様に一人で帰っていると、いや別に友達がいないボッチじゃないぞ?みんな部活が忙しいだけだ。俺か?まぁなんだ所謂帰宅部ってやつだ。
それに部活ができない理由もある。うちは江戸時代から続く由緒正しい剣術道場らしく毎日学校から帰ると素振りをやらされる。名前は黒鉄流という流派だ。ネットでググってみても出てこないようなマイナーな流派だ。
そりゃあそうだ門下生は俺と中学二年の妹の凛しかいないもんな...いやこれ門下生といえるのか?
よく潰れないよなウチ...親父が殺陣の指導の仕事で何とか食い繋いでるみたいだけど...
とは言ってもうちの流派は相手の出方を待ち攻撃をさばいてカウンター攻撃を得意とする流派だから、よく時代劇でみる何人もの敵に囲まれて「やぁぁぁ」と向かってくるのをバッサバッサ切り倒すやつには向いてるのかもしれない。
少し脱線してしまったが、話を戻そう。家に帰る最中、道の先に一人の婆さんが椅子に座っていた。婆さんの前には小さいテーブルと小さめの水晶。横には四角い箱に手相と書いてあった。まぁ手相占いってやつだな。いかにも胡散臭い感じなので通り過ぎようとすると
「お兄さんどうだい占っていかないかい?」
「やめときます。」
いかにも胡散臭い臭いがプンプンする。どうせ後で高額な金額を吹っ掛けてくるつもりだろう。自慢じゃないが昔からトラブルに巻き込まれるのには定評がある。
「いやいやそう警戒しなくても大丈夫さな。今日は全然客が付かなくてね。無料でいいから暇潰しにどうだい?」
無料かぁ。一瞬迷ったが、どうせ無料ならと占って貰う事にした。手相占いなんて初めてだしちょっとワクワクしたのも事実だしな。
「それじゃあいいかい?右手を出してごらん?」
言われた通りに出すと
「ほほぅお前さんのんびりスローライフをね...無理だから諦めた方がいいよ」
胸がドキン!とした。えっ?そんな事までわかるもんなの?手相で。
「ほほう当たりかね?」
どうやら顔に出てしまったらしい。
「ほほうこれは面白い運命線だね」
というかさっきから、ほほうほほうって何なんだ...その喋り方にイラッとしてると
「おっとゴメンよ。この喋り方は癖みたいなもんでね。じゃあ左手でこの水晶に手を置いてみなさいな。」
どうやら本人も気づいてるみたいだが直す素振りはないみたいだ。
言われるままに左手を婆さんの目の前の水晶に乗せるとバチッと電気が走り一瞬目の前が暗くなった。
暗くなる直前に婆さんから、おめでとう○○と最後まで聞けずに気づいたら周りは石造りの広い空間に出た。
なんだここは?さっきまで手相を占ってもらってたんだよな?その状況に頭が追いついて来ない内に、後ろからカツンカツンと歩いて誰かが近づいてくるのがわかった。
振り向くと立派な顎髭を腰まで生やしたガタイの良い老人がいた。
頭には王冠。着ている服は赤いモコモコとした、誰でも想像できるテンプレ・オブ・テンプレ。ザ・王様がそこにはいた。
「ようこそ勇者様!我がノーヒン王国へ!待っておりました。何卒その力で我が王国をお助けくだされ。」
「いえ、人違いです。では私は忙しいんで帰ります。さようなら。」




