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モルドの剣  作者: 馬の被り物
ダンジョンへ行こう
23/67

勇者様御一行ご案内

 しとしとと降る雨に全員嫌気をさしつつ紺のロープを纏いフードを被りつつ森の中を東へ歩いている

 

「うーん。思ったより魔物の数が少ないですなぁ」

 

 先頭を歩く背の低い少女が呟くと

 

「な?だからやっぱ馬車を最初っから使えばよかったんだよ」

 

 やれやれだぜ。と肩をすくめ杖を持った男が口を開く

 

「そんな事できるわけないだろ?森に入らないと行けないんだしその間、馬車はどこに置いておくんだよ?」

 

 20歳くらいの若い男が杖を持った男に諭すように話しかける

 

「そりゃあ俺が乗って、奪われたり逃げないように監視しとけば丸く収まるじゃね?」

 

 雨に濡れたくなかった男がそう返すと

 

「無理ですなぁ」

「無理だね」

「無理よ」

「...無理」

「無理ですわ」

 

 口々に拒否の言葉を言う。

 それでもこのやりとりはいつもの事なので、皆気にしていない。

 

 

 それが勇者一行の日常なのだから。

 

 ......

 

 ...

 

 勇者。それは各国が保有する戦力である。

 例えば月華七星が「対国」としての戦力だとしたら

 勇者は「対個」としての戦力になり小回りの効くとして調査や発掘等を主としている。たまに大型の魔物の討伐を行う。


 勇者はなにもたった1人という訳では無い。複数おり、巨大な力を保有しているものの軍に所属するには向いていない者が大半であった。召喚で呼び寄せる場合もあるが、このPTみたいに冒険者から這い上がった者は大体が軍という大きな動きではかえって足枷になってしまい。長所を生かしきれないのだ。

 そういう事情もあり勇者という新たな戦力として国に属しているのである。

 もちろん人格もしっかりしていないとなれなく、冒険者という職業柄荒くれ者が多い為か冒険者上がりの勇者の数は少ない。

 

「それにしてもおかしいですわね。こんな辺境でゴブリンくらいの弱い魔物ぐらいしか見ませんわ?」

 

 おっとりとした口調の僧侶であるマリアが疑問を浮かべる

 

「確かにおかしい。このへんはオークなんか普通にいてもおかしくない。アニィは何か感じるか?」

 

 パーティのリーダーである勇者マルスがメンバーである盗賊のアニィに意見を求める

 

「私の気配察知には大きな魔物の反応がさっきから全然ないですなぁ。ただ...」

 

 国を出る時に仕入れた情報を思い出す

 

「もう少し歩くと今年度の剣術大会で優勝したナタリーという女性が国王から領地を貰ったんで、ここらへんの討伐をしているのかもしれないですなぁ」

 

 そう返事をすると

 

「いやアイツ1人で出て行ったぞ?元々脳筋で野生の勘で動くやつだから、誰1人お供もつけずに領地経営なんでできんのか?とみんな笑っていたがな」

 

 はっはっはと戦士のユーリが笑っていたが、お前も脳筋だろ?とユーリ以外のメンバーは思っていたが、あえて口には出さなかった

 

「......アレ」

 

 口数の少ない盾戦士のダグが指差すと全員が視線を動かす

 

 

 何と、数キロ先に高さ10mはあろうかという城壁があった。正確には城はないので防壁というのが正しいのだが...

 

「おいおい洒落にならねーぞ!どこかと戦争でもするつもりか?」

 

 魔法使いのソトが驚きを隠しきれないでいた

 

「驚いたな。こんな壁があるなんて聞いてないぞ?ユーリ...そのナタリーっていうのは本当に1人で出て行ったのか?」

 

「あぁ間違いねえよ。俺も驚いてるが、あいつ1人じゃこんな事できる訳ねえしどうなってんだか、とりあえずアイツの顔を見に行ってみるか?」

 

 女性でありながら男より男らしい戦士のユーリが軽い足取りで壁に近づいていく

 

 途中まで歩くと驚愕の光景を目にする。オークが壁にレンガを乗せる作業をしていたのだ

 

 すぐさま剣を抜きユーリは仲間に念話を送った。


 軽い感じの魔法使いであるソトだが実力はかなりのもので独自に開発した術によって念話を行う事ができている。そしてPTメンバーでリンクさせている。

 ただし自分達のように秘匿している者がいるはずで高位の魔法使ならこれぐらいできるんじゃないか?とソトは考えている。

 

(おい壁でなぜか作業してるオークがいるぞ?)

(猛獣使いでもいるのかしら?)

 たしかに猛獣使いという職業は存在している。ただし使役できるのは単一の魔物であり、知能が低く壁にレンガを積むなんて事はありえない。そもそもオークという魔物自体、人の、特に女性を狙って種を植え付け繁殖しようとする頭が真っピンクな魔物である。

 それが壁を作成しているのである。理解の範疇を超えている。

 

 しかもハイゴブリンまでいる。壁までレンガをリアカーで運んできたのである。

 

(最低でも2人は猛獣使いがいないとこの状況を説明できないな...)

 マルスがそう呟く

 

 たしかに猛獣使いはいる。存在はしているが滅多にいるものではない。精々国に5人でもいればいい方である。それがこんな辺境に2人も...?現実としてありえないのである。その可能性は低いだろう。では、何が起きてる?

 

 じりじりと近づく。運に見放されたのかもしれない。すでに雨はやんでいた。雨が降っていればもう少し近づけたのだが、村の入口まで100mという所で魔物達に見つかり一斉に村の中に隠れてしまった。

 

 ......

 

 ...

 ティンダーウルフの鼻のよさにより全魔物に家へ入るよう緊急連絡がされた。

 とは言えとうとう人に見つかってしまった。明らかな魔物側のミスであった。

 

 商人に話しが行き、急いで村の入口に商人が向かう。

 

 

 

「ようこそ名のない村へ。御用はなんでしょうか?」

 

 代表してマルスが挨拶をする。

 

「名のない村!?あ、いえ、初めまして。勇者のマルスと言います。ここへは以前にこの近辺に調査に来るハズだった部隊が全滅しましてね。王国から代わりに調査に行くように言われて来たのです。ちなみにここらへんの領地はナタリーという者が治めていると思うのですが...」

 

「はい。ここはまだ村長が名前を付けてくれないんです...それと確かにナタリーさんが領主という立場です」

 

 商人は思案しながら

 

「ここで話すのもなんですから中へどうぞ」

 

 集会所に案内される勇者御一行

 

(おい魔物が1匹もいないぞ?)

(でも建物の中にはチラホラ反応がありますぞ)

 

 集会所に入るとマルスは核心に触れる

 

「そういえばここの村の防壁はまだ途中とはいえすごいですね。あ、いやそれはまた後で聞くとして、魔物がいたと思うのですが?」

 

 ドキッとする商人

 

「私からは話す事ができません...村長に連絡しますのでこちらでお待ち下さい。ただ...今村長は出掛けてますので少しお時間がかかるかとは思いますが...」

(おいアレ奴隷紋じゃないのか?もしかして色々喋らないように制約があるのかもしれないぞ)

 

「えぇ分かりました」

 お茶をどうぞと村人が暖かいお茶を持ってくる。

(これ監視用だよな?益々怪しいぞココ)

 

 急いでゴブリンのいる小屋に向かう商人

 

「すぐに村長に伝えて下さい。勇者が来ました。しかも村の魔物の存在がバレてます」

 

 連絡を受けた俺は2時間で向かうとゴブリンを通して商人に伝え急いで地上に向けて急ぐ

 


 やっべー!なんで勇者なんかいるんだよ?うわーもう隠しきれないぞ!どうしようどうしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 2時間後村に着き集会所に入る

 

「大変お待たせして申し訳ございません。私が村長のリュウです」

 

「いえいえ、こちらこそお忙しい所、突然の訪問申し訳ありません」

(確かコイツ調査隊のメンバーだよな?)

 

「もしかして貴方は調査隊のリュウさんですよね?これはどういう事ですか?」

 

 やっちまった!慌てすぎてその事忘れてた!

 

「は、はい...全滅はしました...魔物にやられて。ただここにいるナタリーに助けられまして...な?」

 

 おいナタリーうまい事話しをあわせてくれよ?

 

「えっ?なんの事?」

 

 おぃぃぃぃい!

 汗が一向に止まらない

 

「もうバレてるんですよ?それにこの村には魔物がいますよね?全部話してもらえないと王国に報告せねばなりませんね」

 

 終わったよ...

 勇者達にこれまでの事を話す。最初の所は本当に倒れてナタリーに助けられたと嘘をつき、ダンジョンの事は内緒にした。

 

「ものすごいスキルですね。使い方によっては軍隊が作れますよ」

 

 勇者達が呆れていた。

 

「でもこれは絶対信じて欲しいのです。すべては今後の生活を楽にする為の事なんです。悪用するつもりはないですし、今後も奴隷は買いますが、なんといいますか...」

 

 最後の方の声が小さくなると

 

「え?なんですか?」

 

 勇者にそう言われるが、意を決して

 

「将来、楽しながら奥さん達とキャッハハうっふっふと暮らしたいんです!」

 

 と叫ぶと

 

「達?」

 

 マリアさんという人のメガネが光る。怖い怖いよ。ナタリーの腕にしがみつく

 

「だっはは!そうだよな?ハーレムは男のロマンだよな?なぁマリア俺とどうよ?」

 

 魔法使いの...確かソトさんと言ったか。この人のお陰で場の空気が緩む

 

「そんな考えの人は不潔です!」

 

 マリアさんが怒ってぷいっと顔を逸らす

 

「まぁ事情はわかったけど、どうしようか?これどう報告したもんか?」

 

 マルスさんが頭をかく

 

「お願いします。もしここの事がわかったりスキルの事がバレたら絶対悪用されます。魔物の軍団を作って他の国に攻め込めとか言われそうですし...」

 

 まぁそうなるよねとマルスさんが同意してくれる

 

「じゃあ辺境にはナタリーが魔物の間引きを傭兵雇って精力的にしてました。と、そして上手くやって領地の安全を守ってました。というのが妥協案ですかなぁ?」

 

 アニィさんが纏めてくれる。

 

「まぁどうせ王都の連中はこんな遠い所まで来ないからな。適当に報告しとくよ」

 

 ほっとした。ありがとうございますと言おうとしたら

 

「ただ君の事を死亡したと言う事はできない。確かにそのスキルは強力だから死んだ事にした方がいいんだろうけど、ここで生きていくならいずれキミが生きてる事はバレる。それならナタリーの家臣になったとでも言っといた方がいいだろうね」

 

「分かりました。ご迷惑おかけします」

 

 全員にお礼をいい、折角だからと

 

「雨に濡れて大変でしたよね?良かったらお風呂はどうですか?」

 

 お風呂を作るアイディアは無いのだが、所謂五右衛門風呂を作った。

 

「お風呂があるのかい!?すごく助かるよ」

 

 全員お風呂と聞いて興奮している。

 入ってる間に宴会の用意をするように指示する。

 

「それと魔物達も見せてくれるかい?」

 

 合図し小屋から出てきてもらう。

 

「こりゃまたすごい風景だね...しかも進化した個体ばっかじゃないか?元々ゴブリンとかだっけ?これだけ集めれば普通の街を制圧できるよ」

 

 全員が感嘆の声を上げている

 

 さっぱりした勇者御一行が風呂から出てくると宴会が始まる。

 宴会中ナタリーとユーリさんが意気投合している。あの人も脳筋なのだろうか?

 ソトさんはボア達と魔法対決している。ダグさんは1人でチビチビと酒を飲んでる。

 マルスさんはここら一帯で取れる魔物の肉を何枚もオカワリしている。

 

 

 翌日マルスさんたちが帰って行った。

 

「世話になった。何かあったら頼ってこいよ!」

 


 この出会いが、後にあんな事になるとは...

 

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