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掌編小説集9 (401話~450話)

八月の日

作者: 蹴沢缶九郎

遠くから蝉の鳴く声が聞こえる。蝉の声は暑さをいっそう引き立てる効果があるようだ。

暑い夏のある日、寂れたアパートの一室で一人暮らしの中年男性がひっそりとこの世を去った。部屋には酒の空ビンが散乱し、支払いの滞った水道やガス、電気は数日前に止められていた。

腐敗し、悪臭を放ち始めた男の遺体が家族ではなく、大して縁も所縁(ゆかり)もない赤の他人である隣室の住人に発見されるのも時間の問題だろう。


孤独死。それが、男が歩んできた人生の結果であり答えだった。両親はとうの昔に亡くなり、子供などいない。

人生は選択の連続である。男は楽な道を選び続け、辛い事から逃げ続けた。それで良いのだと思い、それが当たり前となった。ふと、周りとの生き方に違和感を覚えるが、それは一瞬で、再び男は楽な道を選んだ。

小さい頃、自分も当たり前のように恋愛をし、当たり前のように結婚をして、当たり前のように家族を持つのだと思っていた。

しかし現実は違った。どこでどう人生を間違えたとか、そんな単純な話でもなく、突き詰めるならば、「初めから」と言ってしまった方が手っ取り早く、簡単な気がする。


もう二度と動く事のない自分の身体を、霊体となった男が側で佇み見つめている。男の意志とは逆に、悔しさや切なさややりきれなさといった様々な感情が入り交じった涙が、男の頬を止めどなく流れた。


その内、霊体である男の身体は眩い光に包まれ、男は身体が失われていく感覚と共に、完全な光となり、天へと登っていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 当たり前の生き方って、どうなんでしょうか。その気がなければ、家族を無理に作る必要もない気もします。問題は、家族を持ちたいのに持てない人でしょうか。ただ、それも、それぞれの運命と思えば仕方のな…
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