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sunflower~僕は君を忘れない~

作者: 花野 赤貴

この物語を読んだあなたは、向日葵を見た時に涙を浮かべてしまうかもしれない…

~プロローグ~

雨と風が鳴り響く。ふと、窓を覗き込み空を見る。この雨を降らす黒い影に僕は見覚えがあった。そう、あれは忘れもしない二年前の六月のこと…



~1~

「おはよう」

と君はまた笑顔でいう。雨は好きでも濡れるのが嫌いな君が今日、午後から大雨が降るのを知らないかのような曇一つない表情をしているので、僕は少し戸惑いながらも挨拶を返す。雨のことを伝えると君は頬を膨らまし、ぶつくさ何か言いながら歩いていく。どうやら、傘を忘れたらしい。

こんな日々がどれだけ続いてきて、これからどれだけ続いていくのか、僕には予想がつかなかった。ましてや君は予想もしていなかっただろう。


 1限が終わった頃、ふと君の顔を浮かべていた。別に変な意味ではなく、なんとなく君の顔が浮かんできた。もちろん曇一つない笑顔だ。僕はなんだかそれがおかしく思えてきたので思わず笑っていた。


 2限が終わった頃、雲行きが怪しくなってきた。2限の体育で他のクラスで事故があったようだが、そこまで大したことではないようなので気にもしなかった。


 3限が終わった頃、本格的に雨が降り出した。僕の学校は特殊で一授業65分1日5限なので3限の後に昼食をとる。地面に叩きつけられて響く雨の音に耳と心を傾けながら僕は昼食をとった。これもなかなか乙なものだな、と思い箸を進める僕は、君の言う通り変わっているのかもしれない。まったく、午後の授業は憂鬱だ。


 4限が終わった頃、うたた寝をしていた僕の目を覚ますかのように雷鳴が鳴り響いた。かなり近くに落ちたらしい、あまりの音の大きさに危うく椅子から転げ落ちるところだった。君がその瞬間を見たらきっと僕のことをバカにするだろう。いつもはいてほしいと思う君がいなくてよかったと心から思った。


 5限が終わった頃、雷にも慣れ部活に行こうかと荷物をまとめ席を立った瞬間に、さっきマナーモードをうっかり外してしまったスマホから通知音が鳴った。僕がスマホの画面を見た時、雷がすぐ近くに落ち、雷鳴を僕の脳内にまで轟かせた。



~2~

「〇〇の母です。△△君でしょうか?〇〇が体育の授業中に事故にあってしまい、今□□病院にいますが、意識がないそうです。私自身何が起こっているのか分かりませんし、信じたくもありませんが、とにかく来てください。△△君には来てもらはないと。」

 毎日連絡を取っている君のアカウントから送られてきた見慣れない文章に僕は驚愕した。そして、猛ダッシュで学校をあとにした僕は途中で傘を学校に忘れたことに気がついた。土砂降りだというのに目の前に赤く光る信号が見えるまで全く気が付かなかった。おかしな話だ。鞄の中に君から借りてまだ開いていない本があったことに気づき、君が意識を取り戻してから怒られようと思った。だからお願いだから無事でいてくれ、「やっちゃった。」って無邪気な笑顔で言ってくれ、そう願いながら走り続けた。

 病院が見えるようになった頃には全身びちょびちょで体重が3倍くらいになったようだった。ようやく病院につく、君に会えると思った僕だったが、急に棒状の何かで後頭部を殴られ、その場で倒れてしまった。



~3~

君が笑っているのが見える。

ああ、これは夢だ。だが、とても懐かしい。

だってこの笑顔は中2の時に君の名前を褒めた時にした笑顔だ。本当に君に良く似合う名前だと思う。

また、君が笑っているのが見える。

この笑顔は僕が褒めた次の日に、僕の名前が綺麗だと褒めている時の笑顔だ。君に褒められるなんて嬉しくて恥ずかしくて照れ笑いを浮かべてしまう。

君が暗い顔をしているのが見える。

これは忘れもしない高校の合格発表の時の君の顔。親の隣でものすごいくらい顔をしていた君がホームにいたのが電車から見えた。君は受かったっていうのになんて暗い顔をしてるんだ、と思ってしまったよね。僕が落ちてしまったからって悲しみすぎだよ。でも、同じ学校だったなら君の事故をすぐさま知れたはずなのに、なんでなんでと自分を責めていると、声が聞こえてくる。

 “大丈夫ですか? 声聞こえてますか?”



~4~

どうやら近所の人が僕が倒れているのに気づいて運んでくれたらしい。

担架で運ばれながらも自分の容態より君のことが気になって仕方なかった。看護師の方や医者に君の容態を聞いてみたけれど誰も答えてくれなかった。結局僕の怪我は大したことはなかったが、ベッドで少しの間安静にしているようにと言われた。安静にしていられる訳もないので立ち上がるとズキッと頭が痛む。でも僕は構わず君のお母さんに聞いた病室へと向かった。君の病室に近づくにつれて誰かの泣く声が近づいてくる。嫌な予感がした。君の病室の前に来てその予感が的中していることに気づいた。あまりにショック過ぎたのか頭の怪我のせいなのか分からないがそこからの記憶はほとんど無い。ただ泣き喚いたのは間違い無かった。

 病院からの連絡に心配して迎えに来た親とうちに帰った僕は、スマホでの君とのやり取りを懐かしそうに眺めていた。もう何を送っても返信の返ってこないということが信じられず、君の曇一つない笑顔を思い出し、涙を流した。そして唐突に命の奪われてしまうという現実とそばにいてやれなかった自分への怒りで叫んだ。激しい雨と雷に掻き消されてきっと誰にも気づかれなかったはずだ、と思っていたがその後見た親の顔を見て聞こえていたことに気づいた。その日僕は夢を見なかった。今や君に唯一会うことの出来る夢を…



~5~

 「おはよう」

 君とは正反対の暗いトーンで母に挨拶をした僕は身支度を始めた。今日は君の葬式の日だ。身内だけで行うそうだが、僕だけは呼ばれた。

 知らない人ばかりのバスに乗り火葬場に向かうのは憂鬱だった。しかも今日は雨だ。奇しくも君の命日が梅雨入りの日だったらしく最近は雨ばかりだ。君は雨が好きと前に言っていた。曇一つない笑顔でそんなことを言うものだからなんだか矛盾しているように思えて僕は笑った。君の雨が好きな理由を僕は知っている、君の好きな花も他の色んなことも。

 君との過去の思い出に思いを馳せていると火葬場へ到着した。君が燃え、輝き、骨になると思うと、夏が良かったのにと僕は思った。だって君の名前は「夏輝(なつき)」だから、夏に輝く向日葵のような笑顔をする君には、雨よりもカンカン照りの夏の日がお似合いだった。なのに六月の梅雨の時期になってしまったのだろう。きっと僕のせいだ。僕の名前が六月を表す水無月からとった「水月(みつき)」だから、君からちゃんと聞いた訳じゃないが雨が好きと言った時の君の笑顔と、僕の名前が綺麗と褒めた時の君の笑顔が全く同じだった。だから君の雨が好きな理由はきっと僕の名前のイメージが雨だから。僕は嬉しくなって笑みを零したが、骨になった君を見て一筋の涙を流した。マナーはバッチリ勉強してきたから粗相はなかったけれど、そのせいかあっけなく感じてしまった。

 駅のホームで君と話すのが当たり前だった。二人で大人になれるのが当たり前だった。なのに、当たり前は一瞬で壊れた。あまりにも一瞬で、僕は受け入れられなかった。だけど、君の骨を骨壷にいれた時、骨壷の蓋がされた時、強制的に心が受け入れていた。なぜだろう。もしかしたらまた君にそそのかされて納得してしまったのかなと僕は笑う。僕は君の死に向き合っていられるほど強くない。だから君との思い出を懐かしみながら時々思い出し笑うことにする。きっと、僕の骨が骨壷にいれられるまでずっと…



~エピローグ~

結局、あの時僕を殴った犯人は見つからなかったな、と思いながら窓にカーテンをした。きっと君がいたならその犯人を捕まえるために駆け回ってくれたんだろうな、と思うと微笑ましくなる。そうだ、明日は大学の合格発表の日、君の始めてみたあの暗い顔を思い出し心配になりつつ僕は眠りについた。

 何ヶ月ぶりだろう君の夢を見た。君は笑っていた。カンカン照りの向日葵畑で。やっぱり君には夏が似合うな。

 目が覚め、少し寝坊したことに気づくと、慌てて準備をして大学へと向かった。君といつも話していたホームは改修工事でなくなってしまったが今でも手に取るように思い出せる。ドキドキしながら大学へと足を進め、門をくぐった。大きな大きな合格者名簿の中に僕の番号はしっかりとあった。思わずガッツポーズをした。そして、本当なら君と一緒に喜んでいたんだろうなと、君のはしゃぐ姿を思い浮かべていた。ふと合格者名簿から視線をずらすと、花壇に季節外れだけれど1輪だけ綺麗に太陽に向かって咲いている向日葵を見つけた。僕が心配で本当に君が見に来たんだろう。

「やっぱり君には笑顔が一番だ。」

 そう呟きながら僕は一筋の涙を流し、君のように曇一つない顔で笑った。

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