第九話
暗い部屋に一つのベッド。
水がポタポタしたたる音がする。
ヴィゴは落ちていた燭台に薄気味悪い形の蝋燭を挿しこみ、ライターで火をつけた。
可奈子は勧められるまでもなく、ベッドにうつぶせに寝転び、肘をついてあごを乗せた。
そしてヴィゴの髪を弄んでいる。
・・・さっきの夢に出てきた子、いつ以来だろう。ああ、そうだ。アビリルに子供が出来て、婚約指輪として渡してから現れなくなったんだ。
なつかしいな。
・・・オレ達の子供が出来てた事、静香覚えてなきゃいいけど。つらい思い出だから。
そういえば真っ黒いヤツが出てきたってグリフが言ってた。
今思えば腐れ神の事だろうナ。腐れ神がオレの呼び出しを待っているって事だろう。
でも腐れ神がグリフを狙ってるってどういうコトだろう?
あの子の過去に何があったんだろうか?
腐れ神を呼び出すほどの怒り、憎しみを持ってるって事なのか?
可奈子はしまいに耳に息を吹きかけはじめた。
ヴィゴは可奈子の頭を叩くフリをした。
「・・・ごめんなさい」
可奈子はおとなしくベッドに横たわり壁側に顔を向けた。
肩が揺れている。泣いてるのだろうか?
ヴィゴは可奈子の心を読んだ。
そこにはいつ人間界に帰れるかわからない恐怖が渦巻いていた。
生きて帰れるのか?という恐怖。
そして藤原にまた会えるのか?という恐怖。
こんなに元気そうに振舞っているけど内心は恐怖で一杯だったのだ。
ヴィゴはベッドに腰掛、可奈子の背中をさすってやった。
「大丈夫、必ず帰れるから。藤原君って彼氏とな」
可奈子は壁側を向いたまま、うん、と頷いた。
ヴィゴはそのままベッドに横になり二人仲良く眠った。
6時間ほど眠っただろうか?
暗闇の中で可奈子はもぞもぞ起きだした。
隣にはあの男が眠っている。
(こんな時によく寝れるよね)自分の事を棚に上げて可奈子は思った。
そしてこれからの事を考えた。
可奈子は山下とのキスが忌まわしかった。
(お嫁入り前なのに)
可奈子はヴィゴの寝顔を覗き込んだ。
「そんなのはファーストキスにはならないよ。マヌケ彼氏にとっとけ。」ヴィゴはそう言ってくれたけど。
可奈子の髪がヴィゴの頬に当たる。
「・・・静香?」
そういって暗闇の中でヴィゴが抱きしめてきた。
「ああ!やめてやめて!!」
可奈子は金切り声を上げ、ヴィゴはベッドから落ちた。
「なんだよ、お前が紛らわしい事をするから・・・」
「・・・さあ、朝ごはんにしましょう」
可奈子は照れくさいのを抑えるため部屋から飛び出していった。
・・・朝飯なんて、こんなトコにあるはずない。
「あまり、うろうろするなよ」
抱きしめたのが静香だと思い、反応した部分が収まるまで落ちたトコロから動けずヴィゴは叫んだ。
可奈子が用意したのはヤケにグロテスクな果物だった。
アメリカ製のグミキャンディのような派手な色合い。
「墓場にたわわに実っていたの」得意気に可奈子が披露する。
「こんなの食えないよ」
どうにか動けるようになったヴィゴがつぶやいた。
可奈子には「そんなもの食うなよ、腹壊すぞ」と忠告し、一階に上がっていった。
朝の礼拝堂はキレイだった。
ヴィゴは壊れかけたパイプオルガンの前に座り、鍵盤をおそるおそる触ってみた。
音はまだ、鳴るらしくヴィゴは聞き覚えのある曲を弾き始めた。
ふと、頭がもぎ取られてる神の像に十字架を掲げ一心に祈りを捧げている少女が目にはいった。
(あれ、オレ商店の十字架じゃん!)
ヴィゴは有難い顧客に(まいどっ)ともみ手をし、邪魔をしないようそうろっと立ち去ろうとした。しかし可奈子がにぎやかにヴィゴの音楽に合わせデタラメの歌を歌いながら階段を駆け上がってきた。
(シー!静かに!!)ヴィゴが目で合図しても可奈子にはわからなかった。
「うわっびっくりした、あんた誰?」
少女はゆっくり顔を上げた。
とても美しい横顔に可奈子は驚いた。
キレイな黒髪が光りに輝いている。
「・・・驚かせてごめんなさい。」
ヴィゴは可奈子の頭を無理やり下げさせ
「オレ達地下にいますので、どうぞ心置きなく。
・・・それ、いい十字架ですね。なんというか・・・素晴しい。」と告げた。
「・・・お邪魔しています、これですか?ホントに安物で恥ずかしいんですが・・・」
と少女に言われヴィゴはあわてて可奈子を連れ、地下に逃げ込んだ。
可奈子はなんだか納得できず、
「そうだ、この果物食べさせてみよう。」といい始めた。
ヴィゴが止めるのも聞かず、可奈子は果物を抱え一階に上がっていった。
「これ、どうぞ」
少女は可奈子に「ありがとう」といい、おもむろに一つ取り上げた。
「・・・あのう、食べない方が・・」ヴィゴが止めたが少女はかぶりついた。
「おいしいわ。これミルクの味がする。」
・・・。
ヴィゴと可奈子は先を争って果物を奪い合った。
「ホント、おいしい。」
可奈子が勝ち、ヴィゴは可奈子の食べた残りを奪った。
「ああ!!ひどい!!ぷるるん金玉のくせに!!」
「それ、言うならプルキュトス。」ヴィゴは果物をほおばり、うん、おいしいと言った。
「・・・プリュキトス?」
少女は首をかしげながらヴィゴを見つめた。
「そう、ぷるるん金玉」可奈子は笑いながら言う。
可奈子は「ここでロキと待ち合わせしてるの」と言った。
「・・・ロキ?ロキがここに来るの?」
少女はあわてた調子で聞いてきた。
「ああ、来るかどうかわかんないけどな」
ヴィゴがパイプオルガンに行儀悪く腰掛けながら指を果物の汁だらけにして言った。
少女は自分を美紀だと紹介した。
そして人間界から来て改造の手術を受けたのだ、と。
可奈子がもしやっ思い、聞いてみるとやはり藤原と一緒にいた事が判明した。
「藤原さんっていい人ね。励ましてくれたり、守ってくれたり。」
可奈子は急に不機嫌になった。
「・・・ヴィゴ。咽喉が渇いたからもっと果物持ってきてよ」
「は?なんでオレが?」指をなめていたヴィゴは、睨みつけてきた可奈子の剣幕にたじたじになりあわてて教会を飛び出す。
二人になった途端、可奈子が美紀に食ってかかりはじめた。
「美紀だったよね?藤原ってヤツとイチャイチャしてたわけ?
人が心配して悪魔界までついてきてやってるのにいい気なものよね。
私なんか、藤原と一緒にお風呂入ったことあるんだから!子供会の時だけど・・・。」
美紀はポカンとした顔をしてたが、可奈子がヤキモチを焼いてるとわかると、途端に笑い出した。
「藤原さんはロキと一緒にいる大事な女の人の為に強くなるってケルベロスの太郎と合体したわ。あなたが、その女の人なのね。すっごく可愛い子で自分なんか相手にしてもらってないんだって言ってたわ。」
「やだ〜可愛い子だなんて〜」
あわてて教会に戻ってきたヴィゴは二人が険悪ムードから、互いに手を絡めあい、友情を誓い合ったのをみて抱えていた果物を全て落とした。
「やだ、なに驚いてるのよ、ねえ美紀。」
「大丈夫?おじ・・じゃない。お兄さん」
今おじさんって言いかけたよね?とヴィゴが美紀に食ってかかろうとすると可奈子が止めた。
「まあ、いいじゃない。どっちでもさ。それより美紀もロキを探しに来たわけだし。」
美紀は自分がロキに助けられた事、もう人間界はこりごりでロキに会いたくて悪魔界に来た事を話した。
「ロキが人助けね。私も親切にしてもらったから。ヴィゴは彼の息子なんだって」
可奈子がさらっと言ってのけた言葉が美紀を驚かせた。
「どうりで瞳の色が同じだと思った・・・。
ロキにしてはやさしそうな顔。ロキほどかっこよくはないけど。でも・・・なんだかなつかしいわ。」
「褒めるかけなすかどちらかにしてくれる?」
ヴィゴがぼそっとつぶやき、二人は笑った。
皆、それぞれ自己紹介をし、可奈子は静香とヴィゴの恋の話を何度も聞きたがった。
ヴィゴはそれこそ事細かに話し始め、ベッドの中の静香の反応まで話し始めたときには美紀から横面パンチをくらった。
可奈子は聞きたかったみたいだが。
地下室のベッドは女の子二人に奪われた。
ヴィゴは一階の祭壇で寝ることになった。
こうして3人でロキを待つことになった。
が、2日、3日たってもロキは現れなかった。
ヴィゴは困惑していた。心の中で怒鳴り声がいつも響いているのだ。
思い出せ、あの出来事をと。腐れ神がグリフに呼びかけてるんだろう。
ヴィゴは心を覗き込まないよう、はしゃぎまくった。そうすることでグリフも言葉に耳をかたむけないでいい気がしたのだ。
しかしこんなにはしゃいだのは、この間の学園祭以来だ。あの時は・・・ホントにやりすぎた。しかし、あのギターってやつはホントにかっこいい。
毎日ヴィゴはパイプオルガンの前で弾きまくり、あまり弾き過ぎたのか、急におかしな音をたてはじめた。
「うわっこわれた・・・」
モルボイが藤原に関した情報をくれた事は3人を安心させた。
「藤原が街をうろうろしてるところをロバートに見つかり、かなり叱られたらしい。
ロバートは太郎をねぎらうために、普段からの行きつけの店、メイドック カフェに連れて行った。
そこにお気に入りのケルベロスがいるのだ。
彼女に事情を話し、藤原を守ってもらうよう説得した。
ロキの行方はロバートも知らないらしい。」
モルボイは小切手を期待して可奈子を眺めたが、可奈子は知らん振りをした。
モルボイは恨めしそうに可奈子を見つめ、さみしそうに帰っていった。
結婚相手を選べといわれたとき、まっさきに頭に浮かんだ女性がアビリルだった。
ルーは気をとりなおして優しく言った。
「アビリル。いい子だから少しやすみなさい。」
静香をベッドに寝かせ、オデコに軽くキスをした。今、ルーはヴィゴに嫉妬していた。
ルーは身震いした。嫉妬なぞ。醜い感情だ。
そう思いなおし、ルーはあわててドアから出て行った。
・・・ヴィゴに会いたい。静香は寝返りをうちながらつぶやいた。
あの婚約指輪をもらったとき、どんなにうれしかったか。そして未来を語るヴィゴがどんなに優しかったか。
その時驚いたことにちいさな少年が静香の意識の中に現れた。
少年はおびえていた。
「大丈夫?」静香が話しかける。
・・・僕、怖いんだ。君がこんなとこ連れてきたから。ここはキライ。裏切り者のニオイがする。
「・・・あなた、もしかしてラファエ様?」
・・・。
・・・ヴィゴに会わせて。僕、ヴィゴを守らないと。
ルーは姿勢をただし、議員達が悪魔界から匿ってきた少年のいる部屋に入った。
(こんな汚れきった魂の少年を今度の祭典に使うなぞ。天使の少年を使えばいいのに。おかしいな)ルーは不思議に思った。議員達はルーには祭典のお花を持たせる係の少年を見つけた事にしていたのだ。
少年は山下だった。議員達が指輪破壊の生け贄を買いに悪魔界の合体センターに行った時、道の途中で山下が悪魔達に苛められ、泣いているところを見つけたのだ。
山下は持ち前のずるさで、自分が何も知らないかわいい少年を演じ、議員のおめがねにかなった。
ルーはその少年を着替えさせ、腕の傷の具合をみた。
議員達は悪魔に苛められた時につけられたと思い込んでるが、違う。
魔王に長虫を挿入され、誰かが処置した。
ラファエ様しか知らない方法。不思議だ。
キレイに整えられた部屋で少年はえらそうにふんぞりかえっていた。
ルーにへりくだる必要はない。山下は即座にそういう事を見抜く能力に長けていた。
「あのさあ、ロキに復習したいんだけど。
そいで、可奈子って女と。そいでバカ藤原。
おれを殺そうとしやがって。」
「・・・まずはその腕の傷の事を聞きたい。」
ルーはため息をつきながら山下の腕をとった。
「コレ?マンホールの下の部屋で男に刺されたんだ。なんでも長虫が体中を食い破って生きながらの屍になる魔法を食い止めたとか言ってた。あの男、頭がいかれてるんだ。」
山下はくるくると指を頭の上でまわした。
「・・・男とは?知ってる奴か?」
山下は首を振った。
「なんで?知りたいの?アイツ、誰だったっけ?可奈子がロキの息子だって言ってたな。
ロキにも息子がいるらしいな。」
「ロキの息子?」
「そうだよ、ソイツもついでに殺してよ」
山下の記憶をさぐったルーは驚いた。
・・・ヴィゴだ。
ルーは山下につめよった。
「ソイツは今、どこにいる?」
「知らない。知ったことか!!」
「何を騒いでいる?」
議員の一人が部屋に入ってきた。
山下はきっちり座りなおし、いかにも罪のない目で議員を見つめる。
議員は山下にやさしく微笑んだ。
「不自由してるものがあれば、コイツに言いつけるんだぞ。お客様なのだからな」
山下は「十分よくしていただいてます。」と言った。
「ルー、指輪を持っていた女、
手荒なことでもしない限り吐かないだろう。
殺してはならん。吐くまでいたぶるがいい。」
と言った。ルーはあせった。
プリュキトスの恋人とばれたら再びアビリルは殺されるだろう。利用されるかもしれない。
ルーは議員を押しのけ、静香のもとに走っていった。議員は?という顔をし、山下は肩をすくめる。「あの方、すこしおかしいですね」と言った。
・・・ヴィゴの記憶を消すしかないか?
ルーはあわてて部屋に向かった。
部屋にもどると静香は待ちくたびれたようにぼうっとした顔で座り込んでいる。
「ああ、待ってたの。今ね、指輪の子が、ヴィゴに・・・今すぐ・・・」
ルーはあわてて静香を黙らせ、震える手をオデコにあてた。
「急がないと。貴方を救うためだ。」
彼は小声で記憶を消す呪文を唱えた。
そして静香は死んだようにベッドに倒れこんだ。議員達が部屋に入ってくる。
「この女か?指輪を持っていたのは?」
ルーは「聞き出そうと苦しみの魔法にかけたら気を失いました。後で必ず報告します。」
「そうだったのか?後で報告するように」
議員は手をふり出て行った。
静香はキョトンとした顔をした。
「ルーなの?」
ルーは驚いた。ヴィゴの記憶を消した反動で、何者かに消されていた記憶が蘇ったのか?
ともあれ、思い出してくれた。
ルーはうれしかった。
「早く逃げよう、悪魔界にでも」
「ちょっと待って。頭が痛い。それよりロクサーヌは・・・。」
静香はあわてて話し出す。
「ラファエ様の子じゃないのに・・・。彼女、どうなったの?」
ロクサーヌがアビリルに子が出来た事を打ち明けていたとは。
これは天界のトップシークレットだったのだ。
ロクサーヌはラファエの妻だった。他の男の子なぞ、ゆるされるはずもない。
「ロクサーヌは私に相談しに来たの。こっそり抜け出してきて。すぐにラファエ様に懺悔しにいかなきゃって二人でこっそり会いに行ったの。私は宮殿に入るのは許されてないから、忍び込むのは大変だったけど。
ラファエ様はロクサーヌを本当にすきだったのね。私の子として、王に任命するよ。っておっしゃったわ。そして簡単に儀式も行われたの。まだ、お腹にいる子に戴冠式を行うのはおかしいけど。
その時、ラファエ様はとても悲しそうだった。」
ルーは驚いた。
・・・ヴィゴが王に任命されていた?
「今まではね、ロクサーヌは無理矢理許婚にされたからずっと泣き暮らしたの。前みたいに街にも出れないし、私にも会えない。
でも、あの時、自分の子を王として認めてくれたラファエ様に感謝していたわ。そして子供がうまれるまで、二人は仲良く宮殿で暮らしたの。」
ルーはその頃の事を思い出した。
議員達はラファエ様の子ではない事を確信していた。子が出来るはずがない。
実は議員達が子供のときラファエに子が作れない体に改造していたのだ。議員達は、ラファエ様は体が弱く、子なぞ作ろうとすれば、それこそ死んでしまうと言っていた。議員達はいつでもラファエ様を気にかけてらした。
アビリルが静かに続けた。
「ロクサーヌの子が生まれたとき、私も呼ばれたの。お産で意識が朦朧としているロクサーヌを見舞ってやってほしいって。
そしてラファエ様と議員様が言い合ってる事を聞いてしまったわ。
「アンタの子ではない。」
議員様はそう、断言してた。驚いたわ。ラファエ様にあんな偉そうな口をきくなんて。
そしてラファエ様は静かに答えられたの。
「私の妻の子だ。あなた方には迷惑はかけぬ。」
ラファエ様はロクサーヌの恋人が誰か知ってたみたい。それでも自分の子として認めるなんてなんて優しいのかしら?
でも議員達は怒ったわ。「アンタは気が狂ってる。その子供には忌まわしい印がついているではないか。ルーよ。そのガキを殺せ。
ラファエよ。お前も天界の王には相応しくないのは明らかだ。見ておれ。今に追い出してやる」
そして話を漏れ聞いた私を宮殿から追い出したわ。記憶を奪って。」
ルーは忘れもしない、子を殺せと命令されたあの日を思い出していた。
その子の腕にはプリュキトスの印がついていた。古代からの言い伝え、プリュキトスの怒りは腐れ神を呼び出す。私もその子が天界の脅威になると感じた。そして疑いもせず、その子を抱き、殺しも出来ず、悪魔界をさまよった。そして結局虚無の狭間に向かったのだ。自分で殺す勇気もなく、あんな恐ろしい穴に落とそうとしていた自分が今さらながらはずかしかった。
しかし、ラファエ様の魂が私の元に訪れた。
虚無の狭間のまさに落とそうとした瞬間だった。
「その子を私に渡してくれ。自分で始末をつける。一緒に狭間に連れて行く。」
正直、ほっとした。自分の手を煩わさないですんだから。
しかし、今、思えばラファエ様は子を殺さなかったのだな。
次期天界の王を守るためラファエ様は守り神として指輪に入られたのだ。決して腐れ神を甦らさぬよう、ヴィゴが怒りに自分を見失わないよう。
ラファエ様は今までヴィゴを守ってこられた。
いままで腐れ神が蘇らなかったのはひとえにラファエ様のおかげと言ってもいいだろう。
しかし指輪が存在するのは議員達にとって脅威だ。自分たちが追放したラファエがこの世に存在するというコト。それは未だに天界の王であり続けているというコトを意味する。
ルーはあわてた。
「議員達は指輪を破壊するだろう。指輪を破壊すれは、ヴィゴの身が危ない。腐れ神はもう邪魔するものがなくなるのだから・・・。」
ルーはそういうと、悪魔界から連れてこられた子供を思い出した。
・・・祭典なぞ、真っ赤な嘘。あの子を指輪破壊の生け贄に使うつもりだ。
魔王はお気に入りのソファで頭を抱えた。
天界は責めるだろう。プリュキトスを見つけられない私を。わかるわけがない。あの目撃者の裁判官はなぜか記憶を失い、手がかりとなる似顔絵はヘタクソで切り株のお化けかと思ったほどだ。バイヤーの奴等に聞いてものらりくらりとかわしやがる。「ヴィゴ商店?ヴィゴ?確か・・・そう。切り株みたいな顔だよ」とか抜かしやがる。ワシの人望のなさを笑ってるのだろう。
それにしてもおかしな事が続く。悪魔界で癒しの魔法が使われる。よほどの高レベルの神がまぎれこんでるのだろう。
それにロキが悪魔界に戻ってきた。人間飼われ身分のアイツがなぜ、悪魔界にいる?
(オレは喰らうメイトの裁判で来たのだ。早く帰って欲しければさっさと逃げた人間を探し裁判をすることだな。)
本来なら悪魔界での催し物として最高のものなんだが。喰らうナイトを雇い、戦わせるあの見もの。しかし今回はごくつまらん。人間のくだらないガキをめぐって喰らうメイトなぞ。
飼い主は(ロキのことなら何でも教えますから)と言っていた。
ソイツには操れるように長虫を挿入しておいた。
何かの役には立つだろう。
だが、魔王の挿入した長虫はヴィゴによって取り出され街をさまよっていた。
美紀が悪魔界に来ている。そうロバートに聞き、心が乱れていたロキがソイツを見つけた。
「・・・山下に入ってた長虫か?」
ロキは話しかけた。
(うるさい。私はいそがしいのだ)
「山下を喰い終わるには早すぎるじゃねえか?」
(うるさい。お前の息子がぬきおったのだ。
あの癒しの魔法は王でなければ使えないからな。あいつは腐れ神の飼い主であり、次期天界の王。事実上、善と悪の全てのものの飼い主となる。
大ニュースだ。神界と言えども手を出すことはできまい。もしくは神界ですら脅威となる男だ。)
オレの息子が?ヴィゴが天界の王に?
ロキは長虫をつかみあげた。
長虫は頭をもたげて抗議したが、ロキは考える暇もなく口のなかに放り込んだ。
長虫はロキの腹から飛び出ようともがいたが、ロキは腹を押さえ、おさめた。
「動くな。消化されたいか?」
長虫はおとなしくなった。
(消化してみろ!魔王に連絡が行くぞ。我々ペットを殺されると魔王はどれだけ怒るかわかるだろう?怒りはヴィゴに向く。
私はココでお前のはらわたを食う。
消化も出来ず、お前は生きながらの地獄を味わうんだな。)
ロキは吐こうとしたが、長虫は笑い飛ばした
ロキははらわたを食われながらも、消化できず、呻いた。
(・・・情けない事になった。)
ロキはロクサーヌの言った事をおもいだした。
最後に無理やりロクサーヌに会いに言った時だ。
「このお腹の子、ラファエ様の跡継ぎになるの。ロキ、貴方には申し訳ないけど会わせることは出来ないわ。私達は二度と会えない。会わないほうがいいの。
私はラファエ様の愛に応えないと。・・・私達、とても重い罪を背負うことになったわね。」
ロキはロクサーヌに裏切られたと苦しんだ。
ヴィゴが天界の王。オレの子が。本当だったのか。
地面にはいつくばってるロキにベルセルクはつまずいた。そして軽く驚いた。
「おお、ロキ。探してたのだ。喰らうメイト裁判だ。簡単に済ませるから早く来い。お前バカか?地面に口づけなぞ。」
「いや、腹が痛むだけだ。・・・裁判と言うが、飼い主も居ず、どうやってするのだ?」
「てめえの飼い主には魔王様がちゃんと長虫を挿入してある。・・・のはずだが、いつまでたっても出廷しない。」
ロキの腹の長虫はのた打ち回り、ロキは腹をおさえた。
「喰われるヤツも見つけたのか?確か藤原とかなんとか・・・」
「すでに裁判所に確保している。雌のケルベロスといたところを捕まえた。」
「アイツ・・・。ドンくさい事を。じゃあ、ドラゴンは?」
「飼い主の女のガキを喰っちまったらしく途方もない大きさになっている。
そいつはすでに確保している。」
ロキは腹を抱え立ち上がった。
ベルセルクはロキを立ち上がらせ、鎖でしばり馬に担ぎ上げ、裁判所へと連れて行った。
裁判所には藤原と巨大なケルベロス。花子。
首には真っ赤なリボンが結ばれていた。
あと、巨大なドラゴンが情けなそうな顔をして藤原にくっついていた。
「ロキさん・・・。」
藤原が小声で話しかける。
「山下が街に逃げ出しちゃって。僕追いかけたんです。そしたら、悪魔達にいじめられてる山下を見つけました。
僕が助けようとしたんだけど、悪魔達には到底かなわないし・・・。
そうこうしてると、白いマントを着た3人の人たちが山下を助けたんです。」
ドラゴンに甘えられながら藤原は困った顔で話した。
「白い人?天界人だな。」ロキは小声でつぶやいた。
「天界人?僕も一度は白い人たちに、声をかけられたのですが(コイツは使えない。半悪魔だ)って。」
「その事はベルセルクたちに話したのか?」
「いいえ、ロキさんに言わなければと思って。」その時、空が揺れる大地震が起こった。
天界で何かが起こったのだ。
裁判所の天井がくずれはじめ、皆あわてて外に飛び出す。
ロキは藤原を抱え上げ、裁判所の外に飛び出した。
「指輪を破壊しようとしたのだろう。何かが起きたんだ。そのドラゴンはオレが借りる。オレは空からヴィゴを探す。
お前はケルベロスに乗ってヴィゴを探せ。ソイツのの嗅覚は頼りになる。
癒しの魔法をつかうなと伝えろ。面倒な事になる。」
藤原はメイドッグカフェから、付きまとってはなれないケルベロス、花子に乗り教会を目指した。
魔王の浮遊城では地震が感じられず、相変わらずのん気に浮遊していた。
ベルセルクがあわてて駆けつけ仮面の下で何かもごもご報告した。
魔王が邪魔くさそうに手で合図し、仮面をとらせると、ベルセルクは一息つき、声高々にさけんだ。
「天界に、ハップニング!」
魔王は巨大な双眼鏡を取り出し、ベルセルクに手伝わせながら天界の様子をのぞいた。
天界は大騒ぎだった。
ラファエの魂が塔から天界に溢れ出た。塔からは人々があわてて飛び出す。
「なんなんだ?」魔王がつぶやいた。
静香は突然天界を襲った衝撃に耳を塞いだ。
「マズイ。ラファエ様が記憶を取り戻し、それが天界に溢れ出てきている。
生け贄と共鳴したのだ。あの子供、どんな記憶を持っていたのだ?とにかく今は逃げなければ。」
ルーは静香をつれ、塔を駆け下りた。
塔を飛び出し、アビリルとヴィゴがデートコースに使っていた廃墟の教会に向かう。
海は荒れ、大波が次々と迫ってきていた。
「このままだと、巨大な津波が来るだろう。
ここから悪魔界に行こう。通路があるのだ。」
ルーは教会の飛び込み、パイプオルガンを叩き壊し、秘密の通路にとび込んだ。
その夜、壊れてしまっているパイプオルガンがごぞごぞ、がさごそと妙な音を立て始めた。
ヴィゴはその上の祭壇で寝ていたので(なんの音だよ、まったく!いい夢見てたのに!)と不機嫌に起き上がった。
その音は地下まで響いているみたいで可奈子と美紀も様子を見に来た。
「・・・ヴィゴ、うるさいよ。」
「オレじゃないよ」
パイプオルガンが好き勝手に鳴り始め、途端に沈み始めた。
「一体何事!!」
どーんと大きな音がし、人間がなだれ込んだ。
「ナンだよ。誰?」ヴィゴがおそるおそる携帯をかざし様子をうかがった。
可奈子がおそるおそる近づいた。
「なに?お化け?」
(すっごい生きてるから)静香は不機嫌に心の中でつぶやいたが、この世界の空気が忌まわしく慣れるまで口すら聞けない感じだった。
(すっごい眩しいんだけど。)
しゃがみこんで顔を背ける静香にヴィゴはますます携帯を静香に近づけた。
「・・・すっごい静香に似てるんだけど。」
「見間違いじゃない?だってすごいキレイなヒトなんでしょ」可奈子が偉そうに言った。
どっちにしても女には可奈子は容赦なかった。
美紀も静香を覗き込み、
「ヴィゴの彼女のわけないわ。こんなキレイな人。ヴィゴにはもったいない。」
と言った。
ヴィゴは美紀に喰ってかかった。
「あのさあ、美紀ってさあ、オレのコト褒めないよね。
オレ褒められると伸びるタイプだし。ホントあんたの子じゃなくて良かったよ」
「私もヴィゴなんて産まないわ。産むなら可愛い女の子希望よ。」と美紀は笑いながらつぶやいた。
「ヴィゴは残念ながら女の子には見えないね」可奈子も笑いながら言った。
「とにかくこの人たち、朝までココに置いておこう。お化けかもしれないしね」
と可奈子は結論づけた。
「さあ、美紀。寝にいこうよ」
「オレを置いてくのかよ。最悪だな。」
ヴィゴはそうつぶやき、座り込んでいる二人を見た。
「ああ、わかんね、寝よ」
「・・・。なんで」
再び祭壇で眠ろうとした男に腹立たしげに静香は声を発した。
自分たちのねぐらに訳のわからないモンが飛び込んできたのにわからないから寝る?
危機管理最低レベル。
ルーはやっと声が出せるようになり、ヴィゴに話しかけた。
「・・・男を捜している。ロキの息子だ。ラファエ様を抑えるには彼しかいない。」
「・・・は?・・・知らね・・・。なんだよ、お前ら。」
ヴィゴは嘘をついた。
「ナンだよ、ジロジロ見んな」
ヴィゴはルーにどなった。
「おい、可奈子、美紀!オレを助けろ!」
ヴィゴは階下に声をかけ、ルーたちの方を向いた。
「どこから来たんだ?」
「天界だ。」ルーは静香をヴィゴの目から見えないよう隠した。
「パイプオルガン同士が繋がってるんだ。」
「オレのパイプオルガンが天界に聞こえてたのか?すっげぇ恥ずかしいんだけど!
オレのラフマは泣けるだろ?」
静香は思わず大笑いした。
ヴィゴはキレイな女の人に受けたのが嬉しく、ルーの背後を覗き込んだ。
「オレ、面白かった?アレ、やっぱ静香?」
静香はキョトンとした顔をした。
「静香じゃん?マジで?マジで?」
そういいながらヴィゴが静香を抱きしめようとし、静香はヴィゴの頬を思いっきり殴った。
「?静香だよな?なんで?オレのこと忘れたってのか?」
静香はルーの後ろに隠れ、「貴方なんて知らない。」と言った。
ヴィゴは祭壇にへたり込んだ。
ルーは「彼女を知ってるというのか?・・・彼女はアビリルだ。」と告げた。
「貴方・・・もしや?そういえばアビリルの記憶の男に似ている。その目の色・・・。」
「・・・アビリル?」ヴィゴはルーを思いっきり無視し静香に話しかけた。
「オレとアンタ、結婚する約束までしたんだけど、覚えてねえの?
いつも、ヤタガラス飛脚便でプレゼント送ってたじゃん、着払いで悪かったけどさ。」
静香は覚えてない、と首を振り、ルーはヴィゴにつめよった。
「指輪を持っていたことは?父親の名は?」
ヴィゴは「知らない知らない!!」と教会の端にふてくされて座った。
美紀が心配して声をかけてきた。
「ヴィゴ、なにがあったか知らないけど、私もおかしなこと言われたんだ。
あのルーって人に、ロクサーヌ!!って呼ばれて。」
「六さん?なんで美紀が六さんなんだよ。時代劇か?」
「・・・ロクサーヌよ。」
「他人の空似チャンだ。気にすんな。しかし、オレ達のねぐら、とられちまうな。」
可奈子がルーと言い合いを始めた。
可奈子に美紀のことを聞き出そうとし、可奈子が「本人に聞けば?」と冷たく返答したのが気にさわったのだ。
「貴様、子供のクセにその口の聞き方はなんだ!そこに座れ。」
「助けてよ、ヴィゴ。この人、急に飛び出してきたくせに根掘り葉掘り聞くんだもん。」
朝になったというのに空が真っ黒になり、気温がどんどん下がってきた。天界の太陽が霧におおわれてしまったからだ。
改造人間の美紀はなんともないみたいだが、可奈子は震えヴィゴに寄りかかっている。
「なんだか寒いな、ケド火をおこす薪がねぇんだ。」
ヴィゴはブツブツ言いながら教会の中をうろついた。
「このイス使うぞ」そういいながら座ってたルーを手で払いのけると、手でバキバキと割り始める。
しまいには祭壇まで壊そうとしはじめ、ルーが立ち上がった。
・・・ケンカでもする気かしら?静香が息をのんで見守っていると驚いたことに、ルー自身が祭壇を壊しはじめた。
「・・・今は暖の確保が大事だ。神もわかってくださる」そして祈りを捧げた。
ヴィゴはしばらく呆然とルーを眺めていたが
「おう!」と手伝いはじめた。
こうして大量の薪が出来上がり、ヴィゴは満足気にながめた。
ヴィゴはかつて中庭だったところに薪を積み上げ、火をつけた。
「こうしてみると、キャンプファイヤーってやつを思い出すな。静香・・・。
って覚えてないんだよな。」
涼子や哲平、他の生徒たちも交えて海辺でバーベキュー大会をしたことを思い出したのだ。
「そういえば、妹も誘ったけど、来なかったって涼子が言ってたな。なんで来なかった?楽しかったのに。」可奈子は肩をすくめた。
「だって彼氏連れて来いって言うんだもん。」
「藤原でよかったじゃねえか?」ヴィゴが冷やかした。可奈子は赤くなった。
「・・・うるさい、プルルン金玉」
ヴィゴは大げさにため息をついた。
ルーは美紀に必死で天界の話をし、思い出してもらおうと躍起になった。
記憶呼び戻しの呪文をかけてもなんともないらしい。改造されているからだ。
可奈子が茶々を入れている横でヴィゴは静香を見つめていた。
「あのさ・・・。ホントに覚えてないの?
そのヘアスタイルは静香だよ。
長い髪をばっさり切ってさ。オレ、怒ったじゃん。じゃあ、なんでアンタに怒られなきゃいけないのっていわれてさ。
その言葉がショックでサ。オレ、寝込んだじゃん。」
静香は、そういえば、と髪を撫でた。
以前は腰までの長い髪だったのが、今は肩にあたるくらいの長さ。しかも少し茶色。
「静香にしてみれば自分の髪切っただけなのに。悪かったよ。でもオレ、気づいたんだよ、そん時にさ。彼女に似てるから静香を好きなのか?って。アビリルが死んでしまってオレの心にポッカリ空いた穴。
静香と会えた日。・・・ここに未来があるって思った。
オレ、やり直せるかもしれないって。」
ヴィゴは鼻をすすった。
静香はヴィゴを不思議そうに見つめながら聞いている。
「・・・実際はアンタには恋人がいて、オレなんて相手にしてもらえてなかったけどさ。
事故の直前に電話くれてたのに・・・。
アビリルのころの記憶が戻ったこと、オレに知らせようとして電話くれたんだろう?
婚約指輪、大事に持ってくれてたんだな。
アンタは絶対静香なんだって。
オレがそういうんだ。間違いないよ。」
静香はヴィゴの視線が耐え切れず下を向いた。
・・・私、静香っていう名前なの?
「私・・・わかんない。ごめんなさい」
ヴィゴは「あやまることないよ」といい、静香にやさしく微笑んだ。
ルーは美紀に必死に話しかけ、美紀は泣き出しそうに可奈子に助けを求めていた。
「ルー、あれ、何言ってんの?六さんがどうとかさ。」
ヴィゴはアゴでルーたちをさした。
「ルーの妹のロクサーヌによく似てるのよ。
私も似てることには驚いたけど。
大親友だったの。子供産んで、それっきり会えなくなっちゃったの。」
「それじゃあ、美紀じゃないよ、子供なんて産める年じゃない。」
ヴィゴは解決っとばかりにルーのところに行き手を大きく振り回した。
「美紀は産めねえよ。赤飯段階だ。」
突然、外を眺めていた可奈子が叫んだ。
「化けものがこちらに走ってくる!!」




