表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

第六話

静香はある決心をした。

学校につくなり涼子に「今日ヴィゴ先生見た?」と聞く。

「なに、その可愛い犬。抱っこさせてよ」

「ペロよ」静香は得意げに言い、「ヴィゴ先生の犬なの。昨日、置いていったから。」

「何!あんた達まだ、2人で会ってるの!!ずるい!満たされてる!!」

涼子はペロを抱きかかえたまま本気で腹立たしそうに叫んだ。

ペロを涼子に預け、学校中を探し回り、マルクスの研究室で潜んでいたヴィゴを見つけた。

ヴィゴは静香を見た途端、穴があったら入りたいっという顔をした。昨日、まちがって静香の家に帰ってしまい勝手にベッドに寝てしまったのだ。

「ヴィゴ先生。携帯買いに行こう」

ヴィゴに声をかけた。

「質問あるたびに部屋に来られたらたまらないもん」

マルクスはウンウンと頷き、後ろに隠れようとしたヴィゴを突き出した。

ヴィゴはマルクスにうながされ、おとなしく買うことにした。

「・・・携帯って、大きいもの?」これだけは聞いておかなければ。


前回の展示会の幸運機はかなりだまされたから警戒した。

同業のよしみで20台ほど注文してあげたのだ。

するとホテルに「ミャンマー」とかかれた耕耘機が20台届いた。

従業員に「こんなのどこに置くんですか!」とキレられたトコだったのだ。

学校が終わり、待ち合わせのスタバに着くと、静香がなにやら真っ黒い犬を連れ、コーヒーを飲んでいた。

「ほら、ペロ。ヴィゴ先生だよ」

犬を抱きかかえ、ヴィゴの顔に近づけた。

ペロ?犬はヴィゴをクンクン匂い、静香が見ていない事を知ると、耳に口を近づけて話しかけてきた。

(・・・いい女だな。)

誰?誰が話しかけた?

ヴィゴがキョロキョロするのを(ワシだワシだ)と犬がつぶやく。

のけぞるヴィゴを静香が笑いながらみていた。

「ペロ置いていったの先生でしょ?」

・・・いや、そんな覚えは・・・。しかも勝手にペロって・・・。

犬はドヤ顔でヴィゴを見ながら、静香の胸元に鼻をこすりつけた。

「お前、ずるいぞ!」

ヴィゴが急に声を荒げたのでスタバ中の客がヴィゴを見つめる。

「何?」静香は股間を匂って来る犬を少々眉をしかめながらも撫でていた。

「だめだぞ、そこは!オレの思い出の・・・」再びスタバ中の客が見つめる。


「なんだか、スケベな犬ね。飼い主に似てるのよ。先生のコーヒー買って来るね」

静香は席を立った。「ペロ見ていてね」

ヴィゴが犬の首を引っつかみ、締め上げながら聞いた。

「お前は何者だ?さてはメルメロン商店のスパイか!」

かねてよりヴィゴの商才を恨み、今回の年齢計もコイツが消費者をあおり、告発させたと言う事までわかっている。

(ううっ。苦しい。)

首を絞められた犬は反撃してヴィゴの腕に噛み付いた。

「お待たせ。あらっ何してるの? 」

ヴィゴと犬はあせり、犬を抱きしめキスしまくり、犬もキスを仕返した。

仲のよい飼い主と飼い犬のように。

少々行き過ぎ。普通、舌は入れないだろう。

・・・ちょっとやりすぎ・・・。

静香はコーヒーを持ったまま立ちすくんだ。


「昨日なんだったの?急に来て。説明してもらおうと思ってさ。魔法陣みたいなのあれ何?」

ヴィゴはあせった。

普通、人間には知られないように振舞わなくてはいけないのだ。

しかし彼女は知ってしまった。

「実は・・・オレ。人間じゃないんだ。」

ヴィゴはぼそぼそつぶやいた。

静香は「ふーん」と本気にしない。

「知ってる、エロ王国のエロ王子よ。」と言いながらヴィゴ商店のバイブレータのチラシをヒラヒラさせた。

・・・ああ、それは・・・。


「いきなり部屋に来て殺されるだの、火あぶりだのって。

年齢計のパンフレットあげたら急にいなくなるわ、急に帰ってきて人のワインを飲んで、人のベッドで勝手に寝て。

バイブでもやってろってこんなチラシ置いていったのね。」

ヴィゴは土下座してあやまったが許してもらえそうもなかった。

でもなんでこんなに怒ってる?

勝手に部屋に入った事か?ワイン飲んだ事か?バイブのチラシだけ置いて物を置いていかなかったこと・・・犬か!!

「犬はウチで引き取ります。スミマセンでした」

ヴィゴは犬を抱きかかえた。犬にもお辞儀をさせる。

静香は(鈍感男っ)と心の中でつぶやいた。


とにかく今日の目的の携帯を買いに行く事にした。

大学の近くにある小さな携帯ショップだ。

店に入ると物好きなヴィゴは犬を抱きかかえながら興奮しあちこち見て廻る。

犬も同様に興奮していた。

1時間ほど見回ってただろうか。さっさと選べよ!といい加減静香がどなりそうになったとき、

「これにするよ」とシルバーの携帯を指差した。

シルバーの色はヴィゴによく似合った。

「いいんじゃない?目の色が引き立つね」

静香は感心していった。

「コイツにはこれ」

犬用に黒い携帯を選んでいた。ハッハッと犬が期待の目で見上げた。

店員は困惑した表情で(助けて)と目で静香に合図してくる。

「ペロには、いらないわよ」犬は傍目でもわかるくらいがっかりした顔をした。


公園のベンチに座り携帯の使い方、連絡の取り方も説明してやった。

「ヴィゴ先生はどこから来たのか知らないけど、携帯も知らないなんてバイセン村ってどこにあるの?」

「それは・・・」

「田舎なのね。恥ずかしがらなくてもいいのに。」

静香はそういうと、勝手にヴィゴのメルアドを決め自分の携帯に試しに送ってみたりした。

「あの・・・。ね。何か聞きたい時は携帯で連絡してくれたらいいし。

何かしたい・・・とか夜・・・とか。

二度と来ないでって言ってるわけじゃないの・・・。ただ、用意とか、私も心がまえとか・・・シャワーも浴びておきたいし・・・。

先に連絡して欲しいってだけで・・・」

「ありがとう、これでブブッとキャンプも探せるね」

ヴィゴは携帯のEZウェブのオークションサイトを見ながら言った。

ペロは静香の膝に乗りたがるし、ヴィゴは女心がわかってない。

男どもったら。(ペロもオスだった)

静香はベンチにペロとヴィゴを残し、

「・・・私、行くね」

と告げた。

「おい、どういうつもりだ!」

静香がいなくなるとヴィゴは犬の耳元に口を近づけ小声で聞いた。

犬はヴィゴの方を邪魔臭そうに見やると、とんでもないところを舐めだした。

「勝手にしろ!」犬に向かって怒鳴りつけ、犬はうなり声を上げる。いつのまにか周りに人だかりが出来ていた。


犬を連れてホテルに泊まるのはさすがに断られた。

「先日の耕耘機の件もありますからね」

ヴィゴは荷物をひとまとめにし、大学の寮に泊めてもらえるようお願いしにいった。

事務のお姉さまが世話を焼いてくれる。

「ここの部屋なら空いてるけど。

それ、かわいいワンちゃんね。抱かせてもらっていい?」

「死んでもイヤです」と言ってやった。犬は恨めしそうにヴィゴを見上げる。

「幽霊が出るっていう噂なの、大丈夫?」

「願ったり叶ったりです。」鍵を受け取り早速向かう。犬はヴィゴに抱かれながら

(さっきの事務の女もよかったな。人間界はこれだからいい。)

「この色ボケ盛り犬が」

(お前の親父よりマシだ。なにせあだ名が歩くセックスマシーンだったからな)

・・・。オレのオヤジってなんだかサイテーだ。


寮はとてつもなく古く、事務のお姉さまは部屋に幽霊がいるって言ってたけど、

寮の玄関ですでに2人くらいの幽霊につまずき、「ごめんね」と小声でつぶやきながら部屋に向かう。

「オレの親父を知ってるのか?」

歩きながら犬に話しかけた。

(ああ、知ってる。お前にそっくりだ。)

「ナンだよ、それ。

オレはずっと一人だった。両親も見たことはない。オヤジなんかくそくらえだ」

(そんな事を言うもんじゃない。)

お目当ての部屋に入ると、いるわいるわ。

幽霊のオンパレードだった。

「いやーこれは高速通信も可能ですわ」

なぜかもみ手をしながらヴィゴはつぶやく。

当分バイヤーの仕事を休むつもりだったから、この高速通信を使って商売をするのも悪くない。

悪魔合体の材料をハンター達から仕入れ、合体センターに高く売りつけるのだ。

ハンターを相手にするんだから少々手荒な商売だが、このさい仕方ない。

ヴィゴはわざとペロに見えるよう携帯をベッドの上に置いた。

「静香から連絡があるかもしれない、ああ、忙しい。」

ペロはじっとヴィゴを睨んでいた。

(役立たずの一物は今夜は必要ないそうだ。お前の商店のアレの方がいいんじゃないか)

と憎まれ口をたたかれた。

うるせーと脱いだ靴下を投げつけてやった。

(ふん、どうせ彼氏でも来てるんだろう)


ヴィゴは仕事に集中する事にした。

まずは近くにいた幽霊に声をかける。

(あのう、手伝って欲しいんだけど)

できるだけ甘えた表情でお願いしてみた。

幽霊が女なら、こっちのものだ。

ヴィゴにとって口説ける相手はパソコン媒介に使うための幽霊に限られていた。

今回も大成功だった。もっともホモの幽霊だったけど。

(おにいさぁん。ボクでよかったら使ってねっ)幽霊は尻を突き出しペロは大笑いした。

(おぅおぅ、早く済ましてやれ)

ヴィゴは顔をしかめながら、パソコンのケーブルを尻に突き刺す。

変な声と共に、パソコンが繋がった。

悪魔界のバイヤー仲間からたくさんのメールが来ていた。

「お前、何したんだ?ヴィゴ商店に懸賞金かけられてるぞ!!」

(・・・オレ商店に?懸賞金?)

犬を振り返ってみるが、知らん顔をしている。

「・・・ペロ?」ものすごく勇気を出して彼の名を呼んでみた。

犬はなお、知らん顔をしている。そして、どこからくわえてきたのかキャバクラのチラシをさしだした。

「・・・わかった。後で連れて行ってやるから話してくれないか?」

犬はうむっという顔をし、話し始める。


「あんたは子供の時に死んだ事になっていた。

裁判に行っただろう?そこで生きてる事がわかり、今、草の根掻き分けて探している。」

「じゃあ、アンタはオレを突き出すつもりできたのか!」

ヴィゴは構えたが、犬は興味なさそうだった。

「違う、あんたの親父にその事を伝えにきたのや。守らせようと思ってな」

犬はハッハッと言いながら玄関のドアをカリカリさせた。

「・・・守らせる?オレを?」ヴィゴは上の空で街に飛び出した。

ヴィゴは新聞の切れ端を片手に上の空でポン引きに導かれるがまま、一軒の店に入っていった。

うるさい音楽がかかり、ヴィゴは両親を思いながらボゥーっと個室のソファーに座る。

かねてからヴィゴは一度、両親に会い、そして聞きたかった。・・・なぜ、オレを捨てた?

「いらっしゃいませ、この子は今日、初日なんです。」

ヴィゴは頭を抱えた。

・・・守る?いまさら何言ってんだよ。

キャバクラの店員が連れてきた女は無愛想に顔も見ず、挨拶もせず、横にどかっと座った。

犬は大興奮し、その女にじゃれ付いている。

キレイに伸びた足。

体のラインがよくわかるワンピース。

・・・こんな時にオレ、何見てんだよ。

女は気が狂ったようにじゃれついてくる犬を見て「ペロ!なんでここに?」と叫んだ。


・・・まさか・・・静香?

静香はヴィゴを見て「こんな店に来るなんて最低!」と作りかけの水割りをぶっ掛けようとした。

店員があわてて止めに入り、「お前なんかクビだぁ!」と叫んでいた。

ヴィゴが呆然とソファーに座っていると別の太った女が入ってくる。

「この子は慣れてますので、最高ですよ」と店員が言った。ペロが唸る。

「アキナちゃん、お願いね」そしてお絞りを手渡す。

「は〜い。失礼しま〜す」

慣れた手つきでいきなりジーンズのジッパーを下ろされた。

生暖かい感覚が下半身を襲う。

「何するんだよ!やめろ!!!!!」

ヴィゴは女を蹴り飛ばすと、店員にむんずとつかまれ、殴られ、店の外に放り出された。

・・・なんなんだ。

ペロはハッハッとヴィゴの顔を舐めてくる。

「やめろ!くわえられるのも舐められるのもたくさんだ!!」

ヴィゴが大声で叫ぶと側に誰かを感じた。

目を開けると静香が側にしゃがみこみ覗き込んでいたのだ。

「最低ね。あんな店に来るなんて。」

静香は一日でも働いてた事を棚に上げて言った。

昼とはちがうぴったりしたワンピースを着ている。

「オレじゃない。ペロが・・・」

「犬のセイにするなんてますます最低ねぇ、ペロ?」。

ヴィゴは何も言えず、立ち上がった。

ヴィゴは歩きだした。ジーンズのジッパーを上げながら。

こうなったら悪魔界に行ってやる。オレ商店に懸賞金?笑わせるな。

バー 飢えるカム。

オレのような者には危険な場所だが、構わずそこを目指す事にした。

静香は「待ってよ〜」といいながら追いかけてくる。

「私、仕事なくなっちゃって。・・・男と別れたから。

家賃も払えないし、来月からどうしようかと思って。だから、あんな店に行ってしまったのね。でもこれでクビ。大学もやめなくちゃ。」

バー 飢えるカムに入ろうとすると、静香がドアの前に立ちはだかった。

「そこ、はいるんだから、どけよ」

「どかない、私の話も聞いてよ。私気づいたのよ。ヴィゴの事が・・・。」

ヴィゴは構わず入ろうとする。

が、店の扉を開け、一瞬中に入ったがすぐ放り出された。

ヴィゴはドアを蹴っ飛ばす。

「入れろ!一つ目女め!!」

5分くらい、蹴り続けただろうか?

「なんだ?元気のいいガキだな」

玄関が急に開き、一人の男が面白そうに覗き込んだ。巨大な大男。

「ペロ、泣き止むのよ。うるさい!」

静香に抱きかかえられてもペロはその男にほえるのをやめなかった。

「そこをどけ、オレ商店を守らなきゃ。!親父なんかにでしゃばられてたまるか!!」

ヴィゴは気づいてなかった。飢えるカムに押し入ろうと必死だったから。

しかし静香は男が驚くほどヴィゴに似ていることに気づいた。

もっとも猛々しい表情はヴィゴにはなかったし、何かをせせら笑っているような口元の表情もヴィゴにはないものだった。

ありえないほどの力で殴り倒されヴィゴは道端にうずくまった。

(オレだって悪魔のはしくれ、そのオレを殴り倒すなんて・・・なんてヤツだ。)

ヴィゴが顔を上げ、ソイツを見ようとするとまた蹴飛ばされた。

静香がヴィゴをかばう。

「もう、やめて!死んじゃう!」

再び殴られそうになるのを静香が立ちはだかる。

「ペロ!噛み付くのよ!」

ペロが男に向かっていった。そして噛み付くどころかなにか、フゥゥン、クゥゥンと話しかけている。

(説明するのはじゃまくさいからお前の記憶を戻すぞ)犬はなにやらモゴモゴ言った。

ロキの記憶は一気に戻った。


・・・ロクサーヌ。思い出した。オレが命をかけて愛した女。

生まれ変わり、美紀になっていたとは・・・。

近くにいたのか・・・。山下の妹として。

運命の神は・・・やはりいたんだ。

ロキは感動して涙を浮かべた。


うずくまり、ウンウンうなっている男を、犬はアゴでしめした。

(コイツがあんたらの子供、ヴィゴだ。)

コイツがオレの息子?

ロキは戸惑った。

(悪魔界で懸賞金がかかっている。こいつはプリュキトスだからな。守ってやれ。)

・・・蹴りまくってしまったコイツが息子?

しかもオレ達が必死に探していたあのプリュキトス?

ロキは頭がこんがらがり店の中に戻ってしまった。・・・ロバートに知らせねば。


(おいおい。守ってやれ!)ペロが呼びかけたがロキはもどらない。

「・・・ペロ。なかなかやるじゃん!!」

静香はうずくまっているヴィゴを忘れペロにエライエライとしてやった。

ヴィゴは(こっちの手当てをしろよっ)と心の中で舌打ちをし、歩道にうずくまり血だらけの体に癒しの魔法をかけ、傷口を塞ぐ事に集中した。

まわりの人たちが救急車を呼んだのか、ヴィゴにとっていやな展開になった。

(まずい、人間じゃないことがバレる)ヴィゴは移動の呪文をかけ静香を置き去りにし自分の寮に帰った。

「けが人は?」救急隊員があわただしく聞いてくる。

静香は「あれ?・・・すみません、さっきまでここでうずくまってたんですけど・・・」

「痴話げんかもいい加減にしてくださいね。

周りのひとに通報されるまで殴っちゃ駄目じゃないですか。女の人なのに。」と説教をされ、おまけにDV女のように言われた。

(アイツ・・・今度会ったら殺す。)

「・・・ペロ?」

ペロは静香についてくるよう促し、ハッハッと手を上げ、タクシーを止めた。

タクシに乗り込み顔で右左と合図する。

その通りに運転手に指示を出し着いたのは大学の寮。

財布から残り少ないお金を支払い、なくなくペロについていった。

(ホント、今度会ったら殺す。)

静香はそう決意しペロがカリカリするドア、(この寮の中でも一番幽霊の出るという評判の悪い部屋)に入った。

ギィィィ。

気味の悪い音とともに扉が開く。

ベッドの上に血だらけのヴィゴが横たわっていた。

「ヴィゴ!なぜ病院に行かないのよ!」

静香は心配のあまり怒ってるのを忘れた。

「・・・病院に行かなくても治せるから」

静香は「嘘ばっかり!」

とヴィゴの傷を調べたが、驚いた事に治っていたのだ。ただ、傷のあったところに血がこびりついていた。

「なんで?あんなに血も出てたし、縫わなきゃいけないくらい切れてたよ」

(そら、神の血が混ざってるからや、お嬢さん)

誰?関西人?静香は警戒した。

やっぱりこの部屋、お化けがいる。


(ワシや、ワシ)

ペロ?ペロがしゃべった!

静香は驚いたあまり、打撲の痛みに苦しんでいるヴィゴの上に座ってしまった。

「いたたた!!!・・・静香、案外重たいんだな!」

「・・・ごめん」

「悪いけど水が飲みたい。」

静香はコップに水を汲みヴィゴの目の前に持ってきてやった。

「飲めないよ。・・・口移しじゃないと」

さも困った風な顔をし、ヴィゴがねだってくる。

「ペロに頼みなさい。」静香が冷たく言い放つ。

「さあ、説明してもらわないと。

なぜ、傷が治せたの?」


ヴィゴは正座をした。なぜかペロも横に並ぶ。

「オレは・・・人間じゃないんだ。(エロ王国のエロ王子でもない。と心の中で付け足した)人間界の物を神、悪魔どもに売りつける商売をしている。」

「・・・チラシの裏に書いた魔方陣は悪魔界と繋がってるの?」

「・・・ああ」

「そんなもの、私の部屋においていかないでよ!だから運がなくなっちゃったのね。

高級ホステスって聞いたからバイトにいったらタダのピンサロだったし、無駄なタクシー代まで使わされて!(ペロを睨みつけた)おまけに犬はしゃべるわ、DV女と間違われるわ・・・」

「ごめん・・・」

「そういえばペロ、あの男になにか話しかけてたじゃない。なぜアイツ逃げ出したの?

さては犬嫌い?」

ペロが大あくびしながらつぶやいた。

(うるさい女だな。だいたい、お前に一から説明する義務もない。大体ここまで話す必要もなかった。

記憶を消すから、ええっと呪文はっと)

「・・・記憶を消す?」

静香の声がうわずった。

「イヤよ、やめてよ。どこから消えちゃうの?」

(そら、ヴィゴにはじめて会った時からや)

「やめてよ!大事な思い出なのに!!ヴィゴ、助けてよ!」


静香にとってヴィゴとのセックスは大事な想い出だった。

ヴィゴの前でそういうのは恥かしかったが。

ペロに手当たりしだい、物を投げつけ始める。

ペロは邪魔臭そうに簡単なシールドを張って防御していた。

呪文を思い出したのか、ペロは目をつぶって唱え始めた。

一瞬シールドが消え、静香の投げたヴィゴの食べさしの菓子パンがデコにぶつかって跳ね返る。

ペロは呪文を唱え終わり静香は、ほぅとヴィゴのベッドに倒れこんだ。

「・・・消したのか?」

ヴィゴは少し、残念そうに言った。

「オレのことも忘れたってことか?」

ペロは変な顔をしていた。

(失敗だ。消す記憶の容量が思ったより多すぎた。何十年もあったぞ、なんで天界を知ってるんだ?)

2人で静香を見下ろし、静香はほぅっと目を開けた。

「なんだか頭がボゥっとしてる。長い映画を見せられた後みたい・・・。

ペロ、あなた呪文間違えたのよ。

記憶を失くすのでなく、呼び戻す呪文よ。いい加減ねぇ。あれ?なんで私そんなこと知ってるのかしら?」

静香はボーっとしながらも、ヴィゴの冷蔵庫からワインを発見し勝手に飲み始めた。

「おあいこよ、飲まなきゃやってられない!」静香はワインボトルをかかえ、冷蔵庫のチーズだの勝手につまみだした。

ヴィゴは静香を見つめた。

「記憶を呼び戻す?前世の記憶ってことか?」ペロは気まずそうにこっくり頷いた。

「って言う事は、静香の前世はもしかして・・・」

ペロは(知らんっ)という顔をした。

二人はワインをラッパ飲みし、チーズをかじっている静香を見つめた。



ヴィゴのモトカノ、アビリルは天使だった。

会うたび教本を読みきかせ、ヴィゴを感化しようとしていた。

しかしヴィゴは感化されず、あいかわらず悪魔合体材料などを売っては商売の幅を広げていた。

生きていくためには少々汚いことも手を染めなければ。それがヴィゴの持論だった。

よくそれでけんかしたのだ。

彼女には全く理解されず、半分悪魔の血が流れてるからそういう考えになるとまで言われた。結婚を申し込んだ時、2度と商売をしないと約束させられ、神の国でパソコンを教える仕事を用意された。

それが彼女の希望ならと、不本意ながらも承諾した。しかし、静香はキレイ事なぞ、笑い飛ばすだろう。

新学期、涼子と学食で言い争いをしていた言葉を思い出した。

「ひど〜い!!お金持ちの涼子にはわかんないよ。私には親もいないし自分で食べてかなくちゃいけないんだから!」


全く反対の二人。

静香はちらっとヴィゴの方を見て、「乾杯っ」とワインボトルを高々と上げ一気に飲み干し、ベッドに倒れこみ、そしてくぅくぅと寝始めた。

ペロはあきれた顔をした。「これが天使か?ありえん」

「オレは満足だ」

ヴィゴはそういい、寝ている静香のオデコに軽いキスをした。


(とんだ寄り道をした。)

ペロは記憶を呼び戻した事を気まずく思ったのか、あわてて帰る用意をする。

魔方陣を呼び出す呪文をかけた。

そして魔方陣の上でぎゅっと縮こまると悪魔界で腕に噛み付いてきたオオカミになった。

「あああ!!!お前!!なんでオレに噛み付いた?」

(・・・プリュキトス。また会おう。)

そういうとオオカミは尻尾を体に巻きつけくるくるっと消えた。

・・・プリュキトス?

・・・このオレが?


この世で一番忌まわしい生き物、腐れ神の飼い主。

ヴィゴは地のそこまで落ち込んだ気がした。


突然静香の携帯がなり、ヴィゴは思わず出てしまった。

「もしもし?静香か?」男の声だ。

・・・。

「昨日のことだけど、謝りたいんだ。お前にはそれ相応の暮らしもさせる。お前の育ての親の借金も全部払ってやる。だから、別れるなんて言わないでくれ」

ヴィゴは携帯を慌てて切った。

彼氏と別れ話をしてたのか?

別れるから、仕事を失うから、金がなくてあんな変な店にアルバイトまで。

「私の話も聞いて」

飢えるカムの前で静香はそう言ってた。何を話そうと思ったんだろう。

何も聞いてやれなかった。


幸せそうにワインボトルを抱えて眠ってる静香を抱え、移動の呪文をかけた。

彼女の部屋のベッドまで移動し、横たえた。

オレは静香の人生まで迷惑かけるわけにはいかない。大学もやめよう。にっほんになんて来なければ良かった・・・。


うーんと寝返りを打つ静香の頬に最後のキスをし、別れを告げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ