第三話
かなりの距離を落下したように感じた。
・・・死ぬぅ・・・・。
「裏合体センターへ。ようこそ!」ディズニーのアトラクションかと思われるほどの明るい声で出迎えられた。
目を上げると藤原と同い年くらいの目の前に男がいる。
なんだ?ここ・・・。裏合体センター?
そこは廃材を組み立てて作った建物だった。
この男の趣味なのか、ドアノブがあちこちにつけられ、(ホントにドアノブの使用方法を知ってるかどうかはなはだ疑問だった)
蛇口まであちこちにつけてある。
そしてここにいる人たちは人間のように見えてどこか違っていた。
奇妙な色の肌、目。
「あのぅ・・・あなたがたはなんですか?あなたがたは人間なんですか?それとも?」
男は自分の胸を指差しこういった。
「オレ様が改造してるようにみえるか?失敬だなぁ。
改造されるくらいなら、悪魔と合体しろ。かっこいいぞぅ」
その男はよくみると両頬に稲妻の模様が見えた。
「お前はまだ改造も合体もされてないな。
今なら合体セール!お得だよ。それにいまなら、よりどりみどりだ。
ドアーフにドリアード。そして昨日つかまえたバカドラゴン!」
・・・ドラゴン?しかもバカ?
・・・どっかで会ったような・・・。
案内しよう、稲妻野郎は無理やり案内を申し出た。あきらかに久々の客に喜びを隠せないようだった。
美紀は緑の髪をした女の人たちに質問攻めにあってる。彼女たちはドリアードと合体したらしく、食事の代りに髪の毛で光合成をしてるそうだ。
なんとエコロジー。ミドリムシ様のようだ。
美紀を彼女たちに任せ、藤原は稲妻に案内をお願いした。
扉をこじ開け、廊下に出ると、訳のわからない機械やら、なにやら。
「ここで合体するのだ」
汚い分厚いガラス越しに機械がおいてあった。
さびていて、みるからに壊れていそうだった。中を掃除してたのかたわしなどが散乱している。
青ざめた藤原の表情を見て
「しかたないよ、街の合体センターのスクラップにされてたのを拾ったんだもんっ」稲妻はすねた口調で言った。
「動くんですか?」藤原はもう信じなかった。
「・・・うごくよ。蹴飛ばしたらね」
・・・絶対イヤだ。
「・・・もしかして、ロキの噂なにか聞いてませんか?」
「もしかして、お前があの喰らうメイトされて逃げた人間か!!」
おぅおぅと、稲妻は後ろにのけぞった。何かスイッチを押したらしく機械が煙を上げている。
タワシとスリッパが合体し、便利グッズになった。
「ロキはかわいい女の子連れてたよ。新聞に載ってた。」
可奈子のことだ!!
「可奈子を助けたいんです!でもそんな力俺にはない・・・」
「その力を得るにはやっぱ合体っしょ!今はいいのが入ってるんだよぅ。キョンシーもいるし、ドラゴンも!」
そういえば、バカドラゴン・・・。
「ドラゴンに会わせて下さい!」
稲妻野郎はほいほいっと藤原をエレベーターに乗せた。
そして、ものすごい臭いのする階で下ろした。
こわごわ廊下に出てみると、ちかちかと切れかけの蛍光灯が幾数もの檻を照らしていた。
檻にはウルフマン、おでこの札を息圧ではがそうとしているひょっとこ口のキョンシー。
人間界で見かけるマク○ナルドのメインキャラクターの置物もなぜか檻に入っている。
「コイツ、すっげえ強そうで人間界でも幅利かせてるらしいのに、なかなか話してくれないんだ」
そりゃそうだろう。確かに怖いがただの置物だ。そしてソイツの向かい側にしょぼくれているドラゴンを見つけた。
・・・やっぱりアイツだ。俺を喰らうメイトした!みいこはここにいるのか?
「おい、お前」
「あぁ!あの時の万引きやろうだぁ・・・!なつかしいなぁ〜」
ドラゴンは尻尾をぶんぶん振り喜びを表現した。
「おまえコイツ知ってるのか?このドラゴン、体格は抜群にかっこいいのに子供言葉がぬけねえ」
藤原はドキドキしながらみいこのところに案内してもらった。
一番奥の暗い檻にみいこは閉じ込められていた。
檻の端に縮こまっている。なにか痛みに耐えてるようだった。
稲妻が声をかけるとびくっとした様子だった。
「コイツ、悪魔達に冗談でポルターガイストと合体させられた。
ドラゴンは側でおろおろしてるだけだし。
ロバートが見つけてここに連れてきたんだ。」
「みいこ・・・」
藤原の声にみいこはびっくりしたようだった。
「・・・お前まだ生きてたのか。しつこい」
「どうして万引きヤロウなんて言った?逃げるのに大変だったんだぞ」
「人の顔をなぐっておいて只で済むと思うな」
・・・根に持つやつだ・・・そんな事で・・。
稲妻野郎はぽかんとしてたが、やっとわかったようだった。
「ははん、この女、お前の知り合いか?
かわいそうだが、自分の殺した人間の顔が出てきてるんだから自業自得だわな。
コイツの体を見てみろ」
稲妻がみいこの服を剥ぎ取った。
藤原は目を疑った・・・
みいこの体中にボコボコと十人ほどの顔が人面相のように浮き出ていた。
そいつらががみいこのからだをジョジョに食っているのだ。
藤原は吐き気がした。
「コイツはガキのくせに人間を平気で食わせるんだ。最悪なヤツだ。」
「みいこ。大丈夫か?」
みいこは聞こえないふりをした。
「・・・その体、治す方法探してきてやる。それまで死ぬな」
みいこはますます檻の中に閉じこもって耳を塞いだ。
暗い気持ちで最上階にもどるとうれしいことにロバートとサラが来ていた。
ロバートは藤原の顔を見て安心したようだった。
「ポルターガイストと合体した人間の子供を見ただろう?」ロバートはため息をついた。
「お前の知り合いだったんだろう?」
藤原は何も言えなかった。
美紀はコロニーにいる皆からちやほやされていた。
あの長い黒髪が原因らしい。・・・確かにキレイな髪だった。
「悪魔界のイケメン、ロキはキレイな髪の女性には目がないらしいのヨ。
私もそんな髪だったら、ロキと一晩共にできたかも!」
「そんな話するなよ。魔王に怒られるぞ。ロキ嫌いなのに。今度悪魔界をうろついてるとこ見つかったら即死刑だって言われたらしいよ。」
美紀は眩暈がするといい、部屋で一人になりたいと申し出た。顔が真っ青になっていた。
それからだった。
美紀が部屋にこもり、なんにも食べなくなったのは。
改造されてるといっても食べなきゃ死んじゃう。サラもロバートも美紀を心配した。
みいこはもじもじしながらも藤原を見て憎まれ口を叩くのだけはやめた。
藤原は自分のしょぼいご飯からみいこの為に半分残しておいた。
目の前では食べる事はなかったけど、次の日にはなくなっていたので食べているんだろう。
藤原は少し安心した。
夜、藤原は全てをロバートに話した。美紀とロキの関係、山下とみいこの事も。
「ロキを探す。そして可奈子を返してもらうんだ。こっちには美紀がいる。友達だったみたいだから。人質っていうわけじゃないけど・・・取引に使うだけだ」
ロバートはポンポンと藤原の頭をたたいた。
「ロキとワシとは長年の付き合いだ。ロキは改造人間を応援してくれてる。
可奈子はロキといる限り安心しろ。
じきに会える日は来る。
それに、今はタダでさえ悪魔界は人間が出歩きにくくなってる。
天界が血眼になって探しているプリュキトスも見た目は人間だ。お前の喰らうメイトの裁判など、もう忘れられているだろう。」
「プリュキトスってナンですか?人間界のとき、ロキに話してましたよね?
プリュキトスが生きてたって。」
「プリュキトスは・・・腐れ神の飼い主だ。彼が制御できないほどの怒りを感じた時に腐れ神は蘇る。彼を早く探し出し魔王との取引に使うつもりだ。人間コロニーをこれ以上潰されるわけにはいかないからな。今はまだ、人間界にいるらしいが。探しに行けんのだ。
なにせ、ワシたちはこの風体。人間界を歩くと即、スカウトそしてタレント行き。
そうだ!お前探してきてくれないか?
・・・ただ、お前には強さがたりん。一人で悪魔界をうろつかせるのは危ないな・・・。
そうだ・・・太郎をやるよ。太郎と合体しろ。」
藤原はおどろいた。あんなに大事にしてる太郎を俺なんかのために?
それに合体なんて恐ろしいこと、考えたくもない!
藤原が断ろうとするとロバートはこういった。
「人間界に戻る時は、太郎はお前から離れる。
この悪魔界にいる間だけだ。心配するな。」
「なぜ、ロキは魔王に嫌われてるのでしょう?」
「ロキはもともと神だった。天界の王が何かの罪で悪魔界に投げ落としたのだ。
悪魔界でのロキは魔王をことごとく馬鹿にした。そりゃそうだ。天界に媚ばかり売る魔王はホントに頼りないからな。
ホントの事を言われて怒る奴はこの世にはいるが魔王もその中の一人だ。ロキは魔王にも嫌われ、人間飼われ身分につきおとされたんだ。永遠にな」
藤原は太郎の檻を見に行った。
そこは藤原の部屋とはくらべものにならないほど広かった。
とても清潔で頑丈な犬小屋という感じだった。
中には退屈しないよう、ウサギのぬいぐるみやキュキュッと鳴るおもちゃまである。
・・・まちがいなく必要ないと思うが。
太郎もそう思ってるらしくおもちゃは檻の片隅にこんもり固めてあった。
藤原を見ると、わざとそっぽを向いて横目で反応を見て楽しんでるようだった。
でも、藤原のことは好きでいてくれてるはずだ。恐ろしい尻尾をかすかに振ってるから。
「太郎・・・。俺と合体してくれるか?俺は強くならなくちゃいけないんだ。可奈子をとりもどすために。」
太郎が嫌がれば無理強いしない。
太郎は最初、聞こえないふりをしたが藤原があきらめて行こうとすると、クンクンと甘えた声で藤原にすり寄ってきた。
藤原はこわごわ頭を撫でた。おっそろしい頭だったが。
・・・太郎は承諾してくれたのだ。
こんなに忠実な生き物はいままでいただろうか?
それから2、3日考え、藤原が合体を決意した。稲妻野郎は明らかに張り切っていた。
「昨日の夜は興奮して眠れなかったよぅ!太郎と合体かぁ。おれなんか雷ドラゴンと合体したんだぜ。二度と風呂には入れねえけど。漏電すっから」
太郎はサラに大好きな骨付き肉をたくさん食べさせてもらい、きれいにブラッシングしてもらっていてとても幸せそうだった。
稲妻に太郎を渡しながら、
「私、用事があるからつきそえないけど、大丈夫。大丈夫よ!!きっと、きっと成功するから」と妙に力強く太鼓判を押され、余計に不安になった。
藤原は太郎の準備が整う間、「合体の心得。男を見せろ、2008」を読んだ。
稲妻は藤原が真剣によんでる雑誌をとりあげてしまい、ここにわかりやすいポスターがあると得意げに張り出した。
小学校の保健室に貼ってあるような簡単な図が書いてある。
合体の終わった人間がやけに顔が青いのが気になったが、たぶん色あせてるんだろう。
がつたいのしくみ
1 きかいにいれる。
2 まぜる。
3 おわり。
・・・わかるかっ!!!
藤原は逃げ回る稲妻から雑誌を取り戻した。
まず合体材料(太郎)は機械に押し込められ魂を抜かれる。
次に合体本人(俺)の魂を抜く。この時神聖な気持ちにならないよう気をつけること。
*南無阿弥陀、アーメンはご法度。成仏の危険あり。
そうして体だけを合体させるらしい。
そして俺の魂と太郎の魂を混ぜる。
この時の魂のこね方でどちらが優位に立つか決まる。
魂を体に戻す・・・できあがり。
藤原が服をぬぎ、用意万全、すっぽんぽんでむさぼるように雑誌を読んでいると
「もたもたすんな、おっさん。はよ、入れ」
と言われた。
誰?きょろきょろしたが、誰もいない。
まさか・・・。機械が話している?
稲妻野郎はきまりわるそうに、
「事故だったんだ・・・。機械と人間が合体しちまって・・・。
もう2度と起こらない・・・はずだ」
鼻をほじりながら稲妻が言った。
・・・やめようかなぁ・・・。
藤原がやめときます、と言おうとした時、太郎が機械に入った。
ふぇ〜ん。
気の抜けるようなモーター音がしている。
機械が壊れたか・・・。藤原はほっとした時、太郎に変化が起こった。
太郎のキレイな毛並みが波打ち、太郎は苦しさにもだえた。
そして、真っ白なキレイな魂がポワンと空中に浮いた。
稲妻野郎はそれを汚い袋にいれ、「ほい、次っ」と言った。
藤原は覚悟をきめ機械に入った。証明写真を撮りに行ったときに見かけたようなイスに座る。
稲妻が扉を閉めると、しーんと無音になった。
・・・いよいよか。
ぶぇ〜ん。
これまた気のぬけるモーター音。
明らかに意識がおかしい。
なぜか・・・。死んだおばあちゃんがみえる。川の向こうに・・・。
手を振ってる・・・。
藤原は神聖な気持ちになった。
藤原は浮き始め、なぜか下のほうで大騒ぎしている。
「おいっ成仏するな!!おいっ!」
・・・なんという汚い口をききあそばすのんか・・・。
ワタクシは召されます・・・。ナムナムナム。
その時だった。
「おいっ!未修正のH本、見せてやるから、還って来い」
藤原は一気に意識を取り戻した。
稲妻は藤原の魂を汚い袋につめた。
・・・臭い・・・。
袋の外では俺の鼻に太郎をつっこんでるんだろうなぁ。
藤原は稲妻が見せてくれるはずのH本について想像し、気を紛らわした。
少したったころ、急に回りが明るくなり、藤原と太郎はこねられ始めた。
丸められ、こねられ、時々床に落とされ・・。
「ほいっ一丁あがりっ」
先ほどの薄汚れた鏡に以前とはちがう姿が映っていた。
筋肉隆々、顔もりりしくなってる(気がした)髪も今までのダサい頭じゃなく、太郎の毛並みと同じ、白い毛にところどころ水色の毛が混じっている。
かっこいいじゃん、俺!
体に力がみなぎる。藤原は力瘤を作っては触ってみた。すっげぇ!!
俺は合体したんだ!!
合体って気持ちいい〜!!
藤原は今までにない爽快な気分だった。
藤原は合体の機械の中からエイやっと飛び出した。
「おっさん、金はらえ〜」機械がうめく。
稲妻は「ほっとけ」と言い、藤原の体を点検しはじめた。
手には合体後カウンセリングの本を持っていた。なにやら記入している。
(ええっと、顔はマヌケのまま・・と。
目は太郎のグレーの目・・・と。)
ほいっと目の前に裸の女と、メス犬の写真を出した。
藤原の瞳孔の開き方を見ているらしい。
「おっしゃ、女と雌犬両方に反応。上出来、上出来」
・・・俺は犬にも興奮するようになってしまったのか・・・。妙に悲しくなった。
「まあ、成功だな。あと24時間以内の痛みに耐え抜けば」
・・・?なんだいそりゃ?
「あれ?言ってなかったっけ?ポスター読んどいてよぅ」
すっごいいやな予感・・・。
ポスターをよく見ると、ちっちゃなちっちゃな字で書いてあった。
「24時間以内に猛烈な痛みがあります。
これをクリアして本物の合体となります。
男を見せろ!2008」
・・・くっそぅ・・・。
藤原はうなだれた。
「準備準備。忙しいよぅ!ほい、この部屋に入ってちょ」
以前来たときは全く気にもしなかった拘束ベッドが置いてある。
痛恨のチェックミスだ。
「痛みに耐えられなくてぇ〜自殺したら困るからぁ〜縛るんだ!」
藤原は放心状態でベッドに横たわった。
せめて近くに可奈子がいてくれたらもっとがんばれるのになぁ・・・。
藤原はベッドに横たわり、覚悟を決めた。
だんだん体が二つに裂かれてるような、痛みが襲ってきた。
・・・いまなら、雷印さけるチーズの気持ちがよくわかる。
あいつら、相当痛いんだろうなぁ・・・。
藤原はあまりの痛みに、「殺してくれ!!」
と叫び続けた。
稲妻はポテトチップスを食いながら藤原を見ていたが、途中で飽きて寝始めやがった。
どれくらいそうしてただろう。
藤原が苦しみもだえていたとき、真上から覗き込んだ人が見えた。
・・・みいこだった。
なぜ?檻から抜け出たのか?
足を引きずりながら、藤原に近寄る。
「痛いのか?」
みいこは藤原に聞いた。
藤原はこの姿勢でできるだけ、ウンウンと首を縦に振った。
その時信じられないことが起こった・・・。
みいこは近くにあった雑巾で藤原の汗をぬぐい、そして・・・手を握り締めたのだ。
藤原は痛みを忘れた。
「・・・みいこはそんなに悪い子なのかなあ。
ただ、いじわるした人たちに仕返しがしたかった。クラスの子全員死んでしまえばいいのにって思ってた。
パパもママも仕事でみいこにかまってくれなかったから大っきらいだった。
学校でいじめられてもお金をあげて仲良くしてもらいなさいって言われたんだ。
・・・ママ、パパなんて消えてしまえって思ってた。だからドラちゃんに食べさせた。
体中の顔、初めは怖かったけど、今ならママ、パパが他の顔からみいこを守ってくれてるのがわかる。
はじめて家族になれた感じだった。
他の子たちが、私を食べつくさないよう見張ってくれてるのがわかる。
うれしかった。
みいこは一人じゃないって思ったんだ・・・。
ドラちゃんはみいこの初めての友達なんだ。そして・・・お前も。
カツアゲした子達に怒鳴ってくれた。」
・・・・・・・・・。
・・・ほげぇ・・・。
棒でつつかれて目が覚めた。
・・・みいこは?夢だったのか?
いきなり、ペンライトで瞳を照らされた。
稲妻のマヌケな顔が覗きこんでいる。
「すげー生きてるぞ!オレ成功したんだ!失敗したかと思ってたよ・・・」
・・・俺・・・生きてる?
生きてるぞぅ!!!
失敗なんてドンマイ!俺は生きてるんだ!
藤原はあふれんばかりの笑顔で稲妻を迎えた。
稲妻は藤原を軽く無視し、ぐちゃぐちゃにポケットに突っ込んだモノを取り出した。
それで鼻をかみ、しまったという顔をした。
「ごめんごめん、ロバートからの手紙だったよ、はい。どうぞ読んでちょ」
鼻水でドロドロのものを手紙と言われ、殺意を覚えたがどうにか広げて読む事にした。
鼻水でにじんで読めない上にものすごい草書体で読みづらかった。
藤原殿
合体後の痛みもよく耐えた。大変な事が起きた。美紀が行方不明だ。わしたちが連れ戻しにいく。お前はここにいろ。指示をまて。)
手紙の内容が飲み込めなくて藤原はパニックになった。
美紀は何も持たず出て行ったのだろうか。
美紀が寝ていた部屋に入ってみると、ベッドはきちんとなっているし、特にこれといったこともない。
出て行こうとしたとき、何かを踏んづけた。
美紀の学生かばんだった。
人のものだが、そんな事いってられない。
そしてかばんをあけてみると、衝撃的なもの。
パンツ・・・じゃない。美紀の生徒手帳を見つけた。
そこには・・・山下美紀と書かれていた。
藤原の記憶が一瞬にしてよみがえる。
そういえば・・・。
・・・藤原が小学生のときだった。幼馴染だった藤原は山下の誕生日パーティに呼ばれた。
人数を合せる為に呼ばれたとしか思えないが。手作り紙芝居をプレゼントに持っていったっけ。
確か題名は(ジゴロ刑事)
山下は馬鹿にするなと、景気よく破りやがった。(可奈子が激怒し山下の頭にコーラーをぶっかけてくれた。その時から藤原の初恋がはじまったのだ。)
山下にいじめられた藤原はこそこそとトイレで泣こうと席を立った。
トイレに向かう途中の畳の薄暗い部屋で押し殺した泣き声を聞いた。
怖くなったけど、気になって覗いてみると山下の妹が泣いていたんだ。
顔は腫れ、擦り傷が痛いたしかったっけ。
「ロキ・・・ロキのタマゴが・・・」
藤原が声をかけようとすると母親が飛び込んできた。
母親が妹を抱きかかえ、藤原の事をおびえた目で見た。
「この子の事は放って置いて。」
藤原は見てはいけないものを見た気がしてあわてて部屋からとびだした。
廊下で山下にぶつかったんだ。
藤原が傷だらけの妹を見てしまった事に動揺していた。
可奈子に言われたくなかったのだろう。
山下は「美紀のヤツが大事なもの取ったって泣いていやがる。
だってオレの誕生日じゃん、アイツの持ち物の中から好きなものをもらわないと。
お前なんかイチコロでやっつけられる。もし可奈子に妹の事を話せば夜にソイツをお前んちまで行かせるから」
なんだか怖い気がして藤原は黙ってた。
今思えばロキのタマゴを、美紀から盗んだんだ。
でも・・・美紀はなんでロキのタマゴなんか持ってたんだろう?
「・・・美紀を探さなくちゃ」
「おい、待てったら。ロバート達がさがしに行ってるから心配すんなよ。」
藤原は何もできず、ただ、ロバート達が美紀を探し連れ戻してくれる事を祈った。
その時、壁の糸電話がなった。
・・・どういう仕組み?
藤原がおそるおそる糸電話にでると、ロバートが焦り気味に話しはじめた。
「藤原か?合体はうまく行ったようだな。
頼みたいことがある。
プリュキトスが見つかった。ロキからの情報だ。場所は三本木ヒルズ。
樋口、という女が一人で住んでるマンションだ。情報によると、可奈子の姉の家らしい。
お前が行くのが一番だ。顔見知りだろうからな。男はヴィゴという。バー飢えるカムでロキが待機している。なんと・・・ロキの息子だそうだ。犬に話しかけられロキに記憶が戻ったらしい。後はロキの指示に従え。
砂漠のステーションからゴンドラに乗り込め。
健闘を祈り申す。」
藤原は電話を切り、「稲妻、砂漠ステーションに連れて行って欲しい」とつげた。
「お前・・・人間界に行ったら、もう帰らないかもしれないんだろ?
なんだか、淋しいな」稲妻がありえないほど悲しそうに言った。
「それはないよ。可奈子を連れてかえらなきゃ。それに、みいこも。だからまた戻ってくる。また、会えるよ。」
「じゃあさじゃあさ、買ってきてくれよ。
トイレットペーパ使うたびにさ、オルゴールが鳴るやつ。」
・・・ソレが目的だったのか。
「たぶん、西急ハンズにあると思う。
でも今回は無理だ。忙しいから。」
稲妻はがっかりした顔をしたが、砂漠のタクシーは歩きまわるから、この辺で待とうといった。
歩き回る?
言葉の意味がわからず、立ち止まっていると後ろに黒い影がせまる。
振り向くと巨大な真っ黒のサソリがガチャガチャと歩いてくるではないか。
藤原はビビり、稲妻は手を上げた。
サソリははさみを振り回しながら近づいてきた。
「はよ、お乗りやすぅ」
サソリの上に小さいイスが括りつけられている。
「街まで頼むよ」稲妻がいい、サソリは「へぇおおきに」と言った。
藤原はつるつる滑る黒びかりしている甲羅にしがみつき、なんとか登った。
サソリはそのまま、ガチャガチャ進み、街まで藤原を運んでいった。
街ではベルセルクは一人残らずいなくなり、悪魔達は情けない顔をしながら街のゴミを掃除していた。
ベルセルクたちは人間界にプリュキトスを探しにいったのだろう。
あんな奴等が人間界に現れたら?
考えただけでもおそろしい。
藤原は頼まれた事をするため、街のステーションに向かった。
今はベルセルクより早くプリュキトス、否ヴィゴさんって名前を呼んであげなきゃ。
藤原はステーションに着き、人間界行きのゴンドラに乗り込んだ。




