表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

第十四話

ヴィゴは思い残すことはない。

死のう、と思った。  


どこに行こう?

虚無の国には生き物がいる。ライドが言っていた。

それじゃあダメだ。迷惑がかかる。

何にもないところ。


ヴィゴは迷わず虚無の狭間を目指した。

狭間は裁判所と虚無の国の狭間にある。

悪魔界の街、そしてバイセン村の近くを通っていく。

以前は魔方陣で簡単に移動できたのに、今はもう許されなかった。

天界はオレを探しまくるだろう。魔方陣を使うと居場所がばれる。

ヴィゴは歩くしかなかった。


虚無の狭間は永遠に落ち続けるところ。

オレの寿命はどれくらいあるのだろうか。

そんな長い間は落ちなくてすむはずだ。

たぶん、腐れ神が怒り、オレを殺すだろうから。


ヴィゴは月明かりを頼りに山を降り、海岸に出た。

波の音が心地いい。

小さなカニやら小魚がヴィゴに驚いてあわてて逃げていく。

以前の天界にはいなかったモノたちだ。


バシャバシャと波打ち際を歩いてるとふいに心の声が聞こえた。

(ヴィゴ、どこにいくのだ?)

ヴィゴは無視した。

(無視するな、私を!!)

(・・・ラファエ、もういいじゃねえか。)

(どういうコトだ?)

(アンタが思ってるほど、この世は悪くない。

見てみろよ、ほら、新しい生き物が楽しんでる。)


寝ぼけてヴィゴに求愛してくる鳥にヴィゴは軽く笑った。

(戻れ。戻るんだ。お前を乗っ取るのもわけはないんだぞ。)


「・・・アンタには無理だ。」

ヴィゴは声に出して言った。


ヴィゴは海岸沿いを進み悪魔街に行ける塔に向かった。

折れてしまった白い塔の近くにある。

ヴィゴは小さな舟を出し、黒いローブを体に巻きつけこいでいった。

天界の街があった場所にたどり着くころには朝になっていた。

朝日に照らされた海の中は悲惨な状態だった。

建物は飲み込まれ死体は散乱し、天界にいるはずもない腐鳥が海の上に集まり始めている。

死体が浮かんでくるのを待っているのだろう。

ヴィゴを見て腐鳥はギャーと泣き喚いた。


悪魔街に行ける塔を見つけ、ヴィゴは舟を近づける。

塔の先が少しだけ海面に顔を出していた。

舟から降り、塔の隙間から中に入ろうとした。

足を滑らせ、かなりの距離を転がり落ち、ヴィゴは起き上がった。

「痛ってぇ・・・」

驚いたことに海面の下にあるはずの建物の中に水は一滴も入っていない。

悪魔界から腐鳥が入ってきてヴィゴの頭上をけたたましく飛んでいった。

「うっわ。こっから入ってくるんだな」

ヴィゴは突っ伏し、腐鳥の襲撃から身を守った。

ふと、ポケットから転がり出た携帯を拾う。

「まだ、こんなもの、持ってたのか。」


携帯には静香とおそろいで買ったストラップがついていた。

ヴィゴは震える手で携帯を開け、電源を入れる。

待ち受けには静香と2ショットの写真。

静香が勝手に登録したものだった。


メールはホントにくだらない内容だった。

明日のお昼、学食で待ってるケド、えびフライ定食でいい?という静香ののん気なメール。

学園祭の焼きソバチケット10枚つづりを買えって言う、涼子と哲平からの脅しのメール。

そのほか、単位が取れるよう、お願いしてくる困った生徒たち。

最後にヴィゴが気づかなかったメールも届いていた。

静香からだった。

人間界でバスの事故の直前、あわてて打ったメールのようだった。

内容は、簡単なものだった。


「ヴィゴ、愛してる。」

ヴィゴは携帯を抱きしめ、泣いた。


なんでオレ、死ななきゃならない?大事なものを残して?

地面につっぷし、ヴィゴはむせび泣いた。



    

・・・薄暗いライト。

小さなバックミュージックが流れている。

藤原は目をあけると、そこは飢えるカムだった。一つ目女が忙しげに働いている。

「改造人間撲滅キャンペーンが廃止されたのよ!今日は私のおごりよ!!」

そういうと、バーの悪魔達はわきたった。


横で気を失ってる可奈子と美紀を起こし、バーの奥から出てきた3人に誰も興味がないらしい。

そうろっと裏口をあけ、外に出た。

久しぶりの人間界に3人は手を取り合ってつかの間喜び、そして山下が死んでしまった事をおもいだし、おとなしくなった。

人間界の空はぶあつい雲がおおっている。

それは皆の心もおなじようにくもらせた。


「・・・俺、帰るよ。おかんが心配してると思う。」

「そうね。私も・・・。お母さんに殺される前におねえちゃんのトコに行くわ。

多分私達1ヶ月はいなかったから。」

可奈子は美紀を誘い、美紀は喜んでついていった。


案の定、可奈子は涼子にかなり怒られた。

「あんたたち、一週間も家出なんてどういうコト?

ニュースでは数人の女の子が行方不明になってるし、心配したのよ!」


悪魔界と人間界では時間の流れが違うようだった。

リビングには静香の写真とヴィゴの写真が遺影のように飾られている。

美紀は何も言わず突然、ヴィゴの写真を取り上げ、抱きしめた。

涼子が!!!とビビッていると、

「なんでもないってば。美紀の飼ってた犬にヴィゴが似てるのよ」とわけのわからない言い訳をする。

涼子は「ヴィゴに似てる犬?ふうん。すっごいその犬見てみたい。」と言った。


二人を風呂に入れると、涼子は親に電話する。

「ああ、ママ?可奈子の馬鹿が帰ってきたわ。年頃の子はむつかしいのよ。

心配しないで。当分、うちで預かるわ。

静香はまだ、見つからないわ。ヴィゴもね」

そういうと、電話を切った。

そして静香とヴィゴの写真の前に立った。

「あんた達も早く帰ってきてよ・・・。」

涼子はつぶやいた。


ロキが人間界に売りに出される。

このニュースは瞬く間に人間界に広まった。

オークション形式でするらしく、全世界各地の中継ポイントでインターネットを使い落札される。

可奈子と美紀は飢えるカムを目指した。

藤原も誘いたかったが、おかんの外出禁止令は思いのほか厳しく、抜け出せずにいたのだ。

「でも参加したところでお金なんかないもん。ロキのタマゴなんて買えないわ・・・」

美紀が落ち込む。

可奈子が言いにくそうに小さなバッグから小切手を取り出した。

「お金ならあるわ。ヴィゴから・・・もらったの。」

「可奈子・・・ホントにもらったの?」美紀は小切手を見てめまいをおこした。

¥100000000000000

ヴィゴ商店とサインが入っている。

ヴィゴが荒稼ぎした全財産。

「・・・ホントにもらったの?」

「う・・・ん。忘れた。」


美紀に怒られる、と可奈子はしょんぼりしてたが、美紀はあっけらかんとしていた。

「いいじゃない。どうせ天界では使えないんだし。ロキを買いましょう。」

飢えるカムで美紀はロキをゲットし、余ったお金で可奈子は花子を買った。

見るからに残酷そうな男が花子を買おうとし、花子は泣きそうになっていたからだった。

可奈子に飼ってもらって花子は大喜びだった。


花子はとてもフワフワしていて、真っ白でかわいかった。

「人間さえ食べさせなければこのままの大きさよ。」

飢えるカムの一つ目女は言った。

そして美紀にロキのタマゴを渡した。

「はい、大切に育ててね。ロキが一人前の男になったらまた会いにきてって伝えてよ。

ベッドを空けて待ってるからって。」


美紀は真っ赤になり、ロキのタマゴを抱きそそくさと店を出た。

可奈子は一つ目女に手をふり、花子を抱きしめ店を出た。

二人は毎日タマゴを暖め、大事に見守る。

花子が時々抱きたがり、美紀はたまにそれをゆるした。

「花子ちゃんも女の子なのね。」

そして可奈子の誕生日の日、可奈子は藤原をクレープパーティに誘った。

そろそろロキが孵化するころだからだ。

藤原のオカンは「クレープパーティやて、かわいらしいわぁ。この小豆の缶詰もって行き。」といい、外出禁止令が解けたのだ。


藤原は勇んで尋ねてきた。

学校ではあまり二人で話す機会がなく、久しぶりに会った二人はモジモジしていた。

花子は太郎の面影が残ってる藤原にじゃれ付き、耳を少し噛んでしまった。

藤原は耳を押さえながら、「・・・かわいいね。」と言った。

美紀はロキのタマゴを大事にかかえ、「少し散歩してくるね」といい花子をつれて出かけた。


「久しぶりだね。元気だった?」藤原はクレープを焼きながら聞く。

「・・・うん。たまに山下のこと思い出すけど。」可奈子は小さな声でつぶやいた。

「・・・だってファーストキスの相手だもん。」生地を必要以上にこね回しながら可奈子はつぶやく。

「ええ?どこで?」

「あの、マンホールでヴィゴがふんどしに絡まってた時。誤解しないでよ。

無理矢理だったんだから。

ヴィゴは、そんなのはキスのうちに入らない、・・・マヌケ彼氏にとっておけって。」

「マヌケ彼氏?」

「アンタのことよ。ヴィゴ、私達がつきあってるって思ってたみたい。」

「・・・。まさか。ボクなんて・・・。相手にされるわけないのにさ」

藤原は真っ赤になり、クレープは真っ黒になった。

「そうよ。ねぇ。失礼だわ!」可奈子も赤くなりながら言った。


突然、美紀が駆け込んできた。

藤原と可奈子は見詰め合っていたのをあわてて離れる。

「大変!ロキが生まれるわ!!」

タマゴが割れ、中から小さなロキがえいやっと飛び出した。

ロキはちいさな子供くらいの大きさで、お尻に小さい布をまき、髪の毛はつんつん逆立っていた。

大きく伸びをし、アクビをしていたが、藤原達に気づくと、ロキはふんぞりかえる。


「おう。オレはおそろしいか?」

可奈子は噴出し、藤原は笑いをこらえ、必死で頷いてやった。

美紀はロキを近くに座らせ、顔を拭いてやった。


「ヴィゴも小さい時こんなに可愛かったのかな?一度も抱いたことないから。」

「今からは抱っこできないよね〜。

(ナニすんだよ!オレ、ガキじゃねえし!)とか言うよ、きっと。」


美紀は人間を食わさず、事情を話し、飢えるカムからベジタリアン用の大豆肉を取り寄せた。

藤原と可奈子の血で支払った。

涼子はロキが見えず、たまにロキの上に座ってしまうこともあった。

あわてた美紀が、「ロキ!」と叫び、涼子に「?私は涼子よ」と突っ込まれていた。

笑いでごまかそうとしてる美紀を見て、涼子は

「なんだか、笑った顔がヴィゴに似てるね」と不思議そうに言った。


ある日、空を覆っていた雲が晴れた。

長い間、太陽を見てなかった涼子は大喜びだった。

「これで布団が乾せるわ」

涼子はウキウキと言った。


「何か、状況が変わったのね。」美紀が空を見上げてつぶやく。

ロキが美紀の横に来た。

かなり大きくなり、ヴィゴとさほど変わらない大きさだった。

「・・・ヴィゴ。大丈夫かなあ」」

ロキがいつもの通り、飢えるカムにベジタリアン用ご飯を取りに行くと、一つ目女が待ち構えていた。

「天界に王が誕生したんだって。」

ロキはそのニュースを夕食時に美紀に何気なくつぶやいた。

「私の子が?」

急に叫び、立ち上がった美紀を涼子は慣れた顔つきで座らせた。

「はいはい、美紀ちゃん。ご飯食べようね〜」

「会いたいわ。会いに行かなきゃ。」

美紀が構わずつぶやき、可奈子が「・・・美紀っ静かに!」とつぶやく。

「・・・会いたいって言葉、お姉ちゃんの前では禁句なのに!!」


突然、涼子が泣き出した。

「・・・私も静香とヴィゴに会いたい。もう限界よ・・・」

「どこに行ってるの?死んだわけでもなく・・・。静香の遺体は見つからず、ヴィゴは藤原君とどっかに出かけてしまった。

藤原君は帰ってきてなんでヴィゴは帰ってこないのよ?

アンタ達、何かに巻き込まれてるの?私には知る権利があるわ。

何日も泊めてあげたんだから。」

「お姉ちゃん・・・。」

可奈子は、信じるわけない、と思いながらも今までの事を話した。

涼子はうつむいて聞いていた。


「静香って親はいないし、生まれた頃の写真も残ってないの。おかしいなって思ってたのよ。

静香が天使でも生まれ変わりなんでもいい。

生きてさえいてくれれば。でもあの大食いが天使だなんて信じられないわ。」

涼子は笑った。

「そいでその、ロキって子。ここにいるの?

花子ちゃんも?」涼子はビビリながら聞く。


「うん、お姉ちゃんが今上に座っちゃってるけど・・・。」

涼子ははねのき、花子は伸びをした。

「全く・・・見えないわ。」涼子はつぶやいた。

「あんたたち、これからどうするのよ」

「わかんない。」

「何の為にロキを育てたのよ?

ヴィゴに会いにいきなよ。」

「無理よ。悪魔界になんて行けないわ。ものすごくお金がかかるんだもん。

3人分なんて到底払えない。」

「一人いくらなの?」

可奈子が飢えるカムの女に聞いてきたところによると、一人1億だった。

「一人分くらい払ってあげるわ。」涼子が言う。

「私、こう見えても商才あるんだから」

FXで小遣いを何倍もにした涼子は偉そうにいう。

「一人って美紀だけ行くの?」

「ロキは?ロキも行きたいでしょ?」


「そうだな。アイツが天界で窮屈で死にそうになってるのは見物だろうな」

不思議な事にロキは人間を喰わないようになってから記憶が日に日に戻っていた。

いまでは自分が神だったことも覚えている。


可奈子は考え込んだ。

「私も山下もロキも悪魔界に行く時、お金なんてかからなかった。

藤原は払ったみたいだけど。なんでだろ?

そうそう、喰らうメイトの裁判に出なきゃって言ってたんだ。」

「喰らうメイト?」涼子は耳慣れない言葉に顔をしかめる。

「うん、藤原がね。ドラゴンとロキに同時に喰らうメイトになって悪魔界に逃げ込んだんだって。

それを追いかけて私達が行ったの。出廷したとでもいうのかなあ。」

「それ、いいんじゃない?」涼子が言った。

「また、藤原君には悪いけど、その、「喰らうメイト」になって悪魔界に逃げてもらえば?一人分なら払ってあげれるし。

どう?」

美紀は勢いよく立ち上がった。

「そうね、そうしましょう。」



今日新聞の広告に「悪魔セールのお知らせ」が載っていた。

普通の人なら見落とすくらいの大きさ。

いやな予感がした。

藤原は新聞をたたんだ。

その時、頭上からラッパの音と共に、ココナッツを胸に当て、腰みのをつけハワイアンスタイルの悪魔が舞い降りてきた。

体型は太ったパグを思わせ、顔は幼稚園の芋ほりでしか出くわさないいびつな形の芋に似ていた。

どことなく見覚えのある姿に藤原はココアをふきだした。

「は〜い、藤原はん。喰らうメイトですわぁ。

ケルベロスさん、ロキさんがたった今同時に、藤原食って来いと命令されはったとこです」

ソイツは藤原をみて不思議そうにこう言った。

「あんさん、どっかで会うたかいなぁ?」

「あははは・・・ははははは・・・。

・・・なんで?」

藤原は力なくつぶやいた。

「知りませんがな。お宅に恨みでも持ったはるんでしょう。

とにかく、どちらか選んで喰われなはれ!ほな、よろしゅうに!」

その時電話がなった。


電話にかけてある、おかんお手製のかわいいレース編みをひっぺはがし、電話を取る。

「・・・もしもし」

「ああ、藤原?私。可奈子。

うまく喰らうメイトになったわね。

もうすぐ花子連れていくから、逃げる準備しておいてよね。」

藤原は電話口に座り込んだ。

喰らうメイト・・・。悪夢がよみがえる。

電話を置いた途端、また、鳴り響く。

美紀だった。


「ごめんね。お願い。うまく逃げて。」

おかんが後ろから声をかける。


「あんた、可奈子ちゃん来はったよ。」

藤原はおかんの顔をしばし、眺める。

「・・・マズイ。」

そして風呂場の小さな窓から飛び出た。


可奈子がつまらなそうに玄関でうろうろしている。

おかんには見えるハズはない。

たてがみをなびかせてるあのケルベロス。大きさはラブラドールくらいだが、恐ろしい牙に大蛇の尻尾。

そして首には真っ赤なリボンが結ばれていた。

藤原はヘブンデイズに向かって走り始め、真正面に美紀を見つけ、すっころんだ。

美紀の横にロキが歩いていた。

以前よりかなり体格は小さく、ヴィゴさんによく似ていた。

以前に比べて顔がかなり優しくなっていた。

美紀が手をふった。

「おーい、藤原さん!!」


あわわわ。

喰われる・・・。

藤原はダッシュしたが、ロキにかなうわけもなく、簡単につかまった。

「またこのバカ人間を喰えってか?美紀?」

「バカ人間じゃないわ。藤原さんよ。食べちゃダメよ」

美紀はにっこり微笑んだ。


「うまく喰らうメイトできたわ。

はい、これチケット。ゴンドラに乗らなくちゃ行けないでしょ?」


「・・・。悪魔界に逃げ込めってことですか・・・。」


「うん、そう。私達追いかけていくわ。

悪魔界に行けば天界のヴィゴの噂、聞けるかもしれない。」

ロキが大口を開けたので、藤原はすっころんだ。


飢えるカムに飛び込み、一つ目女に「またアンタ?」と笑われる。

「そんなあわてていかなくていいわ。って、もう行っちゃった。」

藤原は慣れた手つきでゴンドラを操縦し悪魔界を目指した。


悪魔界はなぜかお祭り騒ぎだった。

太郎と再合体した藤原はあわててカーニバルの群れから身を隠す。

改造人間が自分たちの体の機械を見せながら歩いている。

中にはロバートやサラもうれしそうに歩いていた。

モルボイも空飛ぶ円盤を腰から下につけ、ひゅんひゅんと、飛び回っている。


「ロバート!!」藤原が声をかけ、二人を驚かせた。

「藤原か。久しぶりだな。また喰らうメイトだろう?新聞はその話題で持ちきりだ。」

あきれた顔のロバートに藤原は説明した。


「ロキが人間も食わず、ベジタリアンとは信じられんな。神帰りも夢じゃないぞ。

そうだ!ニュースだ!天界に新しい王が誕生した。驚くぞ!!

なんと・・・ヴィゴだ。」


藤原は知っていたが、ロバートが得意そうなので、「えええ!!」と言っておいた。

「なんでパレードをしてるんですか?」

藤原はロバートのハワイ風の腰みのを呆れ顔に見つめ、つぶやいた。

「ああ、これか?今悪魔界で流行ってるんだ。ハワイアンがテーマだそうだ。

メルメロン商店の商品。ヴィゴ商店が潰れちまった今、メルメロンが牛耳っている。」


「ヴィゴさんが聞けば悔しがるだろうな」と藤原はつぶやき、サラと微笑み合った。

「改造人間が認められた。悪魔界の教会が正式に私達の村になる。それに天界では我々の技術を必要としている。なにせ建てなきゃならない建物がたくさんあるんだからな。それ相当の報酬ももらえるし。見ていろ!今に悪魔界一の街にしてみせる!!」

「ヴィゴさんも喜んでくれるでしょうね。」藤原は言った。

「そうだな・・・。いつか、来てくれるだろう。彼がメルメロンに勝ち続けさせるわけがない。」腰みのをふりながらロバートは言った。


稲妻もあれだけ、改造人間を馬鹿にしてたくせにちゃっかりパレードには参加していた。

タワシとスリッパがくっついた便利グッズを宣伝しながら。

「ああ、藤原!久しぶりだ。この商品さ。メルメロンは置きたくないそうだ。

藤原、いらない?」

「多分、スリッパとタワシって履きづらさに問題があると思うよ」

「マジ?頭いいな〜。じゃあタワシと長靴をくっつけてみよう」

藤原は(タワシは変えないんだな。それにしても稲妻って案外ヴィゴさんといいチーム組めるかも。なんだか発想が・・・似てる。)と思った。


「だめだよ、藤原、ちゃんと逃げないと。」聞き覚えのある声がする。

可奈子だった。

「喰うぞ!!」ロキが笑いながら言う。

美紀が「ゴメンゴメン、ロキ、ひどいこと言わないでよ。とにかく魔王に会いに行きましょう。」と言った。

ロキと美紀が幸せそうに並んで歩いていく。




楽しげに騒ぐ街をヴィゴはびしょぬれになりながら足早に進んだ。やはり塔の下の方は海水がたまっており、悪魔界に来る為に少しもぐらなければいけなかったのだ。

(なんだ?この騒ぎは?)ヴィゴはつぶやく。


悪魔達の視線の先を見て、ヴィゴは思わず叫びそうになる。

(親父!!)

だが、ヴィゴの知ってるロキではなかった。

猛々しい表情はなく、どこかイタズラっぽい表情に変わっている。

盛り上がる筋肉も見られず、体格はヴィゴとそっくりだった。

ロキは神の一人だというコトが、ヴィゴには今、納得できた。

そして側を美紀が歩いている。


オレの母親だった女性。

ヴィゴは食い入るように見つめた。


ラファエが心で何か叫んでいたが、ヴィゴはそれどころではなかった。

自分の両親を目に焼き付けたかった。

二人はとても幸せそうだった。

今、ここから飛び出し、二人にいきさつを話せば?

もしかして力を貸してくれるかもしれない。

だってオレの両親なんだから。

ヴィゴは駆け寄りたい気持ちを必死で抑えた。


わかっていたのだ。

・・・あそこにオレの居場所はない。

二人を困らせるだけだ。

ラファエは喚き続けたが、ヴィゴは無視した。

(逃げるのか?親父に復讐してやればいい。お前を捨てた母親を罵ってやればいいんだ。)

ヴィゴは逃げるようにその場を去った。


藤原は視線を感じて振り返ったが、そこには黒いローブの男が隠れるように逃げていくのが見えただけだった。

「あれ?ヴィゴさん?」

可奈子が「藤原!花子抑えててよ。逃げちゃう。悪魔界が怖いのよ。悪魔のクセに!!」


ヴィゴさんだなんてそんな訳ないよ。気のせいか。

藤原は花子を押さえに行った。

「大丈夫だよ、太郎もついてる。」


ヴィゴさんがこんなとこにいるはずない。

天界の王になるんだから


「ロキ、再び喰らうメイト。街にカムバック」と書いた新聞をヴィゴは思わず奪い取った。

「なにすんだ!コイツ!」

ヴィゴにつかみかかろうとする露天商のグールはヴィゴの目を見て恐怖にたじろいだ。

「ナンだ?あの男・・・やばいぞ。殺されるかと思った。」


藤原が再びターゲットになっているのを見てヴィゴは軽く笑った。

(運の悪いというか、いいヤツ、というか。)

飼い主が美紀。

そして対する悪魔は花子。飼い主は可奈子。)

グールはヴィゴに話しかけた。


「・・・あんさん、ロキに恨みを持ってる一人か?無理無理。今度のロキは違う。

ありゃ、人間を一人も喰ってない。

なんでも天界に出向いて神の位に戻してもらいに来たらしいぞ。」

ヴィゴはグールを見つめた。


「どういうことだ?」


「知らん。神に戻りたいんやろ。

悪魔が人間も喰わずによく我慢してこれたよ。魔王も驚いてるらしい。」


(ロキが神に戻る?笑わせるな!)ラファエが叫んだ。

急に顔つきが変わったヴィゴをグールはクワバラクワバラと、その場をさった。


ロキが神に戻る。ということは?

オレの中の悪魔の血がなくなるってことか?

(なくなるものか。お前は天使の肉を喰っている。)ラファエはののしった。


ヴィゴはローブをより一層かき寄せた。

ロキ達がむかった魔王の浮遊城は今、改造人間たちによって修理中だった。


魔王ははりきっていた。

魔王の長虫が死に、その魂が魔王のところに還ってきて驚くべき報告。

ヴィゴが天界の王になるというのだ。


そして今、魔王は天界を乗っ取る作戦を立てていた真っ最中だった。

ベルセルクが窓からロキ達が歩いてくるのを発見し、魔王に報告した。

(ロキ!あやまりにきおったのか?)魔王は、はめていた双眼鏡を丁寧に外しロキを迎え入れた。美紀達は城の外で待っている。


「ああ、ロキ。久しぶりだ。」魔王は大げさに感動してみせた。

「ナンだコレ?」

ロキは丁寧にクーピーで色分けされている地図をベルセルクから奪い取った。

「天界をのっとるつもりか?」ロキはあきれて言った。

魔王は誇らしげに答える。

「・・・そうだ。今はヴィゴが王。チャンスだ。天界は・・・私のモノだ!!」


「ふうん、魔王らしい発言じゃないか!一体どうした?天界に媚びるのをやめたのか?」


「ヴィゴに恨みがある。一緒に天界を治めようと言ったが、イヤだといいよった。」


「そりゃウチの息子が失礼したな。」


「私は議員ドモの秘密を突き止めたのだ。

あいつら、人間との合体生物だった。

合体センターの帳簿を調べさせた。

ルーとかいう堅物の天使に教えてやったら腰を抜かしよったわ。

ロキ、昔、お前が天界から追い出されたとき、お供についてきた神3人を合体センターに売りつけただろう?議員どもはそれを材料に合体したらしいぞ。 

天界はお前を突き出すよう要求してきている。

というコトでお前を天界に渡す。

もしくは私と天界を乗っ取る、どっちがいい?」


「オレは悪魔界の方が性にあってるんだが」


「じゃあ、共に天界を乗っ取ろう。」


「アンタ、結局誰でもいいんだな」ロキは少し呆れ、城を出た。

理由はともあれ正式に天界から呼び出しがかかったのだ。

ロキは美紀達を連れ天界を目指した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ