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第十一話

ヴィゴは部屋の隅に縮こまってる静香を心配そうにみやった。

「慰み者にでもするんだな」と魔王にあてがわれた女が静香だったのだ。

「・・・何もしないから、心配すんなよ」

「・・・。」


静香はヴィゴを怖かったわけではない、というのを知らせたくて思い切ってヴィゴに近づいた。ヴィゴは淋しそうに窓から外を眺めている。

静香が近づいてきたのをみてヴィゴは淋しく微笑んだ。


「ラファエ様って皆は言うけどオレにとったらグリフだ。友達なんだよ。

自分で自分が止めれなくなってるんだろう。怒りが制御できないんだ。」

・・・オレなら止めれるのか?とにかく行ってやらなくちゃいけない。

静香はヴィゴの肩に手を廻した。


ヴィゴは自分の手を静香の手に重ねた。

「オレは好きな女と一緒に暮らし、ささやかな家庭が作りたかっただけだ。

アビリルの時も叶わなかったし、静香の時も・・・。

そんなささやかな幸せさえ許されないのかな・・・。」


静香はたまらず、かがみこみキスをした。

ヴィゴの唇は、静香のキスを驚いたように受け止めた。

「・・・有難う。うれしいよ。」


ヴィゴは照れくさそうに微笑み、静香は窓に近づいた。

天界は相変わらず雷を落とし、この城にもいつ落ちてくるかわからない。

このとき、浮上していた城に雷が直撃した。


部屋中の飾りモノが音を立てて床に転がる。ヴィゴは床に叩きつけられ、気を失った。

城が騒がしくなる。

「ヴィゴ!」静香は駆け寄った。

「天界のヤツらめ!!」

ベルセルク達が叫んでいる。


牢屋が壊れ閉じ込められていたルーが静香を探しにきた。

「アビリル?大丈夫か?」

「ヴィゴが!気を失っちゃったの!」

「天界が魔王に攻撃を仕掛けている。

ヴィゴを渡さないからだ」

第二の雷が城を直撃し、再び床に突っ伏した。

ヴィゴは目覚める気配はない。


ヴィゴは霧の中でグリフに出会っていたのだ。

グリフは体が炭のように真っ黒になっていた。

(議員のやつら、ボクにいやな子を与えたんだ。その子、ボクにいやな事、思い出させた。)


記憶が一気にヴィゴになだれ込んだ。

女が泣き叫ぶ中、手から赤ん坊を取り上げる。

その女は驚くほど美紀に似ていて、赤ん坊を取り上げていたのはルーだった。


天界人たちが広場にあつまり見物する中、美紀にそっくりの髪を刈られた女は真っ黒に塗りたくられ、虚無の国におとされた。

一人の男が広場に現れた。

「・・・私の妻を殺したのか?議員、いつから命令に逆らうようになった?」


「天界を見捨てた貴方に命令される筋合いはない。女一人、満足させれず情けない男よ。

貴方さまも、いい加減出かけられたらどうです?虚無の国はあちらですよ」


広場の群集からは忍び笑いが聞こえ、男は呆然と立ち尽くした。

「貴方様が女にうつつを抜かしている間、人間界に悪魔が暴れておりました。神界がお怒りです。責任を取っていただかないと。」


広場に移されたモニターには史上最悪の兵器が映し出されていた。

「ラファエ殿、怠慢でしたな。」

「人間に新しい太陽を与えたのはお前達だ。

人間は・・・頭がよすぎる。その威力に気づき、兵器として使うことがわかってたのだろう?」

議員達は立ち上がり、女に塗りたくった黒い液体をラファエと呼ばれた男にかけ始めた。


「下らぬ事を。我々は人間に新しいエネルギーを教えてやっただけの事。

感謝されこそすれ、責められることは何もない。

現に今、人間ドモはそれがないと生きてはいけぬではないか?

汚れた神よ、目の前から消えるがよい」


群集も一団となり、ラファエを責め始めた。

ラファエの着ていた真っ白のローブは黒くよごれ、美しい金髪もどろどろになってしまった。


ラファエはよろめきながら、虚無の国に身を躍らせた。


その様子を物影から見つめていたルーは止める様子もなく、赤ん坊を抱き悪魔界へと旅立っていった。手には殺すためのナイフが握られている。ちらっと産着がめくれ、ヴィゴは赤ん坊の腕に自分と同じ、入れ墨が入れてあるのを見つけた。


ヴィゴはがばっと起き上がった。

あたりを見回し、ヴィゴはルーを見つけた。


「・・・お前。オレを殺そうとしたのか?」

ヴィゴはルーにつかみかかろうとし、雷の衝撃で床に倒れた。

ヴィゴは床にはいつくばったまま、怒鳴った。


「何が天界だ。悪魔以下じゃないか!よってたかって人をいじめて、虚無なんかに突き落として!天界人なんて皆死ねばいい。オレにかまうな!」

かけよる静香にヴィゴは怒鳴りつけた。


「なんでキスなんかしたんだ?

ルーに頼まれたのか?ヴィゴを手なずけとけってか?」


「違うわ」静香はヴィゴの剣幕にたじろぎながらも答えた。

「記憶はないけど、もう一度やり直せると思ったのよ。

なぜ、昔の私が貴方を愛してたのかわかるから。」


ヴィゴにかけよった静香を乱暴に突き飛ばした。

「近寄るな!」


雷はさっきとは違う反応をしだした。

天に跳ね返るようになったのだ。

静香が不思議そうに窓から顔を出すと、巨大なドラゴンが城、めがけて飛んできて静香を驚かせた。


「やっと見つけたぁ、改造人間達が今、雷を鏡でもって跳ね返してるんだ。

キャンペーン中止のお礼に魔王の城を助けるんだ。

でも君達は早くお乗りよ。ロキが待ってる。

バイセン村でね。お腹が痛くて動けなくなったんだ。」


ルーは静香を引っつかみ、ドラゴンに乗せ、ヴィゴを乗せようとした。

「・・・オレにかまうな、ココで死ぬつもりだ。」

「アンタを死なせるわけにはいかない。」ルーが言った。

「・・・王さえ現れれば。ヴィゴ、天界に行ってくれ。私も天界に向かうから。」

ルーはヴィゴをドラゴンにのせ、自分は窓から身を躍らせた。


「ああ〜、怖いよう。」ドラゴンは泣きべそをかきながらもロキたちのいるバイセン村へと飛んで行った。

日も落ち、天界の雷がますます酷くなっている。

だが改造人間達もがんばって跳ね返していた。


ヴィゴたちは古い要塞跡で朝が来るのを待つことにした。

枯れ葉を集めてきてドラゴンが火をつける。


「天界なんてどうやっていけばいいんだよ。道順くらい、教えてくれたらいいのに。

ホント、ルーってどっか抜けてるよな。

いちいちうるせーくせに肝心な事言い忘れるんだよ。

ドラゴンさんよ。マジでロキがバイセン村にいるのか?」ヴィゴが聞いた。


「うん、ヴィゴに会いたいんだってさ」

「親父がオレに会いたい?なんで?」

ドラゴンは不思議そうに目をしばたかせた。

「そりゃあ、自分の息子さんだからさ。」


ヴィゴはドラゴンに背をもたせ、遠い目をした。

「息子だからか・・・。

まあ、オヤジなら天界への行き方も教えてくれるだろう。

ついてきてくれるかも知れないしな。」


静香が枯れ葉を両手に抱えてきて、地面にドサリっと置いた。

「この上なら少しはマシかも。ヴィゴさん、どうぞ」

二人はふかふかの枯れ葉じゅうたんの上に横になり天界を見上げた。


「天界は・・・どうなるんだろう?」

「・・・ホント。塔は壊れちゃったし。海は荒れるし。

多分、みんな陸に逃げなきゃ危ないわ。なんにもない土地だけど。」

ドラゴンは恐ろしい煙を鼻から出し寝始めている。


静香は上半身を起こし、ヴィゴを覗き込んだ。

空で光ってる雷がヴィゴのキレイな目にうつるのが見える。

「・・・思い出さなきゃダメ?今の私じゃダメ?」


「えっ?おれ・・・っていうか、静香じゃなきゃ。

君でも・・・アビリルでもない。ごめん。」


静香はヴィゴの胸に顔をうずめ、泣いた。

「一度、・・・抱いてくれない?」静香は勇気を出していった。

「思い出せる気がするの・・・」


「無理するな。天界人がそんな事言うもんじゃないよ。」ヴィゴは静香を軽く引き離した。

「ルーも、アンタにもひどいこと言っちまったな。

グリフの夢見て、頭がおかしくなったんだろう。

悪かったよ。

突き飛ばしたりして。ごめんな。・・・もう、オレ寝るよ」

そういうと静香に背を向けた。


・・・横に静香がいるのに。ホントは記憶なんてどうでも良かった。

今すぐ抱きしめたかった。

でも・・・グリフ、いやラファエをなんとかしなければ。

たとえ命とひきかえになっても。


もう静香を悲しませたくなかった。

巻き込みたくなかった。

ヴィゴの背中が寝ているとは思えないほど上下に激しくゆれている。

静香は一緒に悲しみを共有できないのを淋しく思った。

ヴィゴの背中に自分の背中をくっつける。


「・・・ヴィゴの背中、暖かいわ。」

ヴィゴは逃げなかった。

いつの間にか静香は寝てしまった。


朝、ヴィゴに起こされあわてて飛び起きた。

「案外寝坊スケなんだな。天使様なのにさ。」

昨日の雰囲気と違い、楽しげにのぞきこむヴィゴがいた。

静香は髪についた枯れ葉をとりながら起き上がった。


「天界の様子は?」

「雷が止まったようだ。今のうちにバイセン村に向かえる。

ドラゴン、もう少しがんばってくれ」


ドラゴンは、恐ろしい牙をむき出しにアクビをし、ヴィゴ達を背中に乗るよう促した。

なんだかモジモジしている。


「ぼくさぁ。・・・ミルフィっていう名前なんだ。ドラゴンなんて呼ばないで」

「・・・それは失礼。なんだか乙女チックな名前だな」

「じゃあ、ミルフィ。お願いね。」

静香が言った。


久しぶりの故郷にヴィゴはうきうきしていた。

「何年ぶりだろう。アビリルが天界で殺されちまって以来だ。

世界中を旅して回ったんだ。

最後はセドリックの大学で仕事する事になったけど。そこに、君がいたんだよ。」

「大学?」

ヴィゴは楽しげに想い出を話す。バイセン村に着くまではこの飛行を楽しみたかった。

「楽しそう、行ってみたいわ」静香はつぶやいた。


「ほら、あれがバイセン村だ。」ヴィゴは指差し、ミルフィは一目散に降りていく。

ヴィゴは静香をミルフィからおろし、バイセン村に向かって歩き出した。


「ヴィゴが帰ってきたよ!!」

けたたましい鐘の音とともに村人たちがヴィゴを迎えに飛び出てきた。

セドリックはオイオイと泣き出すし、マルクスはヴィゴを抱きしめ、猛烈に熱いキスをした。

明るい村人の笑顔と裏腹に、ごっつい体をした片足の男がヴィゴについてくるよう促す。


「・・・ロキが呼んでいる。私はロバートだ。」

「ああ、あの・・・ふんどしの。」ヴィゴは何かを思い出したのか咳き込んだ。

ヴィゴは静香を村人の歓迎に任せ、ロバートの後をついていった。

掘っ立て小屋の中にロキはいた。


ロキは苦しそうだった。

「大丈夫だ、すぐに収まる」

駆け寄ったヴィゴにロキが説明した。

「お前が山下から取り出した長虫のせいだ。喰った後に後悔したがな。」

「そんなの喰うなよ・・・オヤジ。大丈夫か?」

長虫に腹を食われロキは痛みをこらえてる。

「もしかして取り出せるかも知れない、オヤジ、そこに横になれよ。」

ヴィゴがかざした手をロキははたいた。


「何スンんだよ、痛えなぁ!」

「やめろ、オレは死ぬんだ。」


ヴィゴは手を撫でながら、

「なんで?せっかく助けられるのに?

オレの昔からの唯一の特技なんだよ。」

ロキは顔をしかめた。

「特技じゃない。能力だ。王の証だ。癒しの魔法は王だけに与えられた能力。

お前は・・・天界の王になる運命だったんだ。

どこでどう、まちがったか、変なヤツに育っちまったみたいだがな。」


「は?王?オレが?」ヴィゴは大声を出し、ロキの腹は猛烈に痛んだ。

「うるさい、でかい声を出すな。・・・指輪は?」


「今は天界にある。ルーが言ってた。

ラファエが嫌な記憶を取り戻してしまったらしくて。オレしか止めれないって。」


「では天界に行け。ラファエには・・・申し訳ないことをした。」

ロキはそういうと乾いた声で笑い始め血を吐いた。


「・・・オヤジ?」


「オレは死んでもまたタマゴになり、人間界で売られる。

またくだらない飼い主に飼われるはめになる。

永遠に抜け出せない運命になっちまった。

愛してはいけない女を愛してしまった報いだ。

でも今回は違う。

最後に・・・息子に会えてよかった。」

ロキはそういうと、地面によこたわった。


ロキは死んだ。


「・・・オヤジ。」ヴィゴがロキにすがりつき、むせび泣いた。

「まだ、何にも話してねえじゃん!

せめて天界まで・・・ついてきてくれよ。

アンタに文句一つもまだ、言えてねえのに。・・・アンタはいつでも勝手だな!!」


ロキはポワンと輝き、ダチョウの卵くらいの大きさになった。

きれいな銀色だった。


オオカミがのっそり小屋に入ってきた。

「・・・ペロ・・・だろ?」涙を拭きもせずヴィゴは子供のようにグスングスン言わせながらつぶやいた。

オオカミはフンという顔をし、

「とんだ天界の王だな。」


そしてロキのタマゴを渡すようにいった。

「イヤだ。」

「ダダをこねるな。渡せ、新たな飼い主がおまちかねだ。」

出口を探し這いずり回っていた長虫をオオカミは踏みつぶした。


「ペロ、オレはどうすればいい?」

「どうしたい?」


「グリフが・・・ラファエがオレに助けを求めてるのなら会いにいきたい。」

「天界に行きたいのか?死者の森から行け。天界と繋がってる古い塔があるハズ。」

「ペロ・・・静香からオレの記憶がなくなってる。」

「よかったじゃないか。悲しませたくないだろう?」ヴィゴはうつむいた。


「結局は・・・そうだな。運命に任せるんだな。」

ペロは肉球をヴィゴの膝にのせて言った。


村ではヴィゴと静香を歓迎する準備が始まっている。

肉を焼く匂い、スープの匂い。

静香が楽しげに村の女たちと下ごしらえをしているのだ。

ヴィゴは小屋からその様子を眺めた。


ロバートがヴィゴの姿を見つけ片足であわてて駆け寄ってきた。

「ロキが死んだのか・・・。

また、タマゴに戻り新たな飼い主と出会うだろう。

会える、生きていれば必ずな。」

ロバートはヴィゴに力強く言った。


「ロバート。オレ・・・天界に行くよ。

皆に知らせないでくれ。巻き込みたくない。」

「・・・彼女は巻き込まれたいんじゃないのか?」

「ルーと一緒になればいい。そう、伝えてくれ。」

「淋しいな、やっとロキの息子と話せると思ったのだが。」

ロバートはそういうと、ヴィゴに黒いマントと食料を渡した。


「気をつけろ。死者の森は危険だ。

自分を信じろ。そうすれば惑わされることもない。

ロキの息子である事を誇りに思うんだ。

お前の母親が愛した男だからな。」


「・・・言われなくてもわかってるよ。」

ヴィゴはロバートに教えられた死者の森に向かい歩き始めた。



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