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第十話

突然、外を眺めていた可奈子が叫んだ。

「化けものがこちらに走ってくる!!」


ソイツは教会の前でヒラリっと止まり、その上に藤原が死ぬ思いでぶら下がっていた。

可奈子の言う白い化けモンとはケルベロスの雌、「花子」だった。

藤原は力尽き、花子から滑り落ちた。

「藤原!!」


花子が彼女なりに心配そうに恐ろしい尻尾を震わせてる。

ソレはシャーシャーと音を立て、みんなをびびらせた。

「ああ、可奈子、美紀もいるんだ。良かった、無事で。ああ、ヴィゴさん。

ふんどしの件はすみませんでしたって・・・ロバートが・・・言ってました」

そこまでいうと、藤原は気を失った。

「あれはロバートってヤツのふんどしだったのか?最悪だな。」

藤原は地下のベッドをあてがわれしばらく休む事にした。


可奈子は上機嫌で何回も地下を覗きに行った。

花子は本当に大きかった。

二抱えほどある太い首に真っ赤なリボンが結ばれてる。

可奈子が階段を駆け上がってきた。

「水が欲しいって。井戸の水は、飲めるのかな?」

静香は可奈子と一緒に井戸を見に行った。

バケツの代わりに情けなそうな顔をした頭蓋骨が使われている。

「ヴィゴに飲ませてみてもいいな。毒見よ。毒見。」可奈子はそういうと、井戸の水を汲んだ。

「ヴィゴ、咽喉渇いてるんなら水あげようか?」「・・・ああ、ありがとう」

まだ、中庭にいた静香は可奈子を止めにいこうと走り出した

「ヴィゴさん!!飲まないで」

ヴィゴは躊躇なく頭蓋骨からぐびぐび飲み乾した。

「なんか、ションベン臭い味がする。可奈子のか?」

「違うよ、臭いなら、藤原には飲ませられないわ。水が欲しいんだけど。」

可奈子が心配そうにつぶやいた。

「そうか、藤原が飲みたいなら、ヴィゴ様が一肌脱いでやろう。

おい、可奈子、火を起こせ。水を煮沸してだな、この桶にためてだな。」

静香はため息をつき、美紀がいるベンチに座った。


「私、人間界では友達なんていなかったから、あの二人見てると楽しいの。

お兄ちゃんも・・・。始めは優しかったのに、突然人が変わっちゃって。」

「つらかったのね。」静香は美紀の肩を抱き寄せた。

美紀の肩は改造されていてとても冷たかった。

(天界では1・2を争う美しさを持っていたロクサーヌが・・・。改造人間になってしまうなんて。)

「ロキに会いに来たの。

私を喰わずに逃がしてくれた。

あのときのロキの目。忘れられない。

ロキはね、本当は私が飼う予定だったのよ。

誕生日の日にベッドにタマゴがもぐりこんでて。」

「タマゴがベッドに?ロキのタマゴなんて人間界ではものすごく高いはずよ。

誰が置いたのかしら・・・。

あなたにロキを育てさせようとしたって言う事?」

「知らない。でも私恐竜の卵だと思ったの。

お兄ちゃんに見せてあげた。

その瞬間からお兄ちゃんは人が変わったようになっちゃった。」

(悪魔のタマゴを前にすれば、その人の最悪の感情が表に出てきてしまう。

この子のお兄さんはもともと少し乱暴な子だったのね。)

このとき、ヴィゴは笑顔で頭蓋骨をさしだした。

「咽喉渇いてない?」

二人は猛烈に首を振った。

「そうか・・・。花子!!水飲むか?」

花子がヴィゴに甘えてきて、ヴィゴの手から水を飲み始めた。


「ヴィゴ!!藤原が呼んでる、大事な事を伝えたいんだって。」

ヴィゴが藤原の下に行くと、藤原は弱った体を起こしながら言った。

「まだ、きつそうだな。オレ様が治してやろう」ヴィゴは軽く藤原に手をあて、目をつぶる。藤原の表情が和らいだ。

「なんだか、体が楽になりました・・・。って!うわっ、ヴィゴさん、やめて下さい!」

「ナンだよ、回復してやったのに。」

「すみません、いい忘れた大事な話が。

ロキさんが、ヴィゴさんに、癒しの魔法使うなって。悪魔界で使うなって」

(マジ?使っちまった。とヴィゴはつぶやいた。)


「美紀さん、山下が街で悪魔達にいじめられてたのを白い人たちに助けられてました。

ロキがいうには天界人だそうです。そのまま連れて行かれたみたいなんですが、ボク、追いかけようと思ったらベルセルクにつかまってしまって。裁判の呼び出しがかかったんです。山下も一人で悪魔界にいるより、天界の方がマシですケドね。」

美紀が息をのむ。

「天界に?お兄ちゃんが天界にいるなら、私行くわ。」美紀が言った。

「一人で行かせるわけにはいかないよ。私たちもそこにいく。ねえ、藤原。」

可奈子が力強く言った。

「私、とにかくルーさんたちにも知らせてくるよ。天界人だから一緒に行ってくれるかも。もしかしてお兄ちゃんのこと、なにか知ってるかも。」美紀が駆け上がっていく。

ルーは美紀から事情を聞くと地下に怒鳴り込んできた。


「天界に行く?今は危険なんだぞ。」

「美紀の兄貴がいるんだよ。危険だったらなおさら助けにいかねえと。なあ、美紀。オレも行くよ」

ヴィゴは言った。

ルーが声を震わせる。

「兄が天界にいるのか?」

まさか、あの少年?

「なんか、知ってるの?お兄さん?」

可奈子が言う。

「いや・・・。」ルーはごまかした。

静香は藤原たちについて行こうとしたが、ルーは止めた。

「アビリルは私とココに一緒にいてくれ。」

「・・・ナンだよ、お前らイチャイチャするな!二人にさせるものか!」ヴィゴが不機嫌そうにつぶやいた。

「ルー。お前、天使なんだろ?女に手、出すんじゃネエよ。」ヴィゴとルーが睨みあってると藤原達は待ってられないとでもいうように、

そそくさと通路に入っていった。


「待てよ。ガキ3人で危ないって。オレも行くから。」

3人を追いかけようとするヴィゴをルーは振り返らせた。

「・・・なんだよ。」

「ヴィゴ殿。

ラファエ様は生け贄の失敗により天界にとって脅威の者となってしまった。」

「・・・脅威の者?ナンだそりゃ。」

ヴィゴはポカンとした。 

「・・・アンタの持っていた指輪に天界の王、ラファエ様が入っていたのだ。知らなかったのか?長年持ってて?なんと鈍感なヤツだ。」

「そんなの知らねえよ。指輪の子?ああグリフのことか?アイツはそっとしておいてやらなきゃダメなんだ。アンタ、いじめたのか!!オレの友達なのに?」

「指輪はラファエ様なのだぞ。グリフなぞ、勝手に名づけるんじゃない!」

ヴィゴは、それが?という顔をした。


「グリフはオレの友達だ。それより天界はどうなる?」

「ラファエ様が記憶を取り戻し、それは天界に溢れ出てきている。ラファエ様が事実上まだ、天界の王なのだ。神界は怒りに狂ってる王なぞ見捨てるだろう。天界は虚無になる。」

「神界が見捨てる?なんだよ、それ。」

「神界は我々天界のそのまた上におられる神の世界だ。そこから幾人か神が天界に出張してこられる。

まあ、出張してくる神も修行という形で来られるのだが。」

「そんなこと、どうでもいいよ。

それより天界が虚無になるんなら、可奈子達どうなるんだよ!連れ戻さなきゃ。」

ヴィゴがパイプオルガンの通路に駆け寄るとどーんと、教会が揺れた。

パイプオルガンの道が崩れ落ちた。

「・・・最悪だ。あんた、人殺しだよ。」ヴィゴがルーにつかみかかった。

静香があわてて引き離す。

「時間はたっぷりあるわ。天界の入り口はココだけじゃない。あきらめないで。」

ヴィゴは静香になだめられ、教会のイスに乱暴に座った。

「虚無って裁判所の橋から落ちたやつが行くところだろう?永遠に落ち続けるっていう。」

「そこは虚無の狭間だ。虚無の国とはまた違う。狭間には底がない。

本来の虚無の国は天界の処刑場とつながっている」

静香が心配そうに二人を見つめていたが、

「・・・なんか焦げ臭くない?」とつぶやいた。


にらみ合ってた二人は窓に駆け寄る。

ベルセルクたちは巨大な刀を抜き、ドラゴン達は教会の周りに火をつけていた。

「・・・戦わねば。」ルーが言う。

「なんでそんな結論なんだ?あの化けもんと戦えってのか?イヤだね。」

ヴィゴが窓を覗き、声を荒げた。

「なんなんだ?あのどてかい刀。サーフボードくらいあるぞ」

ルーは静香を抱き寄せ、静香は外を見守る。

その様子を腹立たしげにヴィゴは見ていたが、ルーが止める間もなく、ふいに外に飛び出した。

「待て待てったら。」ヴィゴは叫んだ。

ベルセルクはヴィゴの姿を見た途端、刀を下ろし、ドラゴンは自分たちのつけた火を必死で消した。

「貴様、プリュキトスか?やっと見つけた。右腕に入れ墨を持つ男よ。魔王様より話がある。」

「オレの居場所を教えたのはモルボイなのか?無事なのか?」

「殺しはしない。動けなくしただけだ。」

「・・・改造人間の部品は高く売れるんだ。道端で動けなくなったら、それこそ悪魔ドモが群がり、部品を剥ぎ取る。

死ぬ事も叶わず、助けも呼べない。殺すよりひでえじゃねえか!」

すると後ろにいたルーがつぶやいた。

「改造人間なぞ、滅びてしまえばいい。神から与えられた命をロボットにすり替えた罪深い奴等」ヴィゴは振り返り、ルーにつかみかかった。

「お前!美紀も同じ目に合せれるのか?

美紀は六さんなんだろ?」

「今は違う。ロクサーヌなぞではない。前世がロクサーヌだっただけだ。」

「じゃあ、そこの静香はどうなんだ?前世がアビリルで、アビリルの時の記憶がもどり、静香の記憶がなくなっちまっても?そこにいるアビリルさえ生きてれば静香としての記憶はなくなってもいいのかよ。静香を返せ!」

「私は何もしてない」自分が記憶を消した事を棚にあげ、ルーはつぶやく。

二人が言い争い、ヴィゴが完全にベルセルクに尻を向けた。

ベルセルクは「無視するんじゃねえぇぇ!」

と叫んだ。

「魔王様が来る。敬礼!」

上を見上げると魔王の浮遊城が近づいてくる。

フィーンと降りてきた階段に劇的なポーズで降りてくる男。ヴィゴたちは息を飲む。


アイ アム 魔王。

超ゴージャスなマントをはおり、見えている肌は真っ黒く、時々練炭が燃えるように赤く光る。

「・・・ロキの息子だったのだな・・・モルボイに聞いた。・・・いい男じゃないか。」

魔王は巨大な体を華麗にくねらせながら挨拶した。

ヴィゴは体を固くし、魔王の視線から目をそらせた。

「貴様、天界人か?・・・反吐がでるわ。」魔王はルーをにらみつけた。

「魔王よ、議員の言いなりになり次はヴィゴを突き出すつもりか?」ルーはバカにしたように言う。

魔王は怒りに体を膨らませた。

あたり一面、マグマがあふれ出す。

ベルセルクたちは飲み込まそうになり、あわてて近くのドラゴンに乗り、回避した。

「ああ、うるさい!何も突き出すとは言ってない。コイツ街の合体センターに売りつけろ。ヴィゴ殿だったな?私の城を案内しましょうぞ」

「・・・いや、コイツも一緒に。一応・・・仲間だから。」ヴィゴはつぶやいた。

ヴィゴたちは城に連れ込まれた。


「ヴィゴ殿、こちらへ」悪魔界を見渡せるゴージャスな部屋に案内されヴィゴはキョロキョロした。

「どうぞお気楽に。」魔王は着ていたマントを脱いできた。

驚くことに黒い肌に見えてたのはよろいで、肌の色は白く、病弱な男という印象を受けた。

ソファーに座り込んで、ベルセルクが出してくれた紅茶をすすっていたヴィゴが、妙に近づいてきた魔王に警戒した。

「・・・オレ、言っとくけどアッチの趣味はないから。」 

「・・・。貴方の腕のしるしがみたいのだ。」

ヴィゴは、ああ、とした顔をし腕を捲り上げて見せた。

「コレだ。蛇が絡みあってる?お互いを喰いあってる?みたいな。シブイだろ?」

「どうだろう?腐れ神の飼い主よ。力を私にくれ。そして天界を我々の手に治めよう!」魔王は一人でもりあがった。

ヴィゴは、は?という顔をし、

「アンタの世界はココだろう?悪魔界で満足しろよ」

「天界のやつらが何かと口出ししてくる。

私は所詮、この世で最初の汚物から生まれたもの。バカにしているのだ。」魔王は腹立たしげに言った。

「汚物?プリュキトスよりマシだよ。そんな事いうやつは無視だ、無視。」

「天界を無視なぞできるか。」魔王がつぶやいた。機嫌悪く、悪魔界を見下ろす。

「パワーが欲しい。悪魔達は私をバカにしている。」

「悪魔達にアンタが嫌われてるのはアンタが悪いんだよ。

モルボイが言ってた。この間も改造人間狩りがあったって。

なんでそんな事するんだ?

別に悪さするわけじゃないんだろう?改造人間狩りがあれば、ヴィゴ商店の売上も落ちるんだ。カンベンだよ。あんたら、まちがって人間も殺すじゃん。血のレートもむちゃくちゃになるし。そうだ!マジでさ、アンタ、天界よりイケテる世界作ってみろよ。神界ってやつでばっちり認められればいいじゃん。」

ヴィゴが魔王に提案した。

魔王は「・・・簡単に言うな、殺されたいか?」といい、ヴィゴを黙らせた。

天界よりイケテる世界を作れ?

同じような事を大昔、ロキにも言われた。

「お前は魔王なんだぞ。

悪魔界のリーダーなんだ、しっかりしろ。

天界はお前が思ってるほど立派なモンじゃあない。神界は、天界も人間界も悪魔界も平等に見ている。生まれなんて関係ない。与えられた境遇で、どう生き抜くかだ。」

・・・ロキの言うとおりなのか?

私は天界を意識しすぎてるだけなのか?

改造人間なぞ、どうでもよい、勝手に生き延びるがよい。

そう思ってる私をののしり、改造人間撲滅運動のキャラクターにまでされてしまった。

確かに血のレートが狂う。血持ち悪魔達は私をうらむのもそのせいだろう。


魔王は街のパトロールのベルセルクを引き上げるよう命令を出した。天界の様子がおかしい。そちらの警備につけ。

街には即座に命令が伝わった。

ベルセルクたちは今、まさに人間コロニーを襲うところだったが命令を聞くといちもくさんに浮遊城に帰りはじめた。

街は大喜びだった。

ロバート達も胸をなでおろした。今、まさにロバート達の隠れ家にベルセルクが入ろうとし、小型爆弾を投げつけるところだったのだから。

ひっさびさに悪魔界に声が響いた。

「魔王万歳。」


静香は牢屋の隅に縮こまっていたが、魔王に近づかれおびえていた。

ルーが前に立ちはだかるが、ベルセルクが払いのける。

「この女は高く売れるだろう。」

魔王は静香の顔を持ち上げ、よく見た。

「それともヴィゴの慰みモノに置いておこうか?連れて行け」

「これからどうするつもりだ」ルーが聞いた。

「ふん。腐れ天界を頂く。」魔王は今までとうって変わった恐ろしい調子でつぶやいた。


藤原達が天界を目指して歩いていたパイプオルガンの通路は音をたてて崩れ始めた。

「急ごう!閉じ込められる!」

藤原達は花子にとびのり、おおいそぎで天界を目指した。

天界は一面海で藤原達を驚かせた。

波が高く家を襲い、たらいやら、歯ブラシやらいろんなものがぷかぷか浮いていた。

空は悪魔界より陰気な雰囲気が漂っている。

街を取り巻く黒いモンヤリした霧のせいで、街全体の色がなくなり、グレー一色と化していた。


「・・・なんでだろう、懐かしい気がする。」

海を眺めながら美紀がつぶやいた。

天使達は藤原達がバシャバシャと水を蹴りながら歩いていくのをぼんやりと眺め、咎めもしない。

悪魔と、半悪魔の藤原が歩いてるっていうのに。

しばらく歩きつづけると街の中央に白い巨大な塔が聳え立っているのが見えた。


「なんか、病院みたい」可奈子がつぶやく。

どうやらその塔から黒い霧のようなモノがあふれ、天界を暗くしているようだった。

入り口はきっちりと閉ざされていたが、見張りがいなかったため、藤原達は遠慮なく入る事にした。

美紀が「お兄ちゃんがココにいる気がする」と言ったからだ。

花子は塔に入るのをいやがり、外で待つ、と言って聞かなかった。

花子を外に待たせ、塔に入り込む。


塔の中はひっそりと静まり返っていた。

透明なエレベーターに可奈子は興奮し、3人は乗り込む。

エレベーターは勝手に止まり、3人は外に出た。

美しい装飾が施されたドアが半開きになっていた。覗き込むとどうやら礼拝を行う場所のようだった。

しかも特別室のようなカンジ。

「なんだか王様とかがお祈りする場所みたい」

美紀がヴィゴ商店の十字架をかかげ、祈りを捧げた。


礼拝堂の奥に別の通路があった。

「なんだろ?いってみようよ。」可奈子がヒョィと覗き込んだ。

そこは礼拝堂には似つかわしくない怪しい雰囲気の部屋だった。

「ふうん、礼拝堂っていった事なかったけど、台所もあるんだ。

まな板にしちゃデカイね。」可奈子が真剣につぶやく。


美紀がまな板?という顔をして可奈子の後ろから覗き込んだ。

可奈子がまな板と呼んだ美しい祭壇は、血にまみれていた。 

その部屋の奥に何人かのモノが蠢いているのを藤原は太郎の耳で感じ取った。

(誰かいる。見つからないように)藤原はつぶやく。

(何してるんだろう?)可奈子がつぶやく。

美紀があたりを見回すと、小さなはしごがかかっており、天井部屋にあがれるようだった。

(あそこに登って見てみようよ。)

二人は頷き、はしごをのぼる。

天井部屋はホコリっぽく、藤原達は咳をこらえながら進む。

下をのぞくと、3人の白いマントですっぽり体をおおった奴等が祭壇の周りでなにやら祈っていた。祭壇の上にはなにやら蠢くものがあり、白い布がかけられている。


(気持ち悪い、オカルト集団みたい)可奈子は鼻にしわをよせ、つぶやいた。

ソイツラが祭壇の周りに火を焚き始め、

「ああ、なんということだ。ラファエが蘇ってしまった。」とつぶやいた。

「このガキ、ラファエと何か共通の記憶でも持っていたのだろうか?」

「ありえん、こんなガキは早く燃やしてしまおう。そして一刻も早く、アイツを探し腐れ神を利用してラファエの溢れた記憶を吸い込ませるのだ。」

ソイツラは布をはぎとった。

なんと祭壇の上に山下が寝転んでいたのだ。


(お兄ちゃん!!)美紀が叫びそうになり、可奈子と藤原が揃って口をおおう。

山下の出血は酷かった。しかし、そのモノたちは山下にかまうことなく自分たちの祈りを続けている。

何度か、炎が上がり、炎の中に恐ろしい顔が浮かんだ。

「おお、魔王。待っておった。指輪を破壊しようとしたら、ラファエの記憶が天界にあふれだした。あいつは未だに天界の王だったのだ。

神界め、他に王の予定がなければラファエの次にお前らが王になれ、と言いおったくせに。」

ソイツラが炎に駆け寄る。


炎の魔王はブスブスくすぶった。

「なんだと?魔王よ。

腐れ神の飼い主を確保したのか?でかした。少しは役に立つのだな。

何をしている。早くここに連れて来い!!

ソイツの腐れ神でラファエを飲み込ませよう。」

議員達は炎に向かって話しかけ、炎はブスブスとくすぶり、消えた。


「迎えに来いだと?魔王め、態度をかえやがって!!悪魔界に見せしめの雷を落とそう。」そして3人はその場から立ち去った。


その隙に美紀ははしごを下り、祭壇に駆け寄って言った。

「お兄ちゃん!!」

山下はうっすらと目を開ける。

ドキッとしたようだった。


「・・・なんで?そうか。ここは天国だからか。美紀も天国に来れたんだ。」

「大丈夫?とにかく逃げなきゃ。可奈子さんも来てるわ」美紀が山下をおこそうとした。

「可奈子・・・お前も死んだのか?」

「失礼ね、死んでなんかない!」はしごを降りながら可奈子が言う。

「ヴィゴさんなら、血を止めれるのに。」藤原が天井部屋からひらりっと飛び降り、残念そうにつぶやく。

美紀がとりあえず縛ったうでから、まだ、とめどなく血が流れていた。

「フン、藤原まで。ロキに喰われなかったのか?マズすぎるからか?」

藤原は軽く無視をし、山下をオンブした。


そのとき、美紀が小さく叫んだ。

議員の一人が戻ってきたのだ。

「ガキを燃やすのを忘れたと戻ってみたら、なんだ?お前ら?」

皆は駆け出したが、美紀と可奈子が捕まってしまった。


「なんと、ラファエの女にそっくりだ。

驚いた・・・。この女、使えるぞ。

残念ながら改造されてるが、人間と合体しておけば改造してることはラファエにはわかるまい。」

他の議員達も何事かと戻ってきた。

「この女を囮にラファエを呼び出そう。

そしてあてがっておけばよい。腐れ神の飼い主が現れるまでな。

そうだ。この人間女と合体させればよい」そういうと可奈子の手を引っつかんだ。


「離してよ!!ジジイ!!」可奈子は振りほどこうと必死にもがいた。

しかし、ジジイのクセにものすごい力を発揮し、ソイツは可奈子を抱えあげた。

「合体の準備をしろ」


藤原は山下を抱え物陰に隠れていたが、二人が合体させられそうになるのを見て、思わず飛び出した。

「・・・ナンだ?お前は?一体何人いるんだ?」

「あのう・・・、えっとぅ・・・。」そして思わず口走った。

「・・・プリュキトスです」

可奈子と美紀も驚いた。「ええっ?」

皆は唖然、と口を開いた。


「・・・お前が?」

藤原は猛烈にうなずいた。

「魔王がココに来いっていいましたので。」

「・・・証拠は?」と聞かれ、おもわず、山下の腕を捲り上げた。

「この傷を治したのは私です。」

議員達は「・・・バカな。プリュキトスが癒しの魔法なぞ使えるわけがない。

とにかく準備が出来るまで閉じ込めておこう」と言った。


「天界にもこんな汚いところがあるんだね」可奈子がのん気に牢屋の中を見回した。

床を這いずり回る虫に美紀は叫び声をあげ、可奈子が踏み潰していた。

「藤原がヴィゴに化けるのはそりゃ無理だよ。

ヴィゴはなんだかんだいってもかっこいいもん」

「・・・。これからどうなるんだろう。」藤原が頭を抱える。

とにかく・・・。逃げなくちゃ。

地響きが伝わってくる。

議員達が悪魔界に裁きの雷を落としているのだ。

悪魔界も大変だろう。ロバート達、ヴィゴさん達、元気にしてるかな・・・。無事だといいけど。


山下の血は全然止まらず、気を失っていた。

美紀は幾度となく、巻いた包帯を縛りなおしていた。

「こんな時にヴィゴさんがいれば・・・。

とめる方法を知ってるかも知れないのに。」

可奈子もうん、そうね、と頷いた。

美紀が「こうするのかな?なんだかわかる気がする。」

そういって自分の首に下げていたヴィゴ商店の十字架を掲げた。思いつくまま言葉をとなえる。

可奈子が「無理無理。無駄だって!」

と突っ込むが、驚くべきことに山下の血は一瞬で止まったのだ。


「何何?美紀、なんでできるの?すごいじゃん!」可奈子が身をのりだす。

美紀が自分の手を呆然と見詰めていた。

「・・・ルーが言ってた。ロクサーヌにそっくりだって。

さっきの議員達もいってたよね?」


すると、山下が目をあけ、美紀を見つめる。

「・・・・。」山下は美紀を見つめ、苦しそうにため息をついた。

「お兄ちゃん!大丈夫?」

「アイツラが言ってた。母さんに会わせてあげるって。嘘だった。

だって母さんは自殺したんだ。

・・・天国に行けるわけないよ。

・・・そんな事わかってた。

でも・・・もしかしてって思った。」


美紀は驚いた。

「・・・自殺した?

・・・ごめん。私、何も知らなくて。

お兄ちゃんのお母さんは病気で死んだって聞いてたから。」


「人があんな真っ黒になるなんて思っても見なかった。

母さんは自殺したんだ。オヤジはそれを見て言った。

面倒な事しおってって。

そして知り合いの医者に死亡診断書を書かせ、マスコミにもばれないようにしたんだ。

おれはいつオヤジに復讐してやろうか、そればっか考えてた。

おれ、ロキを飼いはじめて、全ての物を手に入れれるって思った。あんな化けモンがおれの言うコトなんでも聞くし。でも悔しかった。

兄のおれよりロキと仲良くしてる美紀がうっとおしかったんだ。

美紀はおれには笑顔なんてみせてくれなかったくせに・・・。

だから喰わせた。

藤原が言ってた。おれが狂ってるって。

ホントだったかもしれない。」


「ココは天国じゃないよ。お兄ちゃん。

天界。私、ロキに逃がしてもらったの。だから、まだ生きてる。」

「・・・生きてる?・・・良かった・・・。」

山下はつぶやいた。

二人を心配そうに見つめていた可奈子は元気よく言った。

「山下、私もう怒ってないよ。こうして藤原とも美紀とも冒険できたんだから。・・・山下ともね。そうだよね?藤原?」

藤原はウンウン、と頷いた。

「後はココから無事に逃げれれば冒険終了なんだけど。」


「そうだ、花子を呼んでみようよ!」

可奈子が言った。

「玄関にいるはずだし。太郎くんテレパシーでサ。」

「なるほど。」

藤原は(太郎、助けてくれ。花子に連絡を取ってくれ)と願った。

突然、塔が揺れた。

誰かが、塔に体当たりしてるかのようだった。

「そうだ、花子だよ!俺達も壁に体当たりしよう。塔は横にぶったおれるし、俺達は地下。

牢屋は地下って決まってるから。多分・・・。そいであいつらが塔から落ちるだけだ。」

可奈子もそうだねっといい、花子の呼吸にあわせ、壁に体当たりする。


すると、合せる様にドーンと大きな音がした。

雷が直撃したかのような振動。

「何何?」

ほどなく、ぐらぐらっと音がし、塔がかしいだ。

マズイことに自分たちは地下でなく、最上階にいることに今さらながら気づいた。

「やばくない?」

塔は徐々に斜めになり、藤原達は牢屋の隙間から飛び出し、出来る限り階段を駆け下り、透明エレベーターを目指す。

美紀が突然叫んだ。

「待って!!この部屋に指輪があるはず。今、呼ばれたの。連れて行ってって」

美紀が礼拝堂に飛び込もうとするのを山下が止めた。


「おれが行ってとって来る。」

山下はそういうと、指輪をとりに行った。

そうしてる間も塔は傾き、美紀は早く!とエレベーターの扉を押さえ、せきたてている。

とうとう、塔は真っ二つにおれはじめ、ちょうど、半分のところに山下がいた。

「指輪、投げるぞ。藤原キャッチしろ!」


藤原は指輪を受け止め、

「山下!はやくこっちに飛び移れよ!!折れちゃうよ!!」

「・・・藤原。」

「いいから早く!!」


「おれ、お前なんてドン臭くて大嫌いだって思ってた。

脅かしてやろうと思ってロキをけしかけたんだ。まさか喰らうメイトになるなんて。」

藤原が「いいからこっちに飛び移れよ!」


山下は驚いたことに落ちていく塔の方に体を移した。「何で?」


「・・・かあさんに会いに行くよ」


山下が雲の中に消えていくのが見えた。

「山下!!!」


「藤原!危ないよ!早くエレベーターに!」

3人は泣きながらエレベーターに乗り込んだ。

エレベーターはかろうじて動き、3人は街にとびだした。

海は荒れ、風がものすごかった。


「あいつらに見つからないうちに、悪魔界に戻らなきゃ!」

しかし、教会への通路が崩れてしまってる事を思い出した。

「どうしよう・・・。とにかく、隠れないと。」

「ヴィゴが後から来てくれるはずだよ。そう、言ってたもん。」

可奈子が半べそで言う。

塔が崩れ落ち、ものすごい地響きが起こった。反動で大きな津波が襲ってくる。

「とにかく隠れれるところを」藤原が必死で叫ぶ。

藤原が近くの建物に二人を押し込めた。


そこはヘブンハレブンだった。外には議員達がうろついている。

「あいつら、波に流されればいいのに!」

「おれが何とかするよ、花子を呼べばいい。」

藤原は必死に願った。

(花子お願いだ。助けてくれ!!)

可奈子が叫んだ。

「なんだよ!アイツ!!藤原!変なの呼ばないで!」

真っ黒のオオカミがのっそりと入ってきたのだ。


「うっわっ。」藤原がかまえる。

「それ以上近づくと、噛み付くぞ!」と太郎の牙を見せながら言った。

しかしオオカミは馬鹿にしたように立ち止まり、耳の後ろを掻いた。

そして口を開いた。


「ロクサーヌよ。」オオカミはつぶやいた。

「?何?」可奈子はわめく。

オオカミは美紀にとびつき、押し倒す。そして、目を覗き込んだ。

そしてなにやらブツブツ呪文を唱えている。

美紀ははらはらっと涙がこぼした。

「美紀!!大丈夫?」可奈子がオオカミにタックルし、藤原が羽交い絞めにした。


「・・・ヴィゴ。私の大事な子。」

可奈子はのけぞる。

「立派に育ってくれて。

この指輪。私の形見としてヴィゴに渡せたたった一つの宝物。

ラファエ様がこの指輪に宿り、ヴィゴを守ってくださっていたのね。」


オオカミはウザッたるそうに藤原から逃れ、体をプルプルっとふるわせた。

「そうだ。ラファエはヴィゴの守り神だったのだ。

しかし戻ってはいけない記憶が蘇った。山下を生け贄に使ってしまったからだ。

山下は美紀をロキに喰わせた。

それはラファエにロクサーヌの死刑を思い出させることになった。

そしてそれは決して思い出されてはならない事だった。

山下の悲しみ、孤独感がラファエと重なってしまったのだ。」


「・・・お兄ちゃん・・・。ラファエ様・・・。ごめんね。苦しませて・・・。」

「指輪はその辺においておけ。もう、抜け殻だ。お前たちには大事な仕事が残っている。

人間界に帰り、ロキのタマゴを飼うんだな。

ただ・・・間に合うかどうか。」

「なんだって?俺がロキを飼うの?」藤原が叫ぶ。


「お前じゃない。お前はいつもあっちの役だ。」

オオカミはにんまり笑ったように見えた。

「早く行け。」

そういうとオオカミは地面に魔方陣を書き、3人を放り込んだ。3人は巨大な渦に巻き込まれ、気がつくと人間界に戻っていた。




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