第三話 愛菜ver
私はあの子に何を与えられたのだろうか。
死に際に浮かんだ一言。
よく事故死の瞬間に走馬灯が流れる話を聞くが、私は幸いなことに、そのような経験を一度もせずに死ぬまで生涯を送れた。
夢の女の子に囚われ、一度は踏ん切りをつけたがやはり私の心には『未練』が残っていたのだろう。あの頃の自分は後ろ髪を引かれる思いから目を反らし、己の心を偽ってあの子と別れてしまった。
そして私は再び後悔を残し、あの頃とは逆に私があの娘に別れを告げてしまった。今までの行いに対する罰だと思う。悪因悪果という四字熟語で言い表せる。
一人の母として優しく、強く、身近な味方としてあの娘に愛情を注いだ。一見まともに見えても、仕事と家事に追われ、真摯にあの娘に向き合えたか今でも不安で仕方がない。他の保護者は私よりも早く子どもの迎えに来ているのに私といったら、ビリで無いだけで珍しいといって過言ではないほどに遅く子供の迎えに行っていた。
一円でも多く家にお金を入れられるように、あの娘が苦労しないように働いた末の結果。稼ぎ手としては立派でも、一人の親としては誉められたものではない。周囲や娘に批難されれば反論することができない。
それでもあの娘は文句の一つも言わず、小学生の頃から笑顔で家事を手伝うようになった。将来一人立ちするための練習。そう自分に甘い言葉を掛け、手伝わせた。
私に気を使って友達と遊ばないものだから、習い事に行かせ大人や同い年との交流を強制した。その期待は私の想定を超え、優秀な成績を修め、遂には特待生という地位まで得た。周囲の保護者は私に教育相談を持ちかけてられたが、私にはその資格は無いと言い聞かせた。彼女らの期待に沿う回答は出来たか今でも不安だ。
そしてあの娘が二〇代の時に私は職場で倒れた。脳卒中から意識混濁。そのままあの世へ行くことになった。
相続、お葬式、あの娘の結婚と幸せな将来。様々な心配をしたと思う。
もう一度言う。これは『罰』だ。
神様は保護者として十分に向き合わなかった私に罰をお与えになられた。地獄行きを命じられても素直に従うつもり。
恐れは無い。あるのは『幸福』のただ一つ。だから現世に残留するつもりはない。
それでも私はあの娘を一人の女性に育てられたことに満足している。
ありがとう 夢の少女
ありがとう神様
ありがとう 私
ありがとう 我が愛しき娘 優花よ
もう一度あなたに会いたい
過ごしたい
そして苦楽を共にしたい