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色をまとう糸1

 ディアドラとアンは、王城のゲストルームに案内された。

 唐草模様の織物の壁紙に足が沈むほどのふかふかしたカーペット。据え付けの暖炉の上には人の背丈ほどもある絵画が飾られ、天蓋付きのベッドとソファーセットは、どれも揃いの細工が施され白と金で彩られている。螺鈿細工のテーブルには一抱えもある陶器の花器が置かれ、こぼれんばかりに花が生けられている。

 急遽泊まる事になったというのに、隙の無い部屋の様子に、アンは茫然とするばかりだった。

ディアドラは、ゆったりと足を延ばせるカウチにもたれて座った。


「アンさん、座ったらどうですか?」

「あ、はい。そうします」


 背筋を伸ばしたまま、緊張した様子でアンは椅子に腰かけた。

 その様子を見て、ディアドラはふわりと困った様な笑顔をうかべた。


「ごめんなさいね? 私のわがままに付き合わせてしまって。お家の方は怒っていらっしゃらなかった?」

「いいえ! 大丈夫です。着替えも持ってきてくれましたし。ディアドラ様は、足の様子はどうですか? 痛みますか?」

「塗り薬もしていただいたし、動かさなければ大丈夫よ。明日には歩けると思うの。そうそう、ディアドラじゃなくてディアって呼んで? せっかくこうして同じお部屋に泊まっているのだし、もっと仲良くなりたいわ」

「じゃ、じゃあ、ディア様で! 私もアンで!」

「既に呼んでいるわよ?」

「ただのアンでいいです。さんもいりません!」

「呼び捨てで? 良いの?」

「ええ! ぜひ」


 そんな話をしているうちに、アンの緊張もほぐれ会話が弾んだ。


「そう言えば、今日は何しに王城へ?」

「図書室で本を借りていたのです」


 アンは、借りてきた本をディアドラに見せた。その表紙を見たディアドラは、笑顔になる。


「マナーの教本ね? お勉強されているのね。偉いわ」

「はい。色々な失敗もマナーを知っていれば、しなくて済んだのかなって思うんです。母も祖母も亡くなっていて、父や兄達も国境の守りのために武芸には秀でているのですが、武骨で女性のマナーには疎くて」


 ため息を付くアンに、ディアドラは苦笑いをした。


「フロックハート辺境伯も、一度は軍属におなりだし、騎士の叙勲も受けていらっしゃるから、所作は洗練されていらっしゃるのに。細やかなマナーは、大らかに許容していらっしゃるのだと思っていたのですけど……」

「お恥ずかしながら、そもそも視界に入っていないのだと思います」


 アンは、恥ずかしそうに頬を染めた。


「あの、ディア様。お聞きしたい事があるのですが……」

「何かしら?」

「ウィルフレッド様の事なのですが」


 アンの深刻そうな様子に、一体どんな事だろうとディアドラは、首を傾げた。


「私、嫌われているのでしょうか?」


 ディアドラは、思いもしなかった言葉にパチパチと瞬きを繰り返した。そして、恐る恐る真意を問う。


「……えっと、それは、どうしてそう、思うのかしら?」

「だって、デビュタントでウィルフレッド様と踊ってから嫌がらせが始まったのですよ。知らなかったとはいえ、マナー違反をしていたのを不快に思って、わざと踊ったのではないでしょうか? 最初にお会いした時に生垣を突っ切ってしまったのがいけなかったと思うのです。後で見に行ったら、生垣のあの部分だけ木の植え替えがされていました。土も新しかったし、周りと枝がそろっていなかったから良くわかりました……」


 しょんぼりと落ち込んだ様子のアンを慰めようと、ディアドラはカウチの上でアンににじり寄った。


「そんな事は無いと思うのよ? ウィルの事は小さい頃から知っているもの。ウィルだってデビュタントだったのよ。きっと気が付いていなかったと思うわ。最初に踊ったダンスなんて緊張でとても固い動きだったもの。庭の木々も庭師が定期的に入れ替えもしているようだし、気にする事は無いのよ?」


 アンは、次期国王となるであろう人物に嫌われてしまったのではないかと、悩んでいたのだ。ディアドラの言葉に、アンの顔に希望の光が差した。


「そうだと良いのですが……あ、でも、先ほどきつく反論してしまいました。だって、ディア様が私に嫌がらせをしているんじゃないか、なんて疑っていたのでつい……。ディア様は私を助けて下さったのに酷いです」

「あら、そうなの? でも、もう疑っていないと思うわよ?」

「そうでしょうか?」

「そうよ。疑っていたら、アンと私を同じ部屋にするわけが無いじゃないの」

「なるほど。確かにそうですね! 良かったですね」


 安心した様子で胸をなでおろしたアンに、にこやかに指摘をしてディアドラは笑った。笑顔の裏で、後でしっかりと事情の確認をしなければならないと心に決めて。


「だったら、どうして2回もダンスを踊ったのでしょうか?」


 大体の想像はついているが、外野が憶測で物を言う必要は無いと思ったディアドラは、笑顔ではぐらかした。


「……どうしてかしらね?」

「私の事が好きだったりして。なんて、冗談ですよ! 私、ディア様の味方ですからね!」

「……え?」

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