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引かれていく糸2

 人が集まってしまったために、メイン階段からは離れる事にした。人払いが出来る部屋に落ち着くと、ジョンは一番大きなソファーにディアドラを慎重に降ろすと、ディアドラの前に膝を付いた。

 心配そうに見上げるジョンに、ディアドラはにっこりと笑って礼を言った。


「運んでくれてありがとう。重かったでしょう?」

「当然の事です。重いなんて事はありませんよ。とても軽かった」

「そう?良かったわ」


 ウィルフレッドは、ディアドラの向かい側の一人掛けのソファーへ腰を落ち着けるとアンに椅子をすすめた。


「アン嬢、好きな所に座って」

「はい。失礼します」


アンは、僅かに迷ってからディアドラに近い位置のソファーに腰掛けた。


「ディア様大丈夫ですか?足をみせて下さい」

「え?ちょっと!」


 ジョンは、ディアドラのドレスの裾から覗いている靴先をそっと丁寧に掴むと靴を脱がせた。足の様子を探る様にそっと触れていく。

 ディアドラは、露わにされた足に驚き、慌てて隠そうとした。

しかし、ジョンの手はしっかりと足を握って離さない。ストッキングの上からであっても、幼馴染とはいえ異性に足を触られて落ち着いてなど居られなかった。


「止めて!ちょっと、あ、痛い!」

「ここですか?」

「痛……っ、もう、離して!」


 痛めた足をジョンの手から引き抜こうと慌ててもがくディアドラと、冷静に痛めた個所を確かめるジョン。何時もと立ち位置がまるで違う光景をウィルフレッドは、興味深げに眺めていた。


「ウィル様、骨に異常はないようです。おそらく捻挫ではないかと」

「そうか。良かったな。一応、医師を呼んであるからちゃんと診察は受けろよ」

「医師を呼んでいたの?」

「当然だろう?」


 ジョンがディアドラを抱えていて手が離せないため、ウィルフレッドが部屋に入るまでの間に細々とした事を代わりに手配していたのだ。


「じゃあ、何故、私はウィルに診察されたの?」

「初期の手当によって、怪我の治りの早さが変わるんですよ」

「大きな怪我じゃ無さそうで良かったな」

「怪我の状態なんて、ジョンは詳しくは、解らないでしょう?」

「剣の練習をしていると、打ち身や捻挫や骨折程度は良くします」

「見慣れているな」

「あぁ、そう」


 ディアドラは納得しきれていない顔をしていたが、直ぐに医師が到着し治療が始まったために、記憶の彼方へ押しやられた。


 結局、ジョンの見立てと同じく骨に異常はなく軽い打ち身と捻挫ということだった。

 ディアドラは、踵の高い靴ではまだ歩く事が出来なかったために、母が王妃の姉妹ということもあり気軽に王城へ一泊することを勧められた。

 ジョンに再び抱きかかえられて馬車で送られるか、王城で一泊して痛みが引いてから帰るかという二択を前に、ディアドラはあっさりと王城へ一泊することを選んだ。


 アンを道連れにして。


「なあ、同じ屋根の下に居るのに、何でディアがアン嬢に張り付いているんだ!?」

「張り付いてるのはアン様の方に見えましたが。ディア様に頼まれて、同じお部屋でお休みになるからじゃないのですか?」

「夕食くらい一緒にとっても良かっただろう」

「ウィル様に来客と晩餐会の予定があったのだから、しかたありません。晩餐会は欠席できませんし、ディア様も今日はお部屋まで食事を運んで欲しいとおっしゃいましたし。アン様もお一人で食事するのはお寂しいだろうからご一緒する、とおっしゃっていたではありませんか。お優しい方ですね」

「くっ夜に訪ねて行っても良いだろうか……」

「この時間では、ディア様につまみ出されると思いますが?」

「駄目か……」


ここでも、ウィルフレッドの前で邪魔をしたのはディアドラだった。

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