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始まりの糸1

初めての連載形式での投下となります。長いお話にはならない予定です。よろしくお願いいたします。

 大きなガラス窓からは燦々と光が差し込み、開かれた窓にはレースのカーテンが揺れる。カーテンが一度、大きく風を受け止め、限界を超えると弾けた様に風が流れ込んでくる。

 その日、ウィルフレッドは、いつも通り自分の部屋で乳兄弟であるジョンと遊んでいた。広い室内には人形や木馬といった玩具類が沢山あり、室内で遊ぶ事に不満を覚える必要も無い。


 二人が遊んでいると、侍女が迎えに来た。

 行きたくないと拒否をすれば、いつもはそれまでなのだが「お父上とお母上がお待ちです」と言われてしまうと従う他に道はない。どんなにわがままを言おうとも、両親の言葉以上に優先される事はない。なぜなら、ウィルフレッドの父は、この国の国王だから。国王の命以上に優先される事は無い。


 まだ五歳のウィルフレッドには遠い部屋らしく、侍女は抱き上げると静々と廊下を進んだ。

 親しい人だけに使われる私用の居間の扉の前に来ると、ウィルフレッドは降ろされた。

 衣服を整えられ到着の挨拶と共に開かれた扉から中に入ると、多くの大人が部屋の中に居た。和やかな雰囲気で歓談していた人々が、ウィルフレッドに気が付き人垣が割れる。おかげで人垣の中心に居る、ウィルフレッドの父と母が見えた。


「ウィル、こちらへいらっしゃい」


 呼ばれるままに人の間を抜けていく。

 ジョンが付いて来ていない事に気が付いて振り返るとは、ウィルフレッドの乳母であるジョンの母親に止められたようだった。


「初めて会うだろう?紹介しよう」


 そう言って父上に紹介されたのは、一組の夫婦だった。

 男性は壮年の引き締まった体格で帯剣をしていた。この場所で帯剣が許されているという事が、男性の身分の高さと王からの信頼の高さを示していた。男性はクリフォード公爵といい、寄り添うように立っていた女性は奥方で、ウィルフレッドの母の姉であった。

 そして、二人の後ろから飛び出してきた少女がいた。


「私たちの末の娘でディアドラという。君たちより二歳年上なんだよ」


「初めまして。ディアドラと申します。あなたがウィルフレッド王子ね?」


 スカートの裾を摘まんで少しだけ屈んだ。深い藍色の髪に結ばれたレースのリボンがちょんと揺れる。身に着けたばかりの礼儀作法を得意げに披露する様子を、大人たちは目を細めて見守った。

ディアドラは、ウィルフレッドと同じ母譲りの大きな琥珀色の瞳をキラキラとさせて、ウィルフレッドに話しかける。


「安心して!私がお姉さんになってあげる」


 それが、ウィルフレッドとディアドラの初対面だった。


「一緒に遊びましょう。ねえ、良いでしょう?」


 ディアドラの後半の言葉は周囲の大人、とりわけ二人の両親に向けられた言葉だった。


「行っておいで。あぁ、そこのジョンも一緒に連れて行きなさい」

「あなた、ジョンというの?私はディアドラよ。初めまして!」

「はじめまして。ディアドラ様」


 ジョンは、頭をぴょこりと下げる。漆黒の髪が、さらさらと揺れた。

 ずっとウィルフレッドの乳兄弟として育ったジョンにとって、初めて会った歳の近い女の子だった。

 ウィルフレッドの父親である国王に快く送り出されると、二人の手を取り部屋の外へ。扉がきちんと閉まるまでは優雅に退出の礼を取っていたが、パタンと閉まる音を合図にディアドラは二人の手を取り走りだした。

 ウィルフレッドの絹の様に細く艶のある黄金色の髪が、走りに合わせて跳ねる度に差し込む光を浴びて輝いた。


「お外へ行きましょう?とても天気が良いし、綺麗なお庭が見えたわ」

「えぇ!?」


 ウィルフレッドは外遊びが嫌いだ。

 日差しがどうのと差し出される帽子や日傘。飲み物が必要だと言って毎回運ばれるテーブルセット。それらを運ぶための人々や護衛が周囲に増えるのが、煩わしかったのが最初だった。

 室内だとそういった煩わしさが無いと気が付いてからは、室内での遊びが増え、最近はすっかり外に出て遊ぶことが無くなっていた。


 ディアドラの行動は、城に務める大人達にとって、想定外の行動だったのだろう。子供の足でも容易に振り切る事が出来た。

 帽子も無く、大人たちに取り囲まれる事も無く外に出る。

 初めての冒険は、とても空が広く空気が澄んでいた。


お読み頂きありがとうございます。

至らない点や誤字等がありましたら、ご指摘ください。


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