自覚と後悔と決意と
こんばんは!こたつ猫です!
前回の投稿から時間が空いてしまいましたが、なんとか続きを書くことができました。
でも、来週から期末テストで、さらには23日に滑り止めの受験があるので、投稿が遅れるかもしれません。ご容赦を!!
「……はぁ。酷い目にあったな。結局クエストも受けられないし、シムルグに奢らせることもできなかったなんて、どんな悪夢だよ!」
ザワザワ。と仕事終わりの人で溢れる大通りを、やけっぱち気味にズンズンと進んでいく。辺りには屋台が立ち並び、熱気と立ち込める芳ばしい香りが漂う。今が街の一番盛り上がる時間帯なのだろう。目に映る人々の顔は、笑顔に染まっていた。
本来であればオボロも楽しむ余裕ぐらいあっただろう。しかし、宿代で所持金のほとんどを使ってしまった今、収入の無いオボロに屋台による余裕すらないのだ。 ……結局。すべてのイライラの元はシムルグである。そのせいでオボロのボコボコにするランキング一位にランクインしたのだが、本人が知る事はないだろう。
──しかし、それだけでオボロの機嫌はここまで悪くならない。正直なところシムルグなんてどうでも良いのだから、少し時間が経てば忘れてしまうのだ。じゃあ、何がオボロを不機嫌にさせているのかというと、
「……ユリさんと一緒に食事ができないなんて、なんて日だっ!」
ユリと仲良くなるチャンスを潰された事だったりする。オボロだって思春期の男の子なのだから、可愛い女の子と仲良くなれるのは嬉しいのだ。内心期待していたため、シムルグのぶりっこポーズを見た瞬間世界が止まった。それほど衝撃的だったのだ。
……あの汚物を思い出したら胸焼けがしてきたよ。あ〜ヤダヤダ。早く忘れてしまいたい……。
遣る瀬無い気持ちを紛らわすために、地面を見つめていた視界をあげる。それだけで目の前には活気溢れる街並みが映る。それだけじゃなく、地球では見ることのできない獣人やエルフ、龍人といった人間以外の種族を見かけた。
よく小説では差別とかが横行しているが、この街ではそんな事はないのかもしれない。
…人間の国と言っても、複数あるみたいだしね。それぞれ特色があるのかもしれない。もう一回カリンのところに調べに言ったほうがいいかもしれないな。
新たな疑問を浮かべながらも、ブラブラと大通りを進んでいく。未知のものを見るのは何歳になっても夢中になるらしく、気づけば安らぎ亭の前まできていた。
「…朝宿を出てから1日も立っていないのに、すごく懐かしく感じるのは何故だろう? 疲れてるのか、俺は……」
宿の木製の扉から溢れる暖かい灯りを見て、不覚にもじ〜んとしてしまうオボロ。シムルグにかけられた心労は、本人が思っている以上に多いのかもしれない
しかし、いつまでも入り口で突っ立ているわけにはいかない。街を行く人からの視線が痛いのだ。少し誤魔化すように頭をかいてから、木製の飛び路をくぐり宿の中に入って行く。
コツコツと足音を鳴らし木製の床を進む。昨日アリンがいた受付には無人で、その代わりに食堂から喧騒が聞こえてくる。今はちょうど夕食の時間だ。従業員総出で給仕しているのだろう。客と思われる声が引っ切り無し注文し、『は〜い! 今行きま〜す!』 という元気な声がここまで聞こえてきている。
「……確かに腹は空いているが、人ごみで食事をしたくないな。部屋で休んでからもう一回来よう」
チラッと食堂を一瞥した後、喧騒に背を向けて廊下を進む。安らぎ亭は二階建で、全10部屋あるらしい。オボロの部屋は一階の一番奥の部屋なので、薄暗い中にぼんやりと見えるドアまで歩いて行き少し錆びれたティンプル錠を開ける。
……荷物を何も置いていないせいか、物寂しい感じだよ。帰って来るたび微妙な気持ちになるなら、インベントリから何か出そうかな?
ベッドと簡素な椅子しか置いていない部屋に物足りなさを感じながら、壁に埋め込まれている魔道具に触れる。パチっ。と懐かしさを感じさせる音の後に灯りがついた。安物のせいか少し薄暗いが問題ないだろう。いざとなれば自前のものがあるのだし。
「……疲れた〜。もうこのまま寝てしまいたい……」
ドサっと、低反発ならぬ高反発ベッドに寝転ぶ。
……いろいろ疲れているせいか、このまま睡魔に身を任せたいよ。でも夕飯を食べないのは辛いよな〜。ただでさえ2食が当たり前の世界なのに、そこからもう1食抜いたら死んじゃう!
疲れた時特有の手足のしびれを我慢しながら起き上がる。あのまま横になっていたら確実に寝てしまうだろう。よぼ嘔吐して他のことで気を紛らわすしかない。
「……しょうがない。さっきの戦いの反省をしておくか。なんだかんだ言って、結局負けたわけだし……」
最後の方は尻すぼみになったが、自分の負けを認めるオボロ。今回の戦闘はかなり改善すべき点があった。
──戦略的にも、精神的にもだ。
今回のオボロの戦い方には様々な疑問点があった。例えば最初から十六夜を抜かなかった事。スキルを使用しなかった事。さらには他の暗器があるのに使用しなかった事だ。
「……俺は本気で戦っていたのか? 確かにある程度は実力を隠そうとは思っていたが、あそこまで防戦一方になる必要はなかったはずだ」
頭の中で自問自答を繰り返す。
──なんで俺はあんなに余裕があったんだろう
──どうして十六夜しか使わなかったんだ
ぐるぐると思考が同じところを回り続けている。普段のオボロであればリスクの高いことなどしないし、もっと上手く立ち回れただろう。
それにいくら実践が初めてでも、ゲームで培った経験と装備は残っていたのだ。あそこまでギリギリの状況になることの方が難しい。シグルムが手練れであったとしてもだ。
しかし、原因など最初から分かっていた。
──認めたくなかったのだ。今の状況が現実だと……。
昨日初めて異世界に来た時、オボロを支配していた感情は喜びだった。空想の中にしかないと思っていた地球以外の世界。そこに自分がきているという事実に、驚き興奮した。それに加えゲーム画面が現れるなど、浮世離れしたことが立て続けに起きたせいで、どこかいまの状況を他人事のように見ていたのだ。
──これはゲームの中の出来事なんだ。現実では無い!
これはオボロの中に残された防衛本能のようなものだった。今起こっている事は夢のようなもので、いつかは日常に帰って来れる。……そう思い込むことで精神の安定を保っていたのだ。いくら冷静に物事を受け入れられるオボロでも、今回の事はキャパオーバーだったのだろう。そうでもしないと恐怖に震えまともに行動できない。その最悪の事態を避けるために自分を偽り、平静を装っていた。実際それは効果的で、無事街にたどり着くこともできたし生活基盤も手に入れた。このまま何事もなければ、偽りの仮面を被り続けて入られただろう。
──しかし、それはたやすく終わりを迎える。
シムルグの戦闘の中、どこか遠い出来事のように攻撃をかわしていた。オボロが最初から反撃しなかった理由は、心の隅で楽観視していたからなのだろう。
──これは現実ではないから死ぬ事はない
──危なくなってもどうにかなるだろう
ありもしない幻想を抱き、今起こっていることを受け入れているつもりでいた。
だが、シグルムの炎を纏った一撃。迫り来る圧倒的に死を目の前に、脆く崩れ去ったのだ。
そのおかげかまともに応戦するようになったが全力を出せず、空虚なまま終わりを迎えてしまったのだ。
「──そうか。俺は逃げていたんだな……情けないことに」
ふぅ。小さくため息をつきて手を強く握りしめる。伝わってくるのは痛みと──確かな現実だった。
……今更ながらに、自分の脆さを実感したよ。カッコつけて余裕ぶっていたけど、シグルムに殺されかけるまでこんなことに気づけないなんて……ちょっと落ち込む。
──でも。これで前に進めるな!まだ納得できないことも、知らない場所に1人残されたような恐怖も感じる。それでも今この瞬間から目を背ける事はしないし、精一杯生きるために努力はできる!
「……ガラじゃないが、頑張ってみるかな。せっかく異世界に来たんなら楽しみたいし」
パァン!じぶんの両膝を叩き思いを断ち切る。
……自分の弱さを認めたせいか心は軽いし、気持ちも切り替えられた!次はどうしたら生き残れるか考えよう!
吹っ切れた様子のオボロは、クリアになった頭で思考でする。今できる事は数多くある。その中から優先順位意の高いものを決めるのだ。
「……まずは何をするべきなのかだが……どうしようか? 無難なのは装備の確認なんだが──『コンコン。オボロさんはいますか〜』」
顎に手を添え考え込んでいると、ドアの外からアリンの声が聞こえてくる。
オボロの問題解決は、もう少し後になるようだ──
オボロの心境を書いて見たのですが、如何でしたか?
ちなみに初めて予約投稿したので、ちゃんと掲載されているかが不安だったりします……。