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ツンデレ系アサシン、異世界にてパティシエを目指す   作者: こたつ猫
第一章 ツンデレ系アサシン、異世界転移したそうですよ
8/12

ドジっ娘は美少女しか認めない!?

3日連続の投稿です!

楽しんでもらえれば幸いです!

 





「オラオラオラァ! さっきまでの威勢はどうしたんだ! また面白いことやってみろよ!」



【円影孤月】を受けた事で、スイッチが入ったシムルグ。先ほどまでとは比べ物にならない熱量で、オボロを焼失させようと迫ってくる。

 ブォン!と耳元に響く鈍い音で冷や汗が吹き出る。先ほどまでと同様に【迅狼】による高速移動をするが、広範囲を一気に焼き払われるため、逃げ場がなくなってった。


 …文字通り火力が違いすぎる。そもそも刃渡り10センチのクナイと、俺の背丈ほどある大剣じゃ1発の威力が違いすぎるんだよ!第一に、得物のリーチは戦力差に直結する。それを体現しているのが、宮本武蔵だ。

 彼は佐々木小次郎との決闘で船の櫂を使ったんだけど、それは小次郎よりリーチのある武器を使うためなんだ。実際小次郎も物干し竿と呼ばれる、2メートルを超える刀を使っていたらしいんだよね。


 つまり何が言いたいかというと、技量を補うためにリーチの長さとは重要なファクターなんだ。だから、リーチと技量で負けている俺が大ピンチな訳でして……あぶなぁ!



「何のんきに考え事してんだぁ? そんなに余裕があるんなら、もっと激しくいくぜ!」


「っとぉ、メラメラと鬱陶しい! 考え事ぐらいゆっくりさせろっての!」


「そりゃあ、無茶な相談だぜ。わざわざ隙を見逃す手なんてないからなっ!」



 キュボンっ!シムルグの感情とともに燃え上がっていく火炎が、地面を焼失させていく。とうとう燃やすという領域を超えて、消し飛ばすようになってきた。

 なんとか距離をとって時間を稼ぎたいところだけど、投げたクナイがあたらないんだよね。むしろ溶かされているし。完璧に警戒されてるみたいなんだよなぁ。どうしようか?


 この八方塞がりな状況を打破するために魔法を使いたいんだけど、登録するときに回復魔法しか使えないことにしちゃったんだよね。なんであんなことをしたんだろうか? 目立ちたく無いためだとしても、他の属性を1つぐらい書けばよかった。


 とん。とん。とステップを踏むように、火炎放射のような無秩序な攻撃を避ける。これが炎を収縮でもされていたら、今頃消炭になっていただろう。せめてもの、シムルグの情けなのかな? あの大口あ開けながら大爆笑しているのを見ると、とても層には見えないけど…

 というか笑いながら攻撃されると、狂気を感じるよ! 本当に怖いからやめて!

 …しょうがない。ここらで1発かましますか!



「…いい加減逃げるだけにも疲れてきた。大人しく──死んでくれ」



 ドポン!シムルグの大振りに合わせて、自分の影の中へと潜り込む

 ──暗技【影狼】。自分の影を媒介とすることで、平面移動を可能にするアサシンのスキルである。


 …実はこれ、スキルレベルが高くても、ステータスが伴わないと使用できないんだ。そのお陰で今まで使えなかったわけなんだけど、ここまできたら一泡吹かせてやる! 文字通り火炙りにされて、さすがにストレスが溜まってるんだよ!



「あぁ!またあいつはオモしっロイ事しやがって──最高じゃねぇか!」


(なんで余裕をかましてられるか知らないが、その首もらった!)



 ザパァ。両手に【十六夜】を握りしめ、最速の威力を持ってシムルグを強襲する。


 影に潜み、相手が油断した隙を、確実に襲う…!

 刹那の中で、俺の振るった十六夜が、シムルグの首元に吸い込まれるのが鮮明に映る。



「──もらった!」


 確かな軌道を描いた俺の必殺の一撃が、無防備なシムルグに叩き込まれる。

 その勝利を確信心した瞬間──世界が暗転した



「ごはぁ!」



 ──ズドン。シムルグの背後から強襲したはずの俺が、なぜか奴の正面に倒れている。


 …どういう事だ…! 確実に奇襲は成功したはず。なんで俺は倒れているんだ…。

 ズキズキと痛む腹を抑えながら起き上がると、ニヤニヤしたシムルグと目が合う。先ほどまで荒れ狂っていた炎風が止んでいるのを見る限り、勝負は決着したという事なんだろう。 …俺の敗北といった結果で。



「ゲホっゲホ……。俺に何をしたんだ…。 全く見えなかったぞ!」



 咳き込みながらも、せめて獲物仕返しとばかりに睨みつける。シムルグはそれをどこ吹く風といった様子で、



「なんだ。案外元気じゃねぇか。やっぱり若いもんはそのくらい元気じゃないとな。あっははははは!!」


「…笑い事じゃ無い! どうやって俺の攻撃を防いだんだ。完璧に不意をついたつもりだったが」


「確かになぁ、あの一撃の前にお前を見失ったさ。しかし、お前は背後からあの奇襲をし過ぎなんだよ。大概人って者は攻撃するときに、今から攻撃する!って気配を出すんだよ。お前のお場合はそれが顕著でな、必殺の一撃をするときは丸分かりだったぞ。んで、俺くらいになるとくるとこがわかれば、見なくても避けられるんだよ。これがお前の敗因だ」



 …こいつは野生動物か何かなのかっ! 普通はわかんねぇよっ、そんなもんわ! したり顔で言われたって全然同意できないし、したくも無い。こいつはアホなのか?


 ──はぁ。しかし、それで俺で攻撃を見破られたのは事実だな。それは認めなきゃいけない。確かに俺は負けたんだ。まだ色々隠しているだとか、戦いに慣れていないとかは言い訳に過ぎない。いつ死ぬかわからない世界にきているなら、準備していない俺が悪いんだからな。


 ──よし。いい経験ができたと思って、次に生かすんだ! このまま負けたまま終わったら、元廃人ゲーマーの名が廃るってもんだしね。

 とりあえず今は、回復することに専念しよう。手加減されたみたいだからダメージは少ないけど、ズキズキとするこの痛みは、今回の授業料だと思っておこう。



「なんかスッキリした様子だな。もっと悔しがると思ったんだが」


「…自分が負けた事ぐらい、ちゃんと受け止めるさ。 ──ただし、次はこうはいかないからな」


「くは! やっぱ、最高に面白いわ。お前。いい新人が入ってきてくれて、楽しい事この上ないぜ!」



 本心から思っているらしく、あはあは笑いながら大剣をしまっている。厳つい外見のくせに、笑い方だけは爽やかなんだよなぁ。筋肉辰馬のギャップとか、萌えないからいらない。だって、需要がないんだもん。 大剣はあんなに燃えるのに、おっさんは全然萌えないねえ……忘れよう…



「…ふぅ。これで気が済んだか? あんたのせいでクエストを受ける時間がなくなったし、俺は早く宿に帰りたいんだが」


「おいおい。何いってんだよ。ここからが本番じゃねえか! 帰らすわけないだろう!」


「…意味のわからないことを言ってるのはお前だ、この火吹きダルマ。無理やり戦わされた挙句、これ以上付き合う義理はない」


「ははぁ〜ん。俺に負けて悔しいもんだから、拗ねてるんだな。案外女々しい男だぜ!」


「…酷い言われようだな。当然のことを言ってるつもりなんだが、あんたと俺の住む世界の常識が違うみたいだ」



 …こいつ。わざと煽るように言ってるな。戦いの中で俺が乗せられやすい性格だと見抜いたようだが、脳筋にいいようにされる程俺もチョロくない。さっさと帰ろう。


 ようやくダメージが抜けてきたところで、フラフラと立ち上がる。さっきまでシムルグと話していたのも、回復するまでの暇つぶしのようなものだったのだ。歩けるようになった今、これ以上構ってやる必要もないので、帰ろうと出口に向かって歩くが──突然抱え上げられてしまった。



「…いきなり何しやがるんだ。早く下ろせ」


「そんな恨みがましい声出しても無駄だぜ。このまま酒場まで直行だ!」


「すいません、オボロさん。申し訳ないのですが、あと少しだけ付き合ってあげてください。シムルグさんには奢らせますから…」



 ジタバタと抵抗してみるが、ずっと静観していたユリがああいうのだ。これ以上何かしても無駄なのだろう。従っておくのが懸命だ。それにこのアホの奢りだ。せいぜい高いものを頼んでやろう。


 こっちの気を知らないシムルグは、相変わらず能天気に笑ってる。よいしょっと、俺を担ぎ直したと思ったら、そのままユリさんを連れてギルド内に戻ってしまった。ガックリと肩を落とす俺を見て、ユリさんが同情した目で見ている。


 この疲れ切った精神には、ユリさんだけが活力だよ…。あの肩口で切りそろえられた、サラサラとした栗毛色の髪。彼女の性格を表している、おっとりとしたタレ目。あの可愛らしい姿を見て、どれだけ癒されるか……う〜ん、眼福や〜!



「ユリ。確かお前も、仕事が上がる時間だよな? ちょうどいいし、一緒に飯を食ってけ!」


「…オボロさんが心配ですし、そうさせてもらいます」



 ──あ、女神がいた。



「そうかそうか。よかったな、オボロ。これで俺と2人きりで飯を食わなくて済むぞ」


「……今日ばかりには神に感謝してもいいと感じた。ユリさん、ありがとう」



 シムルグは冗談っぽく言ってるが、こちとら死活問題だ。マジでユリさんに感謝しても仕切れないよ! ありがとう! この非常識ゴリラに担がれているせいで顔は見えないけど、精一杯感謝だけは伝えたい! ありがとぉぉぉユリさァァァぁぁん!!!


 …まぁ、ユリさんには申し訳ないことをしちゃったけどね。むさ苦しい変人ゴリラ(シムルグ)と黒ずくめのコミュ障(俺)と3人での食事なんて、罰ゲーム以外の何者でもないからね!

 そう思って、ユリさんに謝っておく。シムルグは…必要無いな。こいつが元凶だし。



「…ユリさん、申し訳ない。あなたにも予定があるだろうに、このむさ苦しい奴のせいで付き合わせてしまって…」


「そ、そんな事ないですよ! 今日は予定もなかったですし、シムルグさんの奢りですから。オボロさんが気にすることはないですよ………それに、オボロさんにも興味がありますし」


「…そう言ってもらえると助かる」


「あはははは! さっきから本にの前で好き放題言ってるなぁ! あはははははは!」



 この笑い続ける物体は置いといて、ユリさんがいい人すぎる! 後半は何を言っているかわからなかったけど、大したことじゃないだろう。今日はせめて、ユリさんとの食事だけ楽しもう。 …シムルグの事は忘れて。



「ふんふふ〜ん。今日は何を食べようかな〜って………やべっ…」



 ギルド中の注目を浴びながらも、鼻歌交じりに堂々と歩いていたシムルグが固まった。

 …この感じ、嫌な予感がするんだが……。



「…一体どうしたんだ。目立ってるんだから早く移動してくれ」


「あ〜え〜っと。その〜………」


「…挙動不審になってないで、何か言ったらどうだ。貴様らしくもない」



 明らかに慌てて取り繕うとするシムルグに、ジト目を向けながら先を促す。さっきからすごい視線を集めていて、居心地が悪いんだよ。さっさとゲロってくれないかな?


 ユリさんも不審に思ったのか、訝しげな目でシムルグを見つめている。そして何かを察したのか、ため息をついてから、



「……シムルグさん。 もしかして──財布を忘れましたか?」



 痛い程の沈黙が訪れ、妙な緊張感が3人の間に流れる。そして、神妙な面持ちで唸っていたシムルグが俺を下ろし、ソロ〜ット後ずさりをした。

 長い長いための後、ゆっくり両手を掲げたシムルグが──



「……………………てへっ♪」



 吐き気を催すぶりっこポーズをしたのだった



「…………」

「…………」



 結局このあと。 散々引張ておきながら、飲み会はお開きになりました──

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