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ツンデレ系アサシン、異世界にてパティシエを目指す   作者: こたつ猫
第一章 ツンデレ系アサシン、異世界転移したそうですよ
12/12

お掃除お掃除!

なんとか書ききることができました!!誤字だ脱字が多いかもしれませんが、見逃してもらえるとありがたいです

 


 ──『シェルプラント』。そこまで強くない魔物でありながら、討伐難易度はかなり高く、多くのプレイヤーから敬遠されていた。その一番の要因なのが、『シェルプラント』が吐き出す酸である。半径5メートル以内に入ると、貝殻のような蕾から酸性の溶液をシャワーの様に噴き出すのだが、その性質が非常に厄介なのだ。触れると金属だろうが、繊維だろうが全てを溶かす。幸いなことに、人体に影響はないんだが、装備が全てダメになり全裸になってしまうのだ。


 近ずくと酸をかけられるなら、遠距離攻撃をすればいい。誰もがそう思い、実行した。しかし、その全てが失敗したのだ。なぜなら『シェルプラント』には【不朽の加護】と呼ばれる、半径5メートル以上の距離からの攻撃を無効化化するスキルが付いている。そのため接近戦をするしかないのだが、そうすると装備をダメにされてしまう。決して怪我する事はないが、非常に戦いたくない相手なのだ。

 しかも『ウィード』と同じで魔石が無く、討伐報酬も少ない。冒険者からしてみれば、意地でも戦いたくない相手なのだ。



「……『シェルプラント』か。また厄介な奴が現れたもんだ」



 俺もゲームを始めたばかりの頃、よく装備をダメにされたっけ。今となってはいい思い出だけど、当時は本気で泣いたっけ……。

 しかし、『シェルプラント』が出現したとなると、その聖護院も災難だな。作物は全滅するし、近ずけないからどんどん敷地を占領される。まさに踏んだり蹴ったりだろう。


『シェルプラント』の厄介さを知っているユリさんも、苦い顔をして頷いている。



「はい。教会で育てている薬草や野菜が全滅し、すでに建物の半分が占領されてしまった様です。ギルドとしてもなんとかしてあげたいのですが、みんな嫌がって依頼を受けてくれないんです。稀に親切心から名乗り出てくれる人もいたのですが、全員返り討ちにあってしまって……」


 それはそうだろう。全長5メートルを超える巨大な植物が、10本の蕾と蔦を駆使して襲ってくるのだ。その猛攻を全てかわすだけで無く、降り注ぐ酸の雨を一滴も受けてはいけないのだ。木っ端冒険者じゃ手も足も出ないだろう。



「『ウィード』を無傷で駆除できるオボロさんなら、もしかしたらと思ったのですが、やっぱり無理で「……その依頼受けるぞ」すよねって──え?」



 心底不思議そうな顔をするユリさん。

 ……貴方が勧めて来たクエストだろうに、そんな反応をされても困るよ。


「……何をそんなに驚いた顔をしている。貴方が勧めて来た依頼だぞ?」


「そ、それはそうなんですが……、 まさか本当に受けてもらえるなんて……」


「……聖護院に『シェルプラント』が出現したなんて死活問題だろう。できれば駆除してやりたい」


 聖護院と言うのは、日本で言うところの孤児院だ。教会が福祉活動の一環で経営しているが、どこも財政事情が厳しい。そのため作物を育てたりしているのだが、そこに『シェルプラント』が生まれたりしたら、収入源である畑は全滅してしまう。それはあまりにも可哀想だし、なんとかしてあげたいと思うんだ。

 それはユリさんも同じ考えだった様で、すぐに依頼の手続きをしてくれた。今回は直接教会に行けばいいみたいで、余計な回り道をしなくてすみそうだ。



「……それじゃあ行ってくる」


「無理せず、安全重視で行動するよににしてくださいね。私はここから無事を祈ることしかできませんので……」


「……ユリさんに心配してもらえるなんて光栄だ。さっさと片付けてくるから、気楽に待っていてくれ」



 不安そうにユリさん冗談めかして言う。『シェルプラント』の攻略方法も分かっているし、今回もすぐに倒せるだろう。あまり大げさにすると恥ずかしいからね、早めにギルドを出よう!


 足早にギルドを出て、教会へと向かう。本日四度目の大通りを進み、裏路に曲がる。少し暗くなった道をしばらく歩くと、大通りより少し錆びれた道に出た。ここは一般の人の居住区で、建て物が少し質素に見える。

 見慣れない風景に高揚感を覚えながら、砂利道を黙々と進んでいく。道の端で女性達が話し込んでいたり、子供達が追いかけっこをしている風景は、どこか懐かしく心が落ち着くのを感じる。


 ……こういう日常は、地球と似ているんだな。


 ホッコリした気持ちでしばらく進むと、大きなロザリオを掲げた建物が見えて来た。本来は純白の壁に、色とりどりのガラス。その周りに咲き誇る花畑が美しかったであろうその場所は、赤や黄色に青といった雑草が我が物顔で育ち、壁面には紫紺の蔦が絡み付いている。ここが依頼にあった教会に間違い無いだろう。



「……随分酷い有様だな。こんな状態で人が住めるかすら怪しいぞ」


 敷地内の半分以上が植物に支配されている。こんな場所で、子供達は暮らしているのかな?

 教会の入り口でどうしようか悩んでいると、後ろから声をかけられた。


「あの……教会に何か御用でしょうか?」


 怯えを含んだ問いかけに振り返ると、そこには1人のシスターが佇んでいた。髪自身が光を放っている様なプラチナブロンドの髪。黒を基調とした修道服に、紫紺の水晶でできたひし形の飾りが煌めき、白金の様に輝くネックレスが彼女を彩っている。そして憂いを帯びた顔を見る限り、オボロと同年代だろう。

 浮世離れした少女の美しさに見惚れてしまうが、優先すべきことを思い出し、問いかけに答える。



「……俺は冒険者のオボロだ。ギルドから依頼を受けて、『ウィード』と『シェルプラント』の駆除に来た」


「──え! 冒険者の方だったのですか!? ああ、主よ。哀れな私達に救いを差し伸べてくださったのですね!!」



 オボロの言葉を聞き感激した様で、その場で祈り始めてしまった。話が進まないので声をかけようとしたが、彼女のうっすら光る目元を見て辞める。

 ……ただ冒険者が来ただけで、この喜びようか。本当に困ってたんだな。

 少女の気の済むまで待つと、オボロの視線に気づいたのか照れた様に笑い、両手で包み込む様に握手をしてきた。



「私はシスターのシエルです。貴方がこの依頼を受けてくださったこと、心から感謝いたします」


「……そんな大げさに捉えられると、反応に困るな。しかし、依頼料の分はしっかり働く。安心して待っていろ」


「本当にありがとございます。今までも冒険者の方が来て下さったのですが、見ただけで帰ってしまう方がほとんどだったのです。貴方の様に、真摯に対応してくれただけで胸がいっぱいなのです」



 今までどれだけ苦労してたのかな。俺には想像できないや。

 ──でも、その憂いを晴らしてあげよう。可愛い子が悲しそうな顔をするのは、見ていて辛いものがあるからね。



「……待っていろ、今すぐ殲滅する。敷地内に人はいないな?」


「はい。みんな隣にある聖護院にいるので大丈夫です」


「……そうか。ならあんたも下がっていてくれ」



 シエルが安全な場所まで離れたのを確認し、先ほどと同じ様に敷地の真ん中まで跳躍する。教会に絡み付いている『シェルプラント』は後回しにして、まずは『ウィード』を駆除しよう。やり方はさっきと同じだ。



「ぶっ潰してやるから出てこい──【震脚】!!」



 ズドン!! オボロの振り下ろした足を中心に、衝撃がさざ波の様に広がっていく。そして『ウィード』達が、条件反射で地面から飛び出した。その数は100を超え、視界を埋め尽くす。


「……呼ばれもしないでわらわらと鬱陶しい。纏めて葬る!!」



 ヒィィィィイイイ。


 澄んだ音を響かせ、オボロの両袖から10本の【閃空】が宙に伸びる。そして唸りを上げ、研ぎ澄まされた殺意を纏い、飛翔する。

 10本のワイヤー全てが意思を持ったかの様に、空中をオボロと共に踊り狂う。


 フォン!!

 風切り音と共にオボロが駆け抜ければ、短い手足でもがく『ウィード』が裁断される。切られるたびに噴水の様に噴き出す樹液。それすらも全てかわし、最後に大きく振り抜く。


 ゴパッ!


 水気を含んだ音がこだまし、最後の『ウィード』達が骸を晒す。ペンキを零した様に、地面が赤、青、黄緑に染まった。ある意味地獄の様な光景を作り出した本人は、平然と血(?)血溜まりを踏み越えていく。


「──言葉が出ません。あの様な方法で『ウィード』を倒せる者がいるなんて……」


 呆然とした様子でシエルが呟く。彼女も『ウィード』を駆除するために、走り回ったことがあるのだ。あの小さい体で俊敏に動き、倒したとしても返り血で被害が出てしまう。そんな苦い経験があったのだ。

 その憎き魔獣を、目の前の冒険者は無傷で、しかも100匹以上同時に倒したのだ。驚愕を通り越して、もはや現実感が無い。それほどの神業なのだ。


 そんなシエルの反応に気づかないオボロは、ラスボスである『シェルプラント』に向け進軍する。先ほどの【震脚】をものともしなかった魔獣は、威嚇する様に蕾を開く。



「……三体もいるのか。どうやったらこんなに増えるんだよ」



 ゲームの中ですら、『シェルプラント』が複数出てくることはなかったのに……。そんなにここの土壌がいいのかな?

 それにしても納得だなぁ。三体もいれば、みんな見るだけで諦めるよね〜。正直俺もめんどくさい。けど、ちゃちゃっと終わらせて、シエルさんを安心させてあげるか!


 精神的に疲れたせいで重い体に鞭を打ち、威嚇する様に酸を撒き始めた『シェルプラント』に向き直る。あいつらの攻撃は、【不朽の加護】の代償として、5メートル以上飛ばない。その代わりその距離以上からの攻撃を無効化するのだ。


 ──では、どうやって倒すのか? 話は簡単だ。遠距離攻撃を、二段階に分けて行えばいいのである。


 ダンスを踊るかの様に体を揺らす『シェルプラント』達。その少し手前に向かって、出せるだけ十六夜を打ち込んでいく。そのオボロの行動に意味が見出せず、『シェルプラント』達は馬鹿にする様にツタで地面を叩く。


 バカだなぁ。こいつら。早く十六夜を溶かさないと、死ぬのは自分たちなのに。


 やがて数百本の十六夜を打ち込んだオボロは、体から疲れを絞り出す様に深く呼吸をする。そして、精神の呼吸と呼応して、梵字が浮かび上がり、オボロの詠唱によって力を獲る。



「『我は踊る 十六夜の月の下 世界の半分を染める闇夜とともに───【円影孤月】』



 宙に浮かんだ梵字が意味をなし、印を結んだ十六夜を媒介に儀式魔術を発動した。


 ──ズドドドドドドっ!!!!


 数百と撃ち込まれた十六夜が、黒い光線となり『シェルプラント』に殺到する。


 ──高速に、全てを飲み込む闇を持って、無慈悲に穿つ


 油断しきっていた『シェルプラント』達は「きしぇいぇいぇっいぇ」と奇声をあげるが、既に手遅れであった。至近距離から放たれた無数の闇の弾丸に体を撃ち抜かれ、原形をとどめる事無く、無様に屍を晒した。


 グチャっ! 一際大きな音を響かせて、『シェルプラント』が崩れ落ちる。その場に動く物は無く、静寂が訪れた。



「……案外呆気なかったな。だが、これでシエル達が喜ぶならいいだろう」



 死屍累々といった惨状を見て満足げに頷いたオボロは、後ろで固まってしまっているシエルに近づく。

 あれ? 何で俯いたまま動かないんだろう。『シェルプラント』達は倒したはずなんだけど……あ!! もしかして、さっきの戦闘がグロすぎたのかな。確かに『ウィード』は魔獣じゃ無いから血は出ないけど、その代わりに大量の樹液を撒き散らすんだった! 見方によっては、とてもバイオレンスな光景だよね。


 ──俺のバカ!! 何でもっと配慮できなかったんだ!? 少し考えればわかっただろうに、無計画に動きすぎだよ、全く……。

 少し申し訳なくなりながら、肩をフルフルと震わすシエルに声をかける。



「……一応『シェルプラント』達は片付けたが、少し無神経だったな。気分は悪くなったりいていないか?」


「………………」


 ああ、反応が無いよ……。やっぱり刺激が強すぎたのかな。それとも俺に呆れているだけなのか……。


「…………………あ……」


 あ? どういう事だろう? 微かに聞こえたつぶやきに首をひねっていると、



「──ありがとうございます!!!! やはり貴方は、神の遣わした救世主だったのですね!!!!」



 瞳から涙を溢れさせたシエルが抱きついてきた。

 いきなりどうしたの!! 俺がなんかしたかな!?



 混乱する頭で考えようとするが、正常に働かないせいで思考がまとまらない。その上、無駄に敏感なオボロの嗅覚が、シエルのバニラの様に甘い芳香を嗅ぎとる。フェロモンでもあるそれは、オボロの鼓動を高鳴せる。


 何で女子はこんないい匂いがするんだ! 男子なんて汗臭いだけなのに!!

 オボロの内心の動揺にも気づかず、シエルは感極まった様にオボロの胸に顔を埋める。



「あの『シェルプラント』を駆除していただけるなんて、感謝してもしきれません!! これで子供達に貧しい思いをさせずにすみます」



 純粋に子供達のことを思い、涙を流すシエル。その姿を美しいと思うんだけど、修道服の下に隠された、実は立派だった双丘が当たって俺はそれどころじゃ無いんだよ!

 妙な気持ちになる前に、それとなく離れよう……。



「……あんたの気持ちはわかった。それなら、子供達に報告してきたらどうだ?」


「──そうでした!! みんなにこの事を伝えなければ!!」


 バッと俺から離れて、聖護院の方に走り去ってしまった。

 ……まだ依頼完了書をもらってないんだけど……。


 しかし、隣から聞こえてくる嬉しそうな声。それを邪魔するなんて無粋かな〜。今日はこれで失礼するかな〜と、振り返りギルドに向けて足を踏み出──



「──オボロさ〜ん!! お待ちになって下さい!!!!」



 ──そうとしたら、シエルに呼び止められた



「このままお礼もせずに返すことなんてできません!! 大したおもてなしもできませんが、どうか聖護院に来て下さい」



 う〜ん、特に断る理由もないし、お言葉に甘えちゃおうかな。



「……わかった。お邪魔させてもらおう」


「本当ですか!? ではこちらにいらして下さい」


 シエルに促されて、聖護院の中に入って行く。壁に落書きなどが目立つが、ご愛嬌だろう。アットホームな雰囲気が落ち着くし、とても住みやすそうだ。

 廊下を歩いていると、奥の方から賑やかな声が聞こえてくる。多分ここの子供の声だろうけど、ずいぶん大所帯なんだな〜。



「そんな立派なものじゃないですが、そこにお掛けになっていてください」


 食堂の様な場所に通され、席を勧められる。


「……ありがとう。あまり気を使わなくてもいいぞ」


「そんなわけにはいきません! オボロさんには、感謝しても仕切れないのです。せめてこのくらいはしないと……」


「……ちゃんと報酬は貰うんだ。 過剰に感謝する必要なんてない」


「それでも私は、貴方にお礼がしたいのです。どうか憐れな私に、恩返しをさせてください!」


「……好きにしたらいい。でも、決して無理はするなよ」


「はい!! 誠心誠意おもてなしさせていただきます!!」



 無理しなくて良いって、言ったばかりなんだけどな……。でも、感謝されるのは嬉しいよ。仕事をしたって感じがするし!

 暖かくなった心を心地よく感じながら、のんびりと深く座り直す。やることがなくなっちゃったけど、どうやって暇潰しをしようかな……


 手持ち無沙汰になったので、聖護院の中を見回す。所々に飾られた手作りの置物、身長を測ったであろう柱の傷。地球の実家を思い出すな〜。俺も子供の頃は、家の至る所にイタズラしたものだ。そう考えると、懐かしい気持ちになるよ。

 家族の温もりを遠いことの様に感じながら、静かに目を閉じる。すると、ドアの近くから話し声が聞こえた。



『あの人誰なんだろう?』


『全身黒ずくめだから、不審者じゃ無いのか? 見るからに怪しい格好だし』


『ええ!? 今はミリンダさんがいないのに、 どうしたら良いの〜……』


『こうなったら、俺が玉砕覚悟で……』


『2人とも、少しなってね。まだあの人が悪い人と決まったわけじゃ無いし、様子を見ましょう』



 う〜ん。会話を聞いている限り、俺は不審者扱いされているみたいだ。この全身真っ黒スタイルは、やっぱり怪しすぎるのかな……。子供達を不安にさせるのも申し訳ないし、どうしようかな。

 お互いが身動きが取れず、膠着状態になってしまう。


 気まずいなぁ。さっきまでのほのぼのした空気が嘘みたいだよ……。

 途方に暮れて、天井を見上げる。すると、この状況を打破できる、唯一の人物が登場した。



「貴方達はこんなところで何をしているのですか? 早く中に入りなさい」


「し、シエルお姉ちゃん! 」


「いや〜、なんというか、入りずらいと言いますか……」


「? 珍しくハッキリしない態度ですね。何か気になることでもあるのですか?」



 お盆を持ったまま首をかしげるシエル。この子達が警戒しているのは、明らかに俺だろうに。天然なのか、全然気づいていない。まごついている子供達の背中を押して、半ば強引に食堂の中に連れてきた。



「ほら、お客様に挨拶しなさい。ここにいるオボロさんは、教会の『シェルプラント』を駆除してくださった恩人なのよ」



「「「ええ!!」」


 シエルの言葉に、3人揃って驚いた声を上げた。そして興奮した様子で、シエルに詰め寄る。



「『シェルプラント』って、あの教会にいたやつのこと!!」


「あんな化け物を倒せるもんか!! 冗談だよな!?」


「もし本当に駆除してくれているとして、報酬は払えるの? 今の聖護院にそんなお金ないでしょ!?」


「みんな落ち着いて下さい。そんないっぺんに話しかけられても、私は答えられませんよ」



 テーブルにお茶を準備しながら、シエルがたしなめる。それでも子供達の勢いは止まらず、シエルに疑問をぶつけている。

 その声が大きすぎたせいで、奥から他の子供達が大勢詰め掛けてきた。食堂は大混乱だ。


「皆さん!! お客様の前ですよ、みっともない姿を見せるんじゃありません!!」


「「「はい!! ごめんなさい!!」」」



 シエルの言葉に、子供達が直立不動になる。


 ……この動き、かなり訓練されているな。



「オボロさん、申し訳ありません。普段来客などないものですから、みんな珍しくみたいで……」


 申し訳なさそうに謝罪するシエルさん。怒られた子供達も、緊張してるみたいだ。そんな気にしなくてもいいと思うんだけど、教育はしっかりしているんだね。じゃないと、子供達の怯えた表情の説明ができないよ。


「……賑やかなのは嫌いじゃ無い。それに子供達も、家に知らない人がいたら不安になるのは仕方がないだろう」


 これは僕のまぎれもない本心だ。みんなでワイワイするのも、子供達と遊ぶのも好きだしね。


「そう言ってもらえると助かります……。それでは仕切り直して、お茶を飲みましょう!!」



 ポットから紅茶を注ぎ、お茶請けをテーブルに並べている。茶葉の香ばしい香りが漂い、みんなの雰囲気が和らいでいく。

 コト。シエルさんが俺の前に入れたての紅茶を運んでくれた。一緒に持ってきてくれたドライフルーツも美味しそうだ。


「あまり高価なものではないのでしが、遠慮なく召し上がって下さい」



 シエルさんも席に着き、自分の分の紅茶を注いでいる。あまり遠慮しすぎるのも失礼なので、いただくとしよう。

 口元を隠していた【破邪の衣】を外し、カップに口をつける。すると豊かな香りが広がり、鼻孔から抜けて行った。


「……美味いな」


「本当ですか!? 実はこの紅茶、私のオリジナルブレンドなんです。お口にあったようで、本当に良かったです」


「……これはプロが作ったものだと思っていた。見事な腕前としか言いようがない」



 茶葉の蒸らし方も完璧だし、調合の比率も見事だとしか言えないよ!! まさかこっちの世界で、こんな美味しい紅茶を飲めるとは……。



「そんなに喜んでもらえると、私はまで嬉しかなってきますね。ドライフルーツも食べてみて下さい」



 照れたように笑うシエルさん。そしてドライフルーツの乗ったお皿を俺の方に寄せてくれる。



「……これも美味しそうだな。遠慮無くいただこ──ん?」


 早速食べようとしたところで、視線を感じて動きを止める。なんか子供達が周りに集まってきてるんだけど……


「こら!! そんなに見つめたら、オボロさんが食べづらいでしょう!!」


 ヨダレを零しそうな子供達をシエルがたしなめる。なんか申し訳ない気持ちなってきた……



「だって甘いものなんて、全然食べられないんだもん」


「それに、最近ご飯も少ないし……」


「……確かに『シェルプラント』達のせいで収入が少なくなり、あまり食べさせてあげられてませんでしたね……」


「うう〜、シエルお姉ちゃんが悪いわけじゃ無いよ!! 僕たちはわかってるもん!!」



 そうだそうだ! とシエルさんに駆け寄っていく子供達。この感動空間の中で、俺だけ疎外感が……。


 ──はぁ、ここは一肌脱ぐかな。


「……──シエル。厨房を借りるぞ」


「え! ど、どうしてですか……?」


 俺の突然の申し出に、シエルが目を見開いて驚いている。

 どうしてかだって、そんなの決まっているでしょ!



「──美味いものを食わせてやる。少し待っていろ」



 お菓子を作るんだよ──!!






いや〜、有吉の壁を見ていたら遅くなってしまいました……。この番組、本当に面白いですよね 笑

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