異世界は雑草までファンタジー
久しぶりに投稿することができました!!
できれば今日中にもう1話投稿したいと思っているので、今から全力で書いていきます╰(*´︶`*)╯♡
ぱたぱた。廊下から誰かが歩く音が響いてくる。木製の窓からは朝日が差し込み、人々の生活が始まったことを告げていた。
今だに慣れない硬めのベッドで目覚めたオボロは、体をほぐす様にその場で数回ジャンプする。寝起きで体温が低いせいか、いつもより白い手に赤みが差し、体と意識が覚醒した。
昨夜は睡魔に任せて寝てしまったため、結局武器の確認をすることができなかった。ちょうど今は食堂の混んでいる時間だし、部屋を出る前に確認することにする。
まずは寝巻きからいつもの装備に着替え、【浄化】の魔法で顔や歯を綺麗にする。そしてスッキリしたところでベッドに腰を下ろし、良く使っていた武器を生成してみる。
「……ずいぶん久しぶりに見たな。ゲームをやっていた頃には、触れない日なんてなかったのに」
試しに取り出して見た暗器をベッドの上に並べながら、感慨深く呟く。オボロは【冥府の羽衣】の特定の場所に、魔力を込めてを添えることで暗記を創り出す。十六夜で言えば、手のひらに魔力を込めることが条件だ。オボロが作れる暗器と生成場所は以下の通りだ。
【十六夜】……漆黒のクナイ。手のひらに魔力を込めることが条件。
【不知火】……灼銀の刀身をしたクナイ。十六夜と比べて刃が長く、約30センチある。ローブの内側、腰のあたりに触れることが条件。
【残月】……闇を染め込んだ様に黒いチャクラム。ローブの内側、胸の辺りに触れる事が条件
【雪羅】……ナックルガード状の、腕に装着する金属棒に四つの鉤爪が付いており、端には親指を入れる輪っかがつている。これを握りこんで相手を突き刺し、抉ると猛獣の爪に切り裂かれた様な傷口になると言われている暗器【虎の爪】をベースにした物。腕に魔力を込める事が条件。
【閃空】……魔力で極小のワイヤーを創り出し、相手を拘束したり切断する暗器。手首を捻る事が条件。
「……大体こんなもんだな。質はプレイヤーの時に比べると落ちるが、一般的な装備よりも遥かに有能だろう。実際、俺が早くレベルをあげれば済む話だし、後は実戦で使い心地を試すだけか」
一つ一つが禍々しい輝きを放つ暗器。それをインベントリに仕舞いながら、身支度も済ませてしまう。そろそろ食堂も空いてきた時間だろうし、このまま朝食をとることにする。
一通り身だしなみが整ったオボロは部屋を出て、人気の少なくなった食堂で朝食を食べる。その際アリンと挨拶をし、1日を頑張る活力を貰った。さすがに今日クエストを受けないと、そろそろ所持金が心許無いのだ。足早にギルドに向かった。
道中何事も無くギルドに到着する。少し遅めにきたせいか冒険者の数は少なく、閑散とした印象を受ける。
オボロにとっては入りやすくなったギルドの中を、クエストボードに向かい進んで行く。昨日はここで邪魔が入ったが、今日は問題なく依頼を受けられそうだ。
「……さて、どんなクエストを受けるかだな」
昨日ユリさんに、街中のクエストを進められたんだよね。どっちみち討伐クエストとか報酬のいい依頼は残っていない。ここはアドバイスに従っておこう。
となると、どんなのが残っているかが問題だよね。土木工事とかは勘弁して欲しいし、もう少し楽なのは……っと、これは懐かしいな。
「……『ウィード』の駆除依頼か。これならすぐに終わりそうだな」
俺が見つけたのは『ウィード』という植物系の魔物の駆除依頼。本来討伐系の依頼なら報酬も高く、朝早く来た冒険者に取られてしまう。しかし『ウィード』の駆除だけは、ゲームの時から人気が無かった。それは『ウィード』の性質からくるある問題が原因だ。
なんというか、『ウィード』の体液は臭い上に落ちにくいんだよね。しかも普通の雑草に混じって生えていて、草刈りなどをしていると襲われてしまう。非常に厄介な魔物なのだ。正確には体内に魔石を持っていないので魔物では無いのだが、分類上は一緒にされている。
つまり『ウィード』は、高値で売れる魔石も無く、見つけにくい上に倒すのも厄介な魔物であり、臭く落ちにくい体液を出すめんどくさい相手だ。そのため誰も受けたがらない。だから『ウィード』関係の依頼だけで、数十種類残ってるんだろうね。
「……ま、俺にとっては美味しい依頼だがな」
『ウィード』を見つける方法も、駆除する方法も知っている。誰もやりたがらないせいで俺が独占できるし、かなり稼げそうだな。
受ける依頼も決めたことだし、一番報酬のいい『ウィード』の依頼書をクエストボードから剥がす。そして受付で書類整理しているゆりさんの所へ持っていく。
「あ、オボロさん! おはようございます。昨日はご迷惑をおかけしてしまいました……」
顔を上げてユリさんが挨拶してくれる。その拍子に一つに括られた亜麻色の髪が揺れ、むさ苦しいギルドに清涼感を運んでくる。
昨日の一件は全てシグルムが悪いわけで、ユリさんに非は無い。それなのに丁寧に謝罪してくれるのは、彼女の人の良さからなのだろう。
「……ユリさんが気にすることはない。悪いのは全てシグルムだ」
実際そうなんだし、俺たちが気を使い会う必要なんてないのだ。
「あはは……、あの人も悪い人じゃないんですけど、思いつきで行動する事が多くて……」
なんて言うか、見た目通りの人間なんだなぁ。あいつ。物凄く野放図に生きてそうだ。
「……それはなんと無くわかる。あいつが後先考えて行動している姿が想像できない」
「出会って間も無いオボロさんにすら、そう言われちゃうんですね〜」
「……仕方がない。全てはあいつの行動のせいだからな」
「返す言葉が無いですね……。ごほん。それで今日はどの様なご用件でしょうか?」
後ろから別の職員に睨まれていることに気づいたユリさんは、わざとらしく咳払いをした後に仕事の顔になる。
一瞬で切り替えができているのは、さすがはプロだとしか言いようがない。
「……依頼を受けに来た。手続きを頼む」
俺も意識を切り替えて、クエストに集中する。なんだかんだ言っても初仕事だ。緊張して来た……
「はい。クエストの受注ですね。何を受けるんですか?この時間は討伐系の依頼は、ほとんど残っていないと思うんですけど」
「……町中のクエストを受けるつもりだから、問題はない。これを頼む」
「ああ! 私が言ったことを覚えていてくれたんですね。それで何を受け──ええ!!」
俺から依頼用紙を受け取ったユリさんが、眼を見開いて叫び声をあげる。そのせいで周りの職員からの視線が痛い……。
「……そんなに驚く事か?」
「驚きますよ!! なんでよりにもよって『ウィード』の駆除なんですか!?」
「……楽な上に、残っているものの中だと報酬が良かった……から?」
「なんっで疑問系なんですか……」
そんなに驚かれる様な事なんだろうか。確かにめんどくい依頼だと思うけど、過剰反応しすぎだと思う。ユリさんの声を横で聞いていた他の受付嬢も、俺のことを変人を見る目で見ている。
……俺って、そんなに変なのかな?
ちょっと落ち込んでいると、ようやく平静を取り戻した、ユリさんがなだめる様に話しかけてくる。
「オボロさん。『ウィード』がどの様なものか知っていますか?」
「……もちろんだ。その上で依頼を受けるつもりだ」
俺がそう言い切ると、ユリさんが疲れた表情になる。なんでだろう?
「オボロさんがそう言うからには何か考えがあるのでしょうが、『ウィード』の駆除は厄介ですよ。あまりお勧めしません」
──ああ。そう言う事か。ユリさんは『ウィード』の性質を知っているから、俺を止めようとしてくれていたんだな。でもそれには及ばない。俺はその辺の冒険者と違ってヤワじゃないからな。サックと依頼を片付けて、ユリさんに褒めてもらおう!!
「……問題無い。今日中には片付くだろう」
「……はぁ。シグルムさんが認めるオボロさんの事です。私がとやかく言うことでは無いですね。──はい。手続きが完了しました。事前に依頼主である、商人ギルドのギルドマスターに会ってから依頼をこなす様にしてください」
手早く手続きを終わらせてくれたユリさんは、ハンコの押された依頼書を返してくれた。それをインベントリに仕舞い、お礼を言ってから受付を立ち去る。
「商業ギルドは、大通り沿いにあるのですぐに分かると思います。怪我のないように、気をつけて言って来てくださいね」
「…………ありがとう……」
ユリさんに応援されテンションが最高潮の俺は、軽い足取りで大通りに出る。商業ギルドのエンブレムは知っているし、迷うことはないだろう。ユリさんを驚かすためにも、最短で依頼を片付けなければ!!
気力のみなぎる体を動かし、様々な格好をした人で賑わう大通りを、意気揚々と進んで行った。
そんなオボロの背を見送ったユリたちの間で、こんな会話がされていたのをオボロさは気づかなかった
『ねぇ、ユリ。あの黒づくめの人、新人だよね。『ウィード』の駆除なんてできるの?』
『……分からないわ。一般的なFランク冒険者だとぜったに無理ね。逃げ帰ってくるのはオチだと思う』
『だよねー。普通なら、まず受けさせないもん。なんであの人には依頼を発注したの?』
『オボロさんは、シグルムさんと互角に戦える実力があるの。それに、他の人とは違う雰囲気を感じるし……』
『なるほど。只者じゃないってことね! ユリがそう言うなら間違いは無いだろうし、面白い子が入って来たな〜』
『オボロさんは期待の新人だもの!! 期待して待ってましょう!!』
姿の見えなくなったオボロにエールを送り、ユリたちは仕事へと戻って行った──
♢
「……ここが商業ギルドか」
重要な施設は大通りに集まってるから、わかりやすくていいね! 全く迷わなかったよ。それに冒険者ギルドからも近いし便利だな〜。
呑気な感想を抱きながら、白を基調とした清潔感のある建物へと入って行く。商業ギルドは日本の銀行みたいな内装で、雑然とした冒険者ギルドとは大違いだ。そんなピッシリとした空間に俺は場違いな感じがして、居心地が悪い。それは周りにいる人も同じ気持ちなのか、さっきから視線が痛いな。
「お客様、本日はどのようなご用件でしょうか」
入り口で立ち尽くしていた俺に、職員らしき青年が話しかけてくる。
──助かった〜。正直、ここからどうしたらいいのか分からなかったんだよね。向こうから話しかけてくれて助かったよ。
「……冒険者ギルドで『ウィード』の駆除依頼を受けて来た者だ。依頼を始める前に、ここにくるように言われたので伺わせてもらった」
さすがに商人相手には、言葉遣いを多少は直す。相手に不快感を持たれて、取引を流されるのは困るからね。それに相手も、最低限の礼儀も知らない奴に、これからも依頼を回そうとは思わないだろう。つまり、このファーストコンタクトは重要だと言うことだ。
思いの外まともな対応をされたことに青年は驚いたようだが、すぐに気を取り直し、警戒心を抱かせないような人の良い笑顔で、
「なるほど、冒険者の方でしたか。今担当の者を呼んできますので、そこの椅子におかけになっていて下さい」
「……分かった。お気遣い感謝する」
折り目正しく一礼した青年は建物の奥に消えて行く。残された俺は指示されたように、待合室のような場所の椅子に座った。俺が来た事で他の待っている客が視線を向けてくるが、それは一瞬のことで、直ぐに興味を失ったようだ。
ただ待っているだけでは退屈なので、ギルド内を観察してみる。どうやら商業ギルドに来る人たちは、出店の申請や税金の支払い、従業員の募集に来ているみたいだ。他にも大口の取引など、多種多様なことに対応しているみたいで、職員と個室で商談に行く人も居る。オボロには縁のなさそうな空間だ。
ボ〜ッと周りを見て居ると、小走りで青年が近づいて来た。どうやら確認が取れたみたいで、後ろに幸の薄そうな中年の職員が書類を持って控えて居る。
「お待たせいたしました。ただいまから担当のクルトが対応します」
青年に促され、ヒョロッとした男性が進みでる。
「紹介されました担当のクルトで御座います。本日はよろしくお願いします」
「……冒険者のオボロだ。忙しい中対応していただき感謝します。さっそくで申し訳ないが、以来のことについて話したい」
力無い笑顔で自己紹介するクルトに対し、最低限の挨拶をしてから話を切り出す。本来ならもう少し順序があるのだろうけど、俺には分からないし、早くクエストをこなしたいという気持ちの方が強い。
それが来るとに伝わったのか、ギルドの奥へと通された。カウンターの横を通り、小さな個室に入る。そして席を勧められたので座ると、クルトが説明を始める。
「では、さっそくで以来内容の確認をさせてもらいます。オボロ様が受けられたのは、貴族街にある屋敷の庭の『ウィード』の駆除。報酬は50000エル。間違いは無いですか?」
「……ああ。問題無い」
クルトから渡された書類に目を通し、不備がないことを確認してから頷く。ここまでは冒険者ギルドで聞いていたのと同じだ。
「そうですか。依頼を達成時は私が現地で確認をし、書類を作成します。それを冒険者ギルドに提出することで、クエスト達成となるのでお間違えないようにお願いします」
「……分かった。さっそく『ウィード』の駆除を始めたいのだが、屋敷までの地図はあるか?」
「それでしたら、私が現地までご案内致します」
「……そうか。わざわざ申し訳ないが、お言葉に甘えさせてもらう」
「いえいえ、これも仕事ですから。では、さっそく参りましょう」
クルトと共に商業ギルドをでて、貴族街へと向かう。流石は貴族たちが住む場所は違い、道が舗装されていた。建物は一つ一つが立派で、庶民との差を感じる。そんな屋敷が立ち並ぶ貴族街をクルトと2人で進み、目的地へと向かう。
時折巡回する衛兵から厳しい目で見つめられるが、話しかけられることは無かった。流石に貴族街でこの格好は目立ってしまう。不審者扱いされないか心配だ。
しかし、それは杞憂だったようで、無事に指定された屋敷まで来ることができた。
「ここが、依頼にあった屋敷です。この敷地内の『ウィード』を全て駆除するようにお願いします」
「……了解した。直ぐに取り掛かることにする」
「──え! オボロ様!?」
驚いて声を上げるクルトを置いて、敷地内に足を踏み入れる。屋敷には誰も住んでいないようで、汚れや傷が目立つ。そのせいで雑草は伸びっぱなしで、『ウィード』が発生する原因になったのだろう。
そんな草むらと化したを見渡す。『ウィード』は一見すると普通の草にしか見えない。しかし振動を加えられると地中から飛び出し、近くにいる生物を襲うのだ。『ウィード』はだいたい30センチ位くらいの大きさで、ホウレンソウに顔と手足をつけたような姿をしている。大量に地面から飛び出して来る光景は、シュールの一言に尽きる。
さて、さっそく始めるとしますかな。クルトさんんを待たせるのも悪いし、スピード重視で行こう。
下半身に力を込め、スキル【迅狼】を発動する。体の奥から力が溢れ、四肢に行き渡る。平常時より膨張した筋肉を使い、ダンッ! 地面を抉り、跳躍する。一気に広大な庭の中心まで移動し、精神統一を始める。
「……『ウィード』の駆除で厄介なのは、相手の機動性と機密性だ。どこにいるかも分からず、見つけたとしても素早い動きで翻弄される。確かに面倒な相手だな」
改めて『ウィード』について纏めたけど、本当にめんどくさい相手だよね。みんながやりたがらない理由がわかるよ。
──でも、俺なら直ぐに蹴りがつく。
野放図に生える雑草の中から『ウィード』を見つけるのは大変だ。しかし、『ウィード』が振動に反応する性質を使えば、直ぐに殲滅することができる。
「……さあ、姿を晒しやがれ──【震脚】」
──ズドン!!
オボロの蹴りが地面に突き刺さり、凄まじい音と供に大地を揺さぶる。その拍子に、雑草に擬態していた『ウィード』が、反射的に飛び出しその姿を見せた。
「……一度見つけて仕舞えばこっちのもんだ。切り刻め──【閃空】」
無防備に空中にその身を晒した『ウィード』。地面に降り立ち、逃げ出す前に全て倒しきる。
……ちょうど試し斬りにもいいし、思う存分やらせてもらおう!
オボロの両袖から陽光に煌めくワイヤーが射出される。先端にはひし形の重りがつけられ、遠心力によって速度を得た【閃空】はう『ウィード』に襲いかかる。
──空気を斬り裂き
──研ぎ澄まされた刃で
──全てを裁断する
ひぃぃぃぃいいいん!!
細いがためにほとんど肉眼に移ることのないワイヤーは、オボロの腕の動きと連動し、空を縦横無尽に蹂躙する。なすすべも無く【閃空】の斬撃に晒された『ウィード』は、何が起こったか理解することもなくその命を散らせた。
ぼとぼとぼと。跳び上がった『ウィード』達が空中で真っ二つにされ、その骸が地面に投げ出される。水気の含んだ音と共に降り注いだ魔物の成れの果て。一瞬にして全滅した『ウィード』を一瞥して、クルトの元へと向かう。
いや〜、終わった終わった〜。こんな楽な仕事で50000エルはボロ儲けだね!
フードの下で能天気なことを考えているが、普通の冒険者ではこうはいかない。まず『ウィード』を斬りつけた剣が、粘着性を持つ体液で使えなくなる。さらに服にかかれば、もう買い換えるしかない。つまり、装備の買い替えをしたら報酬より高くついてしまう冒険者が後を絶たないのだ。そのせいで『ウィード』は敬遠され、ある意味最悪の魔物ととして扱われている。
それを瞬く間に、それも損害なく壊滅させたオボロに、クルトは信じられないといった様子で話しかける。
「──オボロ様!! 今何をされたのですか!? 」
なんでそんなに驚いているのか分からないけど、聞かれたからには答えないとね。それにクルトの焦った姿は、少し面白いし。
「……飛び出してきた『ウィード』を切り刻んだだけだぞ」
「………………っは?」
何を言っているのか分からない。といった表情で見つめてくるクルト。そんな意外そうな顔をされても困るんだけど……。
「……何をそんなに驚いているんだ? 可笑しな事は無かっただろう」
「いえいえいえいえ!! 逆に普通である事が一つもありませんでしたよ!? どうやったら、あんな簡単に『ウィード』を駆除できるのですか!!!」
唾を飛ばしながら捲したてるクルト。最初に出会った時は大人しそうな人だと思ったけど、多分こっちが素なんだろうね。表情に無理がないよ……って、そんな事はないか。
俺としてはさっき言った事が全てだけど、それじゃあクルトは納得しないよね。
……しょうがない。もう少し詳しく説明してあげるか。
目を見開いて迫ってくるクルトを押しのけながら、噛み砕いて解説していく。
「……『ウィード』が大きな振動を受けると、跳び上がって隙ができる習性がある。それを利用して、敷地内の『ウィード』全てを叩き出し、空中にいる間に始末した。わかったか?」
「……あなたが規格外ということだけは嫌という程わかりました。取り敢えずは、依頼達成ということになります。こちらの書類を冒険者ギルドに提出して下さい」
せっかく説明したのに、遠い目をしているクルト。これじゃあ聞いているのか怪しいところだ。しかし仕事はちゃんとこなしてくれているし、気にしないでいてやろう。
「……了解した。俺はこれで失礼する。また次の機会があったらよろしく頼む」
「こちらこそ、ありがとうございました。気をつけてお帰りください」
哀愁を漂わすクルトは、力のない笑みを浮かべて、ゆっくりとお辞儀した。それに片手を上げることで答え、報告をするために来た道を戻る。
依頼を受けてから1時間ぐらいしか経過していないため、大通りの景色はさほど変わっていなかった。もう少し時間が経てば、昼食を取るために出て来た労働者たちで賑わうだろう。まばらなに立ち並ぶ屋台を横目に、大通りをのんびりと進む。時折気になる店もあったが、懐が寂しいためまっすぐにギルドに帰って来た。
そして木製の床を進んで受付に近ずくと、顔を上げたユリさんと目があった。
「あれ、オボロさん? 確かに『ウィード』の駆除に行ったはずでは……」
「……それなら、もう終わった。手続きを頼む」
不思議なものを見た顔をしているユリさんに、クルトから貰った書類を渡す。
「またまた〜。オボロさんも冗談なんて言って〜、そんな早く終わるはずが──ええ!?」
ブルブルと紙が破れてしまうのではないかと、心配になる程握りしめるユリさん。文字通り穴が開きそうになるくらい、書類を食い入るように見つめている。そんなに俺は信用がないんだろうか
やがて引きつった顔で俺を見たユリさんは、震える唇を開いた。
「どっ、どうやったら、こんな早くに『ウィード』を駆除できるんですか!? 魔法でも使ったんですか!!」
「……そんなもの使っていない。ただ全てを斬っただけだ」
「──そ、そんなばかな事が……こほん。依頼を達成してことを確認しましたので、こちらが報酬の50000エルです。ご確認下さい」
言葉の途中で事務的な顔に戻ったユリさんは、一旦この事は忘れたみたいだ。気を取り直すように咳払いして、報酬の50000エルを渡してくれる。
……自分で初めて稼いだお金。このずっしりとした重みが、妙に感慨深いよ……。
「……確かに受け取った。ところで、他にもクエストを受けたいんだが、何か紹介できるものはないか?」
まだ時間はあるし、なるべく稼いでおきたいところだ。ユリさんが勧めてくれる依頼ならおかしなものもないだろうし、何より安心感が違うんだよね。
俺の言葉に、きめ細かい肌の頰に手を当て、考え込むユリさん。しばらくそうしていたと思ったら、席を立って奥から一枚の紙を持って来た。
「──オボロさん。貴方にならお願いできると思って、この依頼を紹介します。別に強制ではないので、内容を確認した後に断って貰っても構いません」
随分と仰々しいな。どんな依頼を持って来たんだろう?
訝しげにユリさんを見つめていると、おずおずと言った様子で書類を渡される。その依頼内容は──
「……聖護院及び教会の敷地内における『ウィード』の根絶。また、同敷地内における『シェルプラント』の排除か……」
「はい。依頼の難易度自体それほど高くないのですが、相手が相手ですから……」
言葉を濁すユリさん。これはまためんどくさい事を頼まれたかもしれん──
実はノリと勢いで『清く 正しく 美しく!! 〜僕は異世界で最強のメイドさんになりました〜!?』という作品を書き始めました。そちらも読んでもらえると嬉しいです!!