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透明な女の子  作者: 毛利忠壱
夏は白き出逢いの季節
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夏は白き出逢いの季節

目を開ける。

まばゆい光。

いつも通りの部屋の風景。

朝か。

つまらなかった昨日は終わりまたつまらない今日が来たのか。

一人で帰宅して、置いてある晩ご飯を食べ、歯を磨き風呂に入り布団の上でぼんやりしていたところまでは覚えているのだが……。


なるほど、なにもせずに眠ってしまったのだ。

時計を見る。

もちろん寝坊だ。

我が家の目覚まし時計は今日も仕事をしなかったのか、と不平を漏らす…まぁセットせずに寝た俺に全責任があるのだが。

といってもこれはいつも通りのことで目覚まし時計などここ数ヶ月鳴っているのを見たことがない(なんせいつもセットをし忘れているから)。


低血圧でもないのに朝に弱い歴17年。

この世に生を受けて17年も経つのに一向に改善の兆しは見えない。

それどころか毎年悪化すらしている。


朝は常に闘いだ。


「急がないと遅刻するわよ」


まだ寝間着姿の母があくび混じりの声でキッチンから叫んだ。

母は今日も夜勤だから俺が家から出たらもう一眠りするつもりなのだろう。


授業道具を乱暴に鞄に詰め込む。

それを一瞬で終わらせたその足で部屋のドアにタックルしてこれまた乱暴に押し開ける。

階段をかけおり、雑に靴を履いて玄関の扉に手をかけた。

今日も朝飯を食べている時間はない。


「じゃ」


「行ってきますくらい言いなさい!」


俺は母の言葉を尻目に家を飛び出した。


外は既に暑かった。

さすがは夏休み前。

走り出した瞬間に汗が滲んでくる。

しかし夏の早朝はいい風が吹く。

火照った体を朝の風が冷却していく感覚が俺は嫌いではなかった。


道路標識を華麗に無視して疾走する。

朝の疾走は1日で唯一の刺激と言っても過言ではない。

が、それも最近ではルーティーンになってしまい、もはや学校に間に合わないかもしれないというスリルはスリルではなくなっている。


俺は走りながら頭の中で学校までの距離を思い浮かべる。

少しいつもよりペースが遅い。

間に合わないかもしれない。

ペースをさらに上げる。

幸いここはマンションと一軒家が混在する閑静な住宅地だから曲がり角から猛スピードで車や人が飛び出してくることなどほとんどない。

朝ダッシュにはこの上なく都合がいいのだ。


十字路が見えてきた。

車の音1つしない静寂。

まさに閑静な住宅地を絵に描いたようなところだ。

もちろん速度なんて緩めない。

ただいつもより静かな気がした。


刹那、見えた。

影。

間に合わない。


ドン!!!


鈍い音がして俺はよろけた。

右の半身に痛みが走ったが、なんとか踏みとどまる。

十字路、右半身の痛み。

脳はやっと状況を理解した。

でもそれならあるはずのものが……


あるはずのもの、というか十字路の追突事故の被害者は数秒で見つかった。

と言っても、ものの数メートル前に尻もちをついていたから探すまでもなかったのだが。

俺とは違う学校の制服らしき灰色のカーディガンを着ている女の子が尻もちをついてうつむいていた。


「大丈夫ですか?」


慌てて駆け寄る。


「はい」


女の子は顔を上げた。

はっとした。

控えめに言ってかわいらしい。

長い美しい髪をかすかな風になびかせ、顔に上品さと少しの幼さを同居させたその少女はきょとんとした顔でこちらを見ている。

この分だと大きな怪我は無さそうだ。


「すみません。ぶつかってしまって」


俺は速やかに謝罪を済ませて、立ち去ろうとした。

もちろん申し訳ないとは思っているけれど、学校に遅れるわけにもいかない。

謝罪はタダだしなにより場を収める最強の切り札なのだ。


「あの……」


女の子の顔が近づいてくる。

俺は当惑した。

女の子の顔はそんなことはお構いなしに迫ってきた。

体温が2度くらい上がった気もしたが気のせいだろう。

そのロングヘアーの女の子はそのきれいなくりっとした目で俺の目をまさに目と鼻の先で見ている。


「あの……なんですか?」


なんとか声を絞り出した。

高校2年にもなって幼馴染2人以外とほとんど学校で喋らない俺にとっては上出来な方だろう。


女の子はさらに顔を近づけてきた。


「私が……見えるんですか?」



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