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第8話 セフィリア王国

 このお屋敷でお世話になって、十日ぐらい経った。

 その間にジークに会ったのは、あの日の朝食以来なし。なんか放ったらかし感を拭えず、寂しい気もするが、ジークは日頃、とても仕事が忙しいらしいので、こちらもジークのことは放っておいた。


 日中の私は何をしているのかというと、読み書きとマナーの勉強だ。

 私は話す言葉に不自由はしていないが、字はどうやら、もとからなのか、それとも忘れているからなのか、読み書きができない。

 先日、デラを通じてジークが私に本を数冊贈ってくれた。多分、私が暇そうにしているだろうと気を遣ってくれたのだと思う。おちゃめさんめ。恥ずかしがらず、自分で持って来いっつーの。

 デラから本を受け取り、開いてみてフリーズした。だって、クニョクニョとミミズが這いずり回った字なんか読めない!デラに言いにくそうにそのことを伝えた。


「デラ?あのね・・・えっと・・・。私ね?この本全部、読めないの。せっかくジークがくれたんだけど・・・」

「あらあら、お気になさらずともよろしいのですよ?フィオナ様。ジーク様からは、ちゃんとお伺いしております。フィオナ様は異国の方ゆえ、読み書きが不得手かもしれぬ、と。それに、フィオナ様がもし、それを克服なさりたいのであれば、家庭教師をつけてやれ、とも。いかがなさいます、フィオナ様。ジーク様は、フィオナ様がこれだけセフィリア語を完全に習得しているのだから、字もすぐに会得するであろうとおしゃっておいででしたが―――」


 ぬ、ぬ〜。なんか今ジークに挑戦状をたたきつけられた気分になった。

 ここに居ないのに、ジークの小馬鹿にしたような顔を思い出し、思わず叫んでいた。


「こんな字、すぐに覚えてやる!家庭教師でも何でも連れ来てっ!」


 ふんっ、矢でも鉄砲でも持って来やがれ!という気分で鼻息荒くデラに伝えると、デラは満面の笑みで了承しながら、手を腰の横で小さくガッツポーズした。

 えっ!?デラ?・・・今のは何?もしかして、今、私、デラのいいように操られた?

 私が初めて“ブラックデラ”を垣間見た瞬間だった。






 読み書きとマナーの先生は別の人だ。

 読み書きの先生は、タカルエという人で、禿げたおじいちゃん先生。マナーの先生はルーマという恰幅の良いおばちゃん先生。二人とも共通することはフロンズの頭(タカルエは後頭部だけ髪が残ってるの)にブルーの目。この国の人は、おじいちゃんであろうが、おばちゃんであろうが背が高い。かくいうデラも私より高い。ま、私は子どもだから、私を基準に考えても意味ないんだけど・・・

 そうそう、マナーはなぜ習うことになったかというと、私がデラに頼んだからだ。

 先日のジークとの食事で、ちょっと考えさせられた。ジークはあまりそういうことにうるさくなさそうだけど、もし今後、ほかの人と交流をもったとき、知らないことで恥をかくのは嫌だ。

 というわけで、この国の、通り一遍のことを教えてもらうことにした。




 今はマナーの時間。ルーマ先生はとっても厳しい。でも決して理不尽なことをいうわけではなく、私のためを思って言ってくれているのだな、というのが分かるから、全然OKだ。

 今日も、何度注意されてもお辞儀するとき背筋が伸びないので、お尻をペチリと叩かれたところだ。

 私の周りの人たちは、私がジークの客だからか、私の要求は何でも聞き入れてくれる。だから、言いたいことをを遠慮無く言ってくれるルーマ先生は、正直ラクだ。そういう意味では、デラもラクなのだけれど。でもルーマ先生は、私が間違っていたら理論立てて説明し、納得させて方向を示すのに対し、デラは、表面上は私の希望、主張を聞いてくれるが、なんでかいつの間にかデラのヨシと思われる方に誘導されている。私はこれを“デラマジック”と密かに呼んでいる。


「フィオナ様の所作は、荒削りながら、もともと基本の礼儀は身につけられておられるご様子。この分なら、お言葉を少し正した上で、舞踏のお稽古に移ってもよろしいかと」


 ルーマ先生の言ったことに、私は目が点になった。ぶとうってダンスのこと?なんでダンスをしなきゃいけないの?それに私ってば、いつの間に礼儀の基礎とやらが身についていたんだろう?私ってば何者!?


「このオークトス大陸において、舞踏は社交の基本でございます。大陸の紳士淑女は、みな小さい頃から稽古し、年頃になると社交界でお披露目されます。それを終えると大人として扱われるのです。さ、フィオナ様もジーク様が恥をおかきにならないよう、お稽古に励みましょう」


 へぇ〜社交界ねぇ〜。というか私には関係ないんだけど。たまたまジークに拾ってもらって、ジークん家がお金持ちだからこういう教育受けさせてもらってるだけで・・・

 なぁんか、微妙に女官のみなさんや家庭教師の先生たちが、私をもVIP待遇してくれるけど、私は単なる虎の威ならぬ、“ジークの威を借る狐”なんだけどなぁ・・・

 しかし、それを訂正するには、自分が記憶喪失でジークに拾われたことから説明せねばならず、それが嫌で、今もなお、好待遇に甘んじている。ちょっぴり罪悪感・・・







 さて、ここでこの国のことについて、タカルエやルーマから学んだことを少しまとめてみようと思う。

 

まず、この国、名前はセフィリア王国。王国ってからには、もちろん王様がこの国が治めている。といっても、王様が一人で物事を決めるんじゃなく、権力が分立され、政治を行い、法律を定めるのは、王様、そして貴族からなる元老院。悪者を裁くのは、王様と上級指揮官団(軍人さん)だそうだ。どっちにしても王様は一枚噛んでるんだな。


 言葉はセフィリア語が大陸の共通言語。大陸の四分の三の人は、セフィリア語が話せるらしい。デラたちには、私がセフィリア語を読み書きできないから、残りの四分の一の言語を話すところの出身だと思われているんだろう。


 で、このセフィリア王国はオークトス大陸の中にある。この大陸には、セフィリア王国以外にも、たくさんの国が存在するらしいが、そこまではまだ習っていない。でもセフィリアはその中でも三本の指に入るぐらいの大国らしい。すげぇ。


 それから信仰について。このオークトス大陸は、多神教らしい。自然界の五大神ってのがいるんだけど、地神、天神、水神、火神、風神てのが人々の身近に信仰されている。そのほかにも戦いの神、厄災から守ってくれれる神、病気や怪我を治してくれる神・・・エトセトラ、エトセトラ。

 そしてその最高位にいる神が、最高神セフィーリアだ。言わずもがな、セフィリア王国はこの最高神から名称をいただいちゃってるのだ。なんでもこの国は、最高神セフィーリアの生誕の地とか。ほんまかいな。

 だからこのセフィリア王国は、他国の民から、割りと羨ましがられてるらしいし、セフィリアの民はそれが自慢らしい。なんだかなー。どこにでもありそうな話だ。







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