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第7話 この国の常識

 食事の部屋を飛び出して、中庭らしき外に出た私は、木の根元に座り込んでため息をついた。はぁ〜・・・何やってんだろ?私。それにこれからどうしよう・・・

 それにしても、とジークのことを考えた。ジークは私のことをどう思ってるんだろう?だって私は何一つ自分の話をジークにしていないのだ。というか、覚えてないから話したくても話せないのだけども。

 確かに最初は単純に、ジークのことを「親切な人だ」と認識していたが(少し意地悪だけど・・・いや、かなり?)やはりおかしい。ジークは全く私のことを怪しんでいる素振りがない。仮に・・・仮にだ。私が悪い考えの持ち主で、ジークの屋敷にラッキーにも潜り込めたなら、いろんな調度品が盗みたい放題ではないか!何せジークの屋敷には、モノの価値が分からない私ですら、一目で高級品と分かるものがたくさんあるのだ。そう考えると、私ってめっちゃ怪しい!!

 私はこの屋敷の「家長(かちょう)」であるジークに一抹の不安を覚えた。大丈夫か!?この家は!

 そのとき、この家のことを心配していた私に


「お捜しいたしました、フィオナ様」


と声がかけられた。

 顔を上げるとデラが私の前に立っていた。





 デラによって部屋に連れ戻された私は、今、客間でティーセットを前にくつろいでいる。いわゆるティータイムだ。ひとくち熱いお茶をすすりながら、私の前に目を閉じて立つデラを上目遣いで見つめた。


「デ、デラ?どうしたの?」


 な、なんかデラ怒ってる?あ、もしかして食事の途中で私が中座したこと?それとも、デラたちの「だんなさま」に当たるジークに、暴言を吐いたこと?と思い当たる節を考えていたら、


「フィオナ様」


と穏やかに名を呼んだあと、デラは続けた。


「どうかお一人での行動はお控えくださいまし。こちらは後宮といえども全く危険が無いとはいえません。もちろん近衛兵の皆様のお力を疑っているのではございません。我が国の近衛兵団は最強ですから。ですがやはり貴人というものは、常に出歩くときは供をお連れになるものです。わたくしが申し上げること、お分かりいただけますね?」


と言われ、なんだそっちかという安堵とともに、別の疑問が湧き出てきて


「はぁ」


と気のない返事をしてしまった。

 初めて聞く単語に、頭の中で意味を変換できなかったのだ。

 こうきゅう?高級?硬球?きじん?奇人?生地ん?このえへい?このえ塀?この絵、変?・・・なんじゃそら。でもデラのいいたいことは分かった。要するに、部屋を出るときは誰かについてきてもらえってことよね?

 分からない単語の意味を聞きたかったけど、デラの今の雰囲気からは聞きづらかった。う〜ん、あとでアビーかジークがひとりのときに聞いてみよう。





 そこへノックの音が響いた。デラに許可をもらって部屋に入ってきたのは、アビー。なんだ?と思っているとアビーが


「お湯浴みの準備が整いました」


と言った。

 お風呂!そうだ私は森の中から出てきて、まだ1度も体の埃を落としていないのだ。入りた〜い!

 風呂場では一悶着あった。アビーと数人のお姉様が、私の身ぐるみを剥いだあと、体を洗ってくれようとするのだ!ひぃ〜〜!!これは恥ずかしすぎるっ!と、私は全身全霊でアビーたちの申し出を拒否った。いくら私が子どもだからといっても、風呂ぐらいひとりで入れるわぃ!と情けない気持ちになり、自然と涙がにじんだ。そんな私の強情さに、ひとりのお姉様がため息を一つつくと、


「わかりました。ですが、隣の部屋にて控えさせていただきますゆえ、ご用がございましたら何なりとお申し付けくださいませ。さ、みな参りますよ」


とアビーを含んだお姉様たちを引き連れて出て行ってくれた。ホッとしつつ少し罪悪感が残った。彼女たちも仕事だっただろうに、悪いことしちゃったかなぁ・・・

 だけど、そんな気持ちもすぐに切り替わり、私はこの広すぎる湯船を贅沢にもひとりで堪能した。

 すごいなぁ〜このお風呂。まるで家の中に噴水があるみたい。石造りの大きな円形のお風呂で、直径はそうだな〜、私が縦に10人寝そべってもまだ余裕があるくらい?んでもってその中心には、大理石っぽい作りの、(なま)めかしい女性像が持つ(かめ)から、お湯が流れ出ている・・・ふんっ!金持ちめっ!むかつくから湯船を泳いでやった。





 風呂を終え部屋に戻った私は、デラに服装のことで泣きついた。だってやっぱりこのドレスは苦しい。お風呂の前と今のドレスは違うものだけど、共通していえることは、く・る・し・い だ。だって着付けてもらうとき、ものすごくウエストを締められるんだもの。どうやらこの国の人は、女性に対する観念が私とはずいぶん違うようだ。

 女性は、ウエストが細ければ細いほど良いとされ、人様に足を見せてはいけない、さらに笑うときは歯を見せて笑ってはいけない、だそうだ。・・・最後のは無理っ!だって私、笑うとき、喉ちんこ見せて笑うもん!そうじゃないと全然笑った気がせん!!


しかしデラから「着る物はこれしかない」と言われ、郷に入っては郷に従え、ドレスは妥協することにした。早く慣れねば・・・







 やることすべてが、初めての体験ばかりのように感じ、まだこのお屋敷に来て丸1日も経ってないのに、すごく疲れた。なんて言うのかなぁ〜・・・気疲れ?

 部屋にも絶対誰かが一緒にいるし。これは部屋の主に用事を頼まれたとき、素早く対応できるためにだそうで、二人一組で部屋の隅にずっと立っている。そしてその二人はおしゃべりもせず、視線をうつむき加減にして、部屋の主の邪魔にならないよう気配を消して立つ。

 ・・・だぁ!落ち着かねぇ!!


「ね、ちょっとお姉さんたち!ここにお茶を3つ用意してくれないかな?」


こんなチビ(こども)の私に用件を言いつけられたお姉さんたちは、嫌な顔を一つせず、むしろ嬉しそうに


「かしこまりました」


とお茶の支度をはじめた。


 三人分のお茶が、ソファに腰掛けてる私の前のテーブルに置かれた。それを黙って眺めていた私は、お茶を準備してくれた二人に


「さ、お姉さんたちも一緒に飲も。座って?」


と声をかけた。

 私の言葉に凍結した二人は、ハッと我に返り私の申し出をやんわりと断った。


「とんでもございません、フィオナ様。わたくしどもごときが、フィオナ様と同じテーブルに着くなどと、罰が当たってしまいます。どうかわたくしどもに、お気遣いは無用にお願いいたします」


 ん〜、だって黙って部屋に居られると気になるんだもの〜。だったら出て行ってくれよぉ〜とは言えず、愛想笑いをしながら


「いいじゃない、お茶一杯だけ。ね?」


と、まるでナンパ中の兄ちゃんのような口ぶりで誘った。

 お姉さんたちは折れてくれたようで、困った顔をしながら二人で顔を見合わせて


「では少しだけ失礼いたします」


とソファに遠慮気に座った。

 私は、話し相手ができたことに大満足で、まず二人の名前から聞いた。

 背がスラッと高い、細い目のお姉さんはヨーサ、ちょっと小太り系の背の小さいお姉さんはチマっていうらしい。二人は同い年で、同期にこのお屋敷に勤めるようになったとかで、すごく仲が良い。最初は私の前で緊張していた二人も、だんだんと慣れてきたようで、こちらが話題を振らなくてもいろんな話をしてくれた。

 話の内容は、もっぱら仕事のことや人間関係の話。

 デラはなんと「二等女官長」という位らしく、かなり上の人だそうだ。アビーは一番の新入りで、まだ「女官見習い」の15才。ヨーサとチマは、やっと女官になったばかりの「五等女官」で17才らしい。余談だか、今朝風呂場で、他の女官を引き連れて隣室に下がるように言ってくれたお姉さんは「三等女官」のミリ-さん、22才。

 う〜ん、女官の世界もなかなかヘビーでおもしろい。

 


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