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第6話 ジークの優しさ






ノックの後、部屋に入ってきたのは昨夜のおばちゃんとお姉さんだ。


この二人、いつ眠ってるんだろう?と不思議に思った。

だって昨日、おばちゃんたち、グラントから私の世話を引き継いだとき「勤務中です」って顔してたのよ?

なのに、あれから数時間しか経ってないだろうにまた「勤務中です」って顔して、私の前に現れた。


ん〜、すごい!メイドさんの鑑だね。



それから、彼女たちは私に自己紹介をしてくれた。


「よくお休みになられましたか、お嬢様。昨夜は屋敷内がバタついており、わたくしども、名乗りもせず大変失礼いたしました。わたくしはデラ、この者はアビーと申します。以後お見知りおきを」


デラは、半歩自分の後ろに控えている若い彼女も一緒に紹介し、二人でお辞儀をしてくれた。

お世話になっている上に、そんな丁寧な挨拶をもらいっ放しでは、女が(すた)る!

私はベッドからストンと飛び降りて、寝間着のまま精一杯挨拶した。


「こちらこそ、大変お世話になりました。昨夜は私が急にこちらにお邪魔したので、みなさんお忙しかったでしょう?ごめんなさい。私はフィオナと申します。よろしくお願いします」

とぴょこんと頭を下げた。


彼女たちはびっくりしたように、慌てて私に頭を上げさせ、そして嬉しそうに

「もったいのうございます。お嬢様はあの方のお客様なのですから、わたくしども誠心誠意お仕えさせていただきます」

と今度は深々とお辞儀された。

何となく、この挨拶をきっかけにデラたちとうち解けられたような気がした。やっぱり人間、挨拶は基本なのだ。


・・・ところであの方って、ジークのことだよね?



それから彼女たちは我に返り、

「あっ申し訳ございません。お召し替えもまだでございましたね。では早速。」

とデラは、アビーに目配せをして着替える準備をさせた。

そしてデラは、洗顔用に洗面器にお湯を入れてくれた。


着替えの手伝いは、まだ少し恥ずかしさも残るが、無事終えた。

・・・ってか何!この服は!!服というか、ドレス?


しかし、せっかく用意をしてくれた彼女たちに、服のことでケチをつけるのは悪い気がして黙って従った。

・・・でもやっぱり気になる。だって動きにくいんだもの。

 


そして寝癖なんかを整えてくれ、髪飾りや軽く化粧を施してくれたりした。

私の髪を触るとき、この黒髪をアビーは

「とても素敵なお色ですね。すごくおきれいです」

と誉めてくれた。

なんでもこちらの国には黒い髪は皆無と言っていいほどいないそうだ。


そういえばジーク以外、今まで出会った人みんな、髪の色はブロンズだった。

鎧の二人は頭に兜のようなものを付けてたのでわからなかったけど。


お化粧をするときも、

「昨日はお嬢様のご容姿に、失礼ながら驚かされました。とても神秘的なお美しさなんですもの」

と、とってもむずがゆくなることを言われた。


私が戸惑っていると、

「その瞳、まるで黒水晶のようですわね〜ほんと、神秘的。はぁ〜」

うっ!ため息を吐かれた・・・

今いち自分の見た目に自信のない私は、アビーの誉め言葉を

(気を遣っていただいてど〜も)という気分でお礼を言った。

 


しかしここで貴重な情報を入手。

私の瞳は黒。この国には黒い髪と黒い瞳は居ないらしい。

ほとんどがジークのように金髪+緑眼かグラントたちのようにブロンズ+青眼らしい。


・・・う〜ん、私は異国人なのだろうか?



私の身支度が終わったようだ。

「とってもおきれいですよ」

彼女たちは、自分の仕上げた作品を前に満足そうに微笑んだ。


「はぁ、どうも」と気のない返事をした私だったが、ここへ来てお腹が自己主張し始めた!!


ぐぅ〜・・・

私は赤面した。デラは

「あらあら、気が利かず申し訳ございません、あの方がお嬢様とお食事をするためにお待ちでございましたのに」とすまなさそうに言った。



くっくっく・・・

かみしめた笑い声とともに、開いた扉にもたれながらノックするジークがいた。


「まぁ、レディーの部屋に先触れもなく、はしたのうございますよ?へ―――」

とジークに向かって小言を言うデラに、彼は「ゴホン!」と咳払いで遮った。


はっとしたデラはジークに頭を下げた。



何なのだ、ジークは昨日から。人の言葉を遮ってばかりだ。こんな失礼なヤツだったか?

しかも私は着替えていたのだ!いったいいつからそこに居たんだ!!

むむ〜、私を子供と思って、何をしても許されると思うなよーっ。


ジークに対して、初めて芽生えた不信感を感じながら、私は彼に向かってにっこり挨拶した。


「おはよう、ジーク。のぞき見とはいい趣味ね」

ジークの登場で、部屋の隅に移動していたデラとアビーは、私の挨拶を聞いて凍り付いた。


そんな彼女らを尻目に、私のそばまで近づいたジークは、私の顎をツイと持ち上げ、視線を合わせるように

「おや、フィオナ。ずいぶん機嫌が悪いようだが?」

と優雅に微笑んだ。

誰のせいだ!とぷいと顔を背け、ジト目で睨む私に、ジークは面白そうにニヤニヤ笑った。

 


む〜・・・こんなときでも思う。ジークは美形だ。

改めて太陽の下で見るジークは、月明かりや松明に照らされてたときよりもかっこいい。

顔はもちろんのこと、いい体をしている。

これは日頃からずいぶん鍛えている証拠だろう。

性格は・・・さっきまでは身元の知れない私を泊めるぐらいだから親切な人だと思ったが・・・基本的には意地悪なようだ。

私を怒らせようとすぐ挑発する。それに乗っかる私も私だけど。




考え事をしている間に、食事の部屋へ移動させられてたらしい。

テーブルに着いて、食事が運ばれ出した時、料理のいいにおいで我に返った。

どこまで没頭しているんだ、私は!


そんな私の様子をずっと見つめていた雰囲気のジークが

「やっとお戻りか?」

と我に返った私に言い放った。



「そなたはよく考え事をしておるな、そのような小さき頭でよくもまぁ・・・腹が空いているのであろう?どれでも好きなものを食え」

と呆れ気味に言われたので、私はムッとした。

まるで頭が小さい者は、バカだと言ってるみたいだし、それに私が飢えてるみたいではないか!



しかしやはり本当にお腹が空いていたので、しばらくは食事に専念しょうと思った。


・・・私は、この国の食事のマナーなんて知らない。

頭の奥底の知識として、フォークナイフは外側からということは知っていても、それがこの国でも通用するのかわからない。

食べることに躊躇していた私に、ジークは

「どうした?ウマいぞ?」と手づかみで食べ出した。


こういうときだ。私がジークを本当は優しい人なのだと思える瞬間は。

ジークは、私がマナーを気にしなくても言いように、自らマナー違反をしてくれたのだ!


そんなジークの気持ちに喜びを感じながら、私も「いっただっきま〜す」

と手づかみで食べた。

 


空腹感が和らいだ頃、私は前々から気になっていることを、ジークに聞こうかどうしようかと迷っていた。

そんな私に気付いたジークは、

「なんだ?何か聞きたいことがあるのであろう?そのように食事中にごそごそ落ち着きをなくしておると、用を足したいのかと誤解を受けるぞ?」


は?用を足すって何の用?・・・しばらく考えた私はハッと気付いた!

「ジークのバカーッ!!」

テーブルをドンと叩き、食事もそこそこに赤面顔の私はその場を走り去った。


そんな私の背後を、ジークの大きな笑い声が追いかけてきた。




やっぱり、ジークは意地悪だーーっ!!






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