第5話 ピラミッドの頂点
ちゃんとした睡眠を久しぶりにとったような気がした。
やはり睡眠不足とは、いろんな精神状態に支障をきたすのだろうか。
よく寝て、すっきりした頭で冷静に考えると、今更ながらいろいろと疑問が湧く。
まず、ここはどこなのだ。
昨夜、というかもう明け方だったが、ジークの部下らしきグラントとやらに従い、長〜いことあの石造りの建物の中を歩かされて、別の建物に到着。
そして、入口で待ちかまえていたような数人のお姉さんたちに、グラントは私を引き渡し、そこからお姉さんたちに囲まれながらこの部屋の前に着いた。
先頭を歩いていた一番年かさのいってるおばちゃんと、私の左後方を歩いていた一番若そうなお姉さんだけが私と一緒に部屋に入り、私に言った。
「お嬢様、お湯浴みはいかがなさいますか?」
決して私の目を見ず、うつむき加減に言われた。
え?おゆあみ?あ〜お風呂のことか。ん〜・・・
すでに疲れで目がトロンとなってきた私は、
「いえ結構です。申し訳ありませんが、すごく眠いのでもう眠らせてもらえませんか?」
ちょっとキレ気味に、わざと丁寧な口調で言った。
そんな私に全く動じることなく、二人はお辞儀をしながら「かしこまりました」と部屋の中を案内してくれた。
最初に通された部屋は、応接セットが置かれている客間のような部屋だったが、その奥にある扉に通されたときは息をのんだ。
いや、全体的に調度品が高そうだったのは、眠たい私の頭にも理解できていたのだが、この部屋は寝室だった。何というのだろう、俗に言う天蓋付きベッド?
ベッドに目が釘付けになっていた私に、おばちゃんは
「お召し替えにございます」
と両腕にしわにならないようだらんと垂らした布らしきものを見せた。
あ〜着替えね?ってことはパジャマかな?
私はそう理解し、礼を述べながらおばちゃんから服を受け取ろうとした。
すると伸ばした私の手から遠ざけるように、すっと服の載った腕を退いておばちゃんは言った。
「お召し替えのお手伝いをさせていただきます」
なぬ!?
私は少したじろいだが、自分が子供であることを思い出し、あ〜だからか。と理解した。
きっと私は、一人で着替えが出来ないくらい幼く見えるのだろう。
「わかりました。お願いします」
着替えのお手伝いって、手伝われる方が恥ずかしいなんて知らなかった。
おばちゃんとお姉さんは、仕事という意識が強いのだろう、無表情に黙々と手を動かしているのに対し、私はされるがままだ。
頭がボーッとしていたので、具体的に何をされたか思い出せないが、恥ずかしかった感情だけは覚えていた。
着替えが終わったようで、そのままベッドに手を引かれながら案内された。・・・一人で歩けるのに。
そこから、スイッチが切れるかのように意識を閉ざした。
そして朝。
私は起きたばっかりで、まだ少しボーッ感が残る頭をフル活動させて、寝る前のことを回想した。
しかし、お嬢様って・・・昨夜の私に対する呼び名を思いだし、フッと笑った。
ま〜、私がどこの誰かわからない状況下では、満点のお客扱いかな?私は子供だてらに、生意気にもおばちゃんたちを評価した。
昨夜を回想しても、結局ここがどこだか解決できなかった私は、もっと重要な疑問にぶち当たった。
それまでグズグズと寝具の中で寝転がりながら考えに没頭していた私は、その重要な疑問に気付き、跳ね起きた!!
そうだ!まずここがどこだということよりも、ジークって何者!?
早速、私の中ではある図式が思い浮かんだ。
お姉さん<おばちゃん<鎧姿の二人<グラント<ジーク・・・
そう、いままで出会った人の中では、ジークはピラミッドの頂点なのだ!
そして、ピラミッドにもいろんな種類があるので、何のピラミッドか考えてみた。
う〜ん。
お姉さんとおばちゃんはメイドさん?鎧の二人は・・・SPかな?ほら、要人を護衛する人。
グラントは・・・なんだろう。執事さん?ってことはジークは一家の主。あ〜!お父さん?
多少規模の大きい小さいの違いはあるだろうが、私はこの考えに落ち着きを覚えた。
な〜んかスッキリした!
お家がものすごく大きいから、すんごいお金持ちなんだろうけど、要はジークは、おばちゃんたちにとって「だんなさま」なんだよね?
自分の納得いく仮説に満足した私は、次に考えを進めた。
ジークってお金に余裕がある人みたいだから、こんな身元の知れない私を泊めてくれるんだ。
ジークって優しい人なんだな。
優しい人と最初からわかってたら、私が記憶喪失であることも正直に話したのに・・・今更話しても、同情して欲しいみたいで嫌だしな。
よし、記憶がないことはずっと隠しておこう。私は変な決意を固めた。
それにしても私・・・これからどうしよう?
ジークはしばらく置いてくれるようなこと言ってたけど、ゆくゆくは出ていかないといけないんだろうな・・・
私を捜してくれてる人っているのだろうか?
私が居なくなって、悲しんでくれてる人はいるんだろうか?
少し感傷的になっていたところに、ノックの音が聞こえた。




