第1話 記憶喪失の女
気がつけば私はそこに居た。
ここはどこだろう・・・?
鬱蒼とした木立。木には蔦が幾重にも絡まり、上を見上げても木の葉が生い茂って空がほとんど見えない。
が、かろうじて自分に降り注ぐ木漏れ日から、空は晴れて夜でないことがわかった。
足下を見ると、雑草がたくさん生えてる割には歩きやすい。
これは獣道だろうか?人が一人歩くぐらいの幅を残して草が膝丈に生えている。
気温は暑くもなく寒くもなく。
私は今、長袖を着ているが気候はちょうど良い。
耳をすましても鳥の声と自分の足音だけしか聞こえない。
はて?私はどこへ行くつもりでこんなところを歩いているのだろう・・・?
それに・・・私は誰・・・?
自分が誰だかわからないことにようやく気付いた私は、段々と不安になってきた。
そしてこの不安な状況を誰かに何とかして欲しくて、私の最初の目標が決まった。
まずは誰でもいい、人を探すことだ。
とてつもなく人としゃべりたい。
この不安を早く誰かにぬぐい取って欲しい。
私はがむしゃらに森の中を歩き出した。
最初は歩きやすいと思っていた道も、自分にとってはそう簡単ではなかったようだ。
息が上がる。
多分、日頃からあまり運動をしないような生活を送っていたのだろう。
自分の足を見ても、決してこんな道を歩くような靴でないことに気付いた。
そして膝丈のスカート。
私は疲れているのに、不意におかしくなって独りでに笑った。
(クククッ・・・私って自分の名前も思い出せないのに、身につけてるものの名前は覚えてるんだ。
‘靴’だって?‘スカート’だって?フフ・・・)
どれくらいの時間歩いたのだろう。
行けども行けども森から出ない。
それとも、自分では森の外に向かって歩いてるつもりでも、実際は同じところをぐるぐると回っているだけなのかもしれない。
・・・お腹が空いてきた。のども渇いてきた。
かろうじて足を前にやり歩を進めるが、何も考えられなくなってきた。
あぁ、頭がぼうっとする。
普通、人が心の中で助けを求めるのは、やっぱり神様だろうか?
いやいや、身近なところでやっぱり親だろう。
しかし私の両親は健在なのだろうか?
兄弟姉妹はいるのだろうか?
・・・とにかく誰でもいい、助けて。
そして私の意識が途切れた―――




