第13話 つかの間の休息(3)
―――なにそれ?ってか、伝説っていうの?それ……
ジークから、初代ゾルド王の「輝かしき王座への道」を訊いていて、私はそう思った。
「それで…そのゾルドさんは、結局王になったの?」
「あぁ。無血革命だったそうだ。ウィンディーネの智略のおかげだ、という見解が後世の史学者の大半だがな」
「えぇーっ!すごいねぇ。でもそしたら、王になる人はゾルドさんじゃなくてもよかったんじゃないの?ウィンディーネさえいれば…」
「それが、そうとも言えぬのだ」
私たちは湖の周りを歩きながら、ゾルド王の話に熱中していた。
「もちろん、革命を起こして成功させるのは大変労力のいることだろう。ましてや血を流さず、平和的に政権を交代させたのだ。誰にでも成し得ることではない」
「そうだよねぇ~」
「だが、そのあとのことはどうする?前の王を倒して、政権を奪えばそれでよいのか?」
「あ、そっかぁ~。そだよね、新しく政治をしていく方が大変だよね……でも。やっぱりそれもウィンディーネの力で何とかなったんじゃないの?ゾルドさんは座ってるだけ~とか?」
「いや。それがそうでもないのだ」
ふ~ん、と相づちを打って私は話を促した。
ジークの話を要約すると、こういうことらしい。
ゾルドくんは、月のような王だったそうな。決して自分からは輝かず、見守るタイプの王様。
臣下の者たちのやりたいようにさせ、口は滅多に出さない。でも間違っていることや、疑問に思うことは遠慮無く意見する。そして常に公明正大な姿勢。正しき者を誉め、悪しき者には情けをもって罰を与える。まぁ…どっちかというと、悪いことをした人を怒るって方が苦手だったみたいねぇ…あ~っと“誉め上手”って言うのかなぁ~。
そんな彼だから、治世は安定し、家来に好かれた王様だったんだって。
前の王家にも「かわいそうだから」と温情をかけ、誰も知らない田舎の方でひっそりと生活させたそうだ。だから前の王家一族は、ゾルドくんに対して恩を感じ、決して反旗を翻すことはしなかった。
また国民からも、彼の穏やかな性格が漏れ伝わり、そしてその御代が平和だったことから、絶大な信頼を得たということだ。
私は、ゾルドくんが幸せに王様業をこなせたことにホッとしながら、また別の疑問が湧いた。
「ねっ、ゾルドさんとウィンディーネは、その後どうなったの?」
「ん、案ずるな。彼らは無事夫婦となり、今の王家は傍系ではあるが、彼らの子孫だ」
「へぇ~…すごぉい。そこだけ本当のおとぎ話みたい…」
「なんだそれは…」
と言ったジークは、静かに歩みを止めた。
「だってさぁ~っっっ!!何っ!?」
「シッ!」
急に私の腕をつかみ、先ほどとの雰囲気に雲泥の差があるジークに、私は驚いた。
ジークは、私をその大きな背中で隠すように立ち、腰の剣に手を添えたまま、全身が耳になってるようだった。
(何っ!?なにごとっ???)
未だ状況を把握できない私は、ジークの背後で息を潜めて彼の次の行動を待った。
「……。もうよいぞ」
そう言いながら、ジークは腰の剣から手を離して、私を振り返った。
「な…んだったの?いったい…」
「ん?あぁ、獣だろう。イノシシかタヌキか…何にせよ、そなたを仲間と勘違いして出てきたのではないか?」
意地悪そうに笑うジークに、私は先ほどの怯えもあってドッカーン!と爆発した。
「何言ってんのよ!ジークが勝手に勘違いして、警戒してただけでしょっ!ホントにジークってば強いのっ?イノシシやタヌキぐらいで剣を抜きそうになって!!実はジークもビビってたんでしょっ!」
私は頭から湯気が出そうな勢いでジークに突っかかったが、ジークは「はいはい」と私の怒りをさらりと受け流して、なだめるように私の頭を撫でた。
そのどうでもいいような態度に余計頭にきた私は、「アンタねーっ!」とさらに声を荒げても、ジークに痛くもかゆくもないようで、ひと言「すまぬ、すまぬ」と口先だけの謝罪をしながら、後ろを振り返って森の奥を笑みを消した顔でにらんだ。
そんな雰囲気のジークに気づかないまま、私の怒声だけが森の中でBGMとなって流れた。




