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第12話 リア湖 水神の伝説・後編







 女の名前をウィンディーネという。もちろん村娘などではない。

 己のことを「巫女のようなもの」と位置づけ、今までの経緯を説明し始めた。


 ウィンディーネは、このオークトス大陸の五大神にあたる水神 ジレーネから、偶に夢を通じてお声をいただくらしい。いわゆる神託とういうものだ。そして今回もあったらしいのだ、お告げとやらが…


「ジレーネがおっしゃいました。この乱世の時代、リア湖に真の統治者現る、と。

 その者、仁義の努力を惜しまぬ者。

 その者、(おの)が限界を知る者。

 その者、悼む心を知る者……

 そしてジレーネは、その者を新しい王の座へ導け、そうわたくしにお命じになりました」


 ウィンディーネはそう言って、ゾルド卿の反応を伺うように彼を見た。

 ゾルド卿は、ウィンディーネの話の続きを待ったが、彼女が口を閉ざしたまま強い視線でゾルド卿を見つめるので、彼はやっと彼女の言いたいことが解った。


「えっ!?も…もしや、その統治者とやらが……」

「はい、あなたでございます、ゾルド様」


「っっっ!!!!!」

 ゾルド卿は、アゴが地面にくっつくくらいあんぐりと開け、同時に目玉がこぼれ落ちるくらい目を見開き、驚きを表した。


(ム…ムリだ)

「え?今なんと…?」

 心の中でつぶやいた言葉が、どうやら声に出ていたようだ。しかし小さすぎて聞こえなかったゾルド卿のつぶやきを、ウィンディーネは聞き返した。


「無理だと言ったんです!とてもじゃないが、私はそんな器ではありません。なぜ私なんですかっ?貴女は人違いをされています!私がココを通るよりも前に通った者がそれだったかもしれない。それともこれから通る私以降の者かもしれない。とにかく私ではありえない!それに貴女の力を疑うわけではないが、本当にそれは水神のお告げなんですかっ!?単なる貴女の夢かもしれないでしょう。それをお告げだと勘違いして、偶然リア湖を通った私に“あなたは王になる人”と言われても、私には迷惑以外の何者でもないんですっ!」


 暗い顔をして俯くウィンディーネが目に入ったゾルド卿は、言い過ぎたことに気づき、気まずそうに視線を逸らした。だが声のトーンを落として、さらに続けた。


「だ…だいたい水神が言った“真の統治者”の条件…というんですか?ほら、仁義の努力を惜しまぬ者云々(うんぬん)ですよ……。それと私がどう繋がるんですか…」


 ウィンディーネは顔を上げて、説得するようにゆっくりとしゃべった。

「あなたがリア湖に来られる前から、私はずっとあなたにした同じことを、他の方にもしておりました」


 そうなのだ。ウィンディーネは、ゾルド卿より前に通った何人もの男にも、卿に頼んだことと同じことをしてたのだ。湖底の木箱を探してくれと…

 何人もの男に無視をされ、何人もの男に「頭がおかしいんじゃないか」と嘲られ、そして何人かの男は木箱の探索を引き受けたくれたはいいが、すぐに見つからないことに苛立ち、途中で諦めて去った。中にはウィンディーネを目当てに、優しくした者も少なくなかったが、なかなか見つからぬ木箱に逆ギレして帰って行った。

 そんな中、ゾルド卿だけだったのだ、ウィンディーネの方から止めてくれ、と言うまで探し続けてくれたのは……。


「最初にあなたをリア湖で見かけたときから、わたくしは“もしかして…”と予感するところがありました。それは瞬間的にあなたのお名前が頭に浮んだからです。これは、ジレーネが“あなたこそが…”と教えてくれたのだと思いました。さらにあなたは、木箱を日が暮れるまで探してくださいました。…本当にお優しいお心根に敬服いたします。そしてあなたは、ご領主時代、挫折を味わわれています。また、ご自分の領民やよその領民の不遇さに涙されました…」


 ウィンディーネは、圧倒され呆然としているゾルド卿に強い眼差(まなざ)しを向けながら、もう一度言った。


「あなたが真の統治者です、ゾルド様」


 そしてゾルド卿に手を差しのばしながら、にっこりと言った。


「さ、参りましょう、この国の未来へ。もうあなたは“自分に何の力もない”と嘆く必要はありません。あなたに与えられた新しい力を正しく使うことで、あなたの領民だけでなく、この国の民がみんな笑顔で暮らせるのです。勇気を出して、わたくしの手をおとりください」


 未だ呆然として、正気に戻れないゾルド卿ではあったが、ウィンディーネの「みんなが笑顔に」というところに反応して、彼女の手をとった。

 二人は、このあと王権を奪取するために、王都に向かうことになる……






 しばらくして、ふと我に返ったゾルド卿が、ウィンディーネに訊いた。

「ところで、あの木箱ににはいったい何が入っていたのですか?」


 きれいな顔でいたずらっぽい笑みを浮かべたウィンディーネは

「あ、あれですか?あの話は嘘です」

と言って、上目遣いにゾルド卿を見た。


 ―――う、嘘って…。おねぃさん、それはあんまりじゃん……かわいそうなゾルドくん。しかもおねぃさん、言葉や態度が少し砕けてきたねぇ、それも演技だったんかいな。


「えっ!?う…嘘ぉ?」

「はい。ごめんなさい、お腹立ちになりました?」

「え、いや……何というか……えっ嘘だったんですか…」


 尻窄みに言葉を濁すゾルド卿を横目に、ウィンディーネは前を見て言った。


「王となられるあなたに嘘をついてしまったんですもの、そのお詫びに、これからのゾルド様の人生、わたくしはずっと共に生き、味方であるとお誓い申し上げます」


 逆プロポーズとも受け取れるウィンディーネのその発言に、ゾルド卿は赤面しながら「そっそっそれはどういう意味ですかっ」と慌てて尋ねるも「ふふふ」と笑顔で受け流される卿であった……


 ―――ゾルドくん、すでにおねぃさんの手のひらで転がされてるよ…


 そしてウィンディーネは、見えなくなったリア湖の方を振り返り、

(水神であるお母さまのお心に沿うよう、この国を助けに行って参ります)

そして笑顔で歩を進めた。







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