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第11話 リア湖 水神の伝説・前編





 ジークの話によると、このセフィリア王国は、今の国王の御代で16代目だそうだ。

 そして話は、セフィリア王国 初代国王の話に遡る……


 初代国王は、その名をゾルド。

 ゾルド王は、この国の王に就く前は、ただの下位の貴族だったらしい。

 ちなみに貴族にも偉い順番があって 1.公爵(こうしゃく) 2.侯爵(こうしゃく) 3.伯爵 4.子爵 5.男爵 の五等爵っていうらしい。1番目と2番目が同じ言い方だからややこしいよね。

 そのゾルド卿、小さい頃からずっと「世の中を良くしたい」という願いがあったの。この時代は、金持ちが貧乏人からむしり取る、いわゆる“貧乏人は生かさず殺さず”という扱いが当たり前だったらしい。


 ―――ひっでぇな~!


 だから、餓死や流行病で死ぬ者も多く、貧困から子どもを売り、妻・娘は身を売り、ジジババは食い扶持減らしのために山に捨てられる……と最低の時代だった。

 ゾルド卿は、自分の領民に炊き出しをして食事を振る舞い、親のない子には施設を作り住まわせ、病気の者には診療所を作った。しかしそんな努力も焼け石に水。元を正さない限り、なんの解決にもなりゃしない。しかも元々たいした財もない下位貴族の身。ゾルド卿の家はスッカラカンになった。

 自分の領地の民を幸せするどころか、自分の家の者たちを不幸にしてしまい、失意の末、ゾルド卿は家を出た。


 ―――オイオイ、お兄さん。それは無責任というものだろ?家人や領民は放ったらかしかい!?


 ちょっと優柔不断さが垣間見える心優しきゾルド卿、長い旅の間にいろんな領地を経て、リア湖にたどり着いた。

 リア湖のほとりで座り込み、自分の非力さに立ち直れずにいたゾルド卿は、湖面を見つめつつ落ち込み続けた。

 どれくらいの時間が経ったのか、そこへひとりの女が声をかけた。


「もし、旅のお方。助けていただけませぬか」


 振り返ったゾルド卿の前には、この世のものとは思えない美女がたたずんでいた。

 その女は、地面にまで届く長いまっすぐな緑の黒髪、真っ黒な瞳が印象的な美しい女だった。

 

 ―――“緑の黒髪”って黒く艶のある美しい髪のことなんだって。しかし……黒髪に黒目って……私と一緒やんけっ!


 その女のあまりの美しさに呆然となったゾルド卿に、女はさらに言った。


「あの……旅のお方?いかがなさいましたか」


 我に返ったゾルド卿は赤面し、女に慌てて尋ねた。


「た、たっ助けとはっ!私の助けが必要はっ、い、いかがされましたっ」

「……はい。わたくしは、この湖の近くに住まう村娘にございます。こちらには散策に参りましたが、さきほどこの湖に大事な、この身より大切なものを落としてしまいました。しかし、わたしくしは泳げませぬ。厚かましい願いとは重々承知しておりますが……」


 その女が遠慮してか、語尾を濁すので、気の毒の思ったゾルド卿は大声で叫んだ。


「私がとって参ります!大事なものとは、いかようなものですか」


 女は、はいと頷き、左右の人差し指と親指同士をくっつけ、大きな輪を作って見せ、

「このくらいの木箱を落としました。その中に大切なものが入っております」

と伏し目がちに答えた。


 ―――絶対あやしいって!ゾルドさん、止めときなって!だいたい言葉遣いからして、普通の村娘じゃないじゃん!


 わかりました、とゾルド卿、女に湖のどの辺りに木箱を落としたのかを聞き、水に潜っていった。


 ―――あちゃ~。やっぱりいつの世も、男は美人に弱い!弱すぎるよっ


 しかし、やはりそこは大きな湖に小さな落とし物、なかなか木箱は見つからなかった。

 ゾルド卿は、何度も潜っては息継ぎのために湖面に顔を出し、また潜る……の繰り返しで、とうとう辺りは夕暮れに包まれた。

 ずっと湖岸からゾルド卿を見守っていた女は、彼が何十回目かに湖面に出てきたときに言った。


「旅のお方!もう日が暮れて参りました。暗くなると湖底も見えませぬし、危のうございます。ここいらでもう……」


 両手を胸の辺りで組み、黒曜石のような瞳に涙を一杯ためた女は、ゾルド卿に止めるよう懇願した。

 ゾルド卿は、湖面から頭を出したままの状態で叫んだ。


「しかしっ!貴女にとっては、貴女の身より大事なものなのでしょう?」

「いいえっ、わたしくは大丈夫でございます。それよりも旅のお方、どうぞ水からお上がりになって、こちらでお体を温めてくださいまし」


 女が指さした方には、いつの間にこしらえたのか、小さなたき火があった。

 あきらめきれないゾルド卿は、女とさらに一悶着したあと、結局彼女の意見に従った。


 たき火を二人で囲みながら、ゾルド卿はずっと気になっていたことを女に聞いた。

「あの……落とされた木箱の中には、いったい何が……?」


 女はその質問に答えずにっこりと微笑み、逆にゾルド卿に尋ねた。

「あなた様はほんにお優しいお方。見ず知らずのわたくしのために、あそこまでよくしてくださいました。わたくしは、あなた様に礼がしとうございます。なんぞ願い事はございませぬか?」


 突然の女の問いに、ゾルド卿はキョトンとなったが、やがて自嘲の笑みをもらし、たき火の火を見つめながら話し始めた。


「フッ、そうですね。……私はこう見えても、身分はそう高くないですが一応貴族の端くれでして……小さいながらも領地を治めておりました。何とかいい領主になるよう、努力してきたつもりでしたが……恥ずかしながら挫折し、逃げ出してしまいました。家を出たはじめの頃は、重圧から解き離れホッとしたのですが、日が経つにつれ、家と領民のことが頭から離れないのです」


「ご領地にお戻りになりたいのですか?」

「いいえ。あっ、本音は戻りたいです。しかし一度逃げ出した領主に、誰が信頼を寄せましょう。私は領主として、そして家人の主として失格です。だから私の代わりに、誰か立派な方がご領主に就き、私の領民を幸せにしていただきたいのです。もう領民の泣く顔を見るのはイヤです。いつも笑っていて欲しい、それが私の願いです」


「あなた様は……」と言ったきり、女は黙り込んだ。


「はい、何でしょう?」

 ゾルド卿の疑問に、女は「いえ」と短く答え、さらに問うた。


「ここまで……このリア湖までの道のり、たくさんの他の領地を通られたでしょう?それについてはどう思われましたか」


 ゾルド卿はつらそうにうつむき加減に答えた。

「みんなひどい有様でした。どこも死体の山で。子ども達はガリガリに痩せこけ、大人は殺気立ち、ハゲタカが死体をついばみ……わが領地以上にひどかった……。しかし、私にはどうする力もない。見て見ぬふりしかできなかった。すべての国民を救うことはできなくとも、なんとか……なんとかわが領民だけでも救ってやりたい……くっ」


 最後の方は悔しさと涙で、話せなかった。

 そんなゾルド卿に、女は優しく言った。


「やはりわたくしの目に狂いはなかった。あなた様こそ真の統治者です、ゾルド様」


 ゾルド卿はうつむいたまま流していた涙が、驚きのあまり引っ込んだ。


「え?貴女はなぜ私の名を……私、告げましたっけ!?」

 素っ頓狂な声で聞くゾルド卿は、このあとの女の告白で、人生最大の驚きを経験することになる。





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