第10話 つかの間の休息(2)
門には、鎧を着て長い槍を上向きに持った初日のSPみたいな人が、両脇に2名立っていた。
私たちが馬に乗って通るとき、そろってお辞儀をしてくれたので、馬上から失礼かとも思ったが、下りるわけにもいかず、そのままペコリと頭を下げた。
そのSPさんらは驚いたようだったが、なぜだか分からず、私は首をかしげた。
「貴人とは、臣下の者にそう易々と頭を垂れるものではない」
と門を通過後、しばらくしてからジークが言った。
私が訳が分からない顔をしていたんだろう、ジークは重ねて言った。
「そなたは、私の客人扱いになっておる。そなたの本来の身分はどうあれ、私の客であればそなたは貴人なのだ」
「ねぇ、前々から聞こうと思ってたんだけど、キジンってどういう意味?」
「・・・・・・」
「何?今、バカにしてるでしょ?」
「・・・いや。・・・貴人とは、身分の高い者のことだ。だから先ほどの者どもは、そなたに頭を下げられて戸惑ったのであろう。ヤツらのことを思うのであれば、ふんぞり返っていろ」
「何それ。なんでさっきのSPさんたちのことを思って、威張らないといけないのよ。意味分かんない」
「えすぴー?」
「何でもない!」
プイっと私はそっぽを向いたが、あ、と気がついた。
「ね、キジンはひとりで出歩いてはいけないんじゃないの?お供を連れないとダメなんでしょ?」
なぜジークは、供ナシを許されるのか?
「私は腕が立つからな。そなたひとりぐらいの守りなど、造作もない。それに今はそなたのいうところの“公私の区別をつけたお休み”なのだ。近衛兵がいては休まらぬ」
「公私の区別って・・・王子でもないくせに。・・・ところでさぁ、コノエヘーって何?」
「・・・・・・。近衛兵とは、私や私の家族を護衛する兵のことだ。・・・まったく。そなたは賢いのか、本来馬鹿なのか判断に苦しむな。言葉を知らなさすぎる」
「ひっひどい!キジン用語がわからないだけだもん!」
ジークは「はぁ〜」と一つため息をついて、「走るぞ。しゃべるな、舌を噛む」と言って、馬の腹を蹴った。
馬が一声いななくと、全速力で走り出した。
(えっ、まだ話終わってな・・・・・・ギャー!お尻が打ち付けられるぅ〜〜〜)
怖さの余り、更にギュッとジークに抱きついた。
そして先ほどの会話の中に出た「私の家族」というところを思い出した。そういえば、ジークに家族はいるんだろうか?一度も会ったことないけど・・・。奥さんとかいるんだったら挨拶しないといけないなぁ~と、のんきに頭のどこかで思いながら、お尻の痛みに耐えることに専念した。
どれくらい我慢していただろう、ふいにジークが「着いたぞ」と言い、馬もずいぶんペースダウンしていた。でも、体が凝り固まっていた私は、ジークから声をかけられても、すぐに応対できず、同じ姿勢で息を荒くしていた。
「フィオナ?大事ないか」
ジークの心配そうな声にも、しがみついた姿勢のまま下向きでうなずくしかできず、私はなかなか平静を取り戻せなかった。
「すまぬ、怖がらせたようだな。時間を無駄にしたくない余り、馬が初めてであったそなたのことを、すっかり失念しておった・・・フィオナ?」
私の顔をのぞき込んで、ジークは返事のない私を心配してくれた。
「だいじょうぶよ。あまりの乗り心地にビックリしただけ」
私は、苦笑いしながらジークの顔を見上げた。
ジークは私の顔をジッと見たあと、慰めるように後頭部を撫でてくれた。私はなぜだか、それがとても心地よく、コツンと頭をジークの胸に寄せ、目を瞑ってされるがままに任せた。
ジークは意地悪なときもあるけど、本当に優しい。ジークの優しさは見返りを求めていないっていうか・・・そうだ、無償の愛だ。もちろん男女の愛ではない。なんというか・・・大人が赤ん坊を見て保護欲にかき立てられるような。愛玩動物のような。
そこまで考えて私は、ムッとした。
愛玩動物って・・・すでに人としてすら扱われてないじゃん、私っ!
しばらく、二人とも無言で馬を進めてると、急に周りがまぶしく感じた。
湖だ!
湖に日の光が反射して、まぶしいのだ。
「きれぇ〜!」
「リア湖だ。オークトス大陸最古の湖だ」
「へぇ〜。最古の湖ってことは、いろいろ神話やおとぎ話のネタになってそうね」
「そうだな、いろいろある・・・さ、手を貸せ」
馬からヒラリと下りたジークが、私に手を伸した。
私はジークに抱えられながら尋ねた。
「ね。試しに何か聞かせてよ」
「何かとは?」
「湖に関する神話とか、おとぎ話とかよ」
「・・・そうだな」
ジークは私を下ろし、少し考えたあと話し始めた。




